鳳花春閨伝―死に戻りの皇帝は四人の妃に愛される―

鮎川アキ

文字の大きさ
41 / 64
第3話

3-4

しおりを挟む
 玉桂ぎょくけいが空に溶けだし、赤鴉せきあがゆっくりと羽ばたく準備をする頃、ぎこちなく肩を揺らされて紗琰は瞼をあけた。
 途切れた意識の端を探すように瞬きをくり返していれば、身を起こしていた希月と視線がぶつかる。
「お起きになってください、刻限です」
「ああ……」
 いつの間に寝入ってしまったのか。まだぼんやりとする頭をもたげれば、床帳の外に玲玉の姿もあった。どうやら、玲玉の声かけに返事をしなかったせいで、希月が起こしてくれたらしい。
「すまない、あなたも起こしてしまった」
「かまいません。どうせ、帝君のお見送りをしなければいけませんから」
 にべもなく言われ、紗琰は「そのとおりだ」と苦笑する。
 希月は律儀に紗琰の身支度も手伝ってくれた。慣れた手つきからは、峯珠で后妃きさき教育を受けてきたことが見て取れる。
 本来ならば親王となり妻を娶る立場だったのに、娶られる側になってしまった苦渋はどれほどだろう。嫣寧も含め、紗琰のもとへ嫁ぐ天陽種の男たちは憐れだと今更に感じる。彼らは掖庭えきていに足を踏み入れた瞬間から、天陽種でありながら花紗種かしゃしゅのような在り方を求められるのだ。
 鳳花たる紗琰は、ただひとりの番となることができない。それゆえ妃嬪となった者は、一輪の花を求めて群がる胡蝶の苦しみを否応なく味わうことになる。
 前世では、入宮にゅうきゅうした妃嬪たちを慮りはしなかった。おのれが娶った天陽種の男たちを、ただの種馬としか見ていなかった。紗琰に蔑ろにされた彼らが、帝位を奪った瓊祥へ容易くなびいたのも当然だ。情を傾けてくれぬ相手に、尽くそうと思えるはずがない。
「あとで尚工局しょうこうきょくから絹を届けさせよう。あなたはどんな模様や色が好みだろうか?」
 尋ねれば、希月は胡乱そうに蛾眉をひそめた。
「……派手なものはいりません」
「わかった。模様はなにがよい?」
「帝君がお決めになるのなら、僕の好みなど気にせず選べばよろしいでしょう」
「では、あなたに似合いそうなものを選んでこようか。楽しみに待っていてくれ」
 笑みを向けた紗琰に、希月は返事をしない。ただ、得体の知れないものでも見たような表情を浮かべている。きっと困惑しているのだろうが、紗琰はそれでもかまわなかった。どのような経緯があったにしろ、前世で叔父の罪を暴いてくれたのは希月だ。
「見送りはよいから、戻ってもう少し休みなさい。起こしてしまってすまなかった」
 そっと肩を叩いて促す。
 希月はその場で万福礼し、紗琰が臥室を出るまで礼を解かなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。 勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。

遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。

月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」 幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。 「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」 何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。 「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」 そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。 僕、殿下に嫌われちゃったの? 実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。

イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺

スノウマン(ユッキー)
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。  大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

最愛の番になる話

屑籠
BL
 坂牧というアルファの名家に生まれたベータの咲也。  色々あって、坂牧の家から逃げ出そうとしたら、運命の番に捕まった話。 誤字脱字とうとう、あるとは思いますが脳内補完でお願いします。 久しぶりに書いてます。長い。 完結させるぞって意気込んで、書いた所まで。

断罪回避のために親友と仮婚約したはずが、想像以上に執着されていた。

鷲井戸リミカ
BL
ある日アーサーは、自分がネット小説の世界に転生していることに気が付いた。前世の記憶によれば親友のフェルディナンドは、悪役令息という役割らしい。最終的に婚約者から婚約破棄され、断罪後は国外追放されてしまうのだとか。 大事な親友が不幸になるのを見過ごすわけにはいかない。とにかく物語の主人公たちから距離をとらせようと、アーサーはフェルディナンドを自分の婚約者にしてしまった。 とりあえず仮婚約という形にしておいて、学園を卒業したら婚約を解消してしまえばいい。そう考えていたはずがアーサーのとある発言をきっかけに、フェルディナンドの執着が明らかになり……。 ハッピーエンドです。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

薄紅の檻、月下の契り

雪兎
BL
あらすじ 大正十年、華やかな文明開化の影で、いまだ旧き因習が色濃く残る帝都。 没落しかけた名家に生まれた“Ω(オメガ)”の青年・白鷺伊織は、家を救うため政略的な「番(つがい)」として差し出される運命にあった。 しかし縁談の相手は、冷酷無慈悲と噂される若き実業家であり“α(アルファ)”の当主・九条鷹司。 鉄道・銀行事業で財を成した九条家は、華族でもありながら成り上がりと蔑まれる存在。 一方の伊織は、旧華族の矜持を胸に秘めながらも、Ωであるがゆえに家族から疎まれてきた。 冷ややかな契約婚として始まった同居生活。 だが、伊織は次第に知ることになる。 鷹司がΩを所有物としてではなく、一人の人間として尊重しようとしていることを。 発情期を巡る制度、番契約を強制する家制度、そして帝都に広がる新思想。 伝統と自由のはざまで揺れながら、二人は「選ばされた番」から「自ら選ぶ伴侶」へと変わっていく——。 月明かりの下、交わされるのは支配ではなく、誓い。 大正浪漫薫る帝都で紡がれる、運命を超える愛の物語。

処理中です...