Broken Flower

なめめ

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気持ちを揺るがすデート

気持ちを揺るがすデート⑦

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だから亨が辞めてしまえば従業員は母と僕しかいなくなる。彼にとっては酷かもしれないが、猫の手も借りたいくらいのこの状況で、出来れば彼にはいて欲しいのが正直なところ。

「いいの?」

「ええ、まあ」

「良かった·····少しでも百合さんと葵の役に立ちたいと思ってるのは変わらないから·····でも、葵とのこういう誘いは今日限りにするし、もう葵の事好きだなんて言わないから諦めるから安心して」

夜道で暗くて分からない表情。
亨は今何を思っているのだろうか·····。
不自然に上げている声のトーンはどこか無理をしているように聞こえなくもない。

「はい、これからは唯の従業員同士でお願いします。では·····」

やはり彼の好意は本当なのではないかと僅かな憶測がよぎるものの、敢えて気にしない素振りで淡々とお辞儀をする。

「うん·····じゃあ」

丁度話が途切れたタイミングでバスターミナルへとたどり着いたのをいいことに手を振る亨に背を向け、バス乗り場まで歩き進めた。亨は地下鉄だが、葵は実家までここからはバスで帰るつもりだ。地下鉄に乗り、途中まで亨と一緒に帰ることもできたが、これ以上この男と一緒に居ると気持ちを揺れ動かされそうで…。

葵は一切振り返らずバス乗り場まで一直線に足を進めていると、後方から名前を呼ばれ、振り返る暇もなく背中ごと柔らかくて温かい体温に包まれていた。

自分の胸の前で交差する亨の腕。
この間の香水では無い、亨自身からの柔らかくて甘い匂いがする。

「ちょっと·····」
「ごめん、本当に最後だから。最後にするから少しこのままでいさせて……」

悲痛な声と共に肩口に亨の顔が埋められる。
こんな公の場で恥ずかしい。抵抗したくても大切なものでも抱えるように抱き竦められては身動きが取れず。亨の苦しそうな声音から強く突き放す気にもなれなかった。

背中から伝わる亨の心臓の音に伝染するかのように葵の脈拍が上がる。
ぎゅっと離したくないと訴えるかのように強く掴まれる上腕。

暫くしてそっと亨の腕から解き放たれると「じゃあ、また明日」と笑顔で手を振ってきた。

葵は一連のことに戸惑いながらも軽く会釈をしてその場を立ち去る。

後ろから感じる熱視線が未だに葵を追いかけているような気がして、怖いもの見たさで振り返ると亨はあの場から一歩も動かず見送っていた。

悲しそうに沈んだ瞳を浮かべていた彼が捨て犬を置き去りにしてきたようなそんな罪悪感を感じる。

少しでも信じてみればよかっただろうか……。

心温まる映画に感動できる亨が僕の顔色を窺って一喜一憂する彼が、僕を揶揄っていると言えるだろうか。

上っ面の言葉なのだろうか。

だけど、危ない橋を渡れるほど僕はあの頃の純粋な僕じゃない。

亨の温もりの余韻にドキドキする一方で、冷静な頭で考える。

織り交ざったこの感情をどこにもしまうことができずに、ただぼんやりとバスに乗り込み、じっと亨のことを考えていることしかできなかった。






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