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番外編
課長 久世敦の不本意な守役の日々
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俺は被害者だ。
――と、強く主張したい。
そこの所、よろしく。
快刀乱麻を断つ勢いで、自分に仕掛けられた悪意を見事に振り払った部下は、何と俺に特大の災いをもたらす女だった。
キナ臭くなってきたのは、「薄墨の君」とかいうふざけた二つ名が付いた頃だったか。
あんな地味な格好をしているくせに、完璧に仕事をこなし、物怖じをせず、いつも凛とした佇まい。
そこに、ショーウィンドウに飾り立てられものと対極にある、静謐な美しさを認める奴等も多かったはずだ。
それでも、その頃は森瑞穂がいつも側に居て、手出し無用な雰囲気だったのだ。
が。
ヤツが、どこぞの美女と噂になった時点で、突然ノーガードになってしまった。
困ったことに、本人にその自覚が全く、悪いがここは是非繰り返させていただこうか、全く無かったので、彼女を慌てて守ろうとする常盤や、谷口、その状況を氷点下の不機嫌で眺める森を、当時の俺は面白く傍観していたのだ。
――完全に部外者だった懐かしき日々よ、カムバック。
森瑞穂が桜井コーポレーションを去った、その年の暮れ。
彼女――加藤千速を巡る、密かなレースの火蓋が切って落とされるはずだった打ち上げで、俺は不本意ながら、守役を断れぬ筋から命じられたのだった。
おお、そうとも、我が友人 桜井誠、直々の命だ。
いや、本人は「依頼」と言っていたか。
何と「酒を飲ませるな」ときた。
打ち上げに酒ナシとはどういうことだ。
しかも「依頼」元が森瑞穂と聞いて、俺は度肝を抜かれた。
一体何がどうなって、そうなった?
噂の美女は、どうした。
あの森瑞穂がご執心とか、信じられん。
しかし、俺の疑問には誰も答えてくれない。
桜井が連れてきた谷口に引き渡すまで、俺は守られているはずの本人に、えらく迷惑そうに扱われた。
不本意だ。
全くもって不本意だ。
その上、それ以降も守役続行を命じられ……もとい依頼され、とうとう害虫退治に乗り出す羽目にまで相成った。
その害虫――山下を、誤解させたまま放っておいたそのせいで、何と加藤と「社内恋愛中」とみなされる身だ。
この際、虫取りホイホイあたりの役ならば許容しよう。
しかし、どうやら完全に「虫除け」の役がついてしまった。
くそ。
俺の私生活はどうしてくれる。
しかも、だ。
先日は森の取り巻きらしい女が加藤を訪ねてきて、社内で何やらやりとりがあったらしい。
漏れ聞こえた「婚約者」云々という台詞が一人歩きして、俺は、婚約者持ちのくせに部下に手を出す不届き上司の汚名をきることとなった。
誰も俺に問わないから、弁明の機会さえないとはどういうことだ。
桜井――っ!
俺の経歴に、傷をつけるな傷をっ!
有能だが、地味に装った天然なこの部下は、全くもってトラブルの元だ。
殺人的にトラブルの元だ。
あの森が引っかかったあたりで、只者ではないニオイがするだろう?
さすがにそろそろ、トラブルも打ち止めだろう……
人の噂も七十五日。
耐えろ、俺。
いつか、全ての誤解が解ける。
そう、諦めをもって構えていたのだが。
今度は加藤に、外車に乗った第二のオトコが現れた。
二股を疑われることはあっても(いや、もちろん、そんな不義理はしないが)二股されたことはないこの俺が!
く……屈辱。
二股をかけられた情けない役まで回ってきた。
ええい!
一割増しと言ったが、二割でも足りないくらいの名義貸しだ。
加藤!
予算上乗せ、しっかりこなせよっ。
――と、強く主張したい。
そこの所、よろしく。
快刀乱麻を断つ勢いで、自分に仕掛けられた悪意を見事に振り払った部下は、何と俺に特大の災いをもたらす女だった。
キナ臭くなってきたのは、「薄墨の君」とかいうふざけた二つ名が付いた頃だったか。
あんな地味な格好をしているくせに、完璧に仕事をこなし、物怖じをせず、いつも凛とした佇まい。
そこに、ショーウィンドウに飾り立てられものと対極にある、静謐な美しさを認める奴等も多かったはずだ。
それでも、その頃は森瑞穂がいつも側に居て、手出し無用な雰囲気だったのだ。
が。
ヤツが、どこぞの美女と噂になった時点で、突然ノーガードになってしまった。
困ったことに、本人にその自覚が全く、悪いがここは是非繰り返させていただこうか、全く無かったので、彼女を慌てて守ろうとする常盤や、谷口、その状況を氷点下の不機嫌で眺める森を、当時の俺は面白く傍観していたのだ。
――完全に部外者だった懐かしき日々よ、カムバック。
森瑞穂が桜井コーポレーションを去った、その年の暮れ。
彼女――加藤千速を巡る、密かなレースの火蓋が切って落とされるはずだった打ち上げで、俺は不本意ながら、守役を断れぬ筋から命じられたのだった。
おお、そうとも、我が友人 桜井誠、直々の命だ。
いや、本人は「依頼」と言っていたか。
何と「酒を飲ませるな」ときた。
打ち上げに酒ナシとはどういうことだ。
しかも「依頼」元が森瑞穂と聞いて、俺は度肝を抜かれた。
一体何がどうなって、そうなった?
噂の美女は、どうした。
あの森瑞穂がご執心とか、信じられん。
しかし、俺の疑問には誰も答えてくれない。
桜井が連れてきた谷口に引き渡すまで、俺は守られているはずの本人に、えらく迷惑そうに扱われた。
不本意だ。
全くもって不本意だ。
その上、それ以降も守役続行を命じられ……もとい依頼され、とうとう害虫退治に乗り出す羽目にまで相成った。
その害虫――山下を、誤解させたまま放っておいたそのせいで、何と加藤と「社内恋愛中」とみなされる身だ。
この際、虫取りホイホイあたりの役ならば許容しよう。
しかし、どうやら完全に「虫除け」の役がついてしまった。
くそ。
俺の私生活はどうしてくれる。
しかも、だ。
先日は森の取り巻きらしい女が加藤を訪ねてきて、社内で何やらやりとりがあったらしい。
漏れ聞こえた「婚約者」云々という台詞が一人歩きして、俺は、婚約者持ちのくせに部下に手を出す不届き上司の汚名をきることとなった。
誰も俺に問わないから、弁明の機会さえないとはどういうことだ。
桜井――っ!
俺の経歴に、傷をつけるな傷をっ!
有能だが、地味に装った天然なこの部下は、全くもってトラブルの元だ。
殺人的にトラブルの元だ。
あの森が引っかかったあたりで、只者ではないニオイがするだろう?
さすがにそろそろ、トラブルも打ち止めだろう……
人の噂も七十五日。
耐えろ、俺。
いつか、全ての誤解が解ける。
そう、諦めをもって構えていたのだが。
今度は加藤に、外車に乗った第二のオトコが現れた。
二股を疑われることはあっても(いや、もちろん、そんな不義理はしないが)二股されたことはないこの俺が!
く……屈辱。
二股をかけられた情けない役まで回ってきた。
ええい!
一割増しと言ったが、二割でも足りないくらいの名義貸しだ。
加藤!
予算上乗せ、しっかりこなせよっ。
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