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誰のために……。
誰のために……。④
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少年に感化されて疼きだす心。
無性に曲を描きたくなった。音楽を紡ぎたくなった。
帰らない気でいた家出だけど、今すぐ寮に帰ってデスクに向かって
久々にギターに触れて曲を作りたいと思った。
急ぎ足で向かう駅前、東京行きのバスを探し時刻表を見ていると「おい、律仁」と自分の名前を呼ぶ声がして振り返る。
この声は間違いなく……。思い当たる人物は一人しかいない。
「げっ吉澤さん……」
前髪を右手で梳き上げたまま深い溜息を吐いたスーツ姿の男は吉澤明良で間違いない。
奴のことだから律仁が家出をすることを予想はしているだろうが行先は一切告げていないだけに目を疑った。
「なんで場所知ってんだよ」
眉を寄せて、怪訝な顔をしなが、吉澤に問うと、律仁のボストンバックを指し始めた。
律仁は彼に言われた通り、ボストンバッグの外ポケットを見るとバッチ型のGPS発信機が付いていた。
「怒ったお前がすることといったら一つしかないだろ。予め忍ばせてたんだよ。まぁ、お前のことだからもしもの何かあったらと思ったらヒヤヒヤしたがな。乗れ、帰るぞ」
抜かりない吉澤に、彼から逃げることは不可能なのだと改めて気付かされたが、彼も彼なりに心配してくれていたらしい。
母親ですら律仁がどうなったとしても探したり、飛んできたりはしないだけに、心配してくれる人が居るだけで幸せ者なのかもしれない。
それに東京に帰りたいと思っていたところだから丁度良かった。
律仁が素直に頷くと吉澤は予想外の返事が返ってきたと思ったのか、一瞬だけ目を見開くと「今日はやけに素直だな」と一言だけ呟いて自身の車の元へと案内してくれた。
運転席に乗る吉澤の真後ろの後部座席に座ると左隣にダンボールに山積みになった封筒達が置いてあることに気づく。
「律仁、その積んであるの。お前のファンレターだ。まぁ絶頂期よりは少ないが、これを読んだら少しは気持ち変わるんじゃないか?」
今までは目に見えなかった自身のファンの声。トップアイドルと言えるほどの量では無いけど、自分を……『アイドル 浅倉律』を好いてくれる人が沢山いる。
律仁はその中の少しだけ字の汚い『浅倉律様へ』と書かれた封筒を手に取って、中身を開ける。
『律さん、初めまして。俺は早坂渉太、13歳中学校1年生です。初めてファンレターを書きます。律さんを知ったきっかけは姉が律さんのことが好きだったのがきっかけです。歌番組に出ている律さんを見て、カッコよくて、優しい歌声の律さんに同性ながらに惚れてしまいました。きっと律さんは弱虫な僕なんかよりもずっと努力している方なんだと思いました。最近見た生放送の歌番組で少しだけ元気のないように見えたので、無理せず頑張ってください』
この子の目にはテレビに映る俺が努力しているように見えたのだろう。当の本人は過信しすぎて手を抜きがちだったダンスに適当にウィンクでもしておけば程度でしていたファンサービス。
この子の真っ直ぐな手紙が自然と先程見た少年と重なり途端に申し訳無くなってしまった。
「なぁ……俺、曲書きたい。自分の曲を歌いたい。俺の声を好きでいてくれる人達を大切にしていきたい。音楽で返していきたい。そしてレイナを見返えせるような、アーティストになりたい。俺の曲が一番だって。俺の方が凄いんだって。振ったこと後悔させるくらいカッコいい男になるよ。吉澤さん。俺、まだ間に合うかな……」
もう一度だけ挽回するチャンスはあるだろうか。今度は自分がトップになるためじゃなくて、この子達に恩を返せるように活動していきたい。
「ああ、間に合うだろ。俺は良いと思うぞ」
恨めしいことは沢山あるけど、所詮過ぎ去ってしまったこと。後ろを向いてばかりじゃ居られない。人を恨んだところで自分に返ってくるのは虚しさだけ。
それなら前を向いて今ある大切なものを守って行くことが今の俺に出来ることのような気がした。
無性に曲を描きたくなった。音楽を紡ぎたくなった。
帰らない気でいた家出だけど、今すぐ寮に帰ってデスクに向かって
久々にギターに触れて曲を作りたいと思った。
急ぎ足で向かう駅前、東京行きのバスを探し時刻表を見ていると「おい、律仁」と自分の名前を呼ぶ声がして振り返る。
この声は間違いなく……。思い当たる人物は一人しかいない。
「げっ吉澤さん……」
前髪を右手で梳き上げたまま深い溜息を吐いたスーツ姿の男は吉澤明良で間違いない。
奴のことだから律仁が家出をすることを予想はしているだろうが行先は一切告げていないだけに目を疑った。
「なんで場所知ってんだよ」
眉を寄せて、怪訝な顔をしなが、吉澤に問うと、律仁のボストンバックを指し始めた。
律仁は彼に言われた通り、ボストンバッグの外ポケットを見るとバッチ型のGPS発信機が付いていた。
「怒ったお前がすることといったら一つしかないだろ。予め忍ばせてたんだよ。まぁ、お前のことだからもしもの何かあったらと思ったらヒヤヒヤしたがな。乗れ、帰るぞ」
抜かりない吉澤に、彼から逃げることは不可能なのだと改めて気付かされたが、彼も彼なりに心配してくれていたらしい。
母親ですら律仁がどうなったとしても探したり、飛んできたりはしないだけに、心配してくれる人が居るだけで幸せ者なのかもしれない。
それに東京に帰りたいと思っていたところだから丁度良かった。
律仁が素直に頷くと吉澤は予想外の返事が返ってきたと思ったのか、一瞬だけ目を見開くと「今日はやけに素直だな」と一言だけ呟いて自身の車の元へと案内してくれた。
運転席に乗る吉澤の真後ろの後部座席に座ると左隣にダンボールに山積みになった封筒達が置いてあることに気づく。
「律仁、その積んであるの。お前のファンレターだ。まぁ絶頂期よりは少ないが、これを読んだら少しは気持ち変わるんじゃないか?」
今までは目に見えなかった自身のファンの声。トップアイドルと言えるほどの量では無いけど、自分を……『アイドル 浅倉律』を好いてくれる人が沢山いる。
律仁はその中の少しだけ字の汚い『浅倉律様へ』と書かれた封筒を手に取って、中身を開ける。
『律さん、初めまして。俺は早坂渉太、13歳中学校1年生です。初めてファンレターを書きます。律さんを知ったきっかけは姉が律さんのことが好きだったのがきっかけです。歌番組に出ている律さんを見て、カッコよくて、優しい歌声の律さんに同性ながらに惚れてしまいました。きっと律さんは弱虫な僕なんかよりもずっと努力している方なんだと思いました。最近見た生放送の歌番組で少しだけ元気のないように見えたので、無理せず頑張ってください』
この子の目にはテレビに映る俺が努力しているように見えたのだろう。当の本人は過信しすぎて手を抜きがちだったダンスに適当にウィンクでもしておけば程度でしていたファンサービス。
この子の真っ直ぐな手紙が自然と先程見た少年と重なり途端に申し訳無くなってしまった。
「なぁ……俺、曲書きたい。自分の曲を歌いたい。俺の声を好きでいてくれる人達を大切にしていきたい。音楽で返していきたい。そしてレイナを見返えせるような、アーティストになりたい。俺の曲が一番だって。俺の方が凄いんだって。振ったこと後悔させるくらいカッコいい男になるよ。吉澤さん。俺、まだ間に合うかな……」
もう一度だけ挽回するチャンスはあるだろうか。今度は自分がトップになるためじゃなくて、この子達に恩を返せるように活動していきたい。
「ああ、間に合うだろ。俺は良いと思うぞ」
恨めしいことは沢山あるけど、所詮過ぎ去ってしまったこと。後ろを向いてばかりじゃ居られない。人を恨んだところで自分に返ってくるのは虚しさだけ。
それなら前を向いて今ある大切なものを守って行くことが今の俺に出来ることのような気がした。
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