君のために僕は歌う

なめめ

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路上の天使

路上の天使⑨

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「うぜぇ。まぁ、いいや。それでさ……」

人によっては反感を買いそうな律仁の冗談じみた戯れを軽く受け流してくれる廉介との会話の居心地さを感じながらも、彼の話を聞くと彼の好きな邦楽ロックバンドの新曲が発売されたのでCDショップに付き合ってほしいという誘いだった。

吉澤との約束をばっくれる理由が欲しかった律仁はあっさりと廉介の誘いに乗っかる。

歌うことに反発心を感じていても、音楽が完全に嫌いなわけではない。聴くのは好きだし、歩きながら廉介と好きなロックバンドや最近の流行りの曲の話をするのは楽しかった。

校門前まであと数メートルまで到着したとき、見覚えのなる黒いアルファードとスーツの男の姿を目にして足を止める。律仁の危険レーダーが感知したのか気づかれていないのがこれ幸いで、咄嗟に体格のいい廉介の後ろに身を隠す。
あれは間違えなく吉澤だ。レッスンまでまだ2時間弱はあるしアトリエに行かなければアイツに出会うことはないと踏んでいただけに見誤った。

まさか学校まで迎えに来ているとは……。

「あー廉介、裏門からでねぇ?」
「なんで?」
「いいからっ、門にやべぇのいっから」

このまま直進すれば、吉澤にレッスンへ強制連行されるのが目に見えている。
それだけは絶対に避けねばならなかった。
律仁は、状況を呑み込めていない廉介の背中を裏門の方角へと押しながら来た道を戻る。吉澤に気づかれないうちに退散しようと抜き足差し足で校門に背を向けてきた道を戻ろうとしたところで「おい、律仁」と呼ばれた気がして廉介を連れて全速力で走った。

裏門まで到達し、門柵を超えたと同時に車で追ってきたのか車道にアルファードが走行してくるのが見える。

相手は車とはいえ、このまま走り続けて速さで追いついたとしても方向の融通が利かないことは猿でもわかる。大きい道路に出て建物が入り組んだ道に入ってしまえばこっちのもんだった。

徐行しながら車の窓から顔を出し「律仁、またサボる気じゃないだろうな?」と大声で叫んでくる吉澤に時折、後ろを向いて走りながら車の様子を伺う。

日頃は走り慣れている廉介は訳も分からず一緒に走っているにもかかわらず一切値を上げた様子を見せないことに感心しながらも、吉澤との鬼ごっこを半ば楽しんでいた。

「俺にも用事があるんだよ、じゃーな。廉介早く行くぞ」

大きい道路に出たところで呑気に吉澤に手を振り別れを告げると、並走している廉介の肩を叩き角を曲がり、車では入れないような入り組んだ道へと入った。

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