俺と私の公爵令嬢生活

桜木弥生

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9話 俺と私のオトモダチってナンデスカ⑤

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 ドカッと大きな音がして、そこに生えていた木が大きく揺れた。
 その木に全身を打ち付け、ズルズルと木の側面を這うようにハゲが崩れ落ちたのを全員が目で追う。気を失ったのか、死んだのか定かではないが、ハゲはピクリとも動かない。
 数秒後、起こった事を理解したらしい仲間の4人がほぼ同時に叫んだ。

「な…何なのよアンタ!?」
「何だオマエ!?」
「…シロ…」
「俺のハゲに何しやがる!!!」

 一人叫んでなかった。そしてシロとか言うな。
 そして青髭!ちょっと変な薔薇想像しちゃったからマジやめてほんとやめて…っつか、お前らそういう関係だったのかよ。

「見るんじゃないわよ!!」

 ハゲを飛び蹴りで撃退した後、綺麗に着地していた美少女はふんわりとしたAラインの菫色のワンピースの裾を直しながら下着の色を言ったデブの元まで走り、そのままダンスを踊るかのように身体を回転させ勢いを付けて
 上段回し蹴り!?

 身長のないデブの頭にそのスラリとした足は容易に届き、綺麗に後頭部に蹴りが入った。
 そして一撃で沈むデブ。
 デブが倒れた瞬間、ズゥン!と大地が揺れた気がした。気のせいかもしれないけど。

 簡単に二人を倒した美少女は、呼吸を整えながら上唇をペロリと舐めた。
 あれ?…今のどこかで見たような…ゲームの中でか?……ゲーム?…赤茶髪の美少女……サラ!?

 目の前に現れたヒロインサラは、驚きと助けが来た安堵でその場に座り込んでしまった俺を見るや優しく微笑んだ。

「すぐお助けいたします。安心して待っていてくださいね」

 ドキンッと胸が高鳴った。

 何このイケメン美少女…思わず胸ドキしちゃったじゃねぇか。

 って、見惚れてどうする俺!
 女の子に守られてる男とかありえないだろ!
 とりあえずこの手の縄を解いて加勢しなきゃというかサラを守らなきゃ!

「舐めたマネしてくれるじゃないアンタ!」

 座ったまま腕を動かして縄を解こうとする俺の前で、激怒したオカマが腰につけていた宝石でゴテゴテにデコっている長い剣の柄に手をかけた。

「エモノに手を掛けたという事は、死ぬ覚悟がおありで?」

 俺に微笑んだその優しげな顔からは想像が付かない程に冷たい笑みを浮かべ、ゆっくりとオカマに近付く。
 マッチョはオカマの勝利を確信しているのか、やれやれといった顔で二人を見、青髭は未だブルブルと怒りに震えているも、オカマの邪魔をしないようになのか少し二人から離れた。

 そしてオカマが鞘から剣を抜いた瞬間、サラはオカマの懐にいた。
 ゆっくりとその場に崩れ落ちるオカマ。
 残ったサラは右足を後ろに引き、拳を握った右手を前に突き出した格好のまま。

 見覚えのあるそのポーズは、紛れも無く空手の正拳突きの型だった。
 二人の身長差から見るに、綺麗に鳩尾に入ったんだろう。
 オカマは地面に倒れたまま苦しそうに腹を押さえて呻いている。

「嬢ちゃん、けっこうやるなァ。でも、オイタが過ぎたら嫁の貰い手がなくなるぜ?」

 仲間が三人もやられ、怒りを露にしたマッチョが短剣を腰に下げていた鞘から抜くと、サラに剣先を向けてジリジリと近付いていく。

「あら。それは困りますわね。お慕いしている方がいますのに」

 コロコロと楽しそうに口元を抑えて笑いながら言うサラの目は笑っていない。
 相手の動きを推量するかのように、瞬きもせずじっと見据えている。

「じゃあ大人しく「では、その方にバレないように、今ここで口を封じて差し上げますわ」

 自信満々に倒すと言い放つサラの顔から笑顔が消えた。

 あれぇ…サラってこんな性格だったっけか?…確か口喧嘩もできない大人しい子じゃなかったっけか…ゲームの取説には『深層の令嬢』とか『淑女』とか書いてあったと思うんだけど…今俺の目の前にいるのは、淑女の皮を被ったアマゾネスなんですけど…

「「このクソアマァ!!」」

 サラの言葉にマッチョと青髭が怒鳴りながらサラに攻撃をしかけた。
 マッチョがその身体に似合わない速度でサラの背後に回ると、持っていた短剣をサラの首目掛けて横凪ぎに切りかかる。それと同時にいつの間に抜いたのか、青髭も腰につけていた細身の剣をサラに振り下ろした。
 けれどサラは軽くしゃがんでマッチョの短剣を避けると、サラの腰の太さくらいはありそうな頭上を過ぎたマッチョの腕に掴まり、勢いを付けて振り子の要領で、青髭が振り下ろした剣も難なく回避した。
 そしてその勢いのまま、ぐるりと逆上がりをするかのようにマッチョの腕に身体を絡みつかせ、左足をマッチョの首元に。右足を胸元に来るように腕を掴んだまま移動し、そのまま一気に地面に叩き付けるようにマッチョを背中から倒れさせた。

「ぐっ!」

 背中を地面に強く打ち付けたらしいマッチョは呻きを上げる。
 サラは首と鎖骨を足で抑え、そのまま腕を一気に引き倒す。

 ……首刈り式飛び付き腕十字かよ……なんでプロレス技かけてんのこの人……

 ボキッ!
「ぐぁああ!!」

 容赦なく腕を一気に引き倒したサラの腕の中から、何かが折れたような鈍い音がしたと同時にマッチョが叫び声を上げた。

「っ!?お頭!?」

 渾身の一撃を今まで見たことがない方法でかわされ、そのまま宙で踊るようにマッチョの腕の周りをクルクルと動いていたサラを呆然と見ていた青髭は、マッチョの叫び声で我に返ったようだ。

「くそお!!」

 サラは再度剣を振り上げた青髭を横目で見ると素早くマッチョの腕から離れ、その剣先から逃れた。
 さっきのことがあったからだろうか、青髭は避けられても止まらずに何度も剣を振るう。
 それをサラは後退しながら紙一重で避けていく。
 何度か繰り返されたその時だった。
 サラの後ろに大木があり、逃げる場所がなくなり足を止めた。

 ヤバイ!!助けないと!!

 慌てて繋がれている腕を捻ると、やっと縄が解けた。
 サラを助ける為に立ち上がり、駆け寄ろうとしたその時だった。

 大きく、袈裟斬りの要領で剣を振るう青髭。
 そしてサラは剣の流れに沿うように横に移動した。

 ガッ!という音がして青髭の剣が大木に食い込む。
 その瞬間、サラはニヤリと笑みを溢し剣が木から抜ける前に、剣を持った青髭の手を蹴り上げ、青髭の手が剣を離すと蹴り上げた足をすぐに下ろして青髭の胸元を蹴って距離を置く。
 ニヤニヤと完全に悪の笑みを貼り付けたサラは、左手で右肩を押さえて右腕をグルグルと回している。

 あー…どうしよう…なんとなくサラのやりたいこと、わかっちゃったかもしれない…

 俺の目の前では青髭が胸元を蹴り飛ばされゲホゲホと咳き込んでいる。
 俺は少し後ろに下がり、勢いを付けて青髭にタックルするように背中を前に押した。
 その正面からサラが凄くイイ笑顔で右腕を広げて走り、そのまま押されて前傾姿勢になった青髭の首目掛けて、綺麗なエルボーが決まった。

「っしゃ!」

 崩れ落ちる青髭。
 右腕を上に上げて勝鬨を上げるサラ。

 …なんだこれ…ゲームにこんなシーンなかったぞ…

「さぁアンリ様、あいつらが起きてこない今の内に逃げましょう!」

 ふと違和感を感じたけれど、その違和感が何かわからない俺の目の前にサラが白い右手を差し出してくる。
 わからないままその手に自分の左手を重ねると、サラに手を引かれてそのまま走り出した。
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