鳳花春閨伝―死に戻りの皇帝は四人の妃に愛される―

鮎川アキ

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第1話

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 飢饉に喘いでいる地域の民たちは、自らの利益を重んじ民心を軽んじる孝賢王にひどく憤った。加えて、父というだけで孝賢王を罰しない今上帝にも不満が募り、複数の州都で蜂起が起きてしまったのである。
 飢饉の地域にかわりの食糧を届けるなどしてどうにか鎮圧したものの、この件が決定打となり、孝賢王と今上帝を支持する声は鳴りをひそめてしまった。
 今や皇宮内の勢力は、太上皇の身を案じ、簒奪者から玉座取り戻すべきだという左丞相派で占められている。
 此度の峯珠国大使の入朝も、姚丞相側の策だと推測できた。おそらく、瓊祥が謁見の申し出に応じないとわかったうえで、あえて孝賢王に対応させようとしているのだろう。隣国の大使に無礼を働いたとなれば、外交問題にも発展し得る。峯珠を巻き込むことができれば、永璉が軍部を掌握していようと関係ない。
(これ以上擁護するならば、沈家も同罪と見做すということか)
 面伏せて、きつくくちびるを噛む。
 左丞相が峯珠へなにかしらの協力を要請したのなら、仲介したのは先日帰国した太妃希月に違いない。希月の異母兄である峯珠皇帝は、帝位についていなければおのれが紗琰へ嫁ぎたかったと公言するような男だ。紗琰のためだと言われれば、惜しみなく助力するはずだ。
(……あなたの周りには、そんな天陽種ばかり)
 眼裏まなうらに浮かべた面影に、胸がきしむ。
 嫣寧とて、最愛の夫君を裏切りたかったわけではない。
 生まれた時から、皇家に身を捧げるよう教えられてきた。もともと皇長子か皇次子のどちらかに仕える予定で官吏を目指していたのだが、長年身籠らなかった皇后が皇三子の紗琰を産んだことで、后妃教育も受けるよう父から進言された。
 朝廷内では紗琰が玉座につく可能性は低いと目されていたけれど、右丞相であった父にはなにか予見するものがあったのかもしれない。
 嫣寧は、三人の皇子の誰に仕えることになろうと、誠心誠意尽くすだけだと考えていた。
 さりながら、折々の行事などに参加するにつけ、貴妃姚氏の産んだ皇長子と皇次子は、情に厚いが奔放なところがあると気づいた。一方で皇后ホワ氏が産んだ紗琰は、生真面目で何事にも妥協しない。一般的に花紗種は体力面で他の二種より劣るものなのだが、紗琰の騎射や剣術の腕は権門の令息たちと拮抗するほどであり、努力を重ねてきたのだと感じられた。
 惹かれはじめたのがいつだったのか、嫣寧にもわからない。
 ただ、父について皇宮へ参内するたび、気がつけば紗琰を目で追うようになっていた。もしも紗琰が皇位を継がないのならば、自分のもとへ降嫁してほしいとさえ考えたりして。
 結果的に紗琰が帝君となり、嫣寧は数多の候補たちの中から皇后に選ばれた。その時の喜びは、どれほど言葉を尽くしても足りないほどだったと今でも思う。この身のなにもかもを紗琰に捧げられるのだと思うと、胸がいっぱいになるほど嬉しかった。
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