Broken Flower

なめめ

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突然の…

突然の····· 12-11

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だけど、葵に嘘なんか吐きたくなくて、こんな自分でも葵に許して貰えるのであればと、藁にもすがる思いだった。

「葵は俺なんかよりもずっと強くて、家族思いでそういう所が俺にはないところだから·····凄く惹かれたんだ。上手く言えないけど葵のことが本気だってことは分かってほしい·····」

「そう言って父は母と結婚したそうです·····」

「え·····」

亨の願いも虚しく、彼の耳に俺の精一杯は届いていないのか、葵は視線を落として一点だけを見つめながらそう呟いた。


「お前のことは本気なんだって。それを信じて母は結婚を決めたのに僕が生まれた途端、他に女性を作って、投げた言葉が「お前なんか好きじゃなかった」信じられると思いますか?僕にとって貴方の言葉は信用できません。一人の女性を愛せなかった人が僕に向かって本気だなんて虫が良すぎます」

今までのひとを蔑ろにしてきた自分が憎い。

葵に嫌われるような行いをしてきた自分が憎い。

葵の嫌う葵の父親と自分は一緒だ。

「·····ごめん」

過去に詫びることしか出来ず、これ以上に何も言い返す言葉が見当たらない。

「もう金輪際僕に近づかないで貰えますか。貴方に会う度、話を聞く度、虫酸が走ります」

いつも温かみを感じていた葵の言葉にもう温度は感じない。自分が葵を好きになる資格はないのだと思い知らされても諦め切れなくて「違う·····違わないけど。葵のこと好きで好きで·····」と去りゆく葵の手首を掴んだところで
「触らないでください」と大きく手を振り落とされてしまった。

葵の遠ざかる足音を追う気力なんてなくて、亨はその場にしゃがみこんでは膝に顔を伏せて蹲る。ズキズキと痛む胸。

好きな人に好かれないってこんなに苦しいことだったんだと思い知らされる。
今までの子達の言葉が反芻されては自分の行いの腹立たしさと葵に拒絶されたことへ沈痛な想いが織り交ざって、息をしてるのもやっとだった。

------亨は何考えてるか分からない。私の事本当に好きじゃないの?-----

-----酷い、わたしは本気で好きだったんだよ-----

-----私だけ亨が好きで舞い上がって、亨はそんなことないだなんて·····馬鹿みたい-----

涙ながらに別れを告げてくる人もいた。
そんな姿を見ても何も感じることなく俺は平然として彼女たちの喜怒哀楽をまるで映画でも観るかのように傍観しているだけだった。

漸く痛感する。好きな人に想われない辛さを·····。


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