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第3話
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しおりを挟む「なにかご用でしょうか。花嫁のもとへ向かわなければなりませんので、どうか手短に」
「そんなふうに邪険にしないでほしいな、阿仁」
「用件はなんです?」
柳眉を下げた颯憐に、仁瑶はにべもなく問い返す。
颯憐は肩を竦めてから、ゆっくりと口を開いた。
「なぜ翠玲なんかを選んだんだ」
颯憐は切々と怨み言を紡ぐ。
「俺が長年求めてきた花紗を、まさか五弟にかすめ取られるとは思いもしなかったぞ。あんな青二才のどこがいいんだ」
甘さを含んだ眼差しに見つめられ、仁瑶は微苦笑を漏らした。
琅寧では、下邪種を花紗種とも称する。もっぱら番った相手に対する愛情表現として使われる呼称らしいが、颯憐はことあるごとに口にする。
「翠玲には翠玲のよさがあります。それに、王太子殿下と比べれば誰しもが劣って見えましょう」
「そうやって、すぐにつれないことを言う。なぜ俺では駄目なんだ? そなたを正妻にし、生涯大切にすると誓っているのに、なにが足りない?」
伸びてきた颯憐の腕を躱し、仁瑶は頭を振った。
「なにも不足はありません。太子殿下の妻となるのに、この身が相応しくないだけです」
「そなたは子を孕めぬかもしれないことを気にしているのだろう? たとえ孕めずとも、側室の子を養子にすればよい。正妻はそなただ。気に入った息子がいれば、どれでも手もとで育ててかまわぬ」
発情が来なくなった折、仁瑶は求婚してきた颯憐が鬱陶しく、自棄になって身の秘匿をぶちまけたことがあった。後から後悔したものの、颯憐はその話を琅寧の誰かや他国に漏らすこともなく、ただ仁瑶の身を案じてくれている。
そういうところはやさしいのだが、颯憐とおのれの価値観が根本的に違うことを、仁瑶は知っている。
ぐっとくちびるを噛んだ仁瑶に、颯憐はなおも言い募った。
「産んだ女が気になるというなら、始末するから大丈夫だ。そなたの手を煩わせはしない。愛しているんだ、阿仁。翠玲ではなく、俺の番になってくれ」
抱き寄せられそうになって、拒むように後ずさった。「あなたは残酷だ」と颯憐の手を撥ねつける。
「私を愛していると言った同じ口で、子を産んだ者を始末するという。あなたがいつか心変わりしたら、私も容易く殺されるのでしょうね? そんなかたの番に、どうしてなれましょう」
「阿仁!」
「宴にお戻りください。私はもう、翠玲を選んだのです。他の天陽種などいりません」
「阿仁、俺は、……っ」
まだなにか言おうとする颯憐を無視し、冷えた心地で臥室へ向かう。
翠玲は紅蓋頭を被ったまま、婚礼の装飾が施された牀榻に腰かけ、仁瑶を待っていた。
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