君のために僕は歌う

なめめ

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志すもの

志すもの⑫

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律仁は黒田が差し出してきたお皿を受け取り、「まぁ、食えよ。ここのホットサンド超うまいから」と大樹に渡すと自分は早々と両手でサンドを持って、大口でかぶりついた。

卵がトロッと口の中で溶ける感触は、律仁に幸せを感じさせてくれる。
幼い時に吉澤に連れてこられて以来、嬉しい時や悲しい時、嫌いなレッスンの前、如何なる時でもアトリエに訪れてはこのホットサンドに元気づけられてきた。

鈴奈に裏切られて以来、足を運んでいなかったが久しぶりの馴染みの味は律仁の心にじんわりと染みていた。

止まらぬ速さで半分ほど食べ終えたところで、ふと隣の大樹がホットサンドと睨めっこをしながら背中を丸めて俯いていた。

今まで黒田のホットサンドを見て躊躇するやつなど見た事なかったので不思議に思って「食わないのか?」と問うてみると大樹は一瞬だけ顔を上げた後、申し訳なさそうに口を開く。

「麻倉くん、ごめん。アレルギーとかじゃないんだけどさ·····俺、卵苦手なんだ……」

「まじで?玉子嫌いってケーキとか卵使ってんじゃん。どうしてんの?」

律仁がこの十六年間生きてきた中で玉子嫌いのやつに出会ったことが無かっただけに、思わず椅子を引いて驚いてしまった。

「あれは原型がないから、平気だけど。玉子焼きとか……焼いた卵はどうも食感が、受け付けなくて……」

律仁は食に関して好き嫌いはないものの、好みがあるのは仕方がない。しかし、黒田のホットサンドは人生を変えるほど美味いと言っても過言では無いだけに、食えない大樹が勿体ない。

「でもここのすげぇ美味いから一口食べてみ?なあ、黒田のおやじ」
「まぁ……。嫌いなものは無理にとは言わないが」
 
首を傾げる大樹に黒田は顎髭を擦りながら無理強いはしてこなかったが、食わず嫌いという線もあるだろうし、黒田のホットサンドであれば克服出来るかもしれない。

「いいから試しに、食ってみ?」

そんな思いから大樹に勧めてみると、彼は黒田と律仁を交互に見たあとで渋々ながらゆっくりとホットサンドに手を伸ばして口に運んでいった。

大樹がかぶりつく姿を目の前の立つ黒田と一緒に見守る。




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