72 / 92
志すもの
志すもの⑫
しおりを挟む
律仁は黒田が差し出してきたお皿を受け取り、「まぁ、食えよ。ここのホットサンド超うまいから」と大樹に渡すと自分は早々と両手でサンドを持って、大口でかぶりついた。
卵がトロッと口の中で溶ける感触は、律仁に幸せを感じさせてくれる。
幼い時に吉澤に連れてこられて以来、嬉しい時や悲しい時、嫌いなレッスンの前、如何なる時でもアトリエに訪れてはこのホットサンドに元気づけられてきた。
鈴奈に裏切られて以来、足を運んでいなかったが久しぶりの馴染みの味は律仁の心にじんわりと染みていた。
止まらぬ速さで半分ほど食べ終えたところで、ふと隣の大樹がホットサンドと睨めっこをしながら背中を丸めて俯いていた。
今まで黒田のホットサンドを見て躊躇するやつなど見た事なかったので不思議に思って「食わないのか?」と問うてみると大樹は一瞬だけ顔を上げた後、申し訳なさそうに口を開く。
「麻倉くん、ごめん。アレルギーとかじゃないんだけどさ·····俺、卵苦手なんだ……」
「まじで?玉子嫌いってケーキとか卵使ってんじゃん。どうしてんの?」
律仁がこの十六年間生きてきた中で玉子嫌いのやつに出会ったことが無かっただけに、思わず椅子を引いて驚いてしまった。
「あれは原型がないから、平気だけど。玉子焼きとか……焼いた卵はどうも食感が、受け付けなくて……」
律仁は食に関して好き嫌いはないものの、好みがあるのは仕方がない。しかし、黒田のホットサンドは人生を変えるほど美味いと言っても過言では無いだけに、食えない大樹が勿体ない。
「でもここのすげぇ美味いから一口食べてみ?なあ、黒田のおやじ」
「まぁ……。嫌いなものは無理にとは言わないが」
首を傾げる大樹に黒田は顎髭を擦りながら無理強いはしてこなかったが、食わず嫌いという線もあるだろうし、黒田のホットサンドであれば克服出来るかもしれない。
「いいから試しに、食ってみ?」
そんな思いから大樹に勧めてみると、彼は黒田と律仁を交互に見たあとで渋々ながらゆっくりとホットサンドに手を伸ばして口に運んでいった。
大樹がかぶりつく姿を目の前の立つ黒田と一緒に見守る。
卵がトロッと口の中で溶ける感触は、律仁に幸せを感じさせてくれる。
幼い時に吉澤に連れてこられて以来、嬉しい時や悲しい時、嫌いなレッスンの前、如何なる時でもアトリエに訪れてはこのホットサンドに元気づけられてきた。
鈴奈に裏切られて以来、足を運んでいなかったが久しぶりの馴染みの味は律仁の心にじんわりと染みていた。
止まらぬ速さで半分ほど食べ終えたところで、ふと隣の大樹がホットサンドと睨めっこをしながら背中を丸めて俯いていた。
今まで黒田のホットサンドを見て躊躇するやつなど見た事なかったので不思議に思って「食わないのか?」と問うてみると大樹は一瞬だけ顔を上げた後、申し訳なさそうに口を開く。
「麻倉くん、ごめん。アレルギーとかじゃないんだけどさ·····俺、卵苦手なんだ……」
「まじで?玉子嫌いってケーキとか卵使ってんじゃん。どうしてんの?」
律仁がこの十六年間生きてきた中で玉子嫌いのやつに出会ったことが無かっただけに、思わず椅子を引いて驚いてしまった。
「あれは原型がないから、平気だけど。玉子焼きとか……焼いた卵はどうも食感が、受け付けなくて……」
律仁は食に関して好き嫌いはないものの、好みがあるのは仕方がない。しかし、黒田のホットサンドは人生を変えるほど美味いと言っても過言では無いだけに、食えない大樹が勿体ない。
「でもここのすげぇ美味いから一口食べてみ?なあ、黒田のおやじ」
「まぁ……。嫌いなものは無理にとは言わないが」
首を傾げる大樹に黒田は顎髭を擦りながら無理強いはしてこなかったが、食わず嫌いという線もあるだろうし、黒田のホットサンドであれば克服出来るかもしれない。
「いいから試しに、食ってみ?」
そんな思いから大樹に勧めてみると、彼は黒田と律仁を交互に見たあとで渋々ながらゆっくりとホットサンドに手を伸ばして口に運んでいった。
大樹がかぶりつく姿を目の前の立つ黒田と一緒に見守る。
1
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる