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絶対に推しは幸せするっからね?!
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『その皇女は妖精王の愛で生まれ変わる』
画面いっぱいに花びらが舞い散り、その長々しい題名が輝きながら現れる。流行りに乗ってるせいか?それともあらすじを省く為にストーリーを題名に持ってきてるのか…?は、謎だが。
突然、どどん!っと城をバックに勝ち気そうな皇女が腕を組み見下ろす。不敵に笑う彼女は美しかった。そこへ一陣の風が舞う。銀色の長い髪をなびかせ妖艶な男性が現れた。切れ長の群青色の瞳が皇女を映す。途端に皇女の表情は変わり恥ずかしそうに頬を染め彼に微笑んだ。
この物凄くわがままに育った皇女は妖精王と出会い、恋に落ちる。妖精王の優しさに触れ彼女は変わっていく。
だが、ふたりを邪魔する悪役も現れるのだ。その悪役はなんと妖精王の兄でーーーーー…
ちちち…
鳥の囀りでリオムは目覚めた。うっすらと瞼を開いて…ぼやけた視界にうつる影。
「?」
眉間に皺を寄せる。
「…?」
もの凄く近い為に、ぼやいて見えただけだった。枕に埋まるように目の前にいたのは雀ーーーーーいや、でっぷりと太った大福のような鳥だった。
ぶつぶつと何か呟いてる。
嘴から涎を垂らし、この上なく…だらしない表情で『うへへへ…まるで絵に描いたような上品な顔だち…漆黒の髪はさらさらだし…深い群青色の瞳も綺麗。少年から大人へとかわる成長段階…うふ、ぐふ、もろ好み……サイコーかよ…ぐふぐふ…眼福、眼福…萌…』
…正直、気持ち悪い。
『あ、おーはよう!リオム』
青ざめている彼に気がついた鳥は翼で慌てて涎を拭くと。今更だが、可愛らしく首を傾げた。ピヨッ♪と。
「お…はよう…プクフ…」
朝からイヤなモノを見てしまった…と思いながら、とりあえず挨拶をすました。普通にしてれば可愛い、どっぷりと太った鳥なのに。いや、彼女は(メスらしい)実は鳥では無い。なんと、妖精だというのだ。正直、とても妖精には見えないが。
そんな彼女と出会ったのは嵐の晩だった。
この[嘆きの谷]と呼ばれる場所は、とても人間が好んで棲むような土地では無い。何故なら夜になれば谷に強風が舞い込み、怨霊のような悲鳴じみた音が辺り一面に鳴り続ける。別名・悪霊の谷とも呼ばれ地元の人々から恐れられていた。
リオムは物心がつく頃から母とこの場所で暮らしていた。
『この恐ろしい嘆く音は私たちを守ってくれる』
そう告げる母は子どもの目から見ても美しい人だった。まるで星も出てない夜空のような漆黒の長い黒髪。だが切れ長の黄金の瞳は常に警戒を含んでいた。それはどの宝石よりも綺麗だった。紅を引いたような、ふっくらとした唇から発する声は誰もを魅了させる力があった。人間とはかけ離れた美しさを保つ女性。それもそのはず彼女は帝国のドラゴンであり女騎士だったのだ。本来なら、こんな場所にいるべきではない。
だが妖精王に騙され、この嘆きの谷へと逃れたとリオムに教えた。その時の怪我のせいで空に舞うことも本来の姿に戻る事も出来なくなったと寂しそうに告げる。だがいつか皇帝のもとへ戻るのだと…母はリオムに何度も伝える。
王に仕える事、それが私の幸せ。
そのせいか、それはリオムのやるべき事、願いにもなっていった。だが、その夢は叶わず。母は突然、血を吐き出し身体中に斑点が現れるとあっという間に亡くなった。動かなくなった母は最期にドラゴンに戻れたが、塵となり消えた。たったひとりの家族を失いリオムは悲しみのあまり初めてドラゴンの力を暴走させた。それは嵐を呼んだ。もともと谷に近付く者はいない、そんな場所にリオム達が棲んでいたことも誰も知る筈もない。
そう、彼を慰める者はいないのだ。
この世にただ独り残され…人の形のままドラゴンの力を発散する。制御が出来ないリオムは悪魔のような雄叫びを発し自暴自棄になっていた。谷は壊れ木々は砕け、森に棲んでいる動物達は恐れ逃げ回った。逃げきれなかった動物は悲鳴を上げる間もなく死んだ。
「アアアアアーーーーー!」
そのままでは完全に彼は力を使い果たし命を失っていただろう。ドラゴンであった母に力の使い方を教わってないのだから。ヒトと同じように育ってきたのだから。
そんな暴走するリオムの目の前にプクフが落ちてきたのだ。
『酷すぎるー!転生するなら普通、聖女とか悪役令嬢とか…せめてモブでも人間じゃないー?!こんな太った鳥みたいな妖精とか意味わからないンだけどーーーーーーーーうぎゃあーーーー!』そんな叫びとともにリオムの胸に、ぼよんっと飛び込んできた彼女は、クワッと目を見開き『のほー?!え!もしかして、これはリオムの幼いころじゃない?!え?マジで?!え?これ胸っすか?!胸元にイン?しちゃった!おほー!ちっくびぃー?!さいこー!』ぶふぃー!と真っ赤な血を吹き出し、ガクリと気絶した。
「ー…」
正直、呆気にとられた。こんな状況で、なんて間抜けな事を口走るのか。
何なんだ、この鳥は…。
「…」
暴走しているリオムに何も近寄れるわけがないのに。
だが、この鳥だけは違ったのだ。偶然にしても、よりによって胸元におちてきて幸せそうに鼻血を垂らし、今は痙攣している。
『おっふぅ…推しの乳首…ハンパねーな』
リオムの制御できなかった力は、その間抜けな鳥のおかげで収まっていた。
「…」
いつの間にか嵐は止まり、リオムはその鳥を両手で包んだ。涙が溢れた。
『はへ…、泣いてるの?』
怖くないのか…俺が…?そんな呟きに鳥は『なんでよ?』と首を傾げる。
『…ああ、そんなになって…辛かったね…』
嵐に巻き込まれボロボロの姿なっているのは、この鳥なのに。羽根もクシャクシャなっている。それは自分のせいだ…俺が起こした嵐のせいで…なのに…
その小さな命にーーーーリオムは涙が止まらなかった。
『ふへ?…やだ!泣かないでよ…ぁ…私が傍にいるから!泣かないで…』
出会いをとても良いものでは無かったがこうしてプクフにリオムは救われたのだ。
それからはリオムの隣にはプクフがいることが普通になっていた。鳥のような姿をしているからか、癒される。
ただ、時々プクフは今朝のように気持ち悪い事を口走る。OLだったとかフラグは根っから折るからとか転生しちゃったのよと意味のわからない言葉も多いがリオムにとっては無くてはならない存在になっていた。
『さぁリオム!出かける用意できたかしら?!』
「出来たけど…どこへ行くつもりなんだ?」
さっきから着替えをずっと覗いていて用意できたも何もないだろうがと思う。しかし、何故か扉の隙間から覗いて。いいわー…いい感じについた筋肉、少年から大人へと変化していく体、さいこぉヤバァ…えろぉ…萌殺しかよ…ブツブツと相変わらず気持ち悪い事を呟いてた。
行動も変態的だ。
とりあえず彼女の小さな鼻の穴にティッシュ突っ込む。こんなに鼻血を出して大丈夫なのかとリオムは心配になった。
『とりあえず、街に出てー。…谷はリオムの能力でぶっ壊れてるから…もう見つかるのも時間の問題よね。まぁ、アイツさえ出会わなきゃ上手くいくはず…時期的には、まだ。早め、早めに行動すれば大丈夫!リオムは私が守…』
ドォオオーン…!
何かが谷の森に墜ちた。ビシビシとリオムの棲んでいる小屋まで揺れた。
「なんだ…?」
『は?!ちょっ、まさか?え??!って!リオム!行っちゃ駄目よーーーー!』
プクフが止める間もなく、すでにリオムは小屋から走り出していた。もう見えない。
『速いー!さすが…ドラゴン…身体能力ハンパ無いっ…て感心してる場合じゃないー!ま、待ってよーーー!…はぁはぁ…なんで、この体…重いのよ…!翼も短いし…はぁ、はぁ…くそー…おっも…!前世は痩せてたのにぃ…お、おも…』
はぁはぁ…と、ヨロヨロ…ふらふら…しながら、やっと追い付くと力尽き『だはー…』ぼてんっと地面に落ちた。見上げるとリオムが少年を瓦礫から助け出している途中だった。
『げぇー!』
プクフが嫌そうに悲鳴を上げた。
助け出した少年は輝くような銀色の髪だった。人とは思えない真っ白な肌。長い銀の睫毛を震わせ群青色の瞳が潤んでいる。その瞳はリオムを見つめた。ピンク色の唇はしっとりと濡れ少年なのにどこか妖艶な色気を漂わせている。
「…」
リオムは、なんて綺麗なのかと目を奪われたが、逆にあまりの美しさに怖さが勝った。そして、ふと…どうして、此処に走ってきたのだろうかと疑問に陥る。それが当たり前の行動で、体が勝手に動いた。そう、行動するのが決められた事のように。
「…っは!プクフ!」
こんな美少年を見れば、きっとプクフは鼻血を吹き出し気絶するかもしれない!と振り返るとプクフはブルブルと震え『かー!なんで登場すンのよー!あんたの登場はまだ先でしょー!時間系列を無視すんなよー!』ビュンっと飛び込んで来ると翼で少年の頭をバシバシと叩き始めた。リオムはたじろいだ。
「プクフ!やめろ!なにしてんだ?!羽根が!」
『きぃー!』
辺りに羽根が舞い散る。鳥にバシバシと襲撃される少年はリオムに抱きつき「……!にぃに…助けて…!」と震えた。
「にぃに?…って…?」
プクフを片手で鷲掴みにしてリオムは少年に聞き返す。
「…にぃに…僕の兄さん…、…僕の名前はハディー…。弟だよ」潤む群青色の瞳がリオムを映した。
「…?お前が弟…?」
あまりにも似てない。似てるといえば同じ群青色の瞳くらいか。弟がいるなんて聞いてない。
「にぃにも、やっぱり…お父様と同じ群青色の瞳だね…綺麗だ。僕、迎えにきたんだ…僕と一緒に妖精界へ戻ろうよ?」
ぎゅっと両手を握ってきた。リオムの片手に収まっているプクフが『苦しい~』と訴えている。
「妖精界…?…っ、…、何で俺がそんな所に行かないとならないんだ…」
妖精王に騙され母は妖精界で監禁のような生活を強いられた。…そう、忌々しく告げる母の言葉は忘れられない。
『妖精王は我らの敵…妖精界など…』
…最も忌む場所だ!
「俺の戻る場所は…帝国だ…」
とっさに出た言葉は。それは母によって洗脳されていた言葉だった。
「帝国?…どうして??だって、僕らのお父様は妖精王だよ。もう…亡くなったけど。だから僕がね、王を継いだんだよ。そうしたら、にぃにの存在を感じたんだ…これはお父様のパワーだよね。お父様はずっと気にかけていたんだって解ったよ。それで僕は水晶で、にぃにの姿を映したんだ…にぃにの姿を見たら、いてもたってもいられなくて…にぃにの傍に行きたいって強く願ったら…ーここにきたんだ!」
嬉しそうに彼は聞いてもいないのに話す。
「…俺の、父親が…妖精王だと…?」
そうだよ?どうしたの?と不思議そうに訊ねる彼に腹がたった。
嘘にしても赦せない…。
母から父の存在は聞いていなかったが。
父親が…妖精王?騙されたと言ってたんだぞ。監禁されて…最も憎む相手だと。そんな相手が親?!
震えるリオムの手からプクフは逃れた。ぼてっと地面に落ち、無理やり原作と同じ流れになってる事に恐怖を感じた。
妖精界へリオムが連れて行かれる!強制力なの?
「お父様の事、聞いてないんだね…お父様は黒のドラゴンを…」
『んなの聞いちゃ駄目!…!』
「さっきから…気になってたけど…この饅頭…」
ハディーは、ふーっと息を吐き出す。
『ま・饅頭ですってー!』
わなわな…とプクフは震えた。寄りによって饅頭!
「お前…本当に邪魔だな…」
冷たい視線と口調でハディーは告げると彼女を思いっきり蹴り上げた。
『ぎゃ!』
プクフは勢いよく空に飛んで行った。
「プクフっ!お前ー…!」
躊躇せず行った行為にリオムは彼の胸ぐらを掴んだ。
「…おやすみなさい。にぃに…」
「ーーっー…」
冷酷に微笑するハディー。その瞳が光る。それを最後にリオムの意識は急激に閉じた。ドサッと地面に落ちたリオムを見下ろし彼は…溜息をついた。「可愛い口調で喋るのも疲れるよなぁ…」と、ガラリと表情を変える。
「…ゲームと明らかに違う」
倒れているリオムを見つめ「俺が母を失い悪鬼となったリオムを封印する筈なんだがなぁ」首を傾げる。
比較的、簡単だと思って早めに来たんだが…既にリオムは通常に戻っていた事に舌打ちする。
「俺の本来の役目を、あの変な饅頭が取りやがって……あんなのゲームにいたか?ま、いいか」リオムを抱きかかえる。
「水晶で見てた時より…可愛いじゃねーの?大人になったら…」
ペロリと舌なめずりして…その姿を思い出し彼は、ほくそ笑んだ。
「あの喘ぐ姿のビジュアル……ナマで見れるってことか…」
ハディーはリオムを抱きかかえたまま、ゆっくりと浮上する。鼻歌を唄いながらリオムが最も忌む場所へ向かった。
その帝国の黒龍は有名だった。
ドラゴンの姿も恐ろしく美しいが何よりヒト型になった彼女の戦場を駆ける姿は敵国の兵士さえも心奪われるほどだった。そのせいで妖精王の心までも彼女は虜にしてしまったのだ。ドラゴンはプライドも高いが忠誠を誓えば永遠にその者に尽くすという健気な生き物だ。彼女をどうしても欲しかった妖精王は帝国に呪いをかけた。皇帝とドラゴンだけを残し住人達は全て眠りに落ちてしまい、目覚めなくなったのだ。
『呪いを解く方法は、ただ一つ。なぁに簡単な事だ。私にドラゴンを預けるだけだ。一年ほど…我が手元におきたい』
そんな取引を妖精王は持ちかけた。仕方なく皇帝はドラゴンを妖精王のもとへ行けと命じた。命じられたドラゴンは大人しく従った。強く美しいドラゴンを傍らにおくと妖精王の欲が増した。だが、どんなに優しい言葉をかけても彼女は、なびかない。頑なに皇帝へと忠誠を尽くす彼女を蹂躙し服従させたくなった。欲望のまま妖精王は彼女を犯した。もう、約束も守るつもりは無い。監禁し好きな時に犯す。それでもドラゴンは堪えていた。プライドはズタズタだったが。一年過ぎ…二年へと呪いも解かず…いつまでも皇帝のもとへ帰れないドラゴンは遂に怒り、軽蔑しーー…、妖精王に戦いを挑んだ。それは妖精界を揺るがすほどの戦いとなった。王どころか全ての妖精からも攻撃も受け怪我をおいなからも逃げ出すことに成功したドラゴンは嘆きの谷へと身をよせる。この谷の嘆く声は最も妖精が嫌う音だからだ。…自分が戻れば帝国は…皇帝は無事ではすまないだろう。彼女は戻る事も出来ず、嘆きの谷で妖精王に孕まされた子どもを産む事になるのだ。子どもを育てながらも彼女の心は常に眠りに落ちた国と皇帝への安否だけ。
『せめて呪いだけでも……』
妖精王は呪いを解かないだろう。それどころか、悪化させるかもしれない。遠い場所で帝国の呪いを変化させる術を行う、それは己の身に注ぐ事だった。只でさえ体は傷ついているのに無事で済む筈もなかった。例え、それで命を失っても本望だった。血を吐き身体中に呪いの斑点を刻み、そのせいで息子が暴走することさえ彼女は知らない。それは彼女なりの皇帝への一途の愛だったから。
一方、ドラゴンと戦った妖精王も無事ですむはずは無い。傷口からドラゴンの毒を受けていた。このまま自分は消えるだろう。…美しい、あのドラゴンを独り占め出来ない事が悔しかった、赦せなかった。嘆きの谷へと逃げた忌々しいドラゴンめ…と呟く王は妖精界の一番美しい姫を穢し、子どもを宿した。ドラゴンへの愛憎を込めて…それは呪いとなるだろう。
「う…母さん…」
腹を撫でながら嘆きの谷の叫びを聞きながら願う彼女の姿。
『どうか…幸せになって…あなたは最も憎むべき妖精王との子どもだけど…。愛しい子には変わりはない。リオム……私の加護をあなたに…』
涙を流していた。己の身体に呪いを移し子どもを残したまま去る事になるだろう。
あんな辛そうな母の表情はリオムは知らなかった。
まるで物語を読んでるようだった。ふ…と目覚めただの夢では無いことを感じた。自分は妖精王との子ども…だったのか…?
「母さん…」
寝返りを打って…どこだ、ここは…とリオムは気がついた。ガバッと起き上がり上質な絹の手触りに、ゾッとした。母とふたり暮らしだったので部屋には、その日暮らして行ければ良いくらいの物しか置いてなかった。寝るときは床で、ふたりで寄り添い薄い布にくるまって寝てたぐらいだ。
それがどうだろうか。豪奢な寝台に自分は居る。煌びやかな部屋には見た事も無いような装飾品が溢れている。
ピロン…
「?」
音と共に目の前に薄い青い板のような物が現れた。
【忌むべき過去と母の愛~エピソードを記録しました。報酬として母の加護が適応されました。これよりウィンドウが開かれることを許可します】
なんだ…?これ…文字が書かれてある。ウィンドウって…なんだ?これのことか?意味が分からない。
次に現れたのは赤い文字だ。
【危険・闇落ちルートまたは調教・服従への扉が開いてます。妖精界へと連れて来られたリオムは此処では本来のパワーは発揮できません。封印されてます。回避するには再び導きの鳥と行動してください】
「は…?」
なんだ、この物騒な文字。板を触ろうとするが、すり抜けた。
「…??」
ま、幻なのか?どうなっているんだ?何度、それに触ろうとしても空を切るだけで触れない。見えるのに。
ピロン…音とともに文字が変わりギョッとした。また赤い文字だ。
【妖精界へきた為、リオムに呪いが加算されました。呪いは解除出来ません。ハディーが近づいてます】
呪い…??なんのだよ…?どうして呪われなきゃならないんだ?!
「にぃに、気分はどう?」
文字通り、部屋にきたハディーの姿に驚いた。
この板は、なんなんだ?!予言か?赤い文字は警告をしているのか?
どうやらリオムしか見えないらしい。画面を凝視しているリオムにハディーはそちらを向くが壺があっただけで、珍しいのか?と首を傾げただけだ。ベットに腰掛けハディーは申し訳なさそうな表情をした。
「ごめんなさい…黙って妖精界へ連れてきて…でも、僕は…にぃにの棲む此処は、ここだと思っているんだよ…?僕の傍だと…ね」
そう告げるとリオムの頬を撫でてきた。
彼は健気な表情をしているが油断できないとリオムは確信していた。何がしたいのか理解できないのでそのまま好きにさせた。
この仮面野郎め。
…コイツがプクフを蹴り上げた時の顔…あの冷酷な表情を忘れるものか…。プクフ、あの小さな鳥のような妖精。時々、意味不明なことを言うがリオムにとっては心の拠だった。
「…」
…プクフはどうなったんだ?あんな勢いで蹴られて…無事で済むわけが無い。あんな小さな体を…コイツは…容赦なく…!
怒りのままハディーを睨んだ。そんな表情にもハディーは怯まず、反対に頬を染め嬉しそうな表情をしている。
「っ…!」
…なんなんだ…こいつは。何故、こんなにも執着されるのか、わからない。ねっとり…とした目つき。それが嫌でリオムは、それから逃れるように視線をそらした。ハディーからは恥じらうように見えるなどリオムは気がつかない。
さきほどの文字の事をリオムは考えていた。そして、もしかしたらプクフは無事なのかもしれないと可能性を見いだした。
導きの鳥…あれはプクフことだ。…なら、プクフは生きてる…!
頬を撫でていた手が、ゆっくりと首筋に下る。ピリッと電気が走った。
「っ…」
ピロン…
【知らない間に付けられた装備品・服従のチョーカーの為、感度が増してます】
……服従っ…?…さっきから首に違和感があるのは…恐る恐る己の首元を触れる。いつの間にかチョーカーが付けられていた。
「ああ、にぃにがドラゴンの力を暴走させないように処置させてもらったんだ…此処には他の妖精もたくさん棲んでるからね。昔、ちょっとね。ドラゴンと確執があったみたいで。ドラゴンを怖がっている子たちもいるんだよ…」
そのドラゴンとは母の事だろう。
彼が触る度にリオムはビクビクと身じろいだ。
「や、やめ…ろ…」
息が上がる、身体が熱くなる。頬はピンク色に染まり瞳が潤む。身体の急激な変化に頭が追いつかない。
「な、ん…だ…これ…これのせいかっ…」
チョーカーが取れない。引っ張るがその分、張り付く。
「う、ぐ…っ」
わぁ…エロい顔…とハディーが呟く。
【危険!故・妖精王の愛憎、執着が現・妖精王に移行しています】
は…?な、なんだ…それ?!
冗談だろう…と真っ青になった。そういえば、コイツは妖精王を継いだと言ってた。夢の中のーーーあの妖精王の母への執着が…こいつに…?
「俺に触、るな…はっ、ぅ…」
大胆に触れてくるハディーにリオムは逃れようと身動ぎ…くらくらとする視界に酔いそうになる。
「うう…」
「嫌だよ。だって…」
ハディーは、にたり…と嗤う。
危険の文字が次々と表示するウィンドウ。青い画面が真っ赤な字で染まる。
「…俺のモノだ…本物のリオムを攻略する…ぞくぞくするぜ…」
ハディーは、獲物をどう料理してやろうかと嗤った。
「っ……!」
『あの、…くっそ…妖精王めー!』
蹴り飛ばされ墜ちた先は池だったから、無事ですんだもののーーーっと池から出てきたプクフは、ビシャビシャで右横がグニュリと凹んでいた。彼に蹴られた際に凹んだのだ。
『ふんっ…ぬー!』
内側から力を込め~ぽんっ!とふっくらした姿に戻った。元通りだ。
『…。妖精じゃなかったら死んでたわ…というかモブにしては私、頑丈じゃない?』
それにしても…と考える。
『あれ…本当にハディーだったの?蹴り入れる妖精王ってなんなのよ!!!!…イメージが原作と違うー!!!』怒鳴る。
ここは転生する前に読んでた小説だと気がついたのは、この体になってからだ。
原作は小説だったが、この物語は実は沢山、ifがある。アニメ、ゲーム。マンガとそれぞれストーリーは変わっていた。自分が好んで読んでいたのは原作の小説だ。
原作のハディーは前妖精王を反面教師にしている為、誰に対しても優しい心で接するキャラクターだ。間違っても小さな妖精を蹴り上げる野郎では無い筈だ。そもそも、ドラゴンの力を暴走させ地獄のバケモノのような兄の能力を封印したのもハディーだった。
『それは私が奪っちゃったけど』
孤独なリオムを救い、彼の光となったハディーは居場所が無いという兄を連れて妖精界へ戻る。ところが妖精界には前妖精王のドラゴンに対しての執着が蠢いていた。それは呪いとなり現実に現れる。そう、リオムは母と同じように身体に斑点ができ…苦しむ日々が続くのだ。自分を救った弟のハディーの傍に居たかったリオムは黙って堪えていた。闇落ちルートへの序章だ。
『更に周りの妖精たちは過去の出来事で妖精王が亡くなったのはドラゴンだと憎んでるから陰湿な虐めを受けるのよー!わーん!呪いに虐め…苦しむ、リオム!ここ…私、めっちゃ泣いたのよー!酷いのよー!だからハディーとは会わせたくなかったのにー!!!!妖精界に行く羽目になるから。あー!原作のリオムは健気に堪えていくのーーそこがまた、いいのよ!』
バンバンと土を叩く。
『でも一番の赦せないのは…』
ぐずっと鼻を啜り、怒鳴った。
『女に恋した途端に兄の事を疎かにしたハディーなのよーーー!』
わなわな…と震える。
リオムの呪いを解くには帝国の血筋の者しか居ない事を知ったふたりは地上に降りる。が、皇女と出会ったハディーは一目で恋に落ちる。途端に兄の事は後回しだ。そこからは何ページも皇女とラブラブな話が長々と続く。読者はふたりの運命なような恋に憧れるが…。
『読んでて私、なんの話を読んでるのか途中、わからなくなったのよね~。…だって、私の推しはリオムだったから。これ題名に皇女と妖精王って入ってたっけ…って気がついたのよね…いつの間にか推しのリオムが主人公だと思い込んでたからなー』
さて、リオムはラブラブのふたりを目の当たりにして自分なりに祝福しようとする。が、呪いの為に醜い姿になったリオムの姿を見た皇女は彼は魔物だと勘違いする。そこから悲惨なのだ。帝国の騎士達はリオムを魔物として攻撃した。リオムは己を守る為に反撃するが…それは帝国を攻撃したと皇女を殺そうとしていると誤解され、ますます窮地に陥る。遂にはハディーさえも皇女の言葉そのままを信じ、兄は心まで魔物になったと決めつけた。
ハディーは皇女と力を合わせ…能力を全く使えなくなったリオムを追い詰め殺すのだ。
『リオム…ひっく…うう…。俺は誰にも愛される事は無い…そんな言葉を口にしてリオムは殺されるの…ひっく…ひっく…酷いよ…原作…本当に酷すぎる!わーん!』
アニメ版では皇女に恋慕するリオムになっている。恋する二人を邪魔するが、ここでも最終的にリオムは死ぬ。皇女に全く相手にされず闇落ちしたリオムの映像は綺麗だった。スタッフの力が愛が込められていると感じた回だ。だがなんで死ぬのー?!幸せにならないのー?!とここでも泣いた。やっぱり、アニメもそうなる。
『…ゲームのは違ったのようね…あれは私プレイしてないのよね。仕事がおして…気がついたら、この妖精に転生してたから。気になって検索はして…確か…皇女メインと隠しイベントでリオム攻略もあるってツゥッターで騒がれてて~』
あ…っとプクフは、そのツゥッターの画像を思い出した。
腐女子のイラストだと思ってたが…。ハディーとリオムが抱き合ってるイラストがたびたび、あがっていた。そのたびに、なんじゃこりゃと顔をしかめていたのだが。
【公式がハディ×リオを出した!このハディー様、鬼畜。最高!絶対プレイするべき】
【リオム受…オメガネタでやってみた!違和感なさすぎ!】
【リオムの喘ぐ姿、ヤバ…これR指定しなくても大丈夫なの?】
【ハディー様、俺様ぶり。執着が凄い!ってやってるのは私だけどWWW】
【リオム…なんでこんなエロいの?犯させていただきました~】
人気声優を使っていたので、凄い騒ぎでー…
あれ?ちょっと…待て。ハディーの性格というか…私を蹴り飛ばす、冷たい表情とか。
【これ攻略キャラをハディーですると必ず冷酷非情になる、ヤバい萌える】
『ちょっと…待って…これ…どのワールドなの?原作メイン?アニメ?まさか…ゲーム???』
もしゲームなら…?
リオムが危ないんじゃないの!いや、あのハディーはどう考えてもゲーム版じゃないの???!
腐女子が喜ぶ…私の地雷?!
『プレイしてないから、分からないけどーーーーリオムの貞操の危機じゃー!』
ぎゃーーーっプクフは慌てて飛び立った。
妖精界へーーーー!リオムーー!待っててーーーーー!
どこまでも長い廊下が続く。
「はあ、はあ、はあ、…」
ハディーを何とか押しのけ、リオムは部屋から飛び出したのはいいが今度は体が火照ってふらふらしていた。
後ろから自分を呼ぶ声が聞こえる。ふらふらしているリオムを捕まえる事なんて容易い筈なのにわざと逃がし追い詰めているのだ。
楽しんでいる、アイツ性格、悪ぃ…!
ピロン…
【ミッション。妖精王ハディーから逃れよう】
ミッションだと…?
【成功の報酬。装備品のチョーカーの力が半減されます】
「ハァ…、は…」
【失敗のペナルティー。檻に監禁されハディーに犯されます】
ふ、ふざけんな…!なんだ!それはー!
その文字によろけたリオムは背後の扉が開いた事に気が付かなかった。
「!」
ふらつき、そのまま背中から部屋に入って尻餅をついた。ぱたん…と閉じた扉の横に女性が立ちリオムを見下ろしている。
その女性はハディーにそっくりだった。
ピロン…
【ハディーの母親。彼女は故・妖精王を愛し憎んでいます】
ハディーの母親…?まさか、この板に表示されるとは思わなかった。人物紹介までするなんて。しかも妖精王を憎む?
はぁ…と彼女は溜息をついた。
「まさか…本当に連れて帰ってくるなんて。よく似てるわ…。あの子が執着するわけね…」
蛙の子どもは蛙ね…と彼女は呟くと「こっちよ」リオムを奥の部屋に押し込んだ。
「もっと奥に隠し扉がある、そこから庭に出れるわ。時間は稼ぐから…逃げなさい」
何故か、彼女は逃がそうとしてくれている。
そう囁くと彼女は向きをかえ「ハディー。夜中になにしてるの?煩くて眠れないんだけど?」と廊下にいるハディーに声かけた。
「お母様、ごめんなさい……にぃにが部屋から出てしまって。他の妖精達が見たら怖がってしまうかと…」
「本当に…ドラゴンを連れて帰ってきたの?」
白々しく驚いた真似をする。
「お母様も会いたかったんじゃないんですか?親友の子どもに」
隠し扉を探していたリオムはその言葉に耳を傾けた。親友…?
探っていた壁の一部が扉になり開く。続きを知りたかったが【チャンスは一度きり】の表示にリオムは、その扉を開き庭に飛び出した。
【成功!チョーカーの力が半減しました】
グンッと力が蘇ってくる。
隠し扉からリオムが出て行ったが確認が取れないので彼女は話を続けた。
「…。でも、私…言ったはずよ?ドラゴンは自由になりたかったと…あなたにそう教えたはずだけど。もう王は亡くなったなら…彼女の息子まで此処にくる必要はないわ」
「必要ですよ…あれは僕のモノだもの…手元におきたいでしょう。…ああ。また裏切るんですか?お父様を裏切ったように…」
「何を言ってるの」
「…お母様が捕らえたドラゴンを解放したんでしょう?…だから…お父様は怒り、あなたを犯した…そして僕をつくらせたんでしょう?再びドラゴンを捕らえるために。僕は王の執着の塊だ」
「…、…違うわ…」
くすり…とハディーは微笑した。その笑みは父親にそっくりだった。
「全く人間の世界に興味がなかった妖精王が…人間の世界のドラゴンに興味を持ったのは…あなたが妖精王の気を引くために教えたせいでしょうに」
息子の言葉に彼女は真っ青になった。どうして知っているのだろうか…誰も知らないはずなのに。
どくどく…と心臓が早鐘を打つ。
自分のせいで彼女の大切にしていた帝国が呪われた。妖精王の気を引く為したことが親友を悲しませるようになってしまった。誰にも言えない、親友にも…。
『あなたも一緒に逃げて…妖精王に何をされるか…』
ああ…愛しいドラゴン。誰よりも大切だった親友…私が妖精王に彼女の存在を話した事で…起こった悲劇…。
『ムリなの。言ったでしょう?嘆きの谷は妖精は近付けないって。妖精王さえも嫌う声に…普通の妖精の私が一緒に居られるはずも無い…大丈夫。そこならあなたは自由よ。ねえ…私が居ないからって泣いて暴れ無いでよ?あなたが暴れたら谷が壊れちゃうわ』
そう言って彼女と別れた。妖精王は逃げる彼女を追いかけ、軍を引き連れ戦った。ドラゴンとの壮絶な戦い。自分は震え祈るしかなかった…どうか、無事に谷へ着いて…と。
がくり…と膝をついた母の姿にハディーは嗤う。墓場まで持っていく。そのエピソードはゲームのエンディングでようやく流れる。クリアしないと見れない。
さて、とハディーは彼女の横を通り過ぎるときに囁く。
「隠し扉から庭に逃がしたんですか?母親と同じ道を辿らすなんて…皮肉ですね…」
「…うわ」
庭園はありとあらゆる花が咲き誇っていた。あまりの美しさに思わず感嘆な声を発しリオムはしばらく心を奪われてしまった。さわさわ…と花々が揺れる。それは小さな妖精達が騒ぎ始めているからだ。これでは、すぐ見つかってしまう。
【ミッション。人間界へ続く道を見つけましょう。制限時間3分】
「…また、これかよ…」
しかも制限時間まで…。キョロキョロと辺りを見渡し、這いつくばって植木の下など見るが見つからない。
【残り2分】
ピロン…
【時間以内に見つからない場合のペナルティー】
【檻に監禁。ハディーのペット】
「っ…、ふざけんな…俺をなんだと…!」
慌てるが、そんなに都合よく見つかるはずも無い。
【残り1分…秒読みを始めます】
「っ~!」
イヤだ…あいつに飼われるなんて!!
『リオムーーー!』
ボンッと顔にアタックしてきたのはーーー
「プクフ!」
『わーん!無事だったー!』
「お前…どこから…よく無事で!」
【残り25秒…】
『ここよ、この穴が人間界へ続くの』
【ミッション成功!導きの鳥も見つかりました!】
「ーーーっ!!!プクフ!」
やっぱり導きの鳥だ!とリオムはプクフを抱きしめた。
『うっほ…推しに圧されて…』
プシュッ…とプクフから鼻血が飛び散る。
「うわ!プクフ!」
「どこ行くの…リオム。…また、その饅頭か」
いつの間にかハディーが背後にいた。
「っ…行かせない…」
プクフを抱きしめ人間界へと続く道に入ろうとするリオムだが。
ピロン…
【服従のチョーカーの力でリオムは逆らえません。意識を奪われます】
「うぐっ…!」
突然、リオムは地面に伏せるように倒れた。
『リオムっ!どーしたの!』
びくびく、と痙攣しているリオム。瞳は虚空をみている。
『意識を…奪ったのね!あんたねー!どこまで卑劣なのよぉおおお!!!』
怒鳴るプクフにハディーは冷たい眼差しで告げる。
「ウルセェんだよ、饅頭。せっかく…無敵なハディー様になったんだからよ。…愉しむもんだろう?ゲーム通りリオムを攻略させろよ…」
『は?ゲームって…ま、…まさか…あんたも転生…』
自分以外に転生者が!
「やっぱり、お前もかよ。おかしいと思ったんだよな。は、モブ饅頭なんかに転生とか嗤えるな。モブのお前に教えてやるよ。…リオムはなァ…これから俺無しじゃ生きれなくなるんだよ。そうだな。…調教して…淫乱なドラゴンにしてやるのもいいなぁ。ただ犯すだけじゃつまんねぇよな。だから邪魔すんじゃねーよ。…今度は蹴るだけじゃ済ませねぇ…この世界から…消してやるよ!」
ゆっくりと近付くハディーにプクフは、ぶるぶると震えた。それは恐怖でなく怒りだった。
『私の推しを…穢させないー!喰らえ!必殺ーーーー…!』
「?!」
驚くハディーに向かってプクフはバタバタと羽根を上下に振った。
「????」
バタバタバタバタバタバタバタバタ…土が舞い上がり…砂煙となる。
「…なんだ、そりゃ」
攻撃でも何でもない。ハディーは腕組みして傍観する事にした。砂煙で、どうするんだ?馬鹿か、こいつと あきれ気味と無駄な足掻きをする饅頭をどう料理してやろうかと。しかし砂煙は、もうもうと立ち上がり…気がつくと辺り一面、砂でプクフの姿もリオムの姿も見えなくなった。
「っ…風よ!」
突風で砂煙を飛ばしたが後の祭りだった。すでに、あの饅頭もリオムも居ない。
「間抜けな術を使いやがって…!」
ゲームにそんなアホなワザを使うキャラは出てこない。しかも、人間界へ続く穴は、ちゃっかりと土で潰されていた。
「あ、あの…饅頭…っ!も、モブのくせに…クソっ…涎で土が!!!!」
怒りに染まったハディーの力は一気に溢れた。放出されたパワーに耐えれず庭園の花々が枯れていく。バタバタ…と花々の妖精達が地面に落ち消滅した。妖精界の住人の半分以上がハディーのせいで消滅してしまった。それでも怒りは収まらない。
「うおおおおお!!!」
雄叫びを上げる妖精王は怒りのせいで暴走した。
ピロン…
【支配下の領域では無い為、装備品の服従のチョーカーを外す事ができます】
かち…という音と共に首もとが涼しくなった。
「…」『うへへへ…長い睫毛がぷるぷる震えて…可愛ぇー…じゅるる…』
変態的な声に思わず、リオムは吹き出した。
『あ!狸寝入りしてたの!ヒドいっ!リオム!』
「違っ、気がついたらプクフの声が聞こえたんだ」
ゆっくりと起き上がりリオムは辺りを見渡した。砂浜に寝転んでたらしい。ザーン…ザーン…と聞こえる方向には大きな水が波打つ。
「水が…生きてる…」
リオムの言葉にプクフはそれは海だと教えた。
「これが…海」
なんだか心地良い。海を眺めるリオムにプクフは『リオムは水の加護を持つドラゴンだから惹かれるのかもね』と微笑む。
「…プクフは俺以上に俺のこと知ってるみたいだ」
『まぁ、…ね』
そりゃー…推しのキャラだし…番外編も読んでるから…ある意味ストーカーよね…と心の中で、己を突っ込む。
『前にも言ったけど。私は転生者だから…私の世界ではリオムたちの物語があるの…。私はそれを読むのが楽しみだった。だけど…それに描かれてるリオムは必ず…不幸な人生を終えるの』「…」
今ならリオムはきちんと私の言葉を聞いてくれるかもしれないとプクフは正直に話そうと決めた。何度も転生したと言ってもリオムは首を傾げるだけで信じてくれなかった。言ってる意味が分からないというばかりで、最初から本気で聞いてくれなかった。
『私はそれを知ってるから…リオムを救いたい。私はその物語には出て来ないキャラなの。でも、全く出て来ないキャラが何で居ると思う?』
「…」
『きっと…リオムを助ける為だけに生まれたのよ』
というか、私の執念が形になった気もするが。
ピロン…
【導きの鳥のレベルが上がりました】
『…なに、これ…?何でゲームみたいなウィンドウが開いてるの?』「…プクフ、見えるのか…?」
驚くリオムにプクフも吃驚だ。
『え、もしかしてリオム、ずっと見えてたの?私は今、見えたけど???というか導きの鳥って私?私…妖精なんだけど…』
もしかして私自体、バグなのかしら?
「ずっとじゃ、無い。妖精界に行ってから…なんかエピソードを見たからって、それから見えてる。触れないんだ」
『…これゲーム画面じゃん!触れるわけないわよ!』
「…ゲーム画面とか言われても知らねーし…こんなの出るのか?俺は嘆きの谷で母さんと生きてた事しか記憶に無い…プクフみたいに別世界から来たわけじゃ無い」
『バグかしら…?』
首を傾げるプクフにリオムは「そうだ、妖精界からプクフが助けてくれたんだろう?ありがとう」とお礼を告げた。
『推しのありがとう!…ああ、尊い…』
ぶわっと涙を流すプクフ。転生して良かったあああ!
「あのままじゃ俺は…檻に入れられ…あいつに…その、ヤラレてたらしい…」
『え゛…あいつ、リオムにもそんな事を言ったの?!セクハラじゃん!!!』
「…さっきの板に書かれてあったんだ…脱出失敗したら…ペナルティー…て…犯さ…」嫌そうに告げるリオム。想像したらしく青くなっている。
『なに、そのペナルティー!R指定ゲームかよーーー!んなこと私がさせるかーーー!』
憤怒するプクフは、しばらくバタバタ…と飛んでいたが。
ピロン…
【リオムの体に呪いが、かかったままです。呪いを完全に消去しなければ、時期に命が消えます】
その文字にリオムは「プクフの言ってた通り…俺は不幸な人生で終わるんだな」と諦め気味に呟いた。腕に痛みが走る。見ると母と同じように斑点が表れていた。
「…」『なに、いってんの!させない!私が!その呪いを解く方法は知ってるもの!帝国にすむ皇族の騎士になればいいだけの話なの!』
【皇族の騎士の称号を手に入れれば解除されます】
「皇族…」
母は…帝王に仕えていた。戻るのだ、そこへ…。
『ほら!言った通りでしょう!』
…ただ、一つ問題があるのよね~…う~とプクフは唸る。
わがまま皇女の存在だ。ストーリーではハディーに恋する。何故ならば…あとがきの追加話で描かれていた皇女の好みは銀色の髪、真っ白い肌、青い瞳なのだ。天使のような姿のハディーに心を奪われたと…こればかりは難しい。そうなるとリオムは、好みに当てはまらないのだ。それに闇落ちルートにいきそうで怖い。
『…』
皇子しかいないじゃない?
ただ、彼はストーリーにはあまり出てこなかった。皇子は病弱で死の淵にいるからだ。皇女の結婚式で少し登場しただけで後に亡くなったとしか描かれていない。
『皇子か、うん…そっちの方がクリアし易いかも…とりあえず、騎士の称号さえ取れれば呪いは解けるもの!リオム!帝国に行くわよ!』願わくば、リオムが皇女に恋しなければいいが。そうなると闇落ちルートに真っ逆さまだ。
『…しばらくはハディーは人間界へ来れない筈だし、行動するなら今のうち!』
何でそんな事を言えるんだ?と問うてくるリオムにプクフは威張って教えた。『番外編にあるのよ、はじめての怒りって。小さな妖精がハディーに悪戯するんだけど。大切にしてたオモチャを人間界へ投げ捨ててしまうの。人間界へ通じる道も塞いでしまって。するとハディーは怒り、そのせいで妖精王の力が暴走してしまうのよ。正気に戻るの時間かかるから』
きっと今は、その状態だろう。そのせいで妖精界は破滅的な損傷を残す。ハディーがもとに戻った時…あまりの現実に嘆く羽目になる。その為、慈悲の心が生まれたと書かれてあったけど…転生者のアイツにあるかしら?と頭の片隅で思った。
【イベントが発生しました】
【帝国で騎士の称号を入手しましょう】
【報酬・呪いの解除】
【失敗・死亡】
は~い、プクフでーす!読んでくれてありがとう!次回はリオムと帝国に行って皇子を誑か…ぐふぐふ、騙す…じゃなく…
騎士の称号を手に入れまーす!
え?なーに?ハディ×リオムのR指定はいつかって?
はあああ~???んなの無いわよー!私がさせないし…あと闇落ちルートも回避させるわよ!
あー!もー!リオム、マジっ可愛いですけどーーー!やべぇ…ぐへぐへ。
おっと…やーだ!ずっと寝顔ばかり見てぐへぐへ言ってるわけじゃないわよ!
え?寝顔を覗くの…やめろ?イヤよ…私の楽しみなのに!
まあまあ。私…導きの鳥なのよ!リオムを幸せにするの、だから…それぐらいO.K.じゃない?
妖精…なんだけど…おっかしいな…
おかしいって言えば、何で転生者でもないリオムにウィンドウが見えるのかしら…?
んー、そこも後々、明かされるかも!
あと、アイツ。同じ転生者のハディー。まさか、ハディーも転生者なんて。アイツ…マジ、最悪だわ。私よりヤバいわよ。あの眼…変態ね。
そうそう、次回は正気に戻って人間界へくるのよ。頼むから皇女とラブラブしてくれないかしら?私のリオムに手を出さないで!
推しのリオムの幸せを願う、私って凄い健気よね。
☆頑張れ!と応援してね
では次回でお会いしましょう!
え?本当にハディ×リオは無いのかって?しつこいな。あんた。
はあ?…エロ読みたいって?
…それ、私の地雷なんだけど。
そっち系は作者にリクエストしてくれない?私に言っても無駄だから。
そりゃー喘ぐリオムはっ…見たいけどっ…見たいけどっ…
画面いっぱいに花びらが舞い散り、その長々しい題名が輝きながら現れる。流行りに乗ってるせいか?それともあらすじを省く為にストーリーを題名に持ってきてるのか…?は、謎だが。
突然、どどん!っと城をバックに勝ち気そうな皇女が腕を組み見下ろす。不敵に笑う彼女は美しかった。そこへ一陣の風が舞う。銀色の長い髪をなびかせ妖艶な男性が現れた。切れ長の群青色の瞳が皇女を映す。途端に皇女の表情は変わり恥ずかしそうに頬を染め彼に微笑んだ。
この物凄くわがままに育った皇女は妖精王と出会い、恋に落ちる。妖精王の優しさに触れ彼女は変わっていく。
だが、ふたりを邪魔する悪役も現れるのだ。その悪役はなんと妖精王の兄でーーーーー…
ちちち…
鳥の囀りでリオムは目覚めた。うっすらと瞼を開いて…ぼやけた視界にうつる影。
「?」
眉間に皺を寄せる。
「…?」
もの凄く近い為に、ぼやいて見えただけだった。枕に埋まるように目の前にいたのは雀ーーーーーいや、でっぷりと太った大福のような鳥だった。
ぶつぶつと何か呟いてる。
嘴から涎を垂らし、この上なく…だらしない表情で『うへへへ…まるで絵に描いたような上品な顔だち…漆黒の髪はさらさらだし…深い群青色の瞳も綺麗。少年から大人へとかわる成長段階…うふ、ぐふ、もろ好み……サイコーかよ…ぐふぐふ…眼福、眼福…萌…』
…正直、気持ち悪い。
『あ、おーはよう!リオム』
青ざめている彼に気がついた鳥は翼で慌てて涎を拭くと。今更だが、可愛らしく首を傾げた。ピヨッ♪と。
「お…はよう…プクフ…」
朝からイヤなモノを見てしまった…と思いながら、とりあえず挨拶をすました。普通にしてれば可愛い、どっぷりと太った鳥なのに。いや、彼女は(メスらしい)実は鳥では無い。なんと、妖精だというのだ。正直、とても妖精には見えないが。
そんな彼女と出会ったのは嵐の晩だった。
この[嘆きの谷]と呼ばれる場所は、とても人間が好んで棲むような土地では無い。何故なら夜になれば谷に強風が舞い込み、怨霊のような悲鳴じみた音が辺り一面に鳴り続ける。別名・悪霊の谷とも呼ばれ地元の人々から恐れられていた。
リオムは物心がつく頃から母とこの場所で暮らしていた。
『この恐ろしい嘆く音は私たちを守ってくれる』
そう告げる母は子どもの目から見ても美しい人だった。まるで星も出てない夜空のような漆黒の長い黒髪。だが切れ長の黄金の瞳は常に警戒を含んでいた。それはどの宝石よりも綺麗だった。紅を引いたような、ふっくらとした唇から発する声は誰もを魅了させる力があった。人間とはかけ離れた美しさを保つ女性。それもそのはず彼女は帝国のドラゴンであり女騎士だったのだ。本来なら、こんな場所にいるべきではない。
だが妖精王に騙され、この嘆きの谷へと逃れたとリオムに教えた。その時の怪我のせいで空に舞うことも本来の姿に戻る事も出来なくなったと寂しそうに告げる。だがいつか皇帝のもとへ戻るのだと…母はリオムに何度も伝える。
王に仕える事、それが私の幸せ。
そのせいか、それはリオムのやるべき事、願いにもなっていった。だが、その夢は叶わず。母は突然、血を吐き出し身体中に斑点が現れるとあっという間に亡くなった。動かなくなった母は最期にドラゴンに戻れたが、塵となり消えた。たったひとりの家族を失いリオムは悲しみのあまり初めてドラゴンの力を暴走させた。それは嵐を呼んだ。もともと谷に近付く者はいない、そんな場所にリオム達が棲んでいたことも誰も知る筈もない。
そう、彼を慰める者はいないのだ。
この世にただ独り残され…人の形のままドラゴンの力を発散する。制御が出来ないリオムは悪魔のような雄叫びを発し自暴自棄になっていた。谷は壊れ木々は砕け、森に棲んでいる動物達は恐れ逃げ回った。逃げきれなかった動物は悲鳴を上げる間もなく死んだ。
「アアアアアーーーーー!」
そのままでは完全に彼は力を使い果たし命を失っていただろう。ドラゴンであった母に力の使い方を教わってないのだから。ヒトと同じように育ってきたのだから。
そんな暴走するリオムの目の前にプクフが落ちてきたのだ。
『酷すぎるー!転生するなら普通、聖女とか悪役令嬢とか…せめてモブでも人間じゃないー?!こんな太った鳥みたいな妖精とか意味わからないンだけどーーーーーーーーうぎゃあーーーー!』そんな叫びとともにリオムの胸に、ぼよんっと飛び込んできた彼女は、クワッと目を見開き『のほー?!え!もしかして、これはリオムの幼いころじゃない?!え?マジで?!え?これ胸っすか?!胸元にイン?しちゃった!おほー!ちっくびぃー?!さいこー!』ぶふぃー!と真っ赤な血を吹き出し、ガクリと気絶した。
「ー…」
正直、呆気にとられた。こんな状況で、なんて間抜けな事を口走るのか。
何なんだ、この鳥は…。
「…」
暴走しているリオムに何も近寄れるわけがないのに。
だが、この鳥だけは違ったのだ。偶然にしても、よりによって胸元におちてきて幸せそうに鼻血を垂らし、今は痙攣している。
『おっふぅ…推しの乳首…ハンパねーな』
リオムの制御できなかった力は、その間抜けな鳥のおかげで収まっていた。
「…」
いつの間にか嵐は止まり、リオムはその鳥を両手で包んだ。涙が溢れた。
『はへ…、泣いてるの?』
怖くないのか…俺が…?そんな呟きに鳥は『なんでよ?』と首を傾げる。
『…ああ、そんなになって…辛かったね…』
嵐に巻き込まれボロボロの姿なっているのは、この鳥なのに。羽根もクシャクシャなっている。それは自分のせいだ…俺が起こした嵐のせいで…なのに…
その小さな命にーーーーリオムは涙が止まらなかった。
『ふへ?…やだ!泣かないでよ…ぁ…私が傍にいるから!泣かないで…』
出会いをとても良いものでは無かったがこうしてプクフにリオムは救われたのだ。
それからはリオムの隣にはプクフがいることが普通になっていた。鳥のような姿をしているからか、癒される。
ただ、時々プクフは今朝のように気持ち悪い事を口走る。OLだったとかフラグは根っから折るからとか転生しちゃったのよと意味のわからない言葉も多いがリオムにとっては無くてはならない存在になっていた。
『さぁリオム!出かける用意できたかしら?!』
「出来たけど…どこへ行くつもりなんだ?」
さっきから着替えをずっと覗いていて用意できたも何もないだろうがと思う。しかし、何故か扉の隙間から覗いて。いいわー…いい感じについた筋肉、少年から大人へと変化していく体、さいこぉヤバァ…えろぉ…萌殺しかよ…ブツブツと相変わらず気持ち悪い事を呟いてた。
行動も変態的だ。
とりあえず彼女の小さな鼻の穴にティッシュ突っ込む。こんなに鼻血を出して大丈夫なのかとリオムは心配になった。
『とりあえず、街に出てー。…谷はリオムの能力でぶっ壊れてるから…もう見つかるのも時間の問題よね。まぁ、アイツさえ出会わなきゃ上手くいくはず…時期的には、まだ。早め、早めに行動すれば大丈夫!リオムは私が守…』
ドォオオーン…!
何かが谷の森に墜ちた。ビシビシとリオムの棲んでいる小屋まで揺れた。
「なんだ…?」
『は?!ちょっ、まさか?え??!って!リオム!行っちゃ駄目よーーーー!』
プクフが止める間もなく、すでにリオムは小屋から走り出していた。もう見えない。
『速いー!さすが…ドラゴン…身体能力ハンパ無いっ…て感心してる場合じゃないー!ま、待ってよーーー!…はぁはぁ…なんで、この体…重いのよ…!翼も短いし…はぁ、はぁ…くそー…おっも…!前世は痩せてたのにぃ…お、おも…』
はぁはぁ…と、ヨロヨロ…ふらふら…しながら、やっと追い付くと力尽き『だはー…』ぼてんっと地面に落ちた。見上げるとリオムが少年を瓦礫から助け出している途中だった。
『げぇー!』
プクフが嫌そうに悲鳴を上げた。
助け出した少年は輝くような銀色の髪だった。人とは思えない真っ白な肌。長い銀の睫毛を震わせ群青色の瞳が潤んでいる。その瞳はリオムを見つめた。ピンク色の唇はしっとりと濡れ少年なのにどこか妖艶な色気を漂わせている。
「…」
リオムは、なんて綺麗なのかと目を奪われたが、逆にあまりの美しさに怖さが勝った。そして、ふと…どうして、此処に走ってきたのだろうかと疑問に陥る。それが当たり前の行動で、体が勝手に動いた。そう、行動するのが決められた事のように。
「…っは!プクフ!」
こんな美少年を見れば、きっとプクフは鼻血を吹き出し気絶するかもしれない!と振り返るとプクフはブルブルと震え『かー!なんで登場すンのよー!あんたの登場はまだ先でしょー!時間系列を無視すんなよー!』ビュンっと飛び込んで来ると翼で少年の頭をバシバシと叩き始めた。リオムはたじろいだ。
「プクフ!やめろ!なにしてんだ?!羽根が!」
『きぃー!』
辺りに羽根が舞い散る。鳥にバシバシと襲撃される少年はリオムに抱きつき「……!にぃに…助けて…!」と震えた。
「にぃに?…って…?」
プクフを片手で鷲掴みにしてリオムは少年に聞き返す。
「…にぃに…僕の兄さん…、…僕の名前はハディー…。弟だよ」潤む群青色の瞳がリオムを映した。
「…?お前が弟…?」
あまりにも似てない。似てるといえば同じ群青色の瞳くらいか。弟がいるなんて聞いてない。
「にぃにも、やっぱり…お父様と同じ群青色の瞳だね…綺麗だ。僕、迎えにきたんだ…僕と一緒に妖精界へ戻ろうよ?」
ぎゅっと両手を握ってきた。リオムの片手に収まっているプクフが『苦しい~』と訴えている。
「妖精界…?…っ、…、何で俺がそんな所に行かないとならないんだ…」
妖精王に騙され母は妖精界で監禁のような生活を強いられた。…そう、忌々しく告げる母の言葉は忘れられない。
『妖精王は我らの敵…妖精界など…』
…最も忌む場所だ!
「俺の戻る場所は…帝国だ…」
とっさに出た言葉は。それは母によって洗脳されていた言葉だった。
「帝国?…どうして??だって、僕らのお父様は妖精王だよ。もう…亡くなったけど。だから僕がね、王を継いだんだよ。そうしたら、にぃにの存在を感じたんだ…これはお父様のパワーだよね。お父様はずっと気にかけていたんだって解ったよ。それで僕は水晶で、にぃにの姿を映したんだ…にぃにの姿を見たら、いてもたってもいられなくて…にぃにの傍に行きたいって強く願ったら…ーここにきたんだ!」
嬉しそうに彼は聞いてもいないのに話す。
「…俺の、父親が…妖精王だと…?」
そうだよ?どうしたの?と不思議そうに訊ねる彼に腹がたった。
嘘にしても赦せない…。
母から父の存在は聞いていなかったが。
父親が…妖精王?騙されたと言ってたんだぞ。監禁されて…最も憎む相手だと。そんな相手が親?!
震えるリオムの手からプクフは逃れた。ぼてっと地面に落ち、無理やり原作と同じ流れになってる事に恐怖を感じた。
妖精界へリオムが連れて行かれる!強制力なの?
「お父様の事、聞いてないんだね…お父様は黒のドラゴンを…」
『んなの聞いちゃ駄目!…!』
「さっきから…気になってたけど…この饅頭…」
ハディーは、ふーっと息を吐き出す。
『ま・饅頭ですってー!』
わなわな…とプクフは震えた。寄りによって饅頭!
「お前…本当に邪魔だな…」
冷たい視線と口調でハディーは告げると彼女を思いっきり蹴り上げた。
『ぎゃ!』
プクフは勢いよく空に飛んで行った。
「プクフっ!お前ー…!」
躊躇せず行った行為にリオムは彼の胸ぐらを掴んだ。
「…おやすみなさい。にぃに…」
「ーーっー…」
冷酷に微笑するハディー。その瞳が光る。それを最後にリオムの意識は急激に閉じた。ドサッと地面に落ちたリオムを見下ろし彼は…溜息をついた。「可愛い口調で喋るのも疲れるよなぁ…」と、ガラリと表情を変える。
「…ゲームと明らかに違う」
倒れているリオムを見つめ「俺が母を失い悪鬼となったリオムを封印する筈なんだがなぁ」首を傾げる。
比較的、簡単だと思って早めに来たんだが…既にリオムは通常に戻っていた事に舌打ちする。
「俺の本来の役目を、あの変な饅頭が取りやがって……あんなのゲームにいたか?ま、いいか」リオムを抱きかかえる。
「水晶で見てた時より…可愛いじゃねーの?大人になったら…」
ペロリと舌なめずりして…その姿を思い出し彼は、ほくそ笑んだ。
「あの喘ぐ姿のビジュアル……ナマで見れるってことか…」
ハディーはリオムを抱きかかえたまま、ゆっくりと浮上する。鼻歌を唄いながらリオムが最も忌む場所へ向かった。
その帝国の黒龍は有名だった。
ドラゴンの姿も恐ろしく美しいが何よりヒト型になった彼女の戦場を駆ける姿は敵国の兵士さえも心奪われるほどだった。そのせいで妖精王の心までも彼女は虜にしてしまったのだ。ドラゴンはプライドも高いが忠誠を誓えば永遠にその者に尽くすという健気な生き物だ。彼女をどうしても欲しかった妖精王は帝国に呪いをかけた。皇帝とドラゴンだけを残し住人達は全て眠りに落ちてしまい、目覚めなくなったのだ。
『呪いを解く方法は、ただ一つ。なぁに簡単な事だ。私にドラゴンを預けるだけだ。一年ほど…我が手元におきたい』
そんな取引を妖精王は持ちかけた。仕方なく皇帝はドラゴンを妖精王のもとへ行けと命じた。命じられたドラゴンは大人しく従った。強く美しいドラゴンを傍らにおくと妖精王の欲が増した。だが、どんなに優しい言葉をかけても彼女は、なびかない。頑なに皇帝へと忠誠を尽くす彼女を蹂躙し服従させたくなった。欲望のまま妖精王は彼女を犯した。もう、約束も守るつもりは無い。監禁し好きな時に犯す。それでもドラゴンは堪えていた。プライドはズタズタだったが。一年過ぎ…二年へと呪いも解かず…いつまでも皇帝のもとへ帰れないドラゴンは遂に怒り、軽蔑しーー…、妖精王に戦いを挑んだ。それは妖精界を揺るがすほどの戦いとなった。王どころか全ての妖精からも攻撃も受け怪我をおいなからも逃げ出すことに成功したドラゴンは嘆きの谷へと身をよせる。この谷の嘆く声は最も妖精が嫌う音だからだ。…自分が戻れば帝国は…皇帝は無事ではすまないだろう。彼女は戻る事も出来ず、嘆きの谷で妖精王に孕まされた子どもを産む事になるのだ。子どもを育てながらも彼女の心は常に眠りに落ちた国と皇帝への安否だけ。
『せめて呪いだけでも……』
妖精王は呪いを解かないだろう。それどころか、悪化させるかもしれない。遠い場所で帝国の呪いを変化させる術を行う、それは己の身に注ぐ事だった。只でさえ体は傷ついているのに無事で済む筈もなかった。例え、それで命を失っても本望だった。血を吐き身体中に呪いの斑点を刻み、そのせいで息子が暴走することさえ彼女は知らない。それは彼女なりの皇帝への一途の愛だったから。
一方、ドラゴンと戦った妖精王も無事ですむはずは無い。傷口からドラゴンの毒を受けていた。このまま自分は消えるだろう。…美しい、あのドラゴンを独り占め出来ない事が悔しかった、赦せなかった。嘆きの谷へと逃げた忌々しいドラゴンめ…と呟く王は妖精界の一番美しい姫を穢し、子どもを宿した。ドラゴンへの愛憎を込めて…それは呪いとなるだろう。
「う…母さん…」
腹を撫でながら嘆きの谷の叫びを聞きながら願う彼女の姿。
『どうか…幸せになって…あなたは最も憎むべき妖精王との子どもだけど…。愛しい子には変わりはない。リオム……私の加護をあなたに…』
涙を流していた。己の身体に呪いを移し子どもを残したまま去る事になるだろう。
あんな辛そうな母の表情はリオムは知らなかった。
まるで物語を読んでるようだった。ふ…と目覚めただの夢では無いことを感じた。自分は妖精王との子ども…だったのか…?
「母さん…」
寝返りを打って…どこだ、ここは…とリオムは気がついた。ガバッと起き上がり上質な絹の手触りに、ゾッとした。母とふたり暮らしだったので部屋には、その日暮らして行ければ良いくらいの物しか置いてなかった。寝るときは床で、ふたりで寄り添い薄い布にくるまって寝てたぐらいだ。
それがどうだろうか。豪奢な寝台に自分は居る。煌びやかな部屋には見た事も無いような装飾品が溢れている。
ピロン…
「?」
音と共に目の前に薄い青い板のような物が現れた。
【忌むべき過去と母の愛~エピソードを記録しました。報酬として母の加護が適応されました。これよりウィンドウが開かれることを許可します】
なんだ…?これ…文字が書かれてある。ウィンドウって…なんだ?これのことか?意味が分からない。
次に現れたのは赤い文字だ。
【危険・闇落ちルートまたは調教・服従への扉が開いてます。妖精界へと連れて来られたリオムは此処では本来のパワーは発揮できません。封印されてます。回避するには再び導きの鳥と行動してください】
「は…?」
なんだ、この物騒な文字。板を触ろうとするが、すり抜けた。
「…??」
ま、幻なのか?どうなっているんだ?何度、それに触ろうとしても空を切るだけで触れない。見えるのに。
ピロン…音とともに文字が変わりギョッとした。また赤い文字だ。
【妖精界へきた為、リオムに呪いが加算されました。呪いは解除出来ません。ハディーが近づいてます】
呪い…??なんのだよ…?どうして呪われなきゃならないんだ?!
「にぃに、気分はどう?」
文字通り、部屋にきたハディーの姿に驚いた。
この板は、なんなんだ?!予言か?赤い文字は警告をしているのか?
どうやらリオムしか見えないらしい。画面を凝視しているリオムにハディーはそちらを向くが壺があっただけで、珍しいのか?と首を傾げただけだ。ベットに腰掛けハディーは申し訳なさそうな表情をした。
「ごめんなさい…黙って妖精界へ連れてきて…でも、僕は…にぃにの棲む此処は、ここだと思っているんだよ…?僕の傍だと…ね」
そう告げるとリオムの頬を撫でてきた。
彼は健気な表情をしているが油断できないとリオムは確信していた。何がしたいのか理解できないのでそのまま好きにさせた。
この仮面野郎め。
…コイツがプクフを蹴り上げた時の顔…あの冷酷な表情を忘れるものか…。プクフ、あの小さな鳥のような妖精。時々、意味不明なことを言うがリオムにとっては心の拠だった。
「…」
…プクフはどうなったんだ?あんな勢いで蹴られて…無事で済むわけが無い。あんな小さな体を…コイツは…容赦なく…!
怒りのままハディーを睨んだ。そんな表情にもハディーは怯まず、反対に頬を染め嬉しそうな表情をしている。
「っ…!」
…なんなんだ…こいつは。何故、こんなにも執着されるのか、わからない。ねっとり…とした目つき。それが嫌でリオムは、それから逃れるように視線をそらした。ハディーからは恥じらうように見えるなどリオムは気がつかない。
さきほどの文字の事をリオムは考えていた。そして、もしかしたらプクフは無事なのかもしれないと可能性を見いだした。
導きの鳥…あれはプクフことだ。…なら、プクフは生きてる…!
頬を撫でていた手が、ゆっくりと首筋に下る。ピリッと電気が走った。
「っ…」
ピロン…
【知らない間に付けられた装備品・服従のチョーカーの為、感度が増してます】
……服従っ…?…さっきから首に違和感があるのは…恐る恐る己の首元を触れる。いつの間にかチョーカーが付けられていた。
「ああ、にぃにがドラゴンの力を暴走させないように処置させてもらったんだ…此処には他の妖精もたくさん棲んでるからね。昔、ちょっとね。ドラゴンと確執があったみたいで。ドラゴンを怖がっている子たちもいるんだよ…」
そのドラゴンとは母の事だろう。
彼が触る度にリオムはビクビクと身じろいだ。
「や、やめ…ろ…」
息が上がる、身体が熱くなる。頬はピンク色に染まり瞳が潤む。身体の急激な変化に頭が追いつかない。
「な、ん…だ…これ…これのせいかっ…」
チョーカーが取れない。引っ張るがその分、張り付く。
「う、ぐ…っ」
わぁ…エロい顔…とハディーが呟く。
【危険!故・妖精王の愛憎、執着が現・妖精王に移行しています】
は…?な、なんだ…それ?!
冗談だろう…と真っ青になった。そういえば、コイツは妖精王を継いだと言ってた。夢の中のーーーあの妖精王の母への執着が…こいつに…?
「俺に触、るな…はっ、ぅ…」
大胆に触れてくるハディーにリオムは逃れようと身動ぎ…くらくらとする視界に酔いそうになる。
「うう…」
「嫌だよ。だって…」
ハディーは、にたり…と嗤う。
危険の文字が次々と表示するウィンドウ。青い画面が真っ赤な字で染まる。
「…俺のモノだ…本物のリオムを攻略する…ぞくぞくするぜ…」
ハディーは、獲物をどう料理してやろうかと嗤った。
「っ……!」
『あの、…くっそ…妖精王めー!』
蹴り飛ばされ墜ちた先は池だったから、無事ですんだもののーーーっと池から出てきたプクフは、ビシャビシャで右横がグニュリと凹んでいた。彼に蹴られた際に凹んだのだ。
『ふんっ…ぬー!』
内側から力を込め~ぽんっ!とふっくらした姿に戻った。元通りだ。
『…。妖精じゃなかったら死んでたわ…というかモブにしては私、頑丈じゃない?』
それにしても…と考える。
『あれ…本当にハディーだったの?蹴り入れる妖精王ってなんなのよ!!!!…イメージが原作と違うー!!!』怒鳴る。
ここは転生する前に読んでた小説だと気がついたのは、この体になってからだ。
原作は小説だったが、この物語は実は沢山、ifがある。アニメ、ゲーム。マンガとそれぞれストーリーは変わっていた。自分が好んで読んでいたのは原作の小説だ。
原作のハディーは前妖精王を反面教師にしている為、誰に対しても優しい心で接するキャラクターだ。間違っても小さな妖精を蹴り上げる野郎では無い筈だ。そもそも、ドラゴンの力を暴走させ地獄のバケモノのような兄の能力を封印したのもハディーだった。
『それは私が奪っちゃったけど』
孤独なリオムを救い、彼の光となったハディーは居場所が無いという兄を連れて妖精界へ戻る。ところが妖精界には前妖精王のドラゴンに対しての執着が蠢いていた。それは呪いとなり現実に現れる。そう、リオムは母と同じように身体に斑点ができ…苦しむ日々が続くのだ。自分を救った弟のハディーの傍に居たかったリオムは黙って堪えていた。闇落ちルートへの序章だ。
『更に周りの妖精たちは過去の出来事で妖精王が亡くなったのはドラゴンだと憎んでるから陰湿な虐めを受けるのよー!わーん!呪いに虐め…苦しむ、リオム!ここ…私、めっちゃ泣いたのよー!酷いのよー!だからハディーとは会わせたくなかったのにー!!!!妖精界に行く羽目になるから。あー!原作のリオムは健気に堪えていくのーーそこがまた、いいのよ!』
バンバンと土を叩く。
『でも一番の赦せないのは…』
ぐずっと鼻を啜り、怒鳴った。
『女に恋した途端に兄の事を疎かにしたハディーなのよーーー!』
わなわな…と震える。
リオムの呪いを解くには帝国の血筋の者しか居ない事を知ったふたりは地上に降りる。が、皇女と出会ったハディーは一目で恋に落ちる。途端に兄の事は後回しだ。そこからは何ページも皇女とラブラブな話が長々と続く。読者はふたりの運命なような恋に憧れるが…。
『読んでて私、なんの話を読んでるのか途中、わからなくなったのよね~。…だって、私の推しはリオムだったから。これ題名に皇女と妖精王って入ってたっけ…って気がついたのよね…いつの間にか推しのリオムが主人公だと思い込んでたからなー』
さて、リオムはラブラブのふたりを目の当たりにして自分なりに祝福しようとする。が、呪いの為に醜い姿になったリオムの姿を見た皇女は彼は魔物だと勘違いする。そこから悲惨なのだ。帝国の騎士達はリオムを魔物として攻撃した。リオムは己を守る為に反撃するが…それは帝国を攻撃したと皇女を殺そうとしていると誤解され、ますます窮地に陥る。遂にはハディーさえも皇女の言葉そのままを信じ、兄は心まで魔物になったと決めつけた。
ハディーは皇女と力を合わせ…能力を全く使えなくなったリオムを追い詰め殺すのだ。
『リオム…ひっく…うう…。俺は誰にも愛される事は無い…そんな言葉を口にしてリオムは殺されるの…ひっく…ひっく…酷いよ…原作…本当に酷すぎる!わーん!』
アニメ版では皇女に恋慕するリオムになっている。恋する二人を邪魔するが、ここでも最終的にリオムは死ぬ。皇女に全く相手にされず闇落ちしたリオムの映像は綺麗だった。スタッフの力が愛が込められていると感じた回だ。だがなんで死ぬのー?!幸せにならないのー?!とここでも泣いた。やっぱり、アニメもそうなる。
『…ゲームのは違ったのようね…あれは私プレイしてないのよね。仕事がおして…気がついたら、この妖精に転生してたから。気になって検索はして…確か…皇女メインと隠しイベントでリオム攻略もあるってツゥッターで騒がれてて~』
あ…っとプクフは、そのツゥッターの画像を思い出した。
腐女子のイラストだと思ってたが…。ハディーとリオムが抱き合ってるイラストがたびたび、あがっていた。そのたびに、なんじゃこりゃと顔をしかめていたのだが。
【公式がハディ×リオを出した!このハディー様、鬼畜。最高!絶対プレイするべき】
【リオム受…オメガネタでやってみた!違和感なさすぎ!】
【リオムの喘ぐ姿、ヤバ…これR指定しなくても大丈夫なの?】
【ハディー様、俺様ぶり。執着が凄い!ってやってるのは私だけどWWW】
【リオム…なんでこんなエロいの?犯させていただきました~】
人気声優を使っていたので、凄い騒ぎでー…
あれ?ちょっと…待て。ハディーの性格というか…私を蹴り飛ばす、冷たい表情とか。
【これ攻略キャラをハディーですると必ず冷酷非情になる、ヤバい萌える】
『ちょっと…待って…これ…どのワールドなの?原作メイン?アニメ?まさか…ゲーム???』
もしゲームなら…?
リオムが危ないんじゃないの!いや、あのハディーはどう考えてもゲーム版じゃないの???!
腐女子が喜ぶ…私の地雷?!
『プレイしてないから、分からないけどーーーーリオムの貞操の危機じゃー!』
ぎゃーーーっプクフは慌てて飛び立った。
妖精界へーーーー!リオムーー!待っててーーーーー!
どこまでも長い廊下が続く。
「はあ、はあ、はあ、…」
ハディーを何とか押しのけ、リオムは部屋から飛び出したのはいいが今度は体が火照ってふらふらしていた。
後ろから自分を呼ぶ声が聞こえる。ふらふらしているリオムを捕まえる事なんて容易い筈なのにわざと逃がし追い詰めているのだ。
楽しんでいる、アイツ性格、悪ぃ…!
ピロン…
【ミッション。妖精王ハディーから逃れよう】
ミッションだと…?
【成功の報酬。装備品のチョーカーの力が半減されます】
「ハァ…、は…」
【失敗のペナルティー。檻に監禁されハディーに犯されます】
ふ、ふざけんな…!なんだ!それはー!
その文字によろけたリオムは背後の扉が開いた事に気が付かなかった。
「!」
ふらつき、そのまま背中から部屋に入って尻餅をついた。ぱたん…と閉じた扉の横に女性が立ちリオムを見下ろしている。
その女性はハディーにそっくりだった。
ピロン…
【ハディーの母親。彼女は故・妖精王を愛し憎んでいます】
ハディーの母親…?まさか、この板に表示されるとは思わなかった。人物紹介までするなんて。しかも妖精王を憎む?
はぁ…と彼女は溜息をついた。
「まさか…本当に連れて帰ってくるなんて。よく似てるわ…。あの子が執着するわけね…」
蛙の子どもは蛙ね…と彼女は呟くと「こっちよ」リオムを奥の部屋に押し込んだ。
「もっと奥に隠し扉がある、そこから庭に出れるわ。時間は稼ぐから…逃げなさい」
何故か、彼女は逃がそうとしてくれている。
そう囁くと彼女は向きをかえ「ハディー。夜中になにしてるの?煩くて眠れないんだけど?」と廊下にいるハディーに声かけた。
「お母様、ごめんなさい……にぃにが部屋から出てしまって。他の妖精達が見たら怖がってしまうかと…」
「本当に…ドラゴンを連れて帰ってきたの?」
白々しく驚いた真似をする。
「お母様も会いたかったんじゃないんですか?親友の子どもに」
隠し扉を探していたリオムはその言葉に耳を傾けた。親友…?
探っていた壁の一部が扉になり開く。続きを知りたかったが【チャンスは一度きり】の表示にリオムは、その扉を開き庭に飛び出した。
【成功!チョーカーの力が半減しました】
グンッと力が蘇ってくる。
隠し扉からリオムが出て行ったが確認が取れないので彼女は話を続けた。
「…。でも、私…言ったはずよ?ドラゴンは自由になりたかったと…あなたにそう教えたはずだけど。もう王は亡くなったなら…彼女の息子まで此処にくる必要はないわ」
「必要ですよ…あれは僕のモノだもの…手元におきたいでしょう。…ああ。また裏切るんですか?お父様を裏切ったように…」
「何を言ってるの」
「…お母様が捕らえたドラゴンを解放したんでしょう?…だから…お父様は怒り、あなたを犯した…そして僕をつくらせたんでしょう?再びドラゴンを捕らえるために。僕は王の執着の塊だ」
「…、…違うわ…」
くすり…とハディーは微笑した。その笑みは父親にそっくりだった。
「全く人間の世界に興味がなかった妖精王が…人間の世界のドラゴンに興味を持ったのは…あなたが妖精王の気を引くために教えたせいでしょうに」
息子の言葉に彼女は真っ青になった。どうして知っているのだろうか…誰も知らないはずなのに。
どくどく…と心臓が早鐘を打つ。
自分のせいで彼女の大切にしていた帝国が呪われた。妖精王の気を引く為したことが親友を悲しませるようになってしまった。誰にも言えない、親友にも…。
『あなたも一緒に逃げて…妖精王に何をされるか…』
ああ…愛しいドラゴン。誰よりも大切だった親友…私が妖精王に彼女の存在を話した事で…起こった悲劇…。
『ムリなの。言ったでしょう?嘆きの谷は妖精は近付けないって。妖精王さえも嫌う声に…普通の妖精の私が一緒に居られるはずも無い…大丈夫。そこならあなたは自由よ。ねえ…私が居ないからって泣いて暴れ無いでよ?あなたが暴れたら谷が壊れちゃうわ』
そう言って彼女と別れた。妖精王は逃げる彼女を追いかけ、軍を引き連れ戦った。ドラゴンとの壮絶な戦い。自分は震え祈るしかなかった…どうか、無事に谷へ着いて…と。
がくり…と膝をついた母の姿にハディーは嗤う。墓場まで持っていく。そのエピソードはゲームのエンディングでようやく流れる。クリアしないと見れない。
さて、とハディーは彼女の横を通り過ぎるときに囁く。
「隠し扉から庭に逃がしたんですか?母親と同じ道を辿らすなんて…皮肉ですね…」
「…うわ」
庭園はありとあらゆる花が咲き誇っていた。あまりの美しさに思わず感嘆な声を発しリオムはしばらく心を奪われてしまった。さわさわ…と花々が揺れる。それは小さな妖精達が騒ぎ始めているからだ。これでは、すぐ見つかってしまう。
【ミッション。人間界へ続く道を見つけましょう。制限時間3分】
「…また、これかよ…」
しかも制限時間まで…。キョロキョロと辺りを見渡し、這いつくばって植木の下など見るが見つからない。
【残り2分】
ピロン…
【時間以内に見つからない場合のペナルティー】
【檻に監禁。ハディーのペット】
「っ…、ふざけんな…俺をなんだと…!」
慌てるが、そんなに都合よく見つかるはずも無い。
【残り1分…秒読みを始めます】
「っ~!」
イヤだ…あいつに飼われるなんて!!
『リオムーーー!』
ボンッと顔にアタックしてきたのはーーー
「プクフ!」
『わーん!無事だったー!』
「お前…どこから…よく無事で!」
【残り25秒…】
『ここよ、この穴が人間界へ続くの』
【ミッション成功!導きの鳥も見つかりました!】
「ーーーっ!!!プクフ!」
やっぱり導きの鳥だ!とリオムはプクフを抱きしめた。
『うっほ…推しに圧されて…』
プシュッ…とプクフから鼻血が飛び散る。
「うわ!プクフ!」
「どこ行くの…リオム。…また、その饅頭か」
いつの間にかハディーが背後にいた。
「っ…行かせない…」
プクフを抱きしめ人間界へと続く道に入ろうとするリオムだが。
ピロン…
【服従のチョーカーの力でリオムは逆らえません。意識を奪われます】
「うぐっ…!」
突然、リオムは地面に伏せるように倒れた。
『リオムっ!どーしたの!』
びくびく、と痙攣しているリオム。瞳は虚空をみている。
『意識を…奪ったのね!あんたねー!どこまで卑劣なのよぉおおお!!!』
怒鳴るプクフにハディーは冷たい眼差しで告げる。
「ウルセェんだよ、饅頭。せっかく…無敵なハディー様になったんだからよ。…愉しむもんだろう?ゲーム通りリオムを攻略させろよ…」
『は?ゲームって…ま、…まさか…あんたも転生…』
自分以外に転生者が!
「やっぱり、お前もかよ。おかしいと思ったんだよな。は、モブ饅頭なんかに転生とか嗤えるな。モブのお前に教えてやるよ。…リオムはなァ…これから俺無しじゃ生きれなくなるんだよ。そうだな。…調教して…淫乱なドラゴンにしてやるのもいいなぁ。ただ犯すだけじゃつまんねぇよな。だから邪魔すんじゃねーよ。…今度は蹴るだけじゃ済ませねぇ…この世界から…消してやるよ!」
ゆっくりと近付くハディーにプクフは、ぶるぶると震えた。それは恐怖でなく怒りだった。
『私の推しを…穢させないー!喰らえ!必殺ーーーー…!』
「?!」
驚くハディーに向かってプクフはバタバタと羽根を上下に振った。
「????」
バタバタバタバタバタバタバタバタ…土が舞い上がり…砂煙となる。
「…なんだ、そりゃ」
攻撃でも何でもない。ハディーは腕組みして傍観する事にした。砂煙で、どうするんだ?馬鹿か、こいつと あきれ気味と無駄な足掻きをする饅頭をどう料理してやろうかと。しかし砂煙は、もうもうと立ち上がり…気がつくと辺り一面、砂でプクフの姿もリオムの姿も見えなくなった。
「っ…風よ!」
突風で砂煙を飛ばしたが後の祭りだった。すでに、あの饅頭もリオムも居ない。
「間抜けな術を使いやがって…!」
ゲームにそんなアホなワザを使うキャラは出てこない。しかも、人間界へ続く穴は、ちゃっかりと土で潰されていた。
「あ、あの…饅頭…っ!も、モブのくせに…クソっ…涎で土が!!!!」
怒りに染まったハディーの力は一気に溢れた。放出されたパワーに耐えれず庭園の花々が枯れていく。バタバタ…と花々の妖精達が地面に落ち消滅した。妖精界の住人の半分以上がハディーのせいで消滅してしまった。それでも怒りは収まらない。
「うおおおおお!!!」
雄叫びを上げる妖精王は怒りのせいで暴走した。
ピロン…
【支配下の領域では無い為、装備品の服従のチョーカーを外す事ができます】
かち…という音と共に首もとが涼しくなった。
「…」『うへへへ…長い睫毛がぷるぷる震えて…可愛ぇー…じゅるる…』
変態的な声に思わず、リオムは吹き出した。
『あ!狸寝入りしてたの!ヒドいっ!リオム!』
「違っ、気がついたらプクフの声が聞こえたんだ」
ゆっくりと起き上がりリオムは辺りを見渡した。砂浜に寝転んでたらしい。ザーン…ザーン…と聞こえる方向には大きな水が波打つ。
「水が…生きてる…」
リオムの言葉にプクフはそれは海だと教えた。
「これが…海」
なんだか心地良い。海を眺めるリオムにプクフは『リオムは水の加護を持つドラゴンだから惹かれるのかもね』と微笑む。
「…プクフは俺以上に俺のこと知ってるみたいだ」
『まぁ、…ね』
そりゃー…推しのキャラだし…番外編も読んでるから…ある意味ストーカーよね…と心の中で、己を突っ込む。
『前にも言ったけど。私は転生者だから…私の世界ではリオムたちの物語があるの…。私はそれを読むのが楽しみだった。だけど…それに描かれてるリオムは必ず…不幸な人生を終えるの』「…」
今ならリオムはきちんと私の言葉を聞いてくれるかもしれないとプクフは正直に話そうと決めた。何度も転生したと言ってもリオムは首を傾げるだけで信じてくれなかった。言ってる意味が分からないというばかりで、最初から本気で聞いてくれなかった。
『私はそれを知ってるから…リオムを救いたい。私はその物語には出て来ないキャラなの。でも、全く出て来ないキャラが何で居ると思う?』
「…」
『きっと…リオムを助ける為だけに生まれたのよ』
というか、私の執念が形になった気もするが。
ピロン…
【導きの鳥のレベルが上がりました】
『…なに、これ…?何でゲームみたいなウィンドウが開いてるの?』「…プクフ、見えるのか…?」
驚くリオムにプクフも吃驚だ。
『え、もしかしてリオム、ずっと見えてたの?私は今、見えたけど???というか導きの鳥って私?私…妖精なんだけど…』
もしかして私自体、バグなのかしら?
「ずっとじゃ、無い。妖精界に行ってから…なんかエピソードを見たからって、それから見えてる。触れないんだ」
『…これゲーム画面じゃん!触れるわけないわよ!』
「…ゲーム画面とか言われても知らねーし…こんなの出るのか?俺は嘆きの谷で母さんと生きてた事しか記憶に無い…プクフみたいに別世界から来たわけじゃ無い」
『バグかしら…?』
首を傾げるプクフにリオムは「そうだ、妖精界からプクフが助けてくれたんだろう?ありがとう」とお礼を告げた。
『推しのありがとう!…ああ、尊い…』
ぶわっと涙を流すプクフ。転生して良かったあああ!
「あのままじゃ俺は…檻に入れられ…あいつに…その、ヤラレてたらしい…」
『え゛…あいつ、リオムにもそんな事を言ったの?!セクハラじゃん!!!』
「…さっきの板に書かれてあったんだ…脱出失敗したら…ペナルティー…て…犯さ…」嫌そうに告げるリオム。想像したらしく青くなっている。
『なに、そのペナルティー!R指定ゲームかよーーー!んなこと私がさせるかーーー!』
憤怒するプクフは、しばらくバタバタ…と飛んでいたが。
ピロン…
【リオムの体に呪いが、かかったままです。呪いを完全に消去しなければ、時期に命が消えます】
その文字にリオムは「プクフの言ってた通り…俺は不幸な人生で終わるんだな」と諦め気味に呟いた。腕に痛みが走る。見ると母と同じように斑点が表れていた。
「…」『なに、いってんの!させない!私が!その呪いを解く方法は知ってるもの!帝国にすむ皇族の騎士になればいいだけの話なの!』
【皇族の騎士の称号を手に入れれば解除されます】
「皇族…」
母は…帝王に仕えていた。戻るのだ、そこへ…。
『ほら!言った通りでしょう!』
…ただ、一つ問題があるのよね~…う~とプクフは唸る。
わがまま皇女の存在だ。ストーリーではハディーに恋する。何故ならば…あとがきの追加話で描かれていた皇女の好みは銀色の髪、真っ白い肌、青い瞳なのだ。天使のような姿のハディーに心を奪われたと…こればかりは難しい。そうなるとリオムは、好みに当てはまらないのだ。それに闇落ちルートにいきそうで怖い。
『…』
皇子しかいないじゃない?
ただ、彼はストーリーにはあまり出てこなかった。皇子は病弱で死の淵にいるからだ。皇女の結婚式で少し登場しただけで後に亡くなったとしか描かれていない。
『皇子か、うん…そっちの方がクリアし易いかも…とりあえず、騎士の称号さえ取れれば呪いは解けるもの!リオム!帝国に行くわよ!』願わくば、リオムが皇女に恋しなければいいが。そうなると闇落ちルートに真っ逆さまだ。
『…しばらくはハディーは人間界へ来れない筈だし、行動するなら今のうち!』
何でそんな事を言えるんだ?と問うてくるリオムにプクフは威張って教えた。『番外編にあるのよ、はじめての怒りって。小さな妖精がハディーに悪戯するんだけど。大切にしてたオモチャを人間界へ投げ捨ててしまうの。人間界へ通じる道も塞いでしまって。するとハディーは怒り、そのせいで妖精王の力が暴走してしまうのよ。正気に戻るの時間かかるから』
きっと今は、その状態だろう。そのせいで妖精界は破滅的な損傷を残す。ハディーがもとに戻った時…あまりの現実に嘆く羽目になる。その為、慈悲の心が生まれたと書かれてあったけど…転生者のアイツにあるかしら?と頭の片隅で思った。
【イベントが発生しました】
【帝国で騎士の称号を入手しましょう】
【報酬・呪いの解除】
【失敗・死亡】
は~い、プクフでーす!読んでくれてありがとう!次回はリオムと帝国に行って皇子を誑か…ぐふぐふ、騙す…じゃなく…
騎士の称号を手に入れまーす!
え?なーに?ハディ×リオムのR指定はいつかって?
はあああ~???んなの無いわよー!私がさせないし…あと闇落ちルートも回避させるわよ!
あー!もー!リオム、マジっ可愛いですけどーーー!やべぇ…ぐへぐへ。
おっと…やーだ!ずっと寝顔ばかり見てぐへぐへ言ってるわけじゃないわよ!
え?寝顔を覗くの…やめろ?イヤよ…私の楽しみなのに!
まあまあ。私…導きの鳥なのよ!リオムを幸せにするの、だから…それぐらいO.K.じゃない?
妖精…なんだけど…おっかしいな…
おかしいって言えば、何で転生者でもないリオムにウィンドウが見えるのかしら…?
んー、そこも後々、明かされるかも!
あと、アイツ。同じ転生者のハディー。まさか、ハディーも転生者なんて。アイツ…マジ、最悪だわ。私よりヤバいわよ。あの眼…変態ね。
そうそう、次回は正気に戻って人間界へくるのよ。頼むから皇女とラブラブしてくれないかしら?私のリオムに手を出さないで!
推しのリオムの幸せを願う、私って凄い健気よね。
☆頑張れ!と応援してね
では次回でお会いしましょう!
え?本当にハディ×リオは無いのかって?しつこいな。あんた。
はあ?…エロ読みたいって?
…それ、私の地雷なんだけど。
そっち系は作者にリクエストしてくれない?私に言っても無駄だから。
そりゃー喘ぐリオムはっ…見たいけどっ…見たいけどっ…
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