鳳花春閨伝―死に戻りの皇帝は四人の妃に愛される―

鮎川アキ

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第3話

3-7

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 御書房で昼餉をすませ、午後は尚工局しょうこうきょくへ向かう。
 官吏が六官りくかんに分かれているのと同様に、皇宮に勤める女官たちもそれぞれ六局に分かれていた。尚宮局しょうきゅうきょく尚儀局しょうぎきょく尚服局しょうふくきょく尚食局しょうしょくきょく尚寝局しょうしんきょく、尚工局。この他に宮正司きゅうせいしという部署があり、後宮の糾察きゅうさつ及び戒令、謫罰てきばつを掌る。
 尚工局は皇帝や后妃の衣服や宝飾、織物や染物の作製、管理などを担っており、国内外から購入または献上された布地はすべてこちらに収蔵されていた。
 紗琰が絹織物を出すよう指示すれば、女官たちが様々な模様の品を運んでくる。その中からさらに落ち着いた色味のものを吟味させ、いくつかに絞った。
(派手でなければなんでもよいと言っていたが、梅の模様が好きなのだろうし……)
 白藍しらあいと薄桜の布地に紅梅模様があしらわれたもの、それから石榴ざくろ色に白梅と花食い鳥が刺繍されたものを選ぶ。それらとは別に、紫苑しおん長春ちょうしゅん菖蒲あやめ色のそれぞれの布地に、木蓮と胡蝶の模様があしらわれたものも選んだ。
「皇后娘娘にもお贈りするのですか?」
 傍で見ていた玲玉が問うてくる。
 紗琰は頷いた。
「貴妃にだけ与えるわけにはいかないだろう。どちらの顔もたてておかねば、あとでいらぬ諍いを招く」
「娘娘が貴妃に嫉妬するとは思いませんが」
「顔には出さずとも、蓄積するものはあるだろう」
 前世がそうだった。嫣寧ははじめこそ寵愛される雨嫻に寛容だったが、次第に対立するようになった。その後の顛末は言うまでもない。すべては寵を偏らせた紗琰の責任であり、正室たる嫣寧を蔑ろにした結果だ。
「そういえば、御書房から出たあと、沈丞相が娘娘のもとへ謁見に向かわれましたよ。あのかたの件を漏らしてしまったら、どうします?」
 気遣うように囁いてくる玲玉に、紗琰は「心配ない」と微笑った。
 沈俊宇が嫣寧に会いに行くとしても、孝賢王の話は伏せるはずだ。おそらくは、紗琰が毒殺されそうになったと言ったから、口にするものにいっそう気をつけるようにと伝えるつもりなのだろう。
 沈家の命運は嫣寧にかかっている。次男が文官になったとはいえ、右相の任につけるほどの聡明さはない。物造りには秀でているようなので冬官とうかん府では頭角を現しているようだが、それは国政に向いている能力ではなかった。
「沈家は余を裏切れない。だからこそ、皇后の地位が安泰であることを知らしめて、安心させてやるのが余の務めだ」
「なるほど。余計なことを申しまして、失礼いたしました」
 拱手した玲玉に頷いて、紗琰は嫣寧の分の布地を龍華宮へ届けておくよう命じる。希月の分は控えていた侍従に持たせ、その足で綺羅宮を訪れると、希月が昨夜同様素気ない態度で出迎えてくれた。
 茶を飲んでいたらしく、茶几ちゃづくえを挟んで向かい合うように羅漢牀へ腰を下ろすと、女官がすぐに紗琰の分の茶を差し出してくる。
 甘い香りのする花茶は、希月の好みなのだろう。ひと口味わってから、側付きの太監へ布地を渡した。
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