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15、回避のこと

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落ち着くためにお茶を飲む回です。
回避できないこともあります。
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「ど、どうしよう……どうしたらいい、クロード……このままじゃ……」

「ともかく一度落ち着きましょうコンラッド様。まだ1週間あります。大丈夫、先生方にも相談して、一緒に良い方法を考えましょう」

「うん、うん……分かっ、た」

 ゴードン伯爵がさっさと戻ってしまった後、付いて来ていた使用人たちから追加の説明を受けた。1週間後、セルウィッジ家のものが私たちと荷物を別荘へ運ぶらしい。その別荘は、レンドル領内にセルウィッジ家が持っている屋敷のうちの1つだそうだ。使用人や滞在中の食事、日用品やら学業やらの手配は伯爵がしてくれるという。家具も部屋も全部揃えてあり、荷物は当面の着替えと、鞄に入る物だけにするようにとも言われた。親戚の家へ行く時とと変わらぬから心配するなとも。

 場所が小説と変わっていないらしいだけ御の字だろうか? 持って行かなかった全てが満足に手配される保証は無い。原作どおりなら、本当に『死にはしない』だけの世話が与えられるのみだろう。だいたい、親戚の家へ数日泊まるのだって自分の家の使用人を何人か連れて行くだろうし、そもそも親のいない所でそれを決めるのはどうかと思う。

 早い方が、病の疎開で、伯爵のご厚意で、などと使用人は力説していたが、つまりはゴードン伯爵の独断で、王都に手紙などやっていないのだろう。レンドル家へ来た本物の手紙を読むに、向こうから送って来たわけでもなかろうし。『子息たちをくれぐれもよろしく』という文面の心配を、奴らがどう捉えたのかは分からない。
 言いはしないが、あの両親と周りの使用人がそこまで思い至るかどうかも正直分からないし。

「コンラッド様、私は明日、一度街へ行ってまいります。もしも伯爵の言うことを聞かなければならなくなった時、必要なものを調達してまいりますから」

「……必要だと?」

「ええ。備えは必要です。それに、行かずに済んだとして、持っておくに越したことはないですよ」

「それもそうだな。……早く帰ってきてくれ」

「かしこまりました」

 展開を知っている私は万が一に備えておきたいのだが、コンラッド様には諦めと見えたのかもしれない。トルクたちに会うのも含めて一度街へと言うと、とても素直に表情が曇った。それでも、説明して納得してくれるのだから本当に良い子だ。頭の回転と、聞き分けの良い子。少しくらい我儘を言ってくれてもいいのに、とはたまに思う。

 ちょっと寂しそうに目を逸らして、ほんのちょっとの我儘を言ってくれるようになっただけ儲けものだろうか。12歳だぞ、12歳。私が子供の頃小学生の私はもっと親を困らせていたように思う。

 さて、弟妹様にもご報告して、先生方に連絡を入れて、それからレンドル家の使用人たちの動向を見て、まとめられそうな荷物は早めにまとめて、ゴードン伯爵の発言やらから回避の道を探して……やることはたくさんある。

「……コンラッド様、少し休みますか? 紅茶を淹れましょう」

「うん。…………ううん、がんばる」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃないけど」

「では休みましょう」

「でも」

「でもじゃあありません。休みましょう。もう少ししたら弟妹様たちを起こしてまいりますから、お茶を飲んでお菓子を食べていてください。良いですね?」

 子供らしからぬ疲れた顔をしているコンラッド様を、椅子からソファーへ移動させる。まだがんばれる、と私を見上げてくるけれど、コンラッド様と私では文字通り年季が違う。本物の子供は休める時に休んでおくべきなのだ。……私はから多少は精神負担もマシだし。

 手早くお茶とお茶菓子を用意して、彼の前へ置く。これも上手くなるまでが結構大変だったのだ。今では1番彼の舌に合う自信がある。

「……クロードも、一緒に飲もう。1杯で良いから。メアリたちを起こすのも、他のことするのもその後でいい」

 たいへん珍しいことに、コンラッド様はそう言って私の袖を引いた。拗ねたように目を逸らすのが可愛らしい。彼をと見た日から特に顕著だが、彼は案外と寂しがり屋なのかもしれない。

 そんなことを言われたら、としては構わないわけにはいかない。分かりましたと答えて、ささっと自分のカップを用意する。たっぷりの紅茶と、お砂糖を2杯。くるくる回して、それからコンラッド様の隣に座った。

 彼がそろりと近付いて、肩を預けてくるものだから、私も少しだけ首を傾けて体重を寄せた。同じくらいの背丈の私たちがそうすれば、自然と2人で凭れ合っているような姿勢になる。私の方が少しだけ高いだろうか? ただ、小説だとコンラッド様は長身だったから、まだこれから伸びて抜かれてしまうかもしれない。
 …………栄養状態で背が云々という話は置いておこう。これは物語の話だ。

 取り立てて会話というほど話すことはなかったけれど、2人で温かいお茶を飲みながら、しばらく互いに寄りかかっていた。
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