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ミライの隠していた目的
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3日前 アリスたちの住む国が正式に国教として認める教会の総本山。
聖地と言われる場所で少年――――ミライの声が響く。
「これよる振るうは、心の刃……我が腕に宿るは漆黒の闇。 放て 邪業暗黒波動!」
「……」と何も起きない。これは歳相当のごっこ遊び。
「ふう……今日の修行はここまでにしておこうか」とミライはひとりごちる。
「……気は済みましたか、ミライさま?」
離れて見てたのだろう。 従者の1人が近づいて来た。
従者と言っても、教会の聖地で暮らす者――――神父の恰好をしている。
(やっぱり、コイツは俺のことを馬鹿にしているんだろうな)
ミライは、教皇の息子。 まだ7才とは言え、立場がある。
父親の跡を継ぎ、次代の教皇――――は難しいとしても、相当の地位は得られる目安は高い。
だから、ミライは自分に取り入ろうとする人間に敏感だ。
「……それで、あのミゲールとヨルマガが旅に出るそうです」
「へぇ」とミライは興味なさそうに答えた。しかし――――
「えっと……気になりませんか? あの、最強の魔法使いと武神が旅に出ると……」
ミライは歳の割に聡い。 それでいて、宗教家として才能があった。
宗教家としての才能とは、人の心を読み解き、他者の懐に入り込むための洞察力。
それが生来の才能としてミライにはできた。
(コイツ、俺をミゲールとヨルマガ……だったけ? 一度、会った記憶もあるが……ソイツ等と結び付けたい理由があるのか? 混乱を起こさせたい? それとも――――)
しかし、その才能を使いこなすには幼さがあった。 もしも、ミライが大人……いや、十代前半の年齢に達していたら、危険なことを躊躇する。
今のミライは――――自らを危険に向かわせる冒険心。 そして、並みの大人でも敵わない魔力があった。
「それは興味深いな……もう少し詳しく話せよ」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
そして、現在。 新大陸に向かう途中の島。
ミライは、ミゲール一行と合流した。
「ふ~ん、要するにお前に付けられた従者が企んでいる。それを炙り出すために出て来た……よくやるよ。7歳の小僧が」
「小僧って言うな、ミゲール! 俺にはミライって名前がある!」
「威勢がいいな。気に入ったぞ! 演技とは言え、私とヨルマガを殺してやるって意気込みがいい!」
「演技ではない。隙があれば……ごにゃごにゃ」とミライの言葉は、よく聞こえなかった。
「どうする?」とミゲールはヨルマガに訊ねた。
この旅はヨルマガの依頼によるものだ。 彼が責任者とも言える。
「流石に教皇さまのご子息をほっておくわけにはいかないでいしょう」と肩をすくめた。
「教会に連絡をする手段は?」と訊ねた相手は船長だった。
「この島は緊急避難用じゃ。魔石を利用した通信機が……」
「いや、待てよ」と船長は小走り。島に設置されている小屋に飛び込んだ。それから――――
「ダメじゃ、ダメじゃ! 例の殺人鬼が、斧で叩き壊してるわ」
深夜の戦い。 仮面をつけた神官が破壊活動に勤しんでいたことを失念していた。
「おいおい、やっぱり送り帰そうぜ? コイツ、連れて行ったら私らが誘拐犯扱いだぜ?」
「――――心配しなくてもいい」とミライ。
「ん? なんか手を打っているのか、小僧?」
「こうするのさ」とミライは口笛を吹いた。すると、水平線の向こうから飛んで来る白い影が接近してきた。
「へぇ、使い魔か。鳥型にしては、いい魔力が込められているじゃねぇか」
ミゲールが言う通り、ミライが呼んだのは本物の鳥ではない。
鳥を模っているが、魔力によって動いている使い魔。あるいは魔導生物と言われる物。
「コイツの足に手紙を括りつけて、父上に送る」
「そいつはいい。不穏分子は教皇さまに直通密告ってか」
「笑うな。まだ従者が悪い事を企んでいると決まったわけではない」
「なるほど、この旅で明らかにするってか? だが、私等が行く場所は新大陸だぜ、わかっているか?」
「……わかっている。足手まといにはならない。それくらいには強いつもりだ」
ミライは腕を見せる。 そこに刻まれた水の紋章。しかし――――
「おいおいおい、水属性の魔法が使えるなんて、こっちは見飽きているだぜ? 私は宮廷魔法使いで世界最強なんぜ? もっと、面白いものをみせろよ」
「どうすればいい?」
「そうだな……私の弟子、世界最強の私が育てている最中の弟子を相手にして強さを見せつけて見ろよ」
「俺は、構わない。それで?」
「それで?」
「……いや、その弟子はどこにいるのだ?」
「どこって……ここに。私の横に最初からいるが?」
ミゲールの言う通り、彼女の横にはアリスが控えていた。それも、ずっと……
「なっ! お前がミゲールの弟子……全然、強そうに見えないじゃないか?」
「おいおい、魔法使いを見た目で判断するやつがいるか。私が弟子入りを認めた逸材だぞ。アリスも何か言ってやれ!」
「あっ、よろしくお願いします」
「よろしくってお前……」
「え? だって……相手は、まだ小さな男の子じゃないですか?」
「ん? いや、ミライの年齢は確か、お前と……」
「私はお姉さんとして、優しく指導してあげますよ!」
「――――それは、俺がちびって言ってるのか?」
人間、どこに逆鱗があるかわからない。 どうやら、アリスはミライの逆鱗を大きく傷つけたらしい。
聖地と言われる場所で少年――――ミライの声が響く。
「これよる振るうは、心の刃……我が腕に宿るは漆黒の闇。 放て 邪業暗黒波動!」
「……」と何も起きない。これは歳相当のごっこ遊び。
「ふう……今日の修行はここまでにしておこうか」とミライはひとりごちる。
「……気は済みましたか、ミライさま?」
離れて見てたのだろう。 従者の1人が近づいて来た。
従者と言っても、教会の聖地で暮らす者――――神父の恰好をしている。
(やっぱり、コイツは俺のことを馬鹿にしているんだろうな)
ミライは、教皇の息子。 まだ7才とは言え、立場がある。
父親の跡を継ぎ、次代の教皇――――は難しいとしても、相当の地位は得られる目安は高い。
だから、ミライは自分に取り入ろうとする人間に敏感だ。
「……それで、あのミゲールとヨルマガが旅に出るそうです」
「へぇ」とミライは興味なさそうに答えた。しかし――――
「えっと……気になりませんか? あの、最強の魔法使いと武神が旅に出ると……」
ミライは歳の割に聡い。 それでいて、宗教家として才能があった。
宗教家としての才能とは、人の心を読み解き、他者の懐に入り込むための洞察力。
それが生来の才能としてミライにはできた。
(コイツ、俺をミゲールとヨルマガ……だったけ? 一度、会った記憶もあるが……ソイツ等と結び付けたい理由があるのか? 混乱を起こさせたい? それとも――――)
しかし、その才能を使いこなすには幼さがあった。 もしも、ミライが大人……いや、十代前半の年齢に達していたら、危険なことを躊躇する。
今のミライは――――自らを危険に向かわせる冒険心。 そして、並みの大人でも敵わない魔力があった。
「それは興味深いな……もう少し詳しく話せよ」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
そして、現在。 新大陸に向かう途中の島。
ミライは、ミゲール一行と合流した。
「ふ~ん、要するにお前に付けられた従者が企んでいる。それを炙り出すために出て来た……よくやるよ。7歳の小僧が」
「小僧って言うな、ミゲール! 俺にはミライって名前がある!」
「威勢がいいな。気に入ったぞ! 演技とは言え、私とヨルマガを殺してやるって意気込みがいい!」
「演技ではない。隙があれば……ごにゃごにゃ」とミライの言葉は、よく聞こえなかった。
「どうする?」とミゲールはヨルマガに訊ねた。
この旅はヨルマガの依頼によるものだ。 彼が責任者とも言える。
「流石に教皇さまのご子息をほっておくわけにはいかないでいしょう」と肩をすくめた。
「教会に連絡をする手段は?」と訊ねた相手は船長だった。
「この島は緊急避難用じゃ。魔石を利用した通信機が……」
「いや、待てよ」と船長は小走り。島に設置されている小屋に飛び込んだ。それから――――
「ダメじゃ、ダメじゃ! 例の殺人鬼が、斧で叩き壊してるわ」
深夜の戦い。 仮面をつけた神官が破壊活動に勤しんでいたことを失念していた。
「おいおい、やっぱり送り帰そうぜ? コイツ、連れて行ったら私らが誘拐犯扱いだぜ?」
「――――心配しなくてもいい」とミライ。
「ん? なんか手を打っているのか、小僧?」
「こうするのさ」とミライは口笛を吹いた。すると、水平線の向こうから飛んで来る白い影が接近してきた。
「へぇ、使い魔か。鳥型にしては、いい魔力が込められているじゃねぇか」
ミゲールが言う通り、ミライが呼んだのは本物の鳥ではない。
鳥を模っているが、魔力によって動いている使い魔。あるいは魔導生物と言われる物。
「コイツの足に手紙を括りつけて、父上に送る」
「そいつはいい。不穏分子は教皇さまに直通密告ってか」
「笑うな。まだ従者が悪い事を企んでいると決まったわけではない」
「なるほど、この旅で明らかにするってか? だが、私等が行く場所は新大陸だぜ、わかっているか?」
「……わかっている。足手まといにはならない。それくらいには強いつもりだ」
ミライは腕を見せる。 そこに刻まれた水の紋章。しかし――――
「おいおいおい、水属性の魔法が使えるなんて、こっちは見飽きているだぜ? 私は宮廷魔法使いで世界最強なんぜ? もっと、面白いものをみせろよ」
「どうすればいい?」
「そうだな……私の弟子、世界最強の私が育てている最中の弟子を相手にして強さを見せつけて見ろよ」
「俺は、構わない。それで?」
「それで?」
「……いや、その弟子はどこにいるのだ?」
「どこって……ここに。私の横に最初からいるが?」
ミゲールの言う通り、彼女の横にはアリスが控えていた。それも、ずっと……
「なっ! お前がミゲールの弟子……全然、強そうに見えないじゃないか?」
「おいおい、魔法使いを見た目で判断するやつがいるか。私が弟子入りを認めた逸材だぞ。アリスも何か言ってやれ!」
「あっ、よろしくお願いします」
「よろしくってお前……」
「え? だって……相手は、まだ小さな男の子じゃないですか?」
「ん? いや、ミライの年齢は確か、お前と……」
「私はお姉さんとして、優しく指導してあげますよ!」
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