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第一章

第1話 Gathering of fools

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この世の人々は、全員仮面を被って生きている。そう言っても過言ではないほど、裏表のない人物は少ない。ほとんどの人は自分を取り繕って良く見せようとしている『理想的仮面』をつけているが、極一部、自分の悟られてはならない正体を隠す『偽人的仮面』を被る者がいる。そしてこの国にも、その『偽人的仮面』を被った人物がいた。人々の仮初の平穏を守るため、日々悪と影で戦っている、『選ばれし者』。
人々はその者達を『dark hero』と呼んだ。
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「おい新人!そんなの早く終わらせてこっち
 手伝え!」
「はい!すみません!」
「ったく!とろとろしやがって!使えない新
 人を持つと苦労するよ!女だからって贔屓
 すると思うなよ!?」
「・・・はい。すみません。」 
むせかえるような鉄と油の匂い。ここは借金を返すために働く者達のための工場。
『Gathering of fools(愚か者の集い)』
通称GOFだ。自分じゃ支払えないような借金額の者が集まる場所のため、環境は劣悪で給料も安い。その代わり、食費・水道代・光熱費・家賃などの、生きていくために最低限必要な費用は全て肩代わりしてくれる。
(ふぅ。やっと寮に戻って来れた。)
「お疲れー!あんた、また半月に絡まれてな
 かった?気の毒に。」
「あ、杏奈!お疲れー!」
杏奈は私が半年前に来たばかりの時から仲良くしてくれた親友だ。杏奈だけじゃなく仕事仲間とは自分の部屋以外は全て共同で生活しているから、皆んな家族のような存在だ。
「そうなの。ここ最近ずっと部屋入りを断っ
 てたから、機嫌悪くしちゃったみたい。」
今の時代はカースト制度がとても強く、自分より上の立場の者の言うことは絶対だ。昔廃止された制度だが、上層部の者達が自分に都合が良いため戻したらしい。
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    簡単に言うとこんな感じ
         ↓                                              
     【私達普通の作業員】
    =三日月(平民クラス)
   【さっき嫌味を言ってきた奴】
     =半月(貴族クラス)
     【それらを束ねる人】
     =満月(皇族クラス)
     【この世界の支配者】
   =新月(一国の国王クラス)
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男は単純に権力争いで勝負するけど、女は上手くやれば簡単に上流階級に入れる。その方法は、自分より立場が上の男の『部屋入り』
になること。そうすればそいつの命令は絶対に断れなくなる代わりに、その人と同じ地位に着くことができる。さっきの男は『半月』普通私達じゃなれないようなクラスだけど、
やっぱりその人の命令を断れないっていうのはちょっと・・・。
自分の部屋に入るとベッドに倒れ込む。上司からのイビリ、やってもやっても一向に減らない仕事、不味いご飯。もうウンザリだ。
(もういっそのこと死んでしまおうか。いや
 出来ない。杏奈が悲しむ。恩を仇で返すよ
 うなことはしたくない。)
結局我慢して働くしかないのか・・と絶望していると、不意にコンコンと音がした。
音がした方向は・・窓からだった。思わず
ベッドから飛び起きる。
(え?・・ちょっと待て、私。一旦冷静にな
 ろう。普通に考えたら窓が叩かれるはずが
 ない。ここは5階だ。だとしたらきっと、
 イタズラか何か風で飛ばされてきた物が当
 たっただけだろう。)
そう結論付け、ベッドにもう一度横になる。
1~2分経った頃、また窓から音がした。
流石に少し疑問に思ったが、私は『そういう
類のもの』を信じるようなタイプではなかったから、気付いてないフリをしてまた横になった。明日も早いし、あまり夜更かしはした  
くない。きっとすぐ収まる。そう思ってた。
しかし、私の予想に反してその現象はずっと
起き続けた。何度も気のせいだと思って気づかないフリをしたが、流石にうるさかった。
そして14度目に音が鳴った時、とうとう怒りが爆発した。ベッドから飛び起きて、窓を乱暴に開けた。
「良い加減にしてよ!!今何時だと思ってる
 の!?明日早いんだから寝かせて・・」
最後まで言い終える前に、驚きと恐怖で声が出なくなった。そこに居たのは黒い『何か』
だった。他の色を全く混じえず、光さえも吸収してしまうような・・。
(何・・?この生き物。そもそも生きてるの
 ・・?怖い。)
少し後退りをした私を、目かどうかもわからない穴のようなものでじっも見ている。矛盾しているが、確かに見られているという感覚
があるから・・きっとこれが目なのだろう。「こんばんわ。」
「・・喋れるのね。あなたは何?なぜここへ
 来たの?」
「案外冷静なのですね。私は何かですか。
 それを話し出すと日が昇ってしまうので、
 ここでは話せません。そしてなぜここへ来
 たのか。それを知っている方とは、もうす
 ぐ会えますよ。」
「・・え?どういうこと?」
「詳しくは彼から聞いてください。私は
 失礼しますね。まだ仕事が残っています
 から。dark heroの『Reno』に言われて
 きた。暗殺部隊について教えてほしいと
 言えば、教えてくれますよ。」
「ちょっと待って。理解が追いつかないん
 だ・・・!?」
私が言い終わる前に、それは消えていた。
(何だったんだ?)
そう思いながら、やっぱり眠気には勝てなく
てベッドにもう一度倒れ込む。と、不意に窓に目を向けると、何かがあるようだった。
(これは・・文字?)
そこにあったのは、黒いススのようなもので
書かれた短文だった。
《追伸 彼女から話を聞くなら強制的に私達
    の学校に入っていただきます。》
(私達の学校・・?よくわからないけど、
 ここよりはきっとマシでしょう。)

この時の私の予想は、間違っていたといえる。ここが最底辺。ここより地獄なところなんてない。そう思っていた。あの頃は。

     

 











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