それでも好きな人

なめめ

文字の大きさ
20 / 30
叶わないもの



一時的に忘れられたとしても、その日はやってくる。

物産展初日、出店舗の代表に挨拶回りをしていると奴の姿があった。十三年前以来の奴の姿はあどけなさがあり、背だけ高くて体格が薄かった奴とは違う。

農場仕事をしているせいか肉付きが良く、理想的な筋肉。包容力のなりそうな筋張った腕は櫂の胸を高鳴らせた。

 話し掛けようとやぎた農場のブースの作業している慎文の元までゆっくりと足を進めてようとしていると、後輩の皆川(みなかわ)に「他のブースでトラブルがあった」と呼び止められてしまい、再会の挨拶は叶わなくなってしまった。

 隙を見て慎文に声を掛けようと試みたが、物産展初日とあってか商品の入荷が遅れている。ブース全体の客の誘導などトラブル対処でかかりっきりになり、慎文のブースへ足を運ぶ暇なく一日を終えてしまった。




 
翌日、初日のような慌ただしさは午前中までで、午後からブースの偵察をして回るくらいの余裕はあった。

各々の農場のブースで現状の聞き込みをしながら、慎文の出店場の客がある程度捌けたのを見計らって近づいてみると奴は接客中のようだった。

 慎文より身長が低く、体格もモヤシのように細め。
何処かの会社員であるのかワイシャツにニットベストの男に接客中の慎文の表情は頬を赤らめどこか嬉しそうであった。

 昔からわかり易いのは変わらないのだろうか。接客中の男が、慎文にとって特別な誰かであることは遠巻きに眺めていて、一目瞭然であった。

 勝手に独り身だと思い込んで舞い上がっていたが、慎文だって月日が経てば恋人の一人くらいいてもおかしくはない。

過去に幼馴染の男のことが好きだったから、女性と結婚の線は薄くても誰か特別な相手がいることだってあるだろう。

 結局、過去の恋心に囚われてしまっているのは自分だけであることに虚しさを覚える。

櫂は冷やかしのつもりで接客中にも関わらず、慎文のブースに近寄ると馴れ馴れしく「慎文?」と名前を呼ぶ。

 ついでに慎文の男の顔を横目で見てやると、幸の薄そうな地味顔でこんな奴のどこに魅力があるのかと心の中で罵った。

 一方で慎文は櫂を見留めた瞬間に、先ほどまで男に綻ばせていた口元がキツく結ばれると目を伏せられてしまう。その態度からやはり奴にとって櫂との出来事は後ろめたいことなのだと思い知らされて胸がキュッ締め付けられる感覚がした。

 それでもめげずに、慎文の肩を抱いて頭をクシャクシャに撫でてやる。「やめてよ……。櫂先輩……」と明らかな拒絶に心が悲鳴を上げそうになったが、櫂の性格上、ここで引き下がる訳にもいかなかった。先輩の威厳を保つためにも強気にでるしかない。


「久しぶりの再会なのに冷たくするなよー。それにしてもお前、大分かわったなー。中学のときはまだ細かったのに。一瞬見違えたけど牧場の名前見て、お前だって分かったよ」

 動揺を隠せていない慎文は「どうして……」とわかり易く目を泳がせている。

 この物産展のエリアマネージャーだと説明してやるとあっさりと納得したものの、それ以上に奴から会話を振ってくることはなく、沈黙が空気を凍てつかせる。

 そんな空気の中で「慎文、俺は会社に戻るから」と割って入ってきた、慎文と話していた男。慎文が去っていく男に「カズくん、待って……」と声を掛けたことで、櫂の中で心の奥底に仕舞っていた黒い感情の渦が蠢き出した。


 慎文のわかり易い性格どころか好きな人も変わっていないなんて、何処までも一途過ぎて笑えてくると同時に虚しくなった。 

しかも慎文に釣り合うような顔ならまだしも、塩顔で幸の薄そうな顔。

 十三年前は振られていた慎文が未だに片想いを引きずっているのか、はたまた此奴と両想いになれたのか気になった櫂は図々しく「お前ら付き合ってんの?」と問うてみると、少し間を開けて慎文が頷いてきた。

 カズくんとやらが慎文のことを拒絶した話は聞いていただけに、叶うはずのないと思っていた恋が成就したことに疑問を覚えた。

 微かに感じる二人の温度差からは恋人同士というより慎文が一方的に好意を寄せているようにしか見えない。思う所はあったが、慎文が幸せならそれで良かった。

 しかし、単純に祝福するのでは面白くなかった櫂は、去り際にカズくんに向かって慎文との情事をした時のことを吹き込んでは自己満足で優越感に浸る。 

 そんなことを吹き込んだところで慎文はカズくんのものであることには変わらないのに、二人から去った後でも虚しさはなくなるどころか増していた。

感想 0

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

魔性の男

久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。 最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。 そう、思っていた。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

没落令息はクラスメイトの執着に救われる

夕月ねむ
BL
突然父親の爵位がはく奪され、帰る屋敷も家名も失ったローレンス。貴族が集まる学院の寮からも放り出されるところだった彼を、クラスメイトのユリシーズが引き留める。 「侯爵家の私であれば、従者をひとり授業に同席させることができる」と言って。 ユリシーズの従者となったローレンス。けれどその二年後、彼らの関係は再び大きく変わることとなった。 ※FANBOXからの転載です。 ※他サイトにも投稿しています。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。