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気持ちを揺るがすデート
気持ちを揺るがすデート⑥
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亨が真剣に話をしている所で、お好み焼きの具材が店員によって運ばれてくる。外食でお好み焼きなど焼いたことがなかった葵は、道理が分からず、テーブルに並べられた小さいボールに運ばれてきた具材とタネに戸惑っていると、亨は「俺に任せて」と具材を率先して自分の所へ持ってくると
手際よくタネと具材を混ぜて僕の分も鉄板に流し込み、焼いてくれた。
出来上がって食べている間、特に会話があったわけではなかったが、前方から視線を感じて顔を上げれば、すぐに視線を逸らして箸を動かす亨が気になって
妙な緊張感が生まれる。最初の彼との食事も好きな人の目の前で緊張感があったが、今は違う意味で緊張して、食しているものを味わう余裕がなかった。
焼いてもらうのもお勘定も全て亨に任せてしまい、自分は唯、食べて奢ってもらっただけ。お店を出て直ぐに彼に御礼を発したものの「俺が付き合ってもらってるだけだから」と葵の厚意を受け取るつもりはないようだった。
食事を終え、ショッピング施設を出ると足は自然と駅の方へと向かう。
夕方の日の落ちる前に待ち合わせた空はすっかり暗くなり、振り返ると施設の看板の電灯が建物を照らす。
「あ、葵。あのさ…お店のことだけど…俺、いてもいいかな·····」
ゆっくりと並んで歩く中で亨に唐突に問い掛けられる。自分が好意を寄せ、僕を諦める決意をしたことで、僕との間に少なくとも気まずい空気が生まれてしまう。それによって店の空気が変わってしまうのではないかと危惧しているようだった。
「今辞められたら困るのでまだ居てもらえると助かります。まあ、貴方にその気があればですけど」
確かに今日の映画は楽しかったし、少し名残惜しさがないと言えば嘘になる。
しかし自分が亨を心の底から好きになれないのは、彼を完全に信じ切れていないからだ。
多分、好きとか嫌いとかを失くして、ただの従業員同士の付き合いとしてなら彼との関係を上手く築いていける気がするし、仕事の話のみでなら僕も心を乱すことはない。私情を挟むから彼に腹を立ててしまうのならこの距離を保つのが僕らの最良なんだと思うと今日一日で良く分かった。
手際よくタネと具材を混ぜて僕の分も鉄板に流し込み、焼いてくれた。
出来上がって食べている間、特に会話があったわけではなかったが、前方から視線を感じて顔を上げれば、すぐに視線を逸らして箸を動かす亨が気になって
妙な緊張感が生まれる。最初の彼との食事も好きな人の目の前で緊張感があったが、今は違う意味で緊張して、食しているものを味わう余裕がなかった。
焼いてもらうのもお勘定も全て亨に任せてしまい、自分は唯、食べて奢ってもらっただけ。お店を出て直ぐに彼に御礼を発したものの「俺が付き合ってもらってるだけだから」と葵の厚意を受け取るつもりはないようだった。
食事を終え、ショッピング施設を出ると足は自然と駅の方へと向かう。
夕方の日の落ちる前に待ち合わせた空はすっかり暗くなり、振り返ると施設の看板の電灯が建物を照らす。
「あ、葵。あのさ…お店のことだけど…俺、いてもいいかな·····」
ゆっくりと並んで歩く中で亨に唐突に問い掛けられる。自分が好意を寄せ、僕を諦める決意をしたことで、僕との間に少なくとも気まずい空気が生まれてしまう。それによって店の空気が変わってしまうのではないかと危惧しているようだった。
「今辞められたら困るのでまだ居てもらえると助かります。まあ、貴方にその気があればですけど」
確かに今日の映画は楽しかったし、少し名残惜しさがないと言えば嘘になる。
しかし自分が亨を心の底から好きになれないのは、彼を完全に信じ切れていないからだ。
多分、好きとか嫌いとかを失くして、ただの従業員同士の付き合いとしてなら彼との関係を上手く築いていける気がするし、仕事の話のみでなら僕も心を乱すことはない。私情を挟むから彼に腹を立ててしまうのならこの距離を保つのが僕らの最良なんだと思うと今日一日で良く分かった。
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