鳳花春閨伝―死に戻りの皇帝は四人の妃に愛される―

鮎川アキ

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第2話

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 ――そう思われても当然だと、紗琰は過去のおのれを振り返る。
 もともと恋仲だったわけでもなく、顔を合わせた折もろくに会話をした覚えがない。太婚の式典でも必要最低限の言葉しか交わした記憶がないのだから、そんな人間から紅閨で好意を見せられても本心とは思わないだろう。
(どうすれば信じてもらえるのか……)
 姚家の力を削ぐためという目的があるのは否定しない。なれど、紗琰はひとりの花紗として嫣寧を愛しているのだ。この感情が帝君として不要なものとわかっていても、嫣寧を今度こそ幸福にしたい。
「しぇんらん……」
 睫毛が触れあうほど瞳を近づければ、嫣寧の双眸が疑念と戸惑いに揺らいだ。紗琰は赦しを乞うように鼻梁をこすりあわせ、嫣寧を見つめたまま囁く。
「しぇんらんに、だけ……、しぇんらんにだけしか、こんなことはしない」
「っ……!」
「あなたはわたしのとくべつだから」
 すぐに信じてもらえなくともかまわない。これから少しずつ、嫣寧が紗琰にとってどれほど大切な存在となったのか伝えていけばよいのだから。
 くちびるを重ねて、紗琰のほうから深く舌を搦める。
 嫣寧はなにも言わなかった。ただ、搦めた舌を強く吸われて、律動が速く深くなる。
「っん、ぁ、ふあぁ……っ」
 甘い唾液が喉を伝い、嫣寧のくちびるがこぼれた雫の一滴まで逃すまいと追いかけていく。そうして、首筋をたどる舌の奥で、獲物を見つけた牙が薄い皮膚をかすめた。脳髄が痺れるほどの恭悦がこみあげてきて、紗琰は雌の本能に促されるままにうなじをさらす。
 花紗にとって最も無防備な急所――番の証が刻まれる場所を、嫣寧に差し出した。
「しぇんら、……っ、かんで、ぇ」
 白膚に最初の花を咲かせるのは、嫣寧がいい。
 かんで、ともう一度ねだるまでもなく、嫣寧の腕の中にきつく抱きすくめられる。吐息を漏らした次の瞬間には、白膚に牙が突き刺さっていた。
「ッぁ、あ、っひ、ぃッ〰〰!」
 咬喰の痛みは快感となり、神経を伝って全身を駆け抜けていく。
 下腹部がきつく収縮して、媚肉が嫣寧のものに絡みついた。内襞が雄蕊のかたちを感じただけでまた胎がひくつき、眼裏で火花が散る。
 触れられてもいない花芯が白蜜を漏らし、終わりなく去来する淫悦に紗琰は声にならない声で啼いた。
 引き攣れて悶えた躰は嫣寧によって押さえ込まれ、深く深く内奥を穿たれる。ひとつに重なった身體はまるで境界がなくなったかのようで、響いているのがどちらの鼓動かすらわからない。
 咬まれたうなじは熱を帯び、血が流れているのではないかと思うほどじくじくと疼いていた。嫣寧はまるで飢えた獣が獲物を独り占めするかのように、紗琰をその身で覆い隠し、牙を突き立てている。
「っ……、っ……」
 押しつけられた灼熱が奥で爆ぜ、熱い飛沫でなかが灼けるのを感じた。嫣寧はゆっくりと腰を揺らし、あふれた精蜜を腐熟した花襞へこすりつけてくる。何度も何度も、まるでここに孕むのだと教え込まれるかのように緩やかな抽挿をくり返され、紗琰の喉から甘えるような嬌声が漏れた。
 腹のなかが熱くて、どうしてだかひどく嬉しい。
 気がつけばうなじを咬んでいた牙が離れ、やわらかな舌がやさしく咬み痕を舐めていた。
「ぁ、……」
 無意識のうちにこぼれた涙露を、嫣寧の指がぬぐっていく。
 うなじを食んでいたくちびるが、ちゅ、と甘やかな音をたてて頸椎に吸いついた。絶頂の余韻でふるえる肌についばむようなくちづけを降らされ、身の内でわだかまっていた慾火が再び燻り出す。
「花が咲きましたよ、相公だんなさま……」
 耳朶をくすぐる囁きに顔をもたげると、泣きそうにゆがんだ瞳と視線が絡んだ。
「わたくしの相公……、かわいい紗琰さま……」
 恋慕がにじむ声音に引き寄せられるまま、くちびるをあわせる。
 牀榻がきしみ、紅絹の褥で縺れあう番を、霞んだ月だけが見つめていた。
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