紅眼の殺人鬼

チョーカ-

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文の兄

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「俺には兄貴がいたんだ」

 ポツポツと文は話を始めた。

「名前は数。兄貴が数で、俺が文……笑えるだろ?」

「……」と朋は無言で頷く。

「兄貴は3つ歳上で、ここの学校に入学したんだ。それで行方不明になった」

「行方不明? それで……この学校を調べているのね」

「あぁ、たぶん兄貴は人を殺している。それで、最後は返り討ちにあって、この校舎のどこかで朽ち捨てられている」

 朽ち捨てられている。 

 遺体を隠されているでも、遺体を埋められているでもない。

 なんせ、兄貴も殺人鬼。人間じゃなく人を殺す鬼になってしまったのだろう。 

「だから、きっと人間らしさを剥奪されて、朽ち果てている。そうじゃないと兄貴の犠牲者に面目ないだろ?」

しかし、朋は「う~ん、そうかな?」と首を傾げた。

「……なに?」

「だって、文くんの話って憶測でしょ? たぶん、人を殺している? 返り討ちにあってる? 違ったらどうするの? 案外、普通に失踪したのかもしれないよ」

「まぁ、失踪が普通とは言わないけど」と朋は付け加えたが、
 文は「……」と口をパクパクさせた。

「え? 文くん、どうしてそんなに驚いているの?」

「いや、俺たち家族は殺人鬼――――」

「でも、文くんはまだなんでしょ?」

「――――っ!?」と文は天を仰いだ。

「兄貴は人を殺してない。それで失踪した? そういう可能性があるって言うのか?」

「うん、その方が……なんて言えば良いかな? 普通じゃない?」

「普通? ……そっか、普通か。普通でもいいんだよな」

 文は、まるで憑き物が落ちたように体から力が抜けていくのを感じた。

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

「それで、3年前の事件って?」  

「むしろ知らないのか? 3年前に、この学校で死体が見つかったって話。入学する前に調べてないのか?」

「テヘペロ」

「可愛くねぇよ。自分が通う学校の話は……いや、止めておこう」

 文は『普通は~』と言いかけて止めた。 

「明日、当時の新聞を持ってくるよ。コピーだけどな」

「え~ 気になるから今日じゃダメ?」

「今日って?」

「帰りに文くんの家に寄って……」

「いや、待たせているんだろ? 礼を」

「あっ……忘れてた」

「怒ってるぞ」

「怒ってるよね……」

「じゃ、明日」

「うん、明日」

 そう言って文は教室から出ていく朋を見送った。

 それから――――

「はぁ、まったく。こっちは殺人鬼だぞ。家に来ようとするなよ」

 そう呟きながらも、不思議と顔は笑っている事に気づく。

「ふん、学校で笑える日が来るなんてな」
  
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