34 / 132
第3話
3-8
しおりを挟む***
玄愁月の吉日、仁瑶と翠玲の婚儀が執り行われた。
深紅の花婿衣裳を纏った仁瑶が、王府から馬に乗って花嫁を迎えに行く。
大路では大勢の民衆が、行きも帰りも婚礼の行列を見守っていた。すれ違いざまに祝福の言葉を伝えてくる者も多く、京師全体が慶祝の雰囲気に包まれていた。
梨花宮から花轎に乗った翠玲が仁瑶の祥媛王府に到着すると、出迎えに並んだ使用人たちは麗しい新妻に嘆息を漏らした。
紅蓋頭越しでもわかるほどの甘美な艶容は、帝君に入宮した折よりさらに瑞々しさを増したのではないかと思われるほど。
揃いの婚礼衣裳を身に纏った仁瑶と並ぶとこれまた息を呑むような美しさで、ふたりを一目見ようと王府の門外に集まっていた民たちも頬を赤らめずにはいられなかった。
紅絹でつくった花と双喜字で飾られた正庁には、帝君の他、太上皇と皇后、皇貴太妃も参列し、彼らの前に進み出た仁瑶と翠玲は、恭しい仕草で拝礼する。
天地に一拝、父母に一拝、そして互いに対して一拝。
「夫婦仲睦まじく、よき子を産むように」
太上皇が述べて、皇后、皇貴太妃とともに手ずから落花生、棗、桂円、栗子を錦に詰め、仁瑶と翠玲に下賜する。
多子多福を願われても仕方がないだろうにと内心で苦く笑いつつ、仁瑶は深く叩頭して錦を受け取った。詰められた四種の種子を花婿と花嫁が互いに食べさせあうことで、婚姻が成立するのだ。
儀式が終わると、父皇たちは皇宮へ戻り、翠玲は一足先に洞房へ向かう。賓客たちはそのまま正庁での祝宴に参加し、仁瑶を言祝いだ。
琅寧からは王太子颯憐と、翠玲にとって母方の叔父となる紗那氏を含む将軍数名がやって来ていた。挨拶に向かうと、祝いの言葉を口にした紗那氏から「ぜひ殿下にも、一度翠玲とともに琅寧へいらしていただきたいものです」という誘いも受ける。
仁瑶は明確な返答を避け、穏やかな微笑を返すに留めた。
他の客たちとも言葉を交わしつつ、酒を勧めたり勧められたりしながら過ごす。そのうちに、陽はすっかり落ちてしまった。
夕闇に紅い蘭灯が咲くのを見て取って、控えていた紅春がそろそろ紅閨へ向かう時間だと耳打ちしてくる。
仁瑶は持っていた酒杯を揺らし、いくらか逡巡してから客たちに拝辞の礼を取った。
揶揄いまじりの声を背に、賑やかしい宴の場を後にする。気乗りしないまま回廊を進んでいると、正庁から少し離れたあたりで誰かに呼び止められた。
「……これは、王太子殿下」
振り向いた先に立っていたのは颯憐だった。
仁瑶が軽く揖礼すれば、颯憐も礼を返して笑みを浮かべる。
翠玲と同じ濡羽色の長髪を腰のあたりで緩く結び、煮詰めた蜜のような瞳を静かに眇めた颯憐は、月光のもとでしなやかな狼のように映った。
11
あなたにおすすめの小説
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる