鳳花春閨伝―死に戻りの皇帝は四人の妃に愛される―

鮎川アキ

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第1話

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「ゎ、……っわかった。おまえの言うとおりにする。言うとおりに、するから」
 このうえ母后まで殺されてしまうわけにはいかず、紗琰は瓊祥にすがりついた。
 白膚はだえをほんのりと朱に染めた瓊祥は、必死に頷く紗琰の顎をすくいあげ、くちびるを深く重ねてくる。
「っ、ん……っぅ、あ」
 唾液を纏った舌が絡みつき、ねっとりと口腔を愛撫されて背筋が戦慄く。
 少しでも機嫌を損ねてしまわぬよう、紗琰はふるえながらも与えられるくちづけに応えた。
 気をよくしたらしい瓊祥は、紗琰を抱き寄せて嬉しそうに微笑う。
「かわいいにいさま。安心してください、にいさまのおねだりなら、小瓊はなんでも叶えてさしあげますもの。ねえ、にいさま、小瓊はいいこでしょう? にいさまも褒めてくださいますよね」
「ん、ン……っ」
「小瓊のこと、いっぱいよしよしして」
 愛らしい顔で乞われ、紗琰はぎこちない動きで瓊祥の頭を撫でた。
 絹糸のようにやわらかな髪を指で梳くたび、瓊祥は甘えた猫のように喉を鳴らす。
「にいさま大好き。これからは俺がにいさまの夫君として、たくさん愛してさしあげますからね。番になれて本当に嬉しい」
「ぁ、っあ、小……っ小、瓊、ひッ、〰〰っ!」
「にいさま、にいさま、俺だけの紗琰……」
 抽挿が徐々に激しくなり、奥深くをえぐられる感覚にたまらず嬌声が漏れる。
 仰け反って喘いだ紗琰をきつく抱きすくめて、瓊祥は幾度も蜜壺のなかに精をそそぎこんだ。

***

 数日後、紗琰は病を理由に瓊祥へ皇位を譲り、自らは太上皇たいじょうこうとなって白朝びゃくちょうへ隠居した。
 紗琰の正室であった沈嫣寧は皇太后ではなく右丞相うじょうしょうの地位につき、後宮にいた妃嬪たちは、貴太妃きたいひとなった魏希月シーユエ以外全員がそのまま瓊祥の側室となった。
 践祚は大々的に行われ、瓊祥が沈氏と番い、子を身籠っていることも公表された。
 巷間では、傍系である瓊祥の皇位を盤石にするため、紗琰がわざわざ沈氏と番わせたのだという噂がまことしやかに広がっていた。しかれども瓊祥には想い人がおり、沈氏も太上皇への敬慕を失ったわけではないため、皇后には別の者が選ばれ、沈氏は丞相位につくことでまるく収めたのだと。
(……嫣寧ならば、兄上たちや顕官らを説得するのも容易かったろう)
 譲位の意を伝えても、大臣たちから反対の声はあがらなかった。
 封土を賜っている二人の兄と、母后の弟である大司馬の三人だけはさすがに拝謁を希望してきたけれど、瓊祥が手を廻して断ってしまった。あまりにも病が重いゆえ、太医以外と会うことはできないとでも言ったのだろう。
 紗琰は薄絹の単衣を纏い、牀榻に腰かけたままぼんやりと月洞窓まるまどの外を眺める。
 あわい陽射しが差し込み、入り込んできた花風がやわらかく床帳とばりを揺らした。
 ここは後宮の西――白朝と呼ばれる太上皇の居処ではない。瓊祥は、病状の悪化を防ぐためという理由で白朝を封鎖し、何人たりとも太上皇を訪ねられないようにした。一方で、紗琰に芳燕ファンイェンという偽名を与え、皇后の宮たる龍華宮りゅうかぐうに監禁したのである。
 芳姫と紗琰が同一人物であると知られるわけにはいかないため、皇后は病弱ゆえに人前には出られないと説明し、後宮は太皇太后が纏めている。
 紗琰が逃げ出さぬよう、殿舎に仕える女官や宦官かんがんは瓊祥の息のかかった者へと変えられてしまった。
 皇帝時代の側仕えは全員罷免され、幼い頃から仕えてくれていた主席太監は、雨嫻が死んだ日に処刑されたらしい。啼泣して理由を尋ねた紗琰に、瓊祥は「害意を持っていた妃から帝君を守れなかったのですから、当然でしょう」と何事もなかったかのように答えた。そうして、琳氏一族が雨嫻とともに誅九族ちゅうきゅうぞくに処されたことも、ついでのように教えられた。
 紗琰が大人しくしていなければ、母后も彼らと同じ末路をたどってしまう。瓊祥は口にこそ出さないものの、暗に示唆しているのは明白だった。
 そんなふうに脅されてしまえば、拒むことも逃げ出すこともできない。紗琰は瓊祥の機嫌を損ねてしまわぬよう、求められるまま朝な夕な抱かれるしかなかった。
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