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第八章 恋のライバル⁉

第44話

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「あ~! マシュー、久しぶり!」

 そう言いながら、まりなもマシューの傍までやってくる。

「元気そうじゃない。良かった」

 まりなもこの一週間、マシューの姿が見えないのでどうしたのかと心配していた仲間の一人だ。

「まりなにも心配かけたようで、悪かったね」

 マシューはまりなにも謝罪の言葉を口にする。

「気にしなくていいのよ。ところで、今は何をしていたの?」

 まりなの問いに大祇もマシューも秘密とだけ答えた。
 大祇は、ポケットに手を入れると、まりなに渡すものがあったことを思い出す。

「まりな、これ返しておくよ。大江山で拾ったおはじき」

 小さいころから持ち歩いているおはじきだけれど、綺麗に透き通って輝きは変わっていない。

「ありがとう、大祇」

 まりなは、両手を差し出して、落とさないように受け取った。

「今更だけどさ……」

 大祇は、まだまりながこのおはじきを、大江山にうっかり落としたのか、意図的に落としたのか確認していなかった。後者だと思っているけれど、答え合わせがしたかったのだ。

「このおはじきって、俺たちが見つけると思って、わざと道案内に置いていったの?」

 まりなは、目を大きく見開いて一言。

「当たり前じゃない!」

 笑いながら大祇の肩をポンと軽く叩いた。

「やっぱりそうだったのか……」

 どこまでまりなの思考を読めたかは、わからなかったけれど、結果として大祇が見つけられたのだから良かったのかもしれない。

「でも、大江山に置いていったのは、三枚なのよね。青、黄、赤を一枚ずつ」

 大祇が見つけたのは、黄色と青色だ。赤色は大江山に置いてきてしまったことになる。

「まりなのことだから、赤色のおはじきも使ったのかな……とは思っていたんだけど、やはりそうだったのか」
「えへへへ」

 なんてことのないおはじきだけれど、一応、小さい時から使用しているので愛着はある。小学生の頃にも落としたり、紛失したりはしている。

「大丈夫よ。またおはじき、新しく買えばいいもの」

 全部、回収できていなかったことを、大祇は少し残念に感じる。
 すると、マシューが両手をこすり合わせると手品のように赤色のおはじきが、何も無かった手のひらから現れた。

「すごい!」

 まりなも大祇も、一瞬で出てきたおはじきに感嘆の声をあげる。

「今のって錬金術……ではないよね? ガラスの素材になるものは持っていなかったし……」

 大祇は、どうやっておはじきが出現したのか予想してみる。

「と、言うことは……大江山に落としてきたやつ発見したってこと?」

 推理をしてみた大祇は、マシューに答えを求めた。

「さすが、大祇。大正解!」
「いやいや、マシューが残りの一枚を見つけた事の方がすごいよ!」

 男二人はお互いの仕事ぶりを褒め合う。

「いつ、これ見つけたの?」

 まりなは赤いおはじきを受け取りながら、質問する。

「これはね、酒呑童子の恋の行方を聞いた時に、酒呑童子から渡されたんだ。まりなは、おはじきを目印にしたら大祇が探しに来てくれるかもしれないって、土下座した鬼に話した事を覚えている? それを思い出した彼らがあの後、僕らが表の世界に帰った後、全部、おはじき持って帰ったのか確認してくれたんだって。だから、僕が発見したわけじゃなくて、酒呑童子を含む、鬼たちのお手柄ってことになるけどね」

「みんな、本当に心根の優しい鬼なのね」

「わざわざ確認してくれたなんて、有難い話だな」

 まりなも大祇も、鬼の優しさに触れて、胸がジーンと熱くなる。

「これで、二人とも今まで通りおはじき暗号をやりとりできるね」

 マシューは、まりなの手のひらにある三色のおはじきをひすい色の瞳に映しながら、笑顔で微笑んでいる。

「ジャーン! サプラ~イズ!」

 大祇は、陽気な声をあげて、先ほどまりなのおはじきを取り出したポケットと反対側のポケットから、何かを取り出した。
 パッと開いた大祇の左手の中には、三色のおはじきが乗っている。

「これは、マシュー専用のおはじき!」

 実はこっそり、大祇はマシューのおはじきを購入していたのだ。

(マシューにも持っていて欲しいから、昨日こっそり買いに行ったんだよね)

 大祇は、サプライズプレゼントが成功したかどうか気になって、マシューの顔を覗き込む。
 マシューは震える瞳でおはじきを見つめて、大祇からおはじきを受け取った。

「僕、こういうプレゼントってもらったことが無いんだ……。ありがとう大祇」

 大祇は予想以上に、喜んでくれたので、とても嬉しかった。

「正直、こんなに喜んでくれるとは想像していなかったよ。まぁ、友情の証ってことかな」

「これで、時空捜査クラブのメンバーはみんなおはじきを持っていることになるのね」

「なんだか、素朴な会員証だな」

 大祇もまりなも、マシューの背中を優しくさすりながら、ここに友情があることを嬉しく思った。

「二人とも、本当にありがとう。この学校に来られて、君たちと出会えて僕は嬉しいよ」

 マシューと二人は、喜びを噛みしめて今日の時空捜査クラブは解散となった。

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