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第6話 夢は掴むもの
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ジャスティをあとにした哲哉は、沙樹とともに駅まで歩いていた。
冬の空気は冷たく澄み切って、哲哉の昂る気持ちを少しずつ落ち着けてくれている。
街を飾るにぎやかなイルミネーションは、目指す世界の華やかさを象徴しているようだ。
「あの人がレコード会社の人だなんて、マスターの過去とともにサプライズね」
沙樹の声はいつになくトーンが高い。頬もわずかに赤みが帯びて、熱気で寒さすら感じていないようだ。通りを歩く人たちに向かい、今の出来事を大声で発表するのではないかと、哲哉はハラハラする。
だが当事者なのに、哲哉は素直に喜べない。降ってわいた話が大きすぎる。それに比例して、マスターの期待が以前より強くなった。哲哉を取り巻く世界が、劇的に変化しそうだ。
(とてもじゃないが、ひとりでは受け止められない……)
仲間が一緒だったら、もっと違う感情も湧いただろう。それなのにたったひとりで、こんな大きな出来事に直面してしまった。
「来年は大きな波がやってきそうね。でも大丈夫。得能くんたちなら、絶対にうまく乗れるよ。応援しているよ」
「うん……」
興奮が収まらない沙樹に、哲哉は軽く頷くしかできなかった。
ジャスティでレギュラー出演するときは、わずかながらもギャラをもらっている。
そういった意味で、自分たちはセミプロだと思っているし、マスターにもそう振舞えと言い聞かされていた。
お金を貰っている以上、いいかげんなライブをやってはいけないと自覚していたつもりだった。たったそれだけのことで、自分たちはプロの世界に片足を入れて、そこの住人だと錯覚していた。
だがレコード会社という巨大な現実を目の当たりにすると、そんな自信はもろくも砕け散る。
(ったく、なんだってんだよ。夢が少し近づいただけで、ここまで動揺するなんて。おれはこんなにもちっぽけなヤツだったのか?)
自分たちのやっていることは、プロとして通用するのだろうか。狭い世界だけでしか通用しないバンドごっこにすぎないのではないか。小さなコップの中しか知らない自分たちなのに、大海に放り出されても大丈夫なのだろうか。
喜びや期待よりも、不安ばかりが哲哉の胸におしよせる。
「得能くん、どうしたの? 思ったほどうれしそうじゃないのね」
急に黙り込んだ哲哉を心配するように、沙樹が声をかけた。
「話があまりにも大きすぎるよ。プロになりたいなんて大口をたたいたくせに、いざ話が現実になったら、ビビっちまっているんだぜ。情けないよ」
沙樹は何か言おうとしたまま言葉を止め、哲哉の目を見つめる。受け止めることのできない哲哉は、それを流して足元に視線を落とす。
「おれが想像していたプロの姿って、少しも具体的じゃなかった。どんな姿をイメージしているのかって聞かれたら、何も答えられないんだぜ。まさかこんなところで足がすくむなんて、思いもしなかった」
将来のことは考えつつも、はっきりとしたビジョンを描いたことはない。ふりかえってみれば、仲間たちと今後のことを真剣に語り合っていなかった。
みんなも同じようにプロを夢見ているだろうか。思いが共有できているだろうか。そんな簡単なことすら、今の哲哉にはわからない。
「何も悩むことじゃないと思うけど」
「……でも、実際にその場に立ったら、素直に喜べないよ。プロって言われても、具体的に何をどうすればいいのか。おれには何もわからないんだ」
「プロになった姿がはっきりしないのって、あたり前じゃない。雲の上は下からは見えないでしょ。どんな世界なのか見たこともないのに、そこに立っている自分の姿が想像できないからって、恥ずかしく感じることじゃないよ」
沙樹は励ますように続ける。
「それよりも今は、プロの世界に続く階段のふもとに立てたことを喜ぼうよ。一段一段上るごとに、まわりの景色も変わる。そして雲の上も見えてくる。近づくごとに、自分の姿が具体的になってくるんじゃないかな。あたしはそう思うよ」
哲哉は顔をあげ沙樹を見る。柔らかい微笑みがすべてを物語っていた。
「……ああ、そういうことか」
沙樹の指摘は正しい。
明日いきなり、ドームでライブをやるわけではない。手元にあるのは、プロの世界に向かうための切符に過ぎない。
「エスカレーターに乗ったわけじゃないんだな」
階段に足をかけるか、かけないかは、誰にも強制されていない。決定権は哲哉たちに委ねられている。
上りたければ一段ずつ確実に上ればいい。
大切なのは、足を踏み出す勇気。それだけだ。
「どんなに上りたくても、それが許される人はほんの一握りなのね。それなのに大半が途中で落ちてしまう。雲まで手が届く寸前で力つきる人もいる。厳しい世界だよ。でも挑戦するだけの価値はあるんじゃない?」
今日の話をしたら、メンバーたちは何と言うだろうか。幸運だと素直に喜ぶか、足がすくんでしまうか。
一緒に上ってくれる人はいるだろうか。
(いや、一番震えているのはおれだ。迷うことなく突き進む。みんなはいつだってチャンスを掴もうとしているじゃないか)
哲哉が目を閉じると、まぶしいくらいにライブを楽しむ仲間たちの姿が浮かんだ。
「雲の上からの景色、いつかあたしにも見せてよね」
もちろんだよ、という意味を込めて、哲哉はうなずく。
「こうなったらあたしも負けていられないな。音楽のことをもっと勉強して、みんなの手助けができるようにならなきゃ」
図書館を出たときに沙樹が言い淀んだことを、哲哉は思い出した。
「あたしは自分で音楽を作れない。でも、得能くんたちが作る曲をたくさんの人に伝えたい。音楽に夢を乗せる人たちの手助けが、どうしてもしたい。だからそんな仕事につきたいと思っているの」
「手助け?」
「具体的に言うとね、ラジオかTVで音楽番組を作るような仕事がしたいんだ。勧誘されて気軽に入った放送研だけど、番組作りをしているうちに、それが得能くんたちの夢とつながっていることに気づいたの。あたしはバンドのメンバーじゃないけど、今までも、そしてこの先もずっと仲間だって思っていたい。いつまでもみんなと一緒に活動したいのよ」
そう言って胸元で右手を握りしめた。哲哉がそれに自分の拳を軽く当てると、沙樹は親指を立ててウィンクした。
日下部との出会いは、沙樹にとっても他人事ではなかったようだ。自分も関係者だと感じたから、ここまで高揚しているのか。
やがて哲哉たちは駅に着いた。イルミネーションが一番華やかな場所だ。
「今日はいろいろありがとう。明日CDを取りに行く前に電話するね。おやすみなさい」
真冬の寒さを吹き飛ばすような明るい笑顔を残して、沙樹は改札を通り抜ける。哲哉は手をふって、それを見送った。
不意に目の前を白いものが舞う。見上げると、雪がちらついてきた。
舞い降りる雪をじっと見ていると、自分が浮遊する錯覚にとらわれることがある。このまま雲の上まで行ける、ふとそんな気がした。
今日の出会いは、サンタクロースからのプレゼントかもしれない。ひとりで過ごすはずだった夜に、予想もしなかった出来事が起きた。
突然、スマートフォンから着信を告げるサウンドが響く。コートのポケットからそれを取り出すと、沙樹からのメッセージが届いていた。ジャスティでの出来事を簡潔にまとめ、メンバー専用のメッセージに書き込んでいる。こちらから頼まなくても、細かい心遣いで手助けしてくれる。哲哉の気づかないところでいつも気を配ってくれる。
(西田さんは六人目のメンバー。仲間だよ。誰がなんと言おうと、おれはそう思っているからな)
沙樹の書いたメッセージを読み返しながら、哲哉は仲間たちの姿を思い浮かべた。
みんなは今、バンドから離れた世界にいる。すぐにメッセージに気づく人物はひとりもいないだろう。返事が来るのは明日になるかもしれない。
ため息をつきながらスマートフォンをポケットに戻そうとすると、突然通知音が聞こえた。送り主はワタルだ。ちょうど休憩時間だったのだろう。すぐにメッセージを送っていた。余程慌てて書いたらしく、誤字まじりの文章だ。
めずらしいこともあるものだと思いながら読んでいると、また着信音が響いた。送り主を確認する暇もないほどに、次々と届く。
驚きの声、歓喜の声。哲哉が書き込む隙もないほどに、会話が進んでいく。
——今バスの中だ。年が明けたら、なるべく早くそっちに戻る。帰省、明日にしておけばよかったよ。
——デートは中止した。十五分ほどで哲哉の家に着く。詳しい話が知りたい。
——塾のバイト、抜け出したい! 終わったらすぐに行くからな。コーヒー入れて待っていろよ、哲哉。
——彼女たちと二次会なんて行っていられない。今すぐ断って哲哉のうちに行くよ。
離れていても、ひとたび音楽のこととなると、いつでもつながることのできる仲間たちだった。
「揃いも揃って即答とはね。なんてメンバーなんだよ」
哲哉の口元が緩んだ。
今日は何を悩んでいたのだろう。どうして取り残されたなんて思い込んだのか。自分のとったひとり相撲に、哲哉は苦笑する。
仲間とともに手を取りあって、頂点を目指すのも悪くない。そこが険しければ険しいほど、絆は強くなる。ひとりでは困難な道も、仲間がいれば走り抜けることだってできる。
その先にある姿こそ、プロになった自分たち。
ほんの一瞬だが、それが見えたような気がした。
仲間との絆を知ること。それこそが、聖なる夜の贈り物だ。距離なんて関係ない。大切な仲間たちは、いつだってそばにいる。
冬の冷たい風でさえ、心に燃える火を消せはしない。哲哉は心地良い高揚感に包まれていた。
何が起きても、どんなことがあっても、自分たちの力を疑わない。自信を持って前に進む。音楽という絆でつながれた仲間とともに。
夢は見るものじゃない。掴むものなんだ。
雪のちらつく中、情熱を胸に抱き、哲哉は一歩踏み出した。
冬の空気は冷たく澄み切って、哲哉の昂る気持ちを少しずつ落ち着けてくれている。
街を飾るにぎやかなイルミネーションは、目指す世界の華やかさを象徴しているようだ。
「あの人がレコード会社の人だなんて、マスターの過去とともにサプライズね」
沙樹の声はいつになくトーンが高い。頬もわずかに赤みが帯びて、熱気で寒さすら感じていないようだ。通りを歩く人たちに向かい、今の出来事を大声で発表するのではないかと、哲哉はハラハラする。
だが当事者なのに、哲哉は素直に喜べない。降ってわいた話が大きすぎる。それに比例して、マスターの期待が以前より強くなった。哲哉を取り巻く世界が、劇的に変化しそうだ。
(とてもじゃないが、ひとりでは受け止められない……)
仲間が一緒だったら、もっと違う感情も湧いただろう。それなのにたったひとりで、こんな大きな出来事に直面してしまった。
「来年は大きな波がやってきそうね。でも大丈夫。得能くんたちなら、絶対にうまく乗れるよ。応援しているよ」
「うん……」
興奮が収まらない沙樹に、哲哉は軽く頷くしかできなかった。
ジャスティでレギュラー出演するときは、わずかながらもギャラをもらっている。
そういった意味で、自分たちはセミプロだと思っているし、マスターにもそう振舞えと言い聞かされていた。
お金を貰っている以上、いいかげんなライブをやってはいけないと自覚していたつもりだった。たったそれだけのことで、自分たちはプロの世界に片足を入れて、そこの住人だと錯覚していた。
だがレコード会社という巨大な現実を目の当たりにすると、そんな自信はもろくも砕け散る。
(ったく、なんだってんだよ。夢が少し近づいただけで、ここまで動揺するなんて。おれはこんなにもちっぽけなヤツだったのか?)
自分たちのやっていることは、プロとして通用するのだろうか。狭い世界だけでしか通用しないバンドごっこにすぎないのではないか。小さなコップの中しか知らない自分たちなのに、大海に放り出されても大丈夫なのだろうか。
喜びや期待よりも、不安ばかりが哲哉の胸におしよせる。
「得能くん、どうしたの? 思ったほどうれしそうじゃないのね」
急に黙り込んだ哲哉を心配するように、沙樹が声をかけた。
「話があまりにも大きすぎるよ。プロになりたいなんて大口をたたいたくせに、いざ話が現実になったら、ビビっちまっているんだぜ。情けないよ」
沙樹は何か言おうとしたまま言葉を止め、哲哉の目を見つめる。受け止めることのできない哲哉は、それを流して足元に視線を落とす。
「おれが想像していたプロの姿って、少しも具体的じゃなかった。どんな姿をイメージしているのかって聞かれたら、何も答えられないんだぜ。まさかこんなところで足がすくむなんて、思いもしなかった」
将来のことは考えつつも、はっきりとしたビジョンを描いたことはない。ふりかえってみれば、仲間たちと今後のことを真剣に語り合っていなかった。
みんなも同じようにプロを夢見ているだろうか。思いが共有できているだろうか。そんな簡単なことすら、今の哲哉にはわからない。
「何も悩むことじゃないと思うけど」
「……でも、実際にその場に立ったら、素直に喜べないよ。プロって言われても、具体的に何をどうすればいいのか。おれには何もわからないんだ」
「プロになった姿がはっきりしないのって、あたり前じゃない。雲の上は下からは見えないでしょ。どんな世界なのか見たこともないのに、そこに立っている自分の姿が想像できないからって、恥ずかしく感じることじゃないよ」
沙樹は励ますように続ける。
「それよりも今は、プロの世界に続く階段のふもとに立てたことを喜ぼうよ。一段一段上るごとに、まわりの景色も変わる。そして雲の上も見えてくる。近づくごとに、自分の姿が具体的になってくるんじゃないかな。あたしはそう思うよ」
哲哉は顔をあげ沙樹を見る。柔らかい微笑みがすべてを物語っていた。
「……ああ、そういうことか」
沙樹の指摘は正しい。
明日いきなり、ドームでライブをやるわけではない。手元にあるのは、プロの世界に向かうための切符に過ぎない。
「エスカレーターに乗ったわけじゃないんだな」
階段に足をかけるか、かけないかは、誰にも強制されていない。決定権は哲哉たちに委ねられている。
上りたければ一段ずつ確実に上ればいい。
大切なのは、足を踏み出す勇気。それだけだ。
「どんなに上りたくても、それが許される人はほんの一握りなのね。それなのに大半が途中で落ちてしまう。雲まで手が届く寸前で力つきる人もいる。厳しい世界だよ。でも挑戦するだけの価値はあるんじゃない?」
今日の話をしたら、メンバーたちは何と言うだろうか。幸運だと素直に喜ぶか、足がすくんでしまうか。
一緒に上ってくれる人はいるだろうか。
(いや、一番震えているのはおれだ。迷うことなく突き進む。みんなはいつだってチャンスを掴もうとしているじゃないか)
哲哉が目を閉じると、まぶしいくらいにライブを楽しむ仲間たちの姿が浮かんだ。
「雲の上からの景色、いつかあたしにも見せてよね」
もちろんだよ、という意味を込めて、哲哉はうなずく。
「こうなったらあたしも負けていられないな。音楽のことをもっと勉強して、みんなの手助けができるようにならなきゃ」
図書館を出たときに沙樹が言い淀んだことを、哲哉は思い出した。
「あたしは自分で音楽を作れない。でも、得能くんたちが作る曲をたくさんの人に伝えたい。音楽に夢を乗せる人たちの手助けが、どうしてもしたい。だからそんな仕事につきたいと思っているの」
「手助け?」
「具体的に言うとね、ラジオかTVで音楽番組を作るような仕事がしたいんだ。勧誘されて気軽に入った放送研だけど、番組作りをしているうちに、それが得能くんたちの夢とつながっていることに気づいたの。あたしはバンドのメンバーじゃないけど、今までも、そしてこの先もずっと仲間だって思っていたい。いつまでもみんなと一緒に活動したいのよ」
そう言って胸元で右手を握りしめた。哲哉がそれに自分の拳を軽く当てると、沙樹は親指を立ててウィンクした。
日下部との出会いは、沙樹にとっても他人事ではなかったようだ。自分も関係者だと感じたから、ここまで高揚しているのか。
やがて哲哉たちは駅に着いた。イルミネーションが一番華やかな場所だ。
「今日はいろいろありがとう。明日CDを取りに行く前に電話するね。おやすみなさい」
真冬の寒さを吹き飛ばすような明るい笑顔を残して、沙樹は改札を通り抜ける。哲哉は手をふって、それを見送った。
不意に目の前を白いものが舞う。見上げると、雪がちらついてきた。
舞い降りる雪をじっと見ていると、自分が浮遊する錯覚にとらわれることがある。このまま雲の上まで行ける、ふとそんな気がした。
今日の出会いは、サンタクロースからのプレゼントかもしれない。ひとりで過ごすはずだった夜に、予想もしなかった出来事が起きた。
突然、スマートフォンから着信を告げるサウンドが響く。コートのポケットからそれを取り出すと、沙樹からのメッセージが届いていた。ジャスティでの出来事を簡潔にまとめ、メンバー専用のメッセージに書き込んでいる。こちらから頼まなくても、細かい心遣いで手助けしてくれる。哲哉の気づかないところでいつも気を配ってくれる。
(西田さんは六人目のメンバー。仲間だよ。誰がなんと言おうと、おれはそう思っているからな)
沙樹の書いたメッセージを読み返しながら、哲哉は仲間たちの姿を思い浮かべた。
みんなは今、バンドから離れた世界にいる。すぐにメッセージに気づく人物はひとりもいないだろう。返事が来るのは明日になるかもしれない。
ため息をつきながらスマートフォンをポケットに戻そうとすると、突然通知音が聞こえた。送り主はワタルだ。ちょうど休憩時間だったのだろう。すぐにメッセージを送っていた。余程慌てて書いたらしく、誤字まじりの文章だ。
めずらしいこともあるものだと思いながら読んでいると、また着信音が響いた。送り主を確認する暇もないほどに、次々と届く。
驚きの声、歓喜の声。哲哉が書き込む隙もないほどに、会話が進んでいく。
——今バスの中だ。年が明けたら、なるべく早くそっちに戻る。帰省、明日にしておけばよかったよ。
——デートは中止した。十五分ほどで哲哉の家に着く。詳しい話が知りたい。
——塾のバイト、抜け出したい! 終わったらすぐに行くからな。コーヒー入れて待っていろよ、哲哉。
——彼女たちと二次会なんて行っていられない。今すぐ断って哲哉のうちに行くよ。
離れていても、ひとたび音楽のこととなると、いつでもつながることのできる仲間たちだった。
「揃いも揃って即答とはね。なんてメンバーなんだよ」
哲哉の口元が緩んだ。
今日は何を悩んでいたのだろう。どうして取り残されたなんて思い込んだのか。自分のとったひとり相撲に、哲哉は苦笑する。
仲間とともに手を取りあって、頂点を目指すのも悪くない。そこが険しければ険しいほど、絆は強くなる。ひとりでは困難な道も、仲間がいれば走り抜けることだってできる。
その先にある姿こそ、プロになった自分たち。
ほんの一瞬だが、それが見えたような気がした。
仲間との絆を知ること。それこそが、聖なる夜の贈り物だ。距離なんて関係ない。大切な仲間たちは、いつだってそばにいる。
冬の冷たい風でさえ、心に燃える火を消せはしない。哲哉は心地良い高揚感に包まれていた。
何が起きても、どんなことがあっても、自分たちの力を疑わない。自信を持って前に進む。音楽という絆でつながれた仲間とともに。
夢は見るものじゃない。掴むものなんだ。
雪のちらつく中、情熱を胸に抱き、哲哉は一歩踏み出した。
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