邪王さま誕生物語

文月 水涸

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第4話 違和感

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 『アニメ版は嫌いなんだよなぁ。原作と全く違うし。主人公から違うンだぜ?原作を読んでみろよ、そしたら…』

 ふ、と目覚めた。なんか懐かしい夢を見た気がする…友人と『君に輝きを、そして紡ぐ者』の話で盛り上がって…。
 隣りにあった温もりが無くなっていることに気がついた。俺の横で寝てるはずのシリウスが居ない…?
 起き上がって、また寝転んだ。
 夜が怖いシリウスしては珍しいなぁ…
トイレかな~と目を瞑る。そのまま、うつらうつらと睡魔に襲われ俺は眠ってしまった。
 
 あのときに探しに行けば…変わっていたのかもしれないと後悔するとは知らずに。




 「今日はギルドからの支給日なんだって言っただろ~?」
 いい加減にしなさいと俺の服を引っ張るシリウスに喝を入れる。大事な支給日なんだよ!これ逃したら次までが正直、苦しい生活になる。
 「直ぐ帰ってきてよ!」
 「はいはい。お土産に串刺しを買って帰るからさ」
 そんなの要らないと頬を膨らますシリウスが可愛い。ハムスターか、お前は。
 「お前もきちんと修行するんだぞ~」
 さらさらの金の髪をなでなでしながら言えば生意気な口ごたえが返ってきた。
 「僕はもう師匠より強いよ、この神殿の上神官の誰よりも強い。みんな知ってるはずなんだ…それなのにいまだに上神官の位を与えないなんて…あいつら…自分の甘い汁を無くしたくないからなんだ…!上神官なれば…トバリは僕の傍に一生居て何の苦労もしなくていいのに…」
 ギリッと親指を噛むシリウスに俺はゴンッと頭を叩いた。
 「こら!位にも順序っつーのがあるんだぞ!シリウス!先ずは見習い神官から神官だろ?神官に飛び級制度があるかは知らんが…。お前、明らかに自分の力に酔いしれてるな?そんなシリウスに育てた覚えは有りません!」
 シリウスは叩かれた頭を押さえながら 「でもっ…」と言いかける。
 「…それに神官までは付人は出来るが上神官の付人は…神官になるんだぞ。俺はお役目ゴメンになるって事なんだ…」
 水色の瞳をいっぱいに見開き「そんな…聞いたことないよ!」と驚くシリウスに俺はクシャクシャなった紙を見せた。こないだポケットに入ってた紙だ。
 「神殿の新しい制度…?」
 そこに書かれた文字をシリウスは読んで「嘘だ…」と呟く。俺の言葉通りの事が書いてありシリウスはギリギリと歯軋りしてる。
 「僕とトバリを離すつもりなんだ…トバリは僕のものなのに…!」
 最後の方は聞こえなかったけど神殿もいつまでも、よそ者を抱えるつもりは無いってことだろう。まぁ仕方無いよな。だから俺も新しい仕事を探さなきゃならない。
 「やっぱり…あいつらの言葉は本当だったんだ…」
 ぼそり…とシリウスが呟く。あいつら…?と気にはなったがタイミング良く鐘が鳴った。
 「うわあ!遅刻だ!じゃあな!シリウス!修行はきちんとするんだぞ!」 
 「待って!トバリ!」
 グイッと腕を引っ張られシリウスの腕の中に俺は簡単に入り込んだ。「御守り」と言って俺の左頬にチュッと口づけが…。
 「~~…!」
 ちょ、ちょっと待て!これアニメで見た天女の加護と同じシーンじゃねーか!
 は、恥ずかしいなぁ…! 
 「御守りだよ」
 にっこりと微笑むシリウスに左頬を押さえながら「ガキじゃねーから…まぁ、ありがとうな」とお礼を告げる。
 あー、びっくりした!神官でも、あんな御守り出来るンだな~。そんな事を思いながら街に向かって走る俺。
 たぶん…間に合う!疾速のトバリだから…!!!!



 「お前が遅刻とは珍しいな」
 ほれ、と渡された賃金に間に合わなかった~と涙が流れる。今日は賃金とは別に先着順に商品券も配られたのに!
 はぁ…と肩を落としながらトボトボと街を歩く。シリウスに少しでも高い串刺しを買ってやりたかったのに…。
 「トバリ殿」
 ん?振り返ると上神官さんだ!あれ?今日の修行は?
 「今日は別の方が受け持ってますよ」
 俺の疑問に気がついたのか笑顔で教えてくれた。服装が神官ぽくないのは休みってことか?そっか、神官職業も休みあるんだなぁなんて感心してると「一緒に食事でもいかがですか?」と誘ってくれた。
 「え?あ~、ちょ~と懐が寒いつ~か…」
 「ふふふ、誘ったのは私ですから奢りますよ」
 おう!イケメンだね!あんた!
 「でも良く私だとわかりましたね?普段、私はフードで顔を隠してるのに」
 照れくさそうに茶色の髪を掻きながら聞いてくる上神官さんに「あ~それは…声に特徴があって…」と誤魔化す。 
 いや、あんたさ。人気声優の声に似てるだよ~イケメンばっかする声優の。同性でも腰にくる声だもんな…わかるっつーの。
 「そんな事を言われたのは初めてです…」
 顔を赤くして照れてる。ん、ごめん…名前は忘れてるだけど…ね。ん、それは言わないでおこうか。
 食事しながら(人の奢りの飯は旨い!)シリウスの最近の出来はどうかを聞く。だって俺がこの人との話題ってシリウスしかねーし。
 「そうですね…彼は聖神力も圧倒的ですが…その分、闇の力も感じます」
 「ほへ?闇の力…?」
 あのシリウスに?英雄なるシリウスに?そりゃね~だろ…この人、きちんと教える事が出来るのか?
 じと~…とした視線に気がついたのか「感じませんか?」と不安そうに聞いてきた。
 「全く?」 
 まぁ俺は聖神力も魔力もねーから感じろって方がムリなんだけどね。でも、意地でも魔力は否定するぜ?
 「私の…想いも…ですか?」
 ん?なんで俺の手を握ってんの?この人。
 「????」
 「お手紙も何度も扉に挟みましたが…、全く返事が無くて…今日、街に向かっていると聞いて…」
 お手紙???いや、知らねぇし。なんで手を揉むんだよ???!俺の片手を包んだまま揉みもみ…止めてくれる?
 「あの…上神官さん…??」 
 「貴方は僕の運命の人だと思います…シリウスの付人なんて不似合ですよ…」
 ちょ、息が荒いッスよ?大丈夫かよ?あんた???近い、近い!
 「僕の名前を呼んで…?愛しい人よ…」
 「…、…」

 名前、覚えてませーーーん!

 ヤバいよ!この人!
 そうか!クスリやってんのか?!目が逝っちゃってるもん!やべぇ…!
 「あの、いっ…てぇエエええーーー!!!」
 突然、ズキンと左頬に衝撃が!
 あまりの痛みで俺は飛び上がった。そのまま床に転がる。そのせいでテーブルあった食べ物も床に飛び散った。周りの人達が何なに?と視線が集まるのが判る。
 「トバリ殿?!」
 なになに???虫歯?違う!
 頬が痛い!痛い!

 『トバリ…』

 シリウスに呼ばれた気がした。
 「シリウス…?」
 俺は左頬を押さえたまま走った。神殿に…神殿に行かないと!
 シリウスに何かあったんだ!
 嫌な予感がする、嫌なイメージが浮かぶ。痛みより、その想像で今度は涙が溢れた。
 何故か血溜まりに横たわるシリウスが…脳裏に浮かんだ。

 ーーーー嫌だ!
  
 走って走って。神殿に向かう道、すれ違う人々は悲鳴をあげながら、こちらに逃げてる。
 「おい!あんた!神殿に行くな!魔物が占領してるんだ!」
 魔物?!魔物だって?神殿から煙が出てる。まるで戦争のように神殿が破壊されてる…!羽が生えてる魔物が神官の体を咥えて空を舞う。それはもう、死体だろう。  
 嘘だろ…その姿がシリウスに重なる。
 「シリウス、シリウス、シリウスーーーーーー!」
 ギャーーッと奇声を発して飛びついてくる魔物を払いながら俺は神殿の奥へ奥へと走る。中庭に…神官の姿とシリウスの姿が見えた!
 「シリウスーーー!」
 「…、っ…この…悪…、魔がぁ…!!」
 神官のごぼっ…、血と共に吐出された嫌悪の言葉は何故かシリウスに向かっていた。奇妙だった。シリウスは怪我も何も無い。対して神官は血だらけだった。魔物もシリウスの周りで座って、まるで指示を待つ犬のように…。
 違う…『闇の力』上神官の声が重なる。違う!
 数秒後、ごろん…と人の頭だった物が目の前に転がった途端に、シリウスが悲鳴を上げた。
 「?!」
 狂ったように悲鳴を上げ続ける。やっぱり…違うんだ!シリウスは闇の力なんて無い!あんな声に騙されるな!
 シリウスを抱き上げると俺は走った。重っ…いつの間にこんなに成長したんだ!
 「叫ぶな!舌を噛むぞ!」
 本音は耳元で叫び続けられると堪らないからだからだ。彼は口元を両手で塞いでブルブルと震えてる。悲鳴が微かに漏れているのは仕方ない。
 ああ、コイツは賢い。だって主人公だもんな…と改めて思うが今はそれどころじゃない!
 なんでっ、なんでだよ!此処は神殿だ。神殿といえば最も神に近い場所なのに…何で…なんで…魔物が溢れているんだよぉおおおおおおお!!!!
 魑魅魍魎が跋扈するとは、この事だ。逃げ場は無く俺が向かった先はシリウスの部屋だった。
 「トバリーーー!」
 部屋に入った途端に羽交締めするようにシリウスは抱きついてきた。
 「はぁ、はぁ…お、俺、お前に呼ばれた気が…」
 左頬がもう、痛くない…。だけど、涙が溢れる。うう…シリウスが、無事だった…良かった…。
 「う、ぅあ…ああ…!」
 堰を切ったようにボロボロ泣く俺は座り込んでしまった。みっともないけど此処に来るまで嫌なイメージばかり浮かんで…俺、俺…いつの間にシリウスがとても大事な存在なのだと思い知った。
 「トバリ…」
 シリウスは泣く俺の涙を舌で舐め取る。ぺろ、ぺろり…と。俺は不思議と嫌じゃなかった。それより安堵の方が勝っていた。
 ぁあ、シリウスが無事だった…良かった、良かった…!
 だからシリウスの舌が俺の唇を割り口内に入ってきても不自然に思えなかった。
 「ん、…んぅ…」
 俺が受け止めてあげなきゃ…あ、ぅん…なんだか頭が、ぼぉ…としてる…よう、な…?
 扉を境に悲鳴が聞こえる。
 …でも、いいっかぁ…シリウスが嬉しそうに微笑んでるもんなぁ…。良かった、良かった…。
 「僕のトバリに触れた男がいる…やっぱり…一掃しなきゃ…。ねぇ、トバリ…」
 そう言えば…いつからトバリって呼び捨てになったっけ…?
 「シリウ…ス…んぅ…」
 『消してやる…あいつら…総て…』
 なんか聞こえる…シリウスの声?でも今、シリウスは俺と舌を絡めてるから言うはず無いし…だって、こんなにぴちゃぴちゃ…って水音が…みず、お…?
 「うわぁ!」
 突然、頭の中の霧が晴れたように現実に戻った。
 「おおお????な、な、なに?なんでキ、き、キスっ…キスーーー?しかも濃厚…???」
 口の周りがびしゃびしゃなんだけど???!
 「トバリ…?術が解けたの…?なんで…?」
 は?術?なに…言って…?
 「というか、何で神殿に魔物が?!」
 「ふ、は、はは…!やっぱりトバリは凄いね!魔力に対抗する聖神力が無いのに!僕の術を解くなんて!」
 突然、笑い始めたシリウスに吃驚した。
 「何言ってんだ…?俺に…術をかけた…?」
 いつから?
 「可愛いトバリ。僕に声をかけた時からだよ?すっごく可愛いなって…ドキドキした。本当に鈍感だし、誰にも渡したくなかったもの…眠ってる時、いつも唇に口づけしてたの気がつかなかった?身体もいっぱい触ったよ?ビクビク震えて、本当に今、起きれば愉しいのに…って何度も思ったことか」
 これがシリウスか?俺の天使のシリウスは…そうだ、違和感。さっきシリウスは悲鳴を上げた…んだよな…いや、悲鳴だったか…?
 ザッと蘇るのは神官の最期の罵声を嘲笑ってたシリウスだ。俺の肩で口を押さえて声をもらさないようにしたのは含み笑い…?
 「…魔物がね、幼い頃から僕には聖神力も魔力も両方あるって…どちらかを選ぶのは僕自身だと、ずっと囁いていたんだ…。怖かった、闇の中からずっと囁く声が聴こえてくるんだもの。そんな時、トバリは僕の傍で夜、ずっと守ってくれたね。温かくて…この温もりを奪われる事が嫌だった。…魔物は色んな事を知ってる。トバリが時期に神殿から去る事も教えてくれたんだ…指示を出した奴も…!!!」
 俺がクシャクシャした紙が目の前でボッと燃えて床に落ちた。ああ…なんで夜、シリウスが居なかった時に俺は探しに行かなかったんだ…!
 「師匠もどきを気取ったアイツがトバリにどんな目を向けているか…汚らしい恋文を扉に挟み続けるのを僕が我慢してたのを知ってる?どこを触られたの?頬が痛かったでしょ?」
 「手を握られた…」
 勝手に言葉が出て思わず口を押さえる。なんで…思った事を…? 
 「気持ち悪かった…だって、俺は…シリウスのものなのに…」
 にたりっ…と妖艶に微笑んだシリウスに絶句した。
 
 
 
  

 
 


 
 
 
 
 
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