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第2話
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しおりを挟むこみあげてきた激しい情動のままに、仁瑶を引き倒してくちびるを塞ぐ。甘い舌を搦めとり、深く深くくちづけると、仁瑶が抵抗するのを感じた。
離れていってしまうのが嫌で、逃げようとする躰を無理やりにかき抱く。下肢の輪郭をたどるように膝から腿を撫であげると、仁瑶がこらえきれないというふうに喉を反らした。
甘いくちびるが苦しげな吐息を漏らす。それすらも味わいたくて、翠玲は今一度桃花のくちびるを貪った。
――仁瑶に受け入れてほしい。ただその一心で、木蓮の香りを堪能する。
翠玲は湧きあがってくる本能に急かされるまま、仁瑶の襟もとを乱し、身につけている皮革を外した。
露わになったうなじを咄嗟に隠そうとする仁瑶の姿にひどく情を駆り立てられ、翠玲はかすれた喉をふるわせる。
――誰のものにもならないで。わたしだけのものになって。わたしだけの下邪になって。
乞い願い、真珠色のうなじに歯をたてる。天陽が愛する下邪にそうするように、きつく、深く。番の花痣を、この美しい肌に刻みつけてしまえたら、仁瑶は翠玲のものになるのだ。
だが、熱に浮かされていた翠玲は、仁瑶が恐怖に顔を歪めていることに気づけなかった。
強く突き飛ばされた衝撃で、ようやく失せていた理性が戻った時にはもう遅い。仁瑶は翠玲から逃げていってしまった。
その後翠玲を襲った激痛は、三日三晩続いた。醒めきらない意識の中で、華桜と燕児、そして太医がなにか言っているのが聞こえたけれど、返事をすることはできなかった。
四日目の朝に目を覚ました時、激痛は嘘のように治っていた。重怠かった躰はすっきりとしていて、細身だった四肢も心なしか成長したような気がする。
「翠玲様、お目覚めですか」
床帷の向こうから声がかかり、返事をすると華桜が顔を出した。そうして、牀榻にいる翠玲の前で跪く。
「お慶び申しあげます、翠玲様。無事に天陽種に転化なされました」
告げられた華桜の言葉に、驚きはなかった。
翠玲が頷くと、華桜は鸞鏡を差し出してきた。うなじを見るよう言われて確かめれば、掻き毟った痕しかなく、刻まれていたはずの花痣が消えている。
「……これは」
「太医によれば、天陽種とおなりあそばしましたゆえ、煌蘭の帝君との番契約も消失したそうです。すぐに呼んでまいりますから、詳しいことは診察を受けながらお訊きになるのがよろしいかと」
華桜が下がると、いくらも経たずに壮年の男がやって来た。
仁瑶の計らいで翠玲の診察を請け負っている太医、宋円雀は、揖礼してから早速診察に取り掛かる。
脈診の他、犬歯の状態などを確認したのち、宋太医はおもむろに口をひらいた。
「紀太監からお聞き及びかと存じますが、やはり寧嬪様のお躰は天陽種に転化なさっておいでです。……花痣がなくなったことは確かめられましたか?」
尋ねられ、翠玲は軽く頷く。
宋太医は困惑したふうに続けた。
「こちらは驚くべきことで、私にもはっきりとした理由はわかりません。おそらくは性種が変わったことに伴い、花痣もなくなったのだと考えられます。琅寧出身の医官にも先例がないか確かめたのですが、彼らもわからないと申しておりまして。花痣があった部分の皮膚などに、異変や違和感などはございますか?」
「いいえ、どこにも痛みは感じません」
「それはようございました。では、滋養の薬湯をご用意いたしますので、食事の前にお飲みください。お躰のことは私のほうから帝君と仁瑶殿下に報告させていただきますので、ご安心を。もしもなにか異変がございましたら、すぐにお呼びください」
「あ、……」
「なにか異常がございますか」
「……いえ、仁瑶殿下は、どうなさっていますか」
口籠りながら問うと、宋太医は「お元気ですよ」とにこやかに答えた。
「寧嬪様のご容態をとても心配なさっておいででしたから、よくなられたとお伝えすればきっとお喜びになりましょう」
「そ、……うですか。では、殿下によろしくお伝えください」
眼裏に、恐怖に濡れた仁瑶の表情が甦る。
本当は会って直接謝りたかったけれど、そうしてもよいのか躊躇われた。
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