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選ばれた理由
離脱
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眠るラズを見つめたままシュートは続けた。
「戦闘はからきしでガラは怖いし、魔法使えるっつったってまだまだで、ラズに大怪我させちまうし…。俺はみんなの役に立てない。この街だったら、俺より優秀な医者はきっといる。魔法も使えるかも知れねぇ。俺より適任なやつが見つかれば、王様だってメンバーの交代を認めざるを得ないはずだ。」
「シュート…そんな…。」
シュートはやんわりと肩に置かれたミックの手をどかした。
「俺は…自分が占いで選ばれたとは思ってねぇんだ。だから、最初から誰か別の医療知識があるやつでも良いって思ってた。俺じゃなきゃいけない理由はきっと、ない。」
そんなことを思っていたのか…ミックは占いについては全く疑っていなかったので、驚いた。
病室の床にぽとりと一粒、涙が落ちた。
「ラズが回復するまでは、責任持って一緒にいようと思う。でも、その後は他の誰かに…。」
シュートはずっと辛かったんだ。ガラの恐怖に怯え、自分の無能感にさいなまれ、ずっと辛かったんだ。責任感があって、優しいシュートだからこそ、辿り着いた結論なのだろうとミックは心が痛んだ。
それでも、ミックはシュートと旅を続けたかった。今までのシュートを見てきて、とても頼りになるメンバーだと思っていた。
そしてなにより、旅の目的を考えると不謹慎かもしれないが、シュートと一緒にいるのは楽しかった。いつも仲間の間の雰囲気を明るくしてくれるのはシュートだった。
「占いで選ばれてないっていうのは…俺も思ってたよ。」
ディルがさらりと言った。これはもしかして、私だけ気付いてなかったパターンかもしれないとミックは衝撃を受けた。ディルが続けた。
「占いで選んでないんだとしたら、そんな大事な旅に適当なメンバーを選ぶと思う?シュートは適任だと思われたんだ。」
シュートは驚いた顔をしている。ディルの顔は真剣そのものだ。
「恐いのはわかるわ。ガラに襲われる恐怖は、私達がお互いに守り合って少しでも軽くする。それに、あなた自身が身を守れるように力を付けるのも手伝える。」
ベルがシュートの手を優しく…いや、力強く握った。
「役に立てないっていうのは、間違ってるよ!シュートがいなかったら、使者の道は真っ暗で進めなかったし、蛇の動きを鈍くすることもできなかった。」
ミックは真っ直ぐシュートの目を見て断言した。シュートの目からは更に涙が溢れてきた。ディル、ベル、ミックと順に見つめた。
「それでも…俺は…。」
シュートが言葉を切った。ベッドに視線を戻した。ラズがもぞもぞと動いたかと思うと、バッと起き上がった。
「ここは…っつ!!」
右腕に体重がかかったからか痛んだようで、またすぐにベッドに倒れ込んでしまった。
「ラズ!!」
シュートがベッド脇へ駆け寄った。
「ここは病院だ。もう、危険はない。視界はどうだ?気持ち悪くないか?体に異変は?」
ラズは眩しそうに目を細めている。
「貴様のその大きな声で頭が痛い。あとは何ともない。」
ラズが今度はゆっくりと右手をかばいながら上体を起こした。
受け答えははっきりしている。しかし当前ながら、状況がわからないようだ。考えこむような顔をしている。
「そうか、よかった。…じゃあ、俺のやることはもうないな。」
シュートは病室のドアへと向かっていく。
思わずミックは腕を掴んだ。シュートは止まったが振り向かない。
なんと言えばいい?どんな言葉をかければシュートの心に届く?
シュートは自分の気持ちもミック達の思いも悪い方に捉えている。
切羽詰まったようなミックの表情やディル達の様子を見てラズが言った。
「貴様…もしや旅を辞めるつもりか?」
シュートがばっと、振り返った。ミックもラズを見た。三日も寝ていて起きて数秒でこの状況を把握とは…どんな脳をしているのだろう。そして、ラズはシュートが辞めることについてどう思うだろうか。
「…そうだよ。お前は賛成だろ?」
シュートは静かに涙を流しながら自嘲気味に笑った。
「貴様のことだ。誰かに唆されでもして、自分が無力でこの旅に同行するには相応しくないとでも思っているんだろう。」
シュートは少し驚いたように頷いた。
ラズは軽くため息をついた。
「まず一つ。貴様が気付いたかは知らないが、あの蛇と戦っていたとき、既に俺の右足は完治していた。右腕の怪我の回復速度を見ているだろう?だから、蛇との戦いの怪我に貴様の責任は皆無だ。」
シュートは黙っている。ラズは続けた。
「二つ。貴様が思っているほど、氷の魔法を使える者はいない。魔力量もかなり多い方だ。間違いなく今後使える力だ。」
ラズはシュートの目を真っ直ぐに見ている。しかし、シュートはくるりと背を向けてしまった。
「もういいんだ!俺は自分に自分で幻滅した。これ以上役に立てそうもないんだ。」
シュートはミックの手を振りほどき、病室から出ていってしまった。
仲間に迷惑をかけたいわけではない。自分が抜けるのなら、きちんとメンバーを補充するつもりだ。シュートは街の求人案内所へ足を運んだ。受付の恰幅の良い女性に話しかけた。
「仕事と人、どっちを探してるんだい?」
「人だ。広告を出してほしい。」
シュートは載せてほしい文面を紙に書いて渡した。
[各地のガラを調査する仕事。医療知識必須。戦闘能力がある者が望ましい。魔法が使えるとなお良い。]
「本気かい?こんな人材なかなかいないと思うけどねぇ…。」
受付係は難しい顔をした。
「わかってるさ。報酬は要相談にしといてくれ。興味のある人は、大図書館の喫茶店に昼からお茶の時の間に行くってことも追加だな。頼んだぜ。」
シュートは案内所をあとにした。
喫茶店で興味を持ってくれる人が現れるまで、求人ポスターを自作することにした。もう、あんな思いはしたくない。自分の力が及ばず仲間がやられるのなんてまっぴらごめんだった。
お茶の時が終わるまでずっと大図書館の喫茶店にいたが、誰も訪ねてこなかった。まだ一日目だ。そう簡単に見つかるとは思っていない。
カップのそこにドロリと残ったコーヒーを飲み込み、作り終わったポスターをまとめ、どこか目立つところへ貼りに行こうと立ち上がった。
大図書館の外へ出ると、少し街が騒がしかった。
「何かあったのか?」
近くを通りかかった少し焦った様子で老人と共に歩く青年にシュートは尋ねた。
「天笠病院でガスだか危ない薬品だかが漏れたらしい。救助に行ったり避難したり、人があちこちで混乱してるんだ。」
病院のすぐ近くに住む祖父を避難させていると言う。
天笠病院はラズが入院している病院だ。シュートはポスターを投げ捨て、病院へと駆け出した。
病院の周囲は大騒ぎだった。自力で避難できるものは次々と建物から出てきていた。担架や車いすで運ばれていく患者もいた。
ラズはもう逃げただろうか。怪我は腕だけだったが、毒の影響でまだ上手く歩けないかもしれない。
「君、これ以上近づかない方がいい!」
白衣を着ているから恐らく医者なのだろう。病院に近付こうとしたところを止められた。
「仲…知り合いが入院してるんだ。」
医者は厳しい顔でシュートを見た。
「駄目だ、ここは危ない。まだどの薬品か特定できていないけど、漏れ出していてとても危険なんだ。研究室付近には我々も近づくことができない。」
医者の話を聞いてシュートは青くなった。この学問の街の大きな病院にある薬品や検体は恐らく様々な種類のものがある。病院だけではなく、この街も危険にさらされるかもしれない。
そして、さらに嫌なことを思い出した。ラズの入院している部屋の向かいのドアに、研究室と書かれていたのを見た。
「ラズ…!」
警察や消防隊に任せるんだ、と制止する医者を無視して、シュートは病院内に駆け込んだ。
「戦闘はからきしでガラは怖いし、魔法使えるっつったってまだまだで、ラズに大怪我させちまうし…。俺はみんなの役に立てない。この街だったら、俺より優秀な医者はきっといる。魔法も使えるかも知れねぇ。俺より適任なやつが見つかれば、王様だってメンバーの交代を認めざるを得ないはずだ。」
「シュート…そんな…。」
シュートはやんわりと肩に置かれたミックの手をどかした。
「俺は…自分が占いで選ばれたとは思ってねぇんだ。だから、最初から誰か別の医療知識があるやつでも良いって思ってた。俺じゃなきゃいけない理由はきっと、ない。」
そんなことを思っていたのか…ミックは占いについては全く疑っていなかったので、驚いた。
病室の床にぽとりと一粒、涙が落ちた。
「ラズが回復するまでは、責任持って一緒にいようと思う。でも、その後は他の誰かに…。」
シュートはずっと辛かったんだ。ガラの恐怖に怯え、自分の無能感にさいなまれ、ずっと辛かったんだ。責任感があって、優しいシュートだからこそ、辿り着いた結論なのだろうとミックは心が痛んだ。
それでも、ミックはシュートと旅を続けたかった。今までのシュートを見てきて、とても頼りになるメンバーだと思っていた。
そしてなにより、旅の目的を考えると不謹慎かもしれないが、シュートと一緒にいるのは楽しかった。いつも仲間の間の雰囲気を明るくしてくれるのはシュートだった。
「占いで選ばれてないっていうのは…俺も思ってたよ。」
ディルがさらりと言った。これはもしかして、私だけ気付いてなかったパターンかもしれないとミックは衝撃を受けた。ディルが続けた。
「占いで選んでないんだとしたら、そんな大事な旅に適当なメンバーを選ぶと思う?シュートは適任だと思われたんだ。」
シュートは驚いた顔をしている。ディルの顔は真剣そのものだ。
「恐いのはわかるわ。ガラに襲われる恐怖は、私達がお互いに守り合って少しでも軽くする。それに、あなた自身が身を守れるように力を付けるのも手伝える。」
ベルがシュートの手を優しく…いや、力強く握った。
「役に立てないっていうのは、間違ってるよ!シュートがいなかったら、使者の道は真っ暗で進めなかったし、蛇の動きを鈍くすることもできなかった。」
ミックは真っ直ぐシュートの目を見て断言した。シュートの目からは更に涙が溢れてきた。ディル、ベル、ミックと順に見つめた。
「それでも…俺は…。」
シュートが言葉を切った。ベッドに視線を戻した。ラズがもぞもぞと動いたかと思うと、バッと起き上がった。
「ここは…っつ!!」
右腕に体重がかかったからか痛んだようで、またすぐにベッドに倒れ込んでしまった。
「ラズ!!」
シュートがベッド脇へ駆け寄った。
「ここは病院だ。もう、危険はない。視界はどうだ?気持ち悪くないか?体に異変は?」
ラズは眩しそうに目を細めている。
「貴様のその大きな声で頭が痛い。あとは何ともない。」
ラズが今度はゆっくりと右手をかばいながら上体を起こした。
受け答えははっきりしている。しかし当前ながら、状況がわからないようだ。考えこむような顔をしている。
「そうか、よかった。…じゃあ、俺のやることはもうないな。」
シュートは病室のドアへと向かっていく。
思わずミックは腕を掴んだ。シュートは止まったが振り向かない。
なんと言えばいい?どんな言葉をかければシュートの心に届く?
シュートは自分の気持ちもミック達の思いも悪い方に捉えている。
切羽詰まったようなミックの表情やディル達の様子を見てラズが言った。
「貴様…もしや旅を辞めるつもりか?」
シュートがばっと、振り返った。ミックもラズを見た。三日も寝ていて起きて数秒でこの状況を把握とは…どんな脳をしているのだろう。そして、ラズはシュートが辞めることについてどう思うだろうか。
「…そうだよ。お前は賛成だろ?」
シュートは静かに涙を流しながら自嘲気味に笑った。
「貴様のことだ。誰かに唆されでもして、自分が無力でこの旅に同行するには相応しくないとでも思っているんだろう。」
シュートは少し驚いたように頷いた。
ラズは軽くため息をついた。
「まず一つ。貴様が気付いたかは知らないが、あの蛇と戦っていたとき、既に俺の右足は完治していた。右腕の怪我の回復速度を見ているだろう?だから、蛇との戦いの怪我に貴様の責任は皆無だ。」
シュートは黙っている。ラズは続けた。
「二つ。貴様が思っているほど、氷の魔法を使える者はいない。魔力量もかなり多い方だ。間違いなく今後使える力だ。」
ラズはシュートの目を真っ直ぐに見ている。しかし、シュートはくるりと背を向けてしまった。
「もういいんだ!俺は自分に自分で幻滅した。これ以上役に立てそうもないんだ。」
シュートはミックの手を振りほどき、病室から出ていってしまった。
仲間に迷惑をかけたいわけではない。自分が抜けるのなら、きちんとメンバーを補充するつもりだ。シュートは街の求人案内所へ足を運んだ。受付の恰幅の良い女性に話しかけた。
「仕事と人、どっちを探してるんだい?」
「人だ。広告を出してほしい。」
シュートは載せてほしい文面を紙に書いて渡した。
[各地のガラを調査する仕事。医療知識必須。戦闘能力がある者が望ましい。魔法が使えるとなお良い。]
「本気かい?こんな人材なかなかいないと思うけどねぇ…。」
受付係は難しい顔をした。
「わかってるさ。報酬は要相談にしといてくれ。興味のある人は、大図書館の喫茶店に昼からお茶の時の間に行くってことも追加だな。頼んだぜ。」
シュートは案内所をあとにした。
喫茶店で興味を持ってくれる人が現れるまで、求人ポスターを自作することにした。もう、あんな思いはしたくない。自分の力が及ばず仲間がやられるのなんてまっぴらごめんだった。
お茶の時が終わるまでずっと大図書館の喫茶店にいたが、誰も訪ねてこなかった。まだ一日目だ。そう簡単に見つかるとは思っていない。
カップのそこにドロリと残ったコーヒーを飲み込み、作り終わったポスターをまとめ、どこか目立つところへ貼りに行こうと立ち上がった。
大図書館の外へ出ると、少し街が騒がしかった。
「何かあったのか?」
近くを通りかかった少し焦った様子で老人と共に歩く青年にシュートは尋ねた。
「天笠病院でガスだか危ない薬品だかが漏れたらしい。救助に行ったり避難したり、人があちこちで混乱してるんだ。」
病院のすぐ近くに住む祖父を避難させていると言う。
天笠病院はラズが入院している病院だ。シュートはポスターを投げ捨て、病院へと駆け出した。
病院の周囲は大騒ぎだった。自力で避難できるものは次々と建物から出てきていた。担架や車いすで運ばれていく患者もいた。
ラズはもう逃げただろうか。怪我は腕だけだったが、毒の影響でまだ上手く歩けないかもしれない。
「君、これ以上近づかない方がいい!」
白衣を着ているから恐らく医者なのだろう。病院に近付こうとしたところを止められた。
「仲…知り合いが入院してるんだ。」
医者は厳しい顔でシュートを見た。
「駄目だ、ここは危ない。まだどの薬品か特定できていないけど、漏れ出していてとても危険なんだ。研究室付近には我々も近づくことができない。」
医者の話を聞いてシュートは青くなった。この学問の街の大きな病院にある薬品や検体は恐らく様々な種類のものがある。病院だけではなく、この街も危険にさらされるかもしれない。
そして、さらに嫌なことを思い出した。ラズの入院している部屋の向かいのドアに、研究室と書かれていたのを見た。
「ラズ…!」
警察や消防隊に任せるんだ、と制止する医者を無視して、シュートは病院内に駆け込んだ。
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