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第2話
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しおりを挟む拝辞する宋太医を一瞥し、翠玲はそっと溜息をこぼす。蜜湯を運んできた燕児に、意識を失っていた間に仁瑶の訪いがあったかどうか尋ねれば、首を横に振られてしまった。
「紅春太監が太医への指示や色んな差配をしてくれましたけど、仁瑶殿下は一度もお見えになっていません。翠玲様、お倒れになる前、いったい殿下となにがあったのですか? どうして仁瑶殿下は、あんなふうに翠玲様を置いて出ていってしまったんです?」
「わたしがいけなかったんだ」
玉杯を受け取りながら、翠玲はうめいた。
「わたしが、仁瑶様にしてはならないことをしてしまったから。だからあんなふうに、出ていかれてしまったんだ」
「してはならないこと?」
「そう。下邪なら誰もが嫌がることだよ。無理やりうなじを咬んで、怖がらせてしまった」
合意のない咬喰ほど厭わしいものはない。うなじは下邪種にとっての急所。最も敏感で繊細な神経の張り巡らされている場所を強引に咬まれれば、恐慌状態に陥るのは当然だ。
「本当に、なんということをしてしまったのか……」
しんなりと面伏せた翠玲に、燕児は不思議そうに呟いた。
「ですが、翠玲様がそんなにひどいことをなさったのなら、仁瑶殿下はどうして紅春太監をお遣わしになったんでしょう。お倒れになった翠玲様のために、稀少な薬材を使う許可を帝君から取ってくださったのも仁瑶殿下なんですよ。それからお目が覚めた時のためにと、滋養によい食材をたくさん取り寄せてくださって。紅春太監は仁瑶殿下の腹心だそうですし、もしも怒っているなら、こんなに翠玲様を気にかけたりはしないのじゃありませんか?」
「それは、わたしが琅寧の王族だからだろう。両国の友好のために、気遣ってくださっているんだ」
「いいえ。本当に仁瑶殿下が怒っていて、翠玲様を嫌っていたなら、もっとおざなりになるはずですわ。翠玲様の無罪が明らかになって、禁足も解かれたんですもの。ご自身で動いたりせずとも、皇貴太妃様に任せることだってできたはずです。そうしなかったのは、翠玲様を心から憎くは思っていないからではありませんか? きっと、仁瑶殿下も翠玲様と同じく、気まずく思っていらっしゃるんですよ。悪いことをしたと翠玲様が後悔なさっておいでなら、そのお気持ちを正直にお伝えしたらよいと思います。仁瑶殿下は赦してくださいますよ」
微笑まれ、翠玲は小さく頷く。
そうだといい。謝って済むことではないけれど、だからといって謝罪しなければ、仁瑶はどんどん離れていってしまうだろう。
沈思しながら、熱い蜜湯をゆっくり味わう。最後のひと口を飲み終わった時、門のほうから先触れの声が聞こえた。
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