鳳花春閨伝―死に戻りの皇帝は四人の妃に愛される―

鮎川アキ

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第3話

3-8

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「先程選んできたんだが、あなたの気に入るだろうか?」
 その場で一つひとつ広げさせる。希月は布地をじっと眺めてから、ふんと鼻を鳴らした。
「気に入らないと言ったら、どうなさるのです? 僕を罰しますか?」
 皮肉まじりの笑みを向けられ、紗琰は思わず肩をすくめる。
「まさか。それならそれで、もう一度選んでくるまでだ。あなた好みの絹を私が見つけるのが早いか、あなたが根負けするのが早いか、賭けてみるか?」
「……ご冗談を。そんなふうに延々続けていたら、帝君を煩わせるなと、僕が皇后娘娘からお叱りを受けるじゃありませんか。これで充分です」
 希月はつまらなそうにくちびるをとがらせて、絹をしまうよう女官に命じた。いたずらに失敗したような、どこかばつがの悪そうな希月の表情に、紗琰は笑み含む。
「仕立て終わったら、あなたが着ているところを見せてくれると嬉しい。その時は一緒に散歩でもしよう」
 希月からの返事はなかったが、嫌だと断られなかっただけ上々だろう。
 紗琰は梅の花を使った茶菓をつまんで、侍従たちに拝辞を促した。しずしずと下がっていった玲玉が房室の扉を閉めたのを一瞥し、思いついたように尋ねる。
「あなたは峯珠で、暗衛あんえいを統括していたと聞いたが」
 彩爛で間諜が金狗と称されるのに対し、峯珠では暗衛という名称が用いられている。
 希月は途端に蛾眉を寄せた。
「帝君は、僕が峯珠に情報を流しているとでも仰りたいのですか?」
「そうではない。暗衛を率いていたあなたに、少し助言をもらいたいのだ」
 首を横に振った紗琰を、希月は顔をしかめたまま見返してくる。
「調べたい相手がいるのだが、その者と繋がりのありそうな人間が多すぎて、どこから手をつけたらよいか困っている。悪巧みに加担するのであれば同等の地位やそれに近い者たちだろうが、実際に悪事を働くのは手足となる配下はそれよりもっと位の低い者たちだろう? だが、手足すべてを調べようと思えばそれだけで人員と手間がかかるし、捕らえたところで首魁まで引きずり出せねば意味がない。どうしたら先方に怪しまれず、溜まった膿を一掃できるだろうか」
 茶杯ゆのみを揺らしながら、紗琰は前世の記憶を手繰った。
 実際に孝賢王の側についた顕官が誰なのか、閨に囚われていた紗琰は詳しいところを知らない。明確に名の挙がった共犯者は包太医くらいで、雨嫻と答案をすり替えた輩がどの家門の人間なのかすらわからないのだ。
 左右丞相と大司馬が纏めてくれた名簿の者たち一人ひとり監視をつけたとしても、すぐに尻尾をつかめるとは限らない。もとより、金狗の数とて無尽蔵ではないのだ。焦って動いて怪しまれるわけにもいかないが、かといって父皇の病状を偽装し続けることも難しいだろう。いつかは包太医が変だと気づき、孝賢王へ報告する日がくる。――叶うならば、できるだけ短い期間で決着をつけたいというのが本音だった。
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