1 / 5
第一話 幼馴染からの誘い
しおりを挟む
机の左手においたスマートフォンがメッセージの着信を告げる。
玲子は鉛筆をおき、手を組んで大きく伸びをした。線形代数のレポートがちょうど終わったところなので、気分転換もかねてメッセージを確認する。
幼なじみの香澄から、明日のランチを一緒に食べようとのお誘いだ。夏休みで帰省したので会いたいと連絡したら、バイトを調整してくれた。
「なになに? 報告したいことだって?」
すぐ聞きたくなったので、教えてよ、と質問を送ったが「明日のお楽しみ♪」という返事が届いたのみだ。
「もったいぶらなくてもいいのに」
とはいうものの、画面上で点滅しているハートを見ていると、大方の想像はつく。
玲子はスマートフォンをおき、リビングに入った。両親は寝たようで、明かりが消えていた。冷蔵庫からオレンジジュースを出し、氷と一緒にグラスに入れて部屋に戻る。
四か月ぶりに帰る自分の部屋は大きな変化もなく、高校時代のまま、使い込んだ参考書や問題集が並んでいた。
窓から顔を出すと海のにおいがする。受験生時代、勉強に疲れたときも星空を見上げていた。夜空を彩る夏の大三角は、星座に疎い玲子でも見つけられる。
「武彦先輩、どうしてるかな」
ふとした拍子に、同じ学科の先輩が脳裏をよぎる。紅茶好きなのは知っているが、暑い夜でもホットで飲んでいるのだろうか。
武彦は夏休みに入ってすぐに帰省したので、一週間ほど顔を見ていない。
志望校に合格して初めての夏休み、それは初めての帰省でもあった。ずっと休んで里帰りしてもいいよ、とバイト先のマスターは言ってくれたが、それではあまりにも申し訳ない。考えた結果、一か月だけ休みをもらうことにした。
そして二日前に帰ってきた。香澄と会うのも、高校の卒業式以来だ。大半の子が地元に残る中で、都会の大学に行く玲子は少数派だ。地元に残った同級生の話もいろいろと聞けるだろう。
「香澄、この様子だと彼氏ができたのかな」
玲子も高校時代つきあっているつもりの相手がいた。それが一方的な思い込みだったことは、大学に合格したときに告げられた言葉で気がついた。
「もうこれからは、会う機会もなくなるね」
家庭教師の大学生にとっては、彼女と呼べる存在ではなかった。少しだけ期待していた大人の世界にかすりもしないで終わったのだから、そういうことかもしれない。玲子は数名いる生徒のひとりで、特別な存在ではなかった。
高校時代の甘酸っぱくてほろ苦い恋心を思い出しながら、玲子はオレンジジュースを飲み干した。
「レポートも一本仕上がったことだし、今日はもう寝るか」
開けたままの窓を閉め、エアコンのスイッチを入れる。潮風が吹く海辺の町なので、夜にはエアコンなしでも過ごせる日がある。しかし都会の生活を経験した玲子は、一晩中開けたままで寝る度胸はなくなっていた。
玲子は鉛筆をおき、手を組んで大きく伸びをした。線形代数のレポートがちょうど終わったところなので、気分転換もかねてメッセージを確認する。
幼なじみの香澄から、明日のランチを一緒に食べようとのお誘いだ。夏休みで帰省したので会いたいと連絡したら、バイトを調整してくれた。
「なになに? 報告したいことだって?」
すぐ聞きたくなったので、教えてよ、と質問を送ったが「明日のお楽しみ♪」という返事が届いたのみだ。
「もったいぶらなくてもいいのに」
とはいうものの、画面上で点滅しているハートを見ていると、大方の想像はつく。
玲子はスマートフォンをおき、リビングに入った。両親は寝たようで、明かりが消えていた。冷蔵庫からオレンジジュースを出し、氷と一緒にグラスに入れて部屋に戻る。
四か月ぶりに帰る自分の部屋は大きな変化もなく、高校時代のまま、使い込んだ参考書や問題集が並んでいた。
窓から顔を出すと海のにおいがする。受験生時代、勉強に疲れたときも星空を見上げていた。夜空を彩る夏の大三角は、星座に疎い玲子でも見つけられる。
「武彦先輩、どうしてるかな」
ふとした拍子に、同じ学科の先輩が脳裏をよぎる。紅茶好きなのは知っているが、暑い夜でもホットで飲んでいるのだろうか。
武彦は夏休みに入ってすぐに帰省したので、一週間ほど顔を見ていない。
志望校に合格して初めての夏休み、それは初めての帰省でもあった。ずっと休んで里帰りしてもいいよ、とバイト先のマスターは言ってくれたが、それではあまりにも申し訳ない。考えた結果、一か月だけ休みをもらうことにした。
そして二日前に帰ってきた。香澄と会うのも、高校の卒業式以来だ。大半の子が地元に残る中で、都会の大学に行く玲子は少数派だ。地元に残った同級生の話もいろいろと聞けるだろう。
「香澄、この様子だと彼氏ができたのかな」
玲子も高校時代つきあっているつもりの相手がいた。それが一方的な思い込みだったことは、大学に合格したときに告げられた言葉で気がついた。
「もうこれからは、会う機会もなくなるね」
家庭教師の大学生にとっては、彼女と呼べる存在ではなかった。少しだけ期待していた大人の世界にかすりもしないで終わったのだから、そういうことかもしれない。玲子は数名いる生徒のひとりで、特別な存在ではなかった。
高校時代の甘酸っぱくてほろ苦い恋心を思い出しながら、玲子はオレンジジュースを飲み干した。
「レポートも一本仕上がったことだし、今日はもう寝るか」
開けたままの窓を閉め、エアコンのスイッチを入れる。潮風が吹く海辺の町なので、夜にはエアコンなしでも過ごせる日がある。しかし都会の生活を経験した玲子は、一晩中開けたままで寝る度胸はなくなっていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント100万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる