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第四章 鬼との遭遇

第18話

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「さぁ、君たちの意志は確認できたから、早速、大江山に行こう。僕にはやらなくていけないことがあるからね」
「おう、早く探しに行こう」

 大祇は、改めて腰に携えた短刀に手を添える。

 慣れた感じで、さらっと実験台の下に潜り込むと、マシュー、まりな、最後に大祇の順番で時空を歪ませながら、大江山に移動した。

「まりな、大丈夫だった?」

 振り向きながら、まりなの手をグイっと引き寄せてマシューが尋ねる。

「えぇ、不思議な感じ。扉の下を覗き込んだら、ここにいたって感覚ね」
「お楽しみいただけたようで、何より」

 マシューは、周囲に目を向けている。

「近くに鬼がいそうなのか?」

 大祇は、マシューに聞いてみた。

「いや、この周辺にはいないよ。僕は酒呑童子がいそうな場所をこないだ見つけたから、そこまで行ってこようと思っている。たいきとまりなはどうする? ついてきてもいいし、ここでくつろいでいてもいいよ」
「俺は、マシューについていくよ。まりなはどうする?」
「私は、この木陰で宿題しておくわ」
「はは、わかったよ。じゃあ、万が一、鬼が接近してきたら、すぐに時空の出入り口に飛び込むんだよ。第二理科室には刀文様通行証のない鬼は入れないから。もし、待つのが退屈なら、さきに帰ってくれても構わないからね」

 マシューは、丁寧にまりなに説明をする。

「大丈夫よ、子供じゃないんだから」

 いやいや、俺たちまだ未成年なんだから……と大祇は、心の中でツッコミを入れておく。

「じゃあ、たいきは僕の腰を両手でしっかり持っていてね」
「お、おう。って何するんだよー」

 大祇が話終わるまでに、マシューは大祇の腰に片手を添えたかと思ったら、空高く跳躍した。

「!!!!!」

 大祇は、いきなり高いところに体があるので、恐怖で声が出ない。必死で、マシューに振り落とされないように、両手に力を込める。

「確認するのを忘れていたけど、たいきは高所恐怖症ではないよね?」

 跳躍を何回も繰り返し、木の枝から枝に飛び移りながら、マシューは話かけてくる。
 でも、大祇には返事をする余裕はまだなくて、顔をコクコクと細かく上下に動かすだけで、精一杯だった。

(マシューのことだから、俺が高所恐怖症でないことなんか、調査済みだと思うのに、あまりに俺が怖がっているから、からかいたくなったに違いない。)

 大祇は、必死の形相をしながら、そんなことを考えていた。

 二十回ほど跳躍を繰り返した後、大祇はやっと周りの景色を見る余裕が出てくる。空を高く移動するマシューの横顔が何だか楽しそうで、一緒についてきて良かったなと思う。

 マシュー一人の時でも、こんなににこやかに跳躍しているんだろうか。
 大祇の考えを見抜いたのか、マシューは前を向いたまま、自分の気持ちを打ち明けた。

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