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第1話
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しおりを挟む「おまえは、……っそうまでして玉座がほしかったのか?」
唖然として呟けば、六つ年下の従弟は大袈裟に肩をすくめる。
「そんな顔をしないで、哥哥。俺も大変だったのですよ。帝位を継ぐには、先帝の嫡子か花紗種でなければならないでしょう。だからずっと、天陽であることを知られぬよう、父から薬を飲まされてきたのです。尤も、成長を阻害するその薬のせいで、精は出せても胤は残せぬ身となってしまいましたけれどね。ひどい話でしょう? 俺はあなたの夫君になりたかったのに、こんな躰にされたうえ、后妃として嫁ぐことも赦されなかった」
やわらかく額を重ね、瓊祥が貪るように見つめてくる。
絶句している紗琰のくちびるをついばんで、なかにうずめていた雄蕊をゆっくりと抜き差ししはじめた。
媚肉を押し広げられるたび、痺れるような快感が襲ってくる。
呼気を引き攣らせた紗琰に、瓊祥は喜色をにじませた笑みをこぼした。顎下にくちびるを寄せながら、甘えた猫のように薔薇色の瞳を細める。
「にいさまに毒を飲ませるため、琳氏をあてがったのは俺ですけれど、このお躰を一時でも他の男が愛したのだと思うと気が狂いそうでしたよ。父が莫迦な野心など抱かなければ、即位したあなたの正室となっていたのは俺だったはずなのに。あなたが誰かを娶ったと聞くたびに、そいつを八つ裂きにしたくてたまらなかった」
「っぁ」
喉もとの薄い皮膚を食まれ、たまらず声が漏れた。身をよじって露わになったうなじにくちびるを這わされ、悲鳴をあげる間もなく歯をたてられる。そうして、うなじの肉を深くえぐった牙を引き抜かれると、白膚に刻まれていた二輪の深緋の花の傍に、じわじわともう一輪がほころんでいった。
複数の天陽種と番うことのできる花紗は、咬喰の数だけ肌膚に花痣が浮かびあがる。
皇宗の中には、うなじから背や腰にまで花痣が咲きこぼれていた者もいたという。
紗琰は正室たる皇后沈氏と、寵妃だった雨嫻にしかうなじを赦していないので、瓊祥によって刻まれた痣を加えても肩甲骨に届くかどうかという程度だった。
痛みにうめく紗琰をなだめるように撫でながら、瓊祥は三つ目の花痣を満足げに眺める。
「ふふ。こんな俺でも、にいさまの番になれましたよ。ねえ、にいさま。あなたの正室にはなれなかったけど、あなたを俺の正室にしてもよいですよね?」
「な、にを……、ばかな……」
蛾眉を寄せた紗琰に、瓊祥は笑み含んだまま続ける。
「拒否なさると、太后様の……いいえ、もう俺が帝君の座についたのですから、今は太皇太后様と呼ぶべきでしょうか。にいさまのお母君の命が危うくなりますよ。お父君のように、毒を盛られて死んでもよいのですか?」
「っ――⁉」
息を呑んだ紗琰に、瓊祥は口もとに浮かべた笑みをいっそう濃くした。
病に斃れた父皇が、実際は毒を盛られていたなど寝耳に水だ。
信じられない心地で瓊祥を見やると、姸姿艶質な美貌がいっそう婀娜めいた色をにじませていた。
「すべて俺の父の企みですよ。にいさまのお父君を玉座から追いやって殺し、次に即位したにいさまのことも毒で始末する。そのあとは、宗室で唯一の花紗種となった俺が帝位につく。……だけど、伯父上を殺すのはまだしも、にいさままで殺すなんていただけません。だから父に、にいさまだけは見逃してくれるようお願いしたんです。でも、小瓊はにいさまのことは守れても、にいさまのお母君のことまでは保証できません。にいさまが言うことを聞いてくださらないと、そのうちに訃報が届くやもしれませんね」
紗琰は混乱しきっていた。
降りそそぐ言葉に思考は空転し、なにを言ってよいのかわからなくなる。
かつて、紗琰が探していた玉佩の君が見つかったと、雨嫻を連れてきたのは瓊祥だった。
父皇が体調を崩した時も、叔父と瓊祥は方々から滋養によい薬材を取り寄せ、親身に気遣っていた。
――なのに、それらすべてが偽りだったとは。
紗琰の恋うていた相手は琳雨嫻ではなく、権力を奪われるのではないかと警戒していた皇后沈嫣寧だった。
やさしく気さくなはずの叔父は、父皇を毒殺し、紗琰をも手にかけようとしていた。
いったいいつから騙されていたのか。どうして見破ることができなかったのか。
今更後悔したところで、父皇の命は戻らない。
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