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第六章 まりなの居場所

第31話

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  大祇は明かりを頼りに洞窟の中に入っていく。ヘッドライトで照らしてみても、奥行きはなくて、乗用車が二台分くらいの大きさしかなかった。

「奥が深いと鬼がいるかもしれないと思ったけれど、小さい洞窟で助かったぁ……」

 そう言うと、大祇は腰を下ろして、水でのどを潤す。お腹は先ほどマシューと出発前に食べてきたから、そんなにもすいていない。

「まりな、何か食べたのかなぁ。お腹すかせていないといいけど」

 大祇は、まりなは空腹になると機嫌が悪くなるのを知っているので、まりながマシューに八つ当たりとかしていないか少し心配になる。それよりも、二人とも怪我をしていないだろうか。吊り橋から移動したのには、理由があったはず。鬼が傍にくる以外に、考えられない。

「あの二人、鬼に捕まったのかな。『童子切』の刀は僕が持っているから、酒呑童子の力を弱らせたとも考えにくいなぁ。マシューが持っていた『鬼切丸』の宝刀でも少しは弱らせることができたかな」

 静かな洞窟内に自分の声だけが響き渡る。不安を隠すように独り言をつぶやいていたけれど、考えを一巡したところで、大祇の気持ちが固まった。

 やはり『童子切』を必要としているはずだから、早くあの二人を見つけ出そう。

 大祇はヘッドライトを洞窟内で消してみる。夜の暗さに目を慣らそうと思ったからだ。洞窟の外に出て、星を探してみる。今日は、満月なのだと外に出て初めて気が付く。月が明るくて、今日の星はとても見えにくかった。これだけ、月光があるなら、鬼の夜目にはかなわないけれど、周囲に異変があれば気が付くことができそうだ。

 大祇は、もう一度、水を飲もうと洞窟に入ろうとした時だった。

「?」

 そう遠くない場所から、にぎやかな話し声と笛の音色が聞こえてくる。この街に住んでいる人が宴会でもしているのだろうか。

(いや、それにしても、ずいぶん近くで音がする)

 大祇はどこから音が聞こえてくるのか、目を閉じて神経を耳に集中させる。この大江山のどこかで宴会をしているように聞こえる。……ということは、鬼の宴会かもしれない。

 大祇の背筋がゾワリと冷えるのを感じた。マシューが言っていた、攫った人間を食べていたという話を思い出したからだ。

「二人が危ない!」

 大祇は急いで洞窟の中に戻り、リュックを背負うと音のする方向へ歩きだす。足音をさせないようにゆっくり歩くと、どんどん話し声や笛の音色が近くなってきた。山肌を伝って歩いていくと、もう一つ洞窟があるようで中の光が外に漏れて、洞窟の外も明るくなっていた。

(ここで宴会をしているんだな)

 大祇は洞窟の入り口の壁に体をぎりぎりまで寄せて、中を覗いてみる。

 ざっと数えて十五人くらいいるだろうか。角の生えた鬼もいれば、人間にしか見えない者もいる。

 大祇はまりなとマシューが捕らえられていないか、目を細めて奥の方も見てみるけれど、この洞窟は先ほど大祇が休憩した洞窟よりもかなり広いようで、奥の方にまで明かりは届いていない。これでは、中にあの二人がいるかは判断できない。どうしよう……。

 大祇は洞窟の外の壁に背中をぴったりと当てたまま思案する。

 すると、一人の足音が洞窟の中から聞こえてきた。

「臭うぞ……。臭う……」

(しまった。俺のにおいに気づかれたか)

 大祇の心臓は今にも飛び出しそうなほど、ドキドキしてくる。大祇は洞窟の中からやってくる足音に気を取られて、自分の背後に鬼がいることに気がついていなかった。

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