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第6話 殴るるるるるる……
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青い閃光。 その正体は水系魔法。
閃光はセリカの体を貫いた。
「おほっほほほほ! どうかしら?」とリヴァイアサンは高笑いをしている。
「人間の女ごときが、私を愚弄するなんて、身の程を知りなさい。 あら? 残念だけど、死んじゃったみたいね」
「死んだ? なんの事ですか?」 とセリカは目を開いた
そのまま、倒れた状態から足をあげると跳ね起き。 勢い良く立ち上がって見せた。
「なっ! 無傷なの、あなた!? どんな方法を使って、防御を?」
「いやぁ、ギリギリで腕で防御できました。 さすがの私も直撃したら、2~3日は寝込んでしまいそうな強烈な一撃でしたね。危ない、危ない!」
「・・・・・・私の目には、胸を貫いたように見えたのだけど?」
「それは流石に目の錯覚でしょ。あっ! 水辺だから太陽の光が乱反射して────」
「お黙りなさい! そうやってふざけるいられるのもこれまでよ!」
リヴァイアサンの攻撃。それは意外! 飛びかかっての接近戦だった。
「その体で尻尾を振り回されても────」
「素手で受けるな、セリカ!」とシロウが怒鳴る。
「え?」と驚きながらも、素手での防御を止め、腰から武器を抜いた。
セリカの愛武器。 丸太のように太い刺突専門の剣(?)
それを振って攻撃を防御した。
「───ッ!?(ま、まるで体の内側から揺さぶられているような衝撃! 直撃していれば・・・・・・いや、ダメだ!)」
確かにセリカは直撃を防ぐ事には成功した。 だが、全身が痺れている。
防御してなおも、その衝撃が彼女の全身を襲い、深いダメージを刻んだからだ。
「くっ!」と痺れに耐えきれず、片膝を地に付けるセリカ。
「ほほっ! その姿、戦いでは無防備と同じなのよね! もう一度、今度は直撃させてあげるわよ!」
防御。しかし、セリカが感じたのは、自分の体が鉛のように重く、鈍くなっている感覚だった。
(このままでは! しかし、何も方法が!)
「氷魔法《アイス》」
セリカとリヴァイアサンの間、その空間に氷魔法が通り抜けていくと両者を分けるように氷の壁が出現していった。
「やれやれ、俺たちは冒険者だ。闘技者《グラディエーター》じゃない。モンスター相手に1対1である必要はないだろ? それとも────もしかして、卑怯と言うタイプか?」
「あらあら」とリヴァイアサンは愉快そうに笑った。
「もしかしてそれって挑発かしら? 嫌いだわ、やれやれって冷笑主義を気取りながら、女の窮地を助けようとハッスルする男。それって差別意識が高すぎじゃない?」
「よくわからんが、俺は男女はかくあるべきって思いはない。ただ、仲間と戦おうとしているだけだ」
「じゃかましいわ!」
リヴァイアサンはターゲットをセリカからシロウに変えて、飛びかかっていく。
そのまま尻尾を振り回してきた。
対するシロウは、どこからともなく取り出したハルバードを構える。
「速くはない────だが、打撃が重いな!」
シロウは攻撃を受ける。 その攻撃力は、純粋な前衛であるセリカすら、受けただけで耐えきれない衝撃だったはず・・・・・・
だが、シロウにはダメージが感じられない。
「衝撃を受け流したわね。もしかして、あなたって武道武術の達人か、何かなの?」
「さて、答える義理はないからな」
「ちっ!」とリヴァイアサンは舌打ち。 接近戦に利点がないと思ったのか、後ろに下がろうとする。しかし────
ゾクッと寒気をリヴァイアサンは感じた。
後ろに下がる軌道。そこにハルバードの鎌部分が既に設置されていたからだ。
(視線誘導? 体術? そんな長物の武器を、気づかせずに私の後ろまで伸ばしていた!?)
リヴァイアサンは動きを止めた。しかし、シロウはその頭部を握るとハルバードの刃に押し付けようとしてくる。いや、それだけではない。
彼の掌に魔力が集中していく。
「あんた! 零距離で魔法をぶっ放すして私の首を斬るつもり!? この人でなし!」
そんなリヴァイアサンの声は当然、無視される。 シロウの腕からは氷魔法が放たれた。
『氷魔法《アイス》』
白い煙───冷気が周囲を隠す。 視界が開けた時には、
「ちっ、失敗しちまったか」とシロウが腕を押さえている。 その腕は、自身の魔法によって氷付けにになっていた。
「あ、危なかったわ。自爆覚悟で水を吐き出して助かった」
対するリヴァイアサンは無傷。ただし、短時間の攻防でありながも、疲労は激しい。
シロウは火魔法で氷漬けの腕を溶かしているが、すぐに戦闘に使えるようになるダメージではないようだ。
「ふん、氷魔法じゃなくて、その火魔法を使っていたなら、私の首は吹き飛んでいたわね。どうして使わなかったの?」
「────下処理もなく、食材に火を通したくなかったからだよ」
「もしかして、私を食べるつもりなの!? まぁ、なんて野蛮なのかしら! 」
「でも────」とリヴァイアサンはグフグフと笑うと。
「その腕じゃ、調理以前に私を倒すことなんて夢のまた夢よ」
「あぁ、そうだな。 ────お前の相手が俺だけならな!」
「────っ!(あの女は、どこに消えたの? いつの間に!)」
対面しているシロウが視線を外す危険性はわかっている。 しかし、セリカから奇襲を仕掛けられるとわかっていて、無視はできない。
「このタイミング!」とシロウが一歩前に出た。
「やっぱり、ハッタリだったのね!」
リヴァイアサンはシロウの追撃体勢。しかし、シロウは文字通り、一歩だけしか動いていなかった。
(あの言葉・・・・・・「このタイミング」って叫んだのは、女に送った合図。でも、奇襲を仕掛けれる距離に、あの女はいなかった。どこから・・・・・・)
「────」と無音。 しかし、セリカは確かに攻撃を開始していた。
「────上か!」とリヴァイアサンは気づく。 周囲を警戒していたにも関わらず、頭上から落下攻撃を仕掛けてくるセリカと目が合う。
リヴァイアサンは知らない。
セリカのスキル『魔物食い』の効果────食べたモンスターの力を再現したスキルが可能になる事。
そして、彼女が最近食した魔物がスライムであり、再現されたスキルの効果は────
『跳ねるように高くジャンプができるようになる』
「うぉぉぉぉぉぉぉ!」は吐き出された咆哮は、リヴァイアサンのものか? それとも────
「私を出し抜こうなんて100年は早いわよ!」とリヴァイアサンは尻尾を振り回した。
交差法《カウンター》
セリカは刺突を繰り出している。 だが、リヴァイアサンの尻尾の方が僅かに速く到達する。
(勝ったわ! この女を倒したら、次は男・・・・・・片手しか使えないなら勝算は十分にあるわ)
だが、セリカの武器。その剣先(?)はブレていない。
しばらくは戦闘不能になるリヴァイアサンの打撃を受けたにも関わらず・・・・・・だ。
「コイツ、あの短時間で盗んだの!? あの男の防御方法を」
「少子! 騎士たる者、技の道理が分かれば再現は可能!」
「何よ、偉そうに! ただの物真似が実戦で通用するほど────」
「破っ!」とセリカの突きがリヴァイアサンに直撃した。
「ぐへぇ!」とダウンしたリヴァイアサン。
(できれば、このまま寝ていて欲しいのですが、そんなに甘い相手ではないでしょうね!)
その予想通りだ。 リヴァイアサンは立ち上がってきた。
足元にダメージが残っているらしく、若干のふらつきはあるが、その目には爛々とした闘志という物が確かに宿って、燃えている。
「あんた、思った以上にやるわね。名前は?」
「セリカだ。セリカ・イノリ」
「そう、いい名前ね。 ここから最後の攻防になると思うけど、その前に────」
リヴァイアサンは前ヒレ・・・・・・いや、腕なのか? その箇所は?
とにかく、腕を伸ばしてきた。 それを意味することとは?
「ほら、どうしたの? 握手よ、握手。 好敵手を前に握手を求める事がそんなに変なのかしら?」
変である。
戦いの最中に握手という有効の象徴。 罠以外にあり得ない。
だが、これをされる側には、どうしても拭いきれない疑問。
(良いのか? 差し出された腕を払って、攻撃を放つなど?)
ゆっくりと間合いが縮み、握手の距離になる。
まるで吸い込まれるように、セリカはリヴァイアサンの前ヒレに触れると
「かかったわね! マヌケが!」とリヴァイアサンは飛び付いてきた。
うなぎの肉体。黒く長く滑る。
総合格闘技《パンクラチオン》の戦いならば、どれほど有利か語るまでもないだろう。
だが、問題があった。
「騎士を舐めるな!」とセリカは、リヴァイアサンの頭部を掴んで、そのまま地面に叩きつける。
セリカは騎士である。 当然ではあるが、剣や槍、弓以外にも素手の戦いであっても精通していた。
殴る。
殴る。
殴る。
殴るるるるるるるるるるるるるるるるるるる・・・・・・
馬乗りになったセリカは機械のように正確なリズムで拳を叩き込んでいく。
「くっ! 調子に乗って!」とリヴァイアサンは、振り落とされていく拳から避難するため、体を捻って反転する。
対人戦闘では、マウントを取られて背を向けるのは自殺行為。 しかし、リヴァイアサンは自信があった。
(私の体は滑る! ヌルヌルと、本物のうなぎのように! だから、私には効かないのよ! 関節だろうと、締め技だろうと────)
だが、リヴァイアサンが感じたのは強い圧迫感だった。
(なっ! この子、まさか・・・・・・いえ、認めてあげる。セリカ・イノリ・・・・・・恐ろしい子)
セリカは両足でリヴァイアサンの胴体を締め、さらに首に腕を回している。
まさに────掟破りの胴締めチョークスリーパーホールド。
純粋に、そして単純にセリカの人間離れた膂力が可能にしてた固定力。
「さぁ! まいったをしなさい。私の腕は、オークやトロルでも締め落とせますよ」
「つくづく怪物なのね・・・・・・でも、舐めないことね! 私の流派 リヴァイアサン流活殺術の寝技テクを!」
「なにっ!」
リヴァイアサンは締められている首に隙間を作る。 無理矢理、足のロックを外すと────
「一気に体を反転させて────脱出! 私の寝技テクも捨てたもんじゃないでしょ!?」
締め技から脱出したリヴァイアサンは、セリカから距離をとるように離れた。
「えぇ、素晴らしかったです。こう言うのが礼儀ですかね? 勝負は、まだこれからだ・・・・・・と!」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「流石、シロウさまとお供の方じゃ、今日は村をあげての宴になりますな」
村に戻ってきたセリカとシロウ。 再び、湖畔の底を封印したと伝えると村長は大喜びだった。
「それ、龍神さまは降臨されましたかな?」
セリカとシロウは、顔を見合わせた。それから────
「えぇ、出てきました。強かったですが、何とか底に戻す事ができました」
事実として、疲労しきっていたリヴァイアサンは、
「もう、いや! 久々の地上なのに、楽しくないわ! 私、もう帰るからね! 本当だからね、本当に帰るから、止めるなら今の内よ! ────いや、止めなさいよ! 寂しいじゃないの!」
そんな意味不明な事を言いながら、深海に戻っていった。
再び、彼女(彼?)が地上に顔を出すのは100年後になるはずだ。
「ところで村長」とシロウ。
「宴を行うと言うならば、頼みたい食材がある。────うなぎは用意できるか?」
閃光はセリカの体を貫いた。
「おほっほほほほ! どうかしら?」とリヴァイアサンは高笑いをしている。
「人間の女ごときが、私を愚弄するなんて、身の程を知りなさい。 あら? 残念だけど、死んじゃったみたいね」
「死んだ? なんの事ですか?」 とセリカは目を開いた
そのまま、倒れた状態から足をあげると跳ね起き。 勢い良く立ち上がって見せた。
「なっ! 無傷なの、あなた!? どんな方法を使って、防御を?」
「いやぁ、ギリギリで腕で防御できました。 さすがの私も直撃したら、2~3日は寝込んでしまいそうな強烈な一撃でしたね。危ない、危ない!」
「・・・・・・私の目には、胸を貫いたように見えたのだけど?」
「それは流石に目の錯覚でしょ。あっ! 水辺だから太陽の光が乱反射して────」
「お黙りなさい! そうやってふざけるいられるのもこれまでよ!」
リヴァイアサンの攻撃。それは意外! 飛びかかっての接近戦だった。
「その体で尻尾を振り回されても────」
「素手で受けるな、セリカ!」とシロウが怒鳴る。
「え?」と驚きながらも、素手での防御を止め、腰から武器を抜いた。
セリカの愛武器。 丸太のように太い刺突専門の剣(?)
それを振って攻撃を防御した。
「───ッ!?(ま、まるで体の内側から揺さぶられているような衝撃! 直撃していれば・・・・・・いや、ダメだ!)」
確かにセリカは直撃を防ぐ事には成功した。 だが、全身が痺れている。
防御してなおも、その衝撃が彼女の全身を襲い、深いダメージを刻んだからだ。
「くっ!」と痺れに耐えきれず、片膝を地に付けるセリカ。
「ほほっ! その姿、戦いでは無防備と同じなのよね! もう一度、今度は直撃させてあげるわよ!」
防御。しかし、セリカが感じたのは、自分の体が鉛のように重く、鈍くなっている感覚だった。
(このままでは! しかし、何も方法が!)
「氷魔法《アイス》」
セリカとリヴァイアサンの間、その空間に氷魔法が通り抜けていくと両者を分けるように氷の壁が出現していった。
「やれやれ、俺たちは冒険者だ。闘技者《グラディエーター》じゃない。モンスター相手に1対1である必要はないだろ? それとも────もしかして、卑怯と言うタイプか?」
「あらあら」とリヴァイアサンは愉快そうに笑った。
「もしかしてそれって挑発かしら? 嫌いだわ、やれやれって冷笑主義を気取りながら、女の窮地を助けようとハッスルする男。それって差別意識が高すぎじゃない?」
「よくわからんが、俺は男女はかくあるべきって思いはない。ただ、仲間と戦おうとしているだけだ」
「じゃかましいわ!」
リヴァイアサンはターゲットをセリカからシロウに変えて、飛びかかっていく。
そのまま尻尾を振り回してきた。
対するシロウは、どこからともなく取り出したハルバードを構える。
「速くはない────だが、打撃が重いな!」
シロウは攻撃を受ける。 その攻撃力は、純粋な前衛であるセリカすら、受けただけで耐えきれない衝撃だったはず・・・・・・
だが、シロウにはダメージが感じられない。
「衝撃を受け流したわね。もしかして、あなたって武道武術の達人か、何かなの?」
「さて、答える義理はないからな」
「ちっ!」とリヴァイアサンは舌打ち。 接近戦に利点がないと思ったのか、後ろに下がろうとする。しかし────
ゾクッと寒気をリヴァイアサンは感じた。
後ろに下がる軌道。そこにハルバードの鎌部分が既に設置されていたからだ。
(視線誘導? 体術? そんな長物の武器を、気づかせずに私の後ろまで伸ばしていた!?)
リヴァイアサンは動きを止めた。しかし、シロウはその頭部を握るとハルバードの刃に押し付けようとしてくる。いや、それだけではない。
彼の掌に魔力が集中していく。
「あんた! 零距離で魔法をぶっ放すして私の首を斬るつもり!? この人でなし!」
そんなリヴァイアサンの声は当然、無視される。 シロウの腕からは氷魔法が放たれた。
『氷魔法《アイス》』
白い煙───冷気が周囲を隠す。 視界が開けた時には、
「ちっ、失敗しちまったか」とシロウが腕を押さえている。 その腕は、自身の魔法によって氷付けにになっていた。
「あ、危なかったわ。自爆覚悟で水を吐き出して助かった」
対するリヴァイアサンは無傷。ただし、短時間の攻防でありながも、疲労は激しい。
シロウは火魔法で氷漬けの腕を溶かしているが、すぐに戦闘に使えるようになるダメージではないようだ。
「ふん、氷魔法じゃなくて、その火魔法を使っていたなら、私の首は吹き飛んでいたわね。どうして使わなかったの?」
「────下処理もなく、食材に火を通したくなかったからだよ」
「もしかして、私を食べるつもりなの!? まぁ、なんて野蛮なのかしら! 」
「でも────」とリヴァイアサンはグフグフと笑うと。
「その腕じゃ、調理以前に私を倒すことなんて夢のまた夢よ」
「あぁ、そうだな。 ────お前の相手が俺だけならな!」
「────っ!(あの女は、どこに消えたの? いつの間に!)」
対面しているシロウが視線を外す危険性はわかっている。 しかし、セリカから奇襲を仕掛けられるとわかっていて、無視はできない。
「このタイミング!」とシロウが一歩前に出た。
「やっぱり、ハッタリだったのね!」
リヴァイアサンはシロウの追撃体勢。しかし、シロウは文字通り、一歩だけしか動いていなかった。
(あの言葉・・・・・・「このタイミング」って叫んだのは、女に送った合図。でも、奇襲を仕掛けれる距離に、あの女はいなかった。どこから・・・・・・)
「────」と無音。 しかし、セリカは確かに攻撃を開始していた。
「────上か!」とリヴァイアサンは気づく。 周囲を警戒していたにも関わらず、頭上から落下攻撃を仕掛けてくるセリカと目が合う。
リヴァイアサンは知らない。
セリカのスキル『魔物食い』の効果────食べたモンスターの力を再現したスキルが可能になる事。
そして、彼女が最近食した魔物がスライムであり、再現されたスキルの効果は────
『跳ねるように高くジャンプができるようになる』
「うぉぉぉぉぉぉぉ!」は吐き出された咆哮は、リヴァイアサンのものか? それとも────
「私を出し抜こうなんて100年は早いわよ!」とリヴァイアサンは尻尾を振り回した。
交差法《カウンター》
セリカは刺突を繰り出している。 だが、リヴァイアサンの尻尾の方が僅かに速く到達する。
(勝ったわ! この女を倒したら、次は男・・・・・・片手しか使えないなら勝算は十分にあるわ)
だが、セリカの武器。その剣先(?)はブレていない。
しばらくは戦闘不能になるリヴァイアサンの打撃を受けたにも関わらず・・・・・・だ。
「コイツ、あの短時間で盗んだの!? あの男の防御方法を」
「少子! 騎士たる者、技の道理が分かれば再現は可能!」
「何よ、偉そうに! ただの物真似が実戦で通用するほど────」
「破っ!」とセリカの突きがリヴァイアサンに直撃した。
「ぐへぇ!」とダウンしたリヴァイアサン。
(できれば、このまま寝ていて欲しいのですが、そんなに甘い相手ではないでしょうね!)
その予想通りだ。 リヴァイアサンは立ち上がってきた。
足元にダメージが残っているらしく、若干のふらつきはあるが、その目には爛々とした闘志という物が確かに宿って、燃えている。
「あんた、思った以上にやるわね。名前は?」
「セリカだ。セリカ・イノリ」
「そう、いい名前ね。 ここから最後の攻防になると思うけど、その前に────」
リヴァイアサンは前ヒレ・・・・・・いや、腕なのか? その箇所は?
とにかく、腕を伸ばしてきた。 それを意味することとは?
「ほら、どうしたの? 握手よ、握手。 好敵手を前に握手を求める事がそんなに変なのかしら?」
変である。
戦いの最中に握手という有効の象徴。 罠以外にあり得ない。
だが、これをされる側には、どうしても拭いきれない疑問。
(良いのか? 差し出された腕を払って、攻撃を放つなど?)
ゆっくりと間合いが縮み、握手の距離になる。
まるで吸い込まれるように、セリカはリヴァイアサンの前ヒレに触れると
「かかったわね! マヌケが!」とリヴァイアサンは飛び付いてきた。
うなぎの肉体。黒く長く滑る。
総合格闘技《パンクラチオン》の戦いならば、どれほど有利か語るまでもないだろう。
だが、問題があった。
「騎士を舐めるな!」とセリカは、リヴァイアサンの頭部を掴んで、そのまま地面に叩きつける。
セリカは騎士である。 当然ではあるが、剣や槍、弓以外にも素手の戦いであっても精通していた。
殴る。
殴る。
殴る。
殴るるるるるるるるるるるるるるるるるるる・・・・・・
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「くっ! 調子に乗って!」とリヴァイアサンは、振り落とされていく拳から避難するため、体を捻って反転する。
対人戦闘では、マウントを取られて背を向けるのは自殺行為。 しかし、リヴァイアサンは自信があった。
(私の体は滑る! ヌルヌルと、本物のうなぎのように! だから、私には効かないのよ! 関節だろうと、締め技だろうと────)
だが、リヴァイアサンが感じたのは強い圧迫感だった。
(なっ! この子、まさか・・・・・・いえ、認めてあげる。セリカ・イノリ・・・・・・恐ろしい子)
セリカは両足でリヴァイアサンの胴体を締め、さらに首に腕を回している。
まさに────掟破りの胴締めチョークスリーパーホールド。
純粋に、そして単純にセリカの人間離れた膂力が可能にしてた固定力。
「さぁ! まいったをしなさい。私の腕は、オークやトロルでも締め落とせますよ」
「つくづく怪物なのね・・・・・・でも、舐めないことね! 私の流派 リヴァイアサン流活殺術の寝技テクを!」
「なにっ!」
リヴァイアサンは締められている首に隙間を作る。 無理矢理、足のロックを外すと────
「一気に体を反転させて────脱出! 私の寝技テクも捨てたもんじゃないでしょ!?」
締め技から脱出したリヴァイアサンは、セリカから距離をとるように離れた。
「えぇ、素晴らしかったです。こう言うのが礼儀ですかね? 勝負は、まだこれからだ・・・・・・と!」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「流石、シロウさまとお供の方じゃ、今日は村をあげての宴になりますな」
村に戻ってきたセリカとシロウ。 再び、湖畔の底を封印したと伝えると村長は大喜びだった。
「それ、龍神さまは降臨されましたかな?」
セリカとシロウは、顔を見合わせた。それから────
「えぇ、出てきました。強かったですが、何とか底に戻す事ができました」
事実として、疲労しきっていたリヴァイアサンは、
「もう、いや! 久々の地上なのに、楽しくないわ! 私、もう帰るからね! 本当だからね、本当に帰るから、止めるなら今の内よ! ────いや、止めなさいよ! 寂しいじゃないの!」
そんな意味不明な事を言いながら、深海に戻っていった。
再び、彼女(彼?)が地上に顔を出すのは100年後になるはずだ。
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