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路上の天使
路上の天使②
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「それはお前が心から歌を楽しいと思ってないことに問題があるんじゃないか?」
「そんなこと言ったって楽しくないのに歌ってられっかよ。それに変声期なんだから多めに見ろよって話だよ。あの糞ばばあ……」
黒田に真意を突かれて、一瞬だけ怯んだが、直ぐに頬を膨らませると屁理屈をこねる。もう中学校も節目の年になる。
芸能界なんて辞めて普通に学生生活を送りたいと思うこともあるが、きっと律仁を金の宛にしている母親は許してくれないことは分かり切っていた。
元々最初から演技をやっていたのにアイドルに転身なんて乗り気ではなかった。小学生の頃は大人に従うことしかできず、黒田がいつもレッスン前に作ってくれている、たまごサンドで何とかモチベーションを保てていれた。
しかし中学生に上がり、少しだけ周りのことが見えてくるようになるとデビューをするわけでもないのにレッスンを続けていることに疑問を抱くようになった。
受験の年になり、律仁の中に募る不安は大きくなっていく。
この先、業界を続けていきたいのかも曖昧で、だからかと言って完全に引退をしても自分の明確な将来が見えていない。その不安と反発心からサボり癖がついてしまっていた。
ふと、いいことを思い立った律仁はクリームソーダを一気に飲み干すと空のグラスをカウンターの台へと差し出す。座席から立ち上がると隣の席に置いていた鞄を肩に提げると「おやじ、行くわ」と珈琲を淹れている黒田に話し掛けた。
「お、決心ついたのか?」
「まぁーな。ソーダ代。吉澤さんにつけといて」
わざわざ小言を言われにオバサン講師の歌レッスンに行くなんて馬鹿げている。
決心なんてつくわけがないが、本当のことを言ってしまえば、ああ言っている黒田も所詮、吉澤の肩を持つ人間だと長年の付き合いから分かっていたので誤魔化してやり過ごすことにした。
どうせアトリエに入り浸っていた所でレッスンスタジオにいない時点で吉澤に秒でバレることは予想がついているし、ならばレッスン終了時間がくるまで、見つからなければいい話だった。
出来れば涼しいところで時間を潰したい。
外へ踏み出した途端のうだるような暑さに、ヤキモキしながらも、避暑地を探す。一か所に長居するとこの付近じゃ奴に見つかるのでコンビニやゲームセンターを転々としていた。
ゲームにも飽きて次の避難場所を求めて歩くが暑い中歩き回るのも楽ではない。
律仁は当てもなくただひたすらに歩き回っては、都内では有数ある中のひとつである大きな公園に行きついた。ドームくらいの広さのある公園であれば吉澤でもそう簡単に見つけられないかもしれない。
涼める場所とは言い難いが彼に見つかって連行されるよりはマシだった。
ふと園内を歩いていると広場からギターの音色と女性の歌声が聴こえてくる。聞き覚えある曲は今流行りの曲のカバーで律仁もレッスンで何度も歌わされた曲だ。
律仁はその声に誘われるように近寄ってみると、芝生の前の歩行通路に白いアコースティックギターを提げた黒髪ロングヘアーの女性が弾き語りをしていた。
「そんなこと言ったって楽しくないのに歌ってられっかよ。それに変声期なんだから多めに見ろよって話だよ。あの糞ばばあ……」
黒田に真意を突かれて、一瞬だけ怯んだが、直ぐに頬を膨らませると屁理屈をこねる。もう中学校も節目の年になる。
芸能界なんて辞めて普通に学生生活を送りたいと思うこともあるが、きっと律仁を金の宛にしている母親は許してくれないことは分かり切っていた。
元々最初から演技をやっていたのにアイドルに転身なんて乗り気ではなかった。小学生の頃は大人に従うことしかできず、黒田がいつもレッスン前に作ってくれている、たまごサンドで何とかモチベーションを保てていれた。
しかし中学生に上がり、少しだけ周りのことが見えてくるようになるとデビューをするわけでもないのにレッスンを続けていることに疑問を抱くようになった。
受験の年になり、律仁の中に募る不安は大きくなっていく。
この先、業界を続けていきたいのかも曖昧で、だからかと言って完全に引退をしても自分の明確な将来が見えていない。その不安と反発心からサボり癖がついてしまっていた。
ふと、いいことを思い立った律仁はクリームソーダを一気に飲み干すと空のグラスをカウンターの台へと差し出す。座席から立ち上がると隣の席に置いていた鞄を肩に提げると「おやじ、行くわ」と珈琲を淹れている黒田に話し掛けた。
「お、決心ついたのか?」
「まぁーな。ソーダ代。吉澤さんにつけといて」
わざわざ小言を言われにオバサン講師の歌レッスンに行くなんて馬鹿げている。
決心なんてつくわけがないが、本当のことを言ってしまえば、ああ言っている黒田も所詮、吉澤の肩を持つ人間だと長年の付き合いから分かっていたので誤魔化してやり過ごすことにした。
どうせアトリエに入り浸っていた所でレッスンスタジオにいない時点で吉澤に秒でバレることは予想がついているし、ならばレッスン終了時間がくるまで、見つからなければいい話だった。
出来れば涼しいところで時間を潰したい。
外へ踏み出した途端のうだるような暑さに、ヤキモキしながらも、避暑地を探す。一か所に長居するとこの付近じゃ奴に見つかるのでコンビニやゲームセンターを転々としていた。
ゲームにも飽きて次の避難場所を求めて歩くが暑い中歩き回るのも楽ではない。
律仁は当てもなくただひたすらに歩き回っては、都内では有数ある中のひとつである大きな公園に行きついた。ドームくらいの広さのある公園であれば吉澤でもそう簡単に見つけられないかもしれない。
涼める場所とは言い難いが彼に見つかって連行されるよりはマシだった。
ふと園内を歩いていると広場からギターの音色と女性の歌声が聴こえてくる。聞き覚えある曲は今流行りの曲のカバーで律仁もレッスンで何度も歌わされた曲だ。
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