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お風呂イベントは欠かせない
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遠学での湖キャンプの最終日に、盛大な花火を打ち上げる形となってしまった俺達だったが、幸いにして怪我人はおらず、チェルシーも魔力の急激な消費で朦朧とはしているものの、大事はないということでその場は解散となるはずだった。
あれだけの爆音を鳴り響かせれば当然ながら異変を察知して教師陣も駆けつけるもので、決闘で荒れた現場を見て大凡を把握した教師達による説教を受けるチェルシーとシペアをよそに、俺は空けた穴を塞ぐ作業に移ろうとしていた。
穴の底にはまだもうもうと湯気を上げる熱湯が溜まっており、まずはそれを排水してから穴を持ち上げようとしたところ、湯気に釣られてきたゼビリフが俺の隣に立って話しかけてきた。
「なぁアンディ君、ちょっといいかな?」
「はい?なんでしょう?」
「穴の底のお湯なんだけど、このまま処分するのは惜しいよ。湖での野営も最終日になるし、生徒達にお風呂として使わせてあげたいんだけど…」
およそ三日間、ずっと湖の畔で寝起きしていた学生達のために、風呂を用意してやろうというゼビリフの親切心には素直に感心する。
もともと大量のお湯を必要とする風呂自体が貴重なこの世界で、目の前にあるお湯を廃棄するというのも勿体ない。
「いいと思いますよ。ついでに俺の土魔術で湯船も作っておきましょうか?」
「いいのかい?わざわざ手間をかけさせてしまってすまないね」
「この穴をただ埋めるより、少し深さを残してかさ上げする方が手間は少ないですし。というか、最初から俺にそう依頼するために声をかけてきたんでしょう?」
「おやおや、バレていたか」
ゼビリフの話し方から、俺に湯船の用意まで頼もうとしていたのは何となく予想していた。
あの場面で風呂の話を俺にしたということは、土魔術の腕前を知っているゼビリフにしてみれば、そういう目的があったとしか思えないのだ。
俺から言い出したはずなのに、なんだか乗せられたような気持になるのは、それだけゼビリフの食えない性格を直に感じ取ったせいかもしれない。
すっかり日が暮れた頃、土魔術で作った湯船とその周りを囲む高い壁によって完成した簡易の風呂場は、遠学に参加している全ての人達に開放され、利用した声を聴く限りでは好評を博しているようだ。
男女で別れた造りになっている風呂だが、湯船自体に仕切りがあるだけでお湯は一緒のものを使っているため、ぬるくなった際の追い炊きの手間が少なくて楽ではある。
ちなみに、お湯の温度を管理する役割は火魔術が使えるチェルシーに任されており、これは騒ぎを起こした彼女への罰でもあるそうだ。
同じくシペアもまた罰として、湯船のお湯を水魔術でかき混ぜて温度を均一に保つという仕事が与えられていた。
「ちょっとシペアさん!あなたさっきから水の勢いが強すぎますわよ!それだとわたくしの魔術が乱されるでしょう!」
「一々うるせーなぁ。しょうがねーだろ、こうしないと奥まで行き渡らないんだよ」
風呂を囲む壁に空けられた小窓のような場所は、湯船と繋がっている洗面台のような形をしたスペースとなっており、そこを通じて壁の向こう側の湯船へと熱いお湯を送り込んだり、ぬるくなったお湯を引き込んだりするのに使われていた。
ぎゃあぎゃあと騒ぎながらも与えられた仕事をこなすシペアとチェルシーだが、もう随分長いことこの作業をしているせいで、大分疲労がたまっているようだ。
この言い合いも疲れから来る苛立ちに起因しているようで、辟易としているシペアに対して、噛みつき具合がいまだ健在のチェルシーの方だが、空元気であることは薄っすら読み取れる。
「はいはい、ケンカしない!」
パンパンと手を叩いて、未だ言い争う二人の意識を俺へと向けさせる。
「確かに長い時間作業を続けて辛いと思う。けど、これは先生方から罰として与えられた仕事であるし、監督を任された身としては静かに取り組んでもらえた方がこっちはありがたいんだがね」
本当なら俺も他の人達に混ざって一っ風呂浴びてるはずなんだが、何をトチ狂ったのかウォーダン直々にこうして二人を監督するのを押し付けられてしまった。
それに付き合う形で、パーラとスーリアも風呂にも入らず付き合ってくれているのが、少しだけ申し訳ない。
チェルシーの取り巻き達も先程まではここにいたのだが、彼女自身が惨めな姿を見られたくなかったのか、自分はいいから先に風呂へ行けと、妙に男前な台詞を吐いて追い払っていた。
それでも中々取り巻きの女性達が行こうとしなかった辺り、意外とチェルシーの人望は厚そうだ。
「分かっています!作業はちゃんとやりますわよ!…ほんとにもぅ…男に命令されるなんて…」
今度は俺に噛みつきながらも、温度管理へと意識を集中させたチェルシーだったが、ブツブツと呟く俺へと向けた呪詛はしっかりとこの耳で捉えている。
まぁ俺個人に文句を吐くだけで大人しく作業をこなしてくれるのなら、いくらでも見逃そう。
それからしばらく経った頃、ようやく俺達以外の全員が風呂を済ませたようで、ようやく風呂焚きから解放された俺達は、寒空の下で固くなっていた体を解しながら、本日最後の風呂をいただくことにした。
「あぁ~!つっっかれましたわねぇ!スーリアさん、パーラさん!さっさとお風呂に行きますわよ!」
真っ先に風呂の方へと歩いていくチェルシーに、首根っこを捕まえられる形で同行させられるスーリアとパーラは、諦めの表情を浮かべている。
男である俺とシペアには棘のある態度をとるチェルシーだが、同じ女性であるパーラとスーリアには親し気に話しかけており、この作業が終わったら背中を流し合おうと語っていたほど、いつのまにか親密な仲を築いていた。
まぁ、パーラ達の方は強引なチェルシーに引っ張られているような感じだが、自分達に向けられる感情がそう悪いものではないこともあり、やれやれと言った感じだ。
無論、同性相手だからこその態度だと分かってはいるようだが。
当初予想していた入浴時間より少し遅くなったが、冷えていた体もお湯に浸かると一気に疲労が抜けていくのを感じる程度に、改めて体に蓄積していた疲労に気付かされる。
「はぁ~…。いい湯だなぁ」
「はぁ~びばのんのん」
「え、なんだそれ」
「確かにいい湯だなぁ」
つい漏れてしまった温泉のお約束にシペアが食いつくが、説明が面倒なので先の言葉に同意する形で強引に流す。
「いや、さっき言った、びば―」
「確かにいい湯だなぁ」
「何故二回言う…まぁ、いいや」
男二人、湯船の縁に背中を預け、湯気の向こうに見える星空を眺める。
家の中では見られないこの光景を考えれば、こうして屋外に風呂を作るのも悪くないのかもしれない。
偶にはこうして露天風呂の―
『きゃぁああああ!な、なななにするんですか!チェルシーさん!』
『何って、スーリアさんのお胸が綺麗だと思いましたから、少し触ってみようかと』
『思いっきり揉んでたじゃないですか!』
『いえ、そんな気は全然。偶々指が動いただけですわ。本当、偶然です、偶然』
男湯と女湯を隔てる土壁の向こうから聞こえてきたのは、男心にグッと巨大な釣り針を引っかけてくるような、なんとも耳に甘いやり取りだった。
『あら、パーラさん。あなた中々綺麗なお尻をなさってますのね。何か特別なお手入れでも?』
『そう?別に特別なことは何もひょぉおうっ!チェルシー!お尻揉まないで!?』
『ですから、偶然ですわよ、偶然。…ぐへへ』
『嘘だ!その顔は偶にアンディがする悪い顔!』
「ぶふぅうう!」
突然無関係なはずの俺が槍玉に上がり、思わず吹き出してしまうのは仕方のない事だと思わないか?
「アンディ…、お前も男だな」
「いや!違うっ―…こともないけど、こんな形でパーラから言われるのは…その、甚だ不本意であるというか」
シペアの言葉に強く否定することも出来ず、尻すぼみになっていくのを聞いてうんうんと頷くシペアの理解が今は辛い。
『なんということをおっしゃいますの?わたくしの行動を低俗な男のそれと同列に扱うなんて。いたしかたありませんわね。ここは一つ、わたくしが女性をどれだけ繊細に扱うのかを体に教え込ませるしか…』
『ひぃっ!パ、パーラちゃん、どうしよう…』
『く、アンディ達に助け『だ、ダメだよ!裸を見られちゃう!』―そ、そうだった…』
『よいではないか!よいではないか!ヒャッハァー!』
『『アッー!』』
悪代官に変身したチェルシーの声に続いて、パーラ達の絶叫が響くと、唐突に辺りは静寂に包まれる。
よほど嫌がることでもすれば、パーラの風魔術が炸裂するだろうから、じゃれているだけだと思おう。
しかしこうして女性同士の会話を聞いていると、チェルシーの男嫌いはどうも単純に女好きであることの裏返しに過ぎないような気がしてきた。
あのはっちゃけ具合を聞く限り、男である俺達がチェルシーと仲良くなれる材料はないと考えていい。
見た目は十分綺麗なのに、女性を愛してしまっているチェルシーの未来を心配するのは、流石に余計なお世話だろうか。
チェルシーたちが静かになってから少し経った頃、壁の向こうから微かに聞こえる喘ぎ声のような声が、俺とシペアの耳に届いているせいで、何となく居心地の悪い空間になっている。
「…そろそろ出るか」
「ああ。体も十分温まったしな」
ありがたいことに、シペアの方から切り出してくれた提案に乗り、俺達は若干前かがみになりながら風呂から上がる。
『っいい加減に―…しろぉっ!』
『ぅゎらばっ!』
脱衣所に入る寸前、怒るパーラの声と人の体が殴打される音と共に、チェルシーの上げたであろう呻き声を背中で聞き、予想出来た顛末に呆れつつ着替えに手を伸ばした。
遠学という行事の締めくくりに、さっぱりとした体で夜を迎えた参加者達は、湖を後にする今日という日を爽快な気分で過ごすことが出来るだろう。
あとは帰るだけということもあって、笑顔で馬車へと乗り込む生徒達の姿をよく見かけた。
その一方で、教師や護衛に付いている冒険者等といった者達には気の緩んだ雰囲気は無い。
行きと帰りの道中の警戒は、どうしても彼ら護衛役に任せきりになる。
一応俺とパーラも護衛役としてシペアに雇われた形ではあるが、俺達が主に守るのが依頼人であるシペアなのに対し、学園が用意した護衛は遠学に参加している生徒達全員を警護対象としているため、守るという点では移動中の方が難易度が跳ね上がるせいで、彼らの仕事は湖にいる間よりもこれからの方が本番だと言っていい。
続々と出発していく馬車の群れに続き、俺達もバイクを動かしてその列について行く。
再び三日弱かけて学園へと戻る道は、既に一度見たものであるため、さほど心を動かされるものは無い。
唯一、休憩の度にわざわざ俺達の所へと取り巻きを引き連れて現れるチェルシーの姿が、行きと違う光景として見られた。
どうもあの風呂の一件でパーラ達と仲良くなったらしく、取り巻きも交えて楽し気に話している様子は、学園では孤立気味だと聞いていたスーリアに中々いい刺激となっているようだ。
他愛無いおしゃべりで声をあげて笑っている彼女達を見ると、仲のいい友達が出来たことを素直に喜びたい。
ただまぁ、案の定俺とシペアはいないものとして扱う空気は、居心地がいいとはお世辞にも言えない。
ふと思ったのは行きの際には他の班の人間とあまり絡みがなかったのに、帰りにはこうも仲良く話してもいいものかという疑問がある。
確か遠学の間は各班の評価査定を分かりやすくするために、横の協力などさせないように接触もしないものだと聞いていた気もするが、今はもう帰りの道をただ戻るだけなので、厳格に取り締まられるような事も無いそうだ。
とはいえ、一応班毎の独立性を保つという名目で、馬車を移っての移動というのは流石に許されてはいないとはシペアの談だ。
要は遠足は帰るまでが遠足という、例のアレだな。
妖精族とのファーストコンタクトという、異世界での人気イベントトップ5に入る出来事があった遠学から、ディケットの街へと戻って来てから20日ほどが経った。
季節はもうすっかり春といった感じで、ディケットの街から少し離れた土地では、夏の収穫に向けての作物の種を植えている風景もチラホラと見られるようになっている。
前世だと春は別れと出会いの季節と言ったはよく言ったものだが、この世界では特にそんな事も無く、学園への入学はもう少し季節が進んだ時期になってからのことだ。
学園では四年間何の問題もなく進級していけば、いつでも卒業は認められているそうで、この季節に卒業生が大量発生するということもない。
ちなみに、この四年での卒業というのは、あくまでも最低限の学業を修めたというのを認めているだけだあって、まだまだ勉学に励みたいという人は、そこから更に専門課程を選んでの進級をするそうで、ウォーダンの神秘学なんかも専門課程での選択になるという。
学園を卒業したというのはそれだけで箔が付くのだが、専門課程で学んだことが就職に有利となるのは前世と似ていると思った。
春を迎えたことで特段学園で変化が起きることはないのだが、俺とパーラにとってはここ最近の生活では大きな変化があった。
まず一つ、俺とパーラは五日に一度、学園内へと足を踏み入れる許可を貰えた。
これは遠学でウォーダンに交渉していた報酬として、学園にある蔵書室を利用したいことを伝えたところ、ウォーダンが色々と頑張ってくれたようで、条件付きではあるが、なんと許可が下りてしまった。
学園側の教師一人の監視付き、五日ごとに一日だけとはいえ、結構破格ではないかと思っている。
監視役も遠学で交流のあったウォーダン、ケレス、ゼビリフの3人が申し出てくれたおかげで、監視されているという感覚もあまりない。
学園へと入るのが二度目の今日、蔵書室へと直行する俺とパーラの先頭を歩いているのはウォーダンだ。
今歩いている石造りの通路は、学園の創設された当時から変わっていないものだそうで、手入れの行き届いている中にも見られる傷や汚れなどには、刻まれた歴史の古さを感じてしまう。
「いやぁ~先日はすまなかったね。ゼビリフ先生がつい学園の案内を長引かせてしまったせいで蔵書室を利用する時間がなかったんだって?」
「ええ、まぁ。ですが、学園の中というのは色々と見るものも多かったので、楽しませてもらいました」
「そうかい?ゼビリフ先生も君達を随分気にしててね、つい長々と連れまわしてしまったと反省していたんだよ。その言葉は後で私からも伝えておくよ」
許可をもらって学園へと来た初日に、俺達を監督する役目を負ったゼビリフに校門で捕まり、そこから学園の見学ツアーが始まってしまったせいで、目的であった蔵書室へは一度も足を踏み入れることなくその日を終えてしまった。
今日の二度目の訪問で、今度こそ蔵書室へと辿り着いて見せると、秘かに決意を固めていた。
しかしこうして学園の中を歩いていると、時折すれ違う人が実に多いことに気付く。
時間的にはまだ午前の早いうちであるため、授業中であるはずの生徒達の姿があちらこちらで見られる。
身に着けているマントは学園指定のものであるため、生徒であることは間違いないのだが、シペア達と比べて体つきも大分大人に近いものであり、恐らく上の学年の生徒なのだろうと推測する。
彼らは授業はどうしたのかと思い、ウォーダンに尋ねてみたところ、今の時期は来年に五年生となる生徒が選択科目の選定に動き回っており、色んな教授の下へと足を運んでいるところだという。
なので、彼らは午前の授業は免除されており、こうして歩き回る姿をよく見かけるのだそうだ。
入学式や卒業式は無いが、こういう光景は学園における春の風物詩として捉えてもいいのではないかと思うのだが、ウォーダン曰く、本来選択科目の選定というのは冬の間に終わらせておくべきもので、今こうして調べ周っている生徒達は出遅れた方なんだとか。
人気のある科目は早々に定員も埋まってしまうもので、明確な将来像を描いている生徒ほど今頃はのんびりと過ごしているらしい。
そんな光景を横目に、歩みを止めることなく二階へと上がり、そのまま廊下を突き当りまで歩いていくと、目当ての蔵書室へと到着した。
俺達を出迎えた重厚な扉は、蔵書室と言うよりかは金庫室と言ってもいいぐらいに頑丈そうなものだ。
この世界では本というのは貴重品であり、とりわけ学園に集められるのは貴重なものばかりだ。
知識の源ともいえる本を多数所蔵する学園としては、盗難などは当たり前に警戒するもので、侵入を容易にしない扉というのはその表れだと言えるだろう。
「随分厳重そうな扉ですね」
「まぁね。この扉自体もそうだけど、蔵書室に収められてる本はどれも貴重なんだ。学生が利用する時間帯に合わせて、朝・昼・夕方の時間以外は鍵をかけているんだよ」
そう言ってウォーダンが扉の中央にある切り込みに幾何学模様の描かれた板を押し込むと、ゴンという重い音を響かせて、ゆっくりとその向こうの景色を覗かせる。
目に飛び込んできた蔵書室の姿は、ずらりと並ぶ本棚と所々にあるテーブルという組み合わせが、まさしく俺の想像する図書館と実によく似ていた。
一歩室内に踏み込んだ瞬間から鼻に感じた匂いも、あの独特なものがあった。
「うぷっ…、なんか変な臭いする」
「はははは、蔵書室は空気の流れもないし、本も独特の臭いを出すんだ。そういう臭いがダメだって生徒は結構多いね。パーラ君も苦手なようだ」
大抵の本は表紙に革や布、珍しいものだと木なんかで保護しているものもあり、蔵書室のような密閉した空間ではどうしても臭いがこもってしまう。
時間の経った紙の匂いに加え、ハードカバーの装丁の匂い、手入れに使う蝋やオイルなんかの匂いもあいまって、人によっては気分が悪くなる場合もあると聞いたこともある。
「…アンディは平気なの?」
「いい匂いだとは思わないが、耐えられないほどでもない。お前もしばらくいれば慣れると思うぞ」
「うぇ…これにぃ~?ほんとかなぁ…」
顔をしかめるパーラは俺の言葉を信じられないようではあるが、まぁどうしても我慢できないようだったら外に出させた方がよさそうだ。
早速蔵書室に並ぶ本棚の一つへと近付いていき、その中に収められている本の一冊を手に取る。
革の装丁のそれをパラパラっとめくって見ると、しっかりと手入れがされているのが分かる。
長い年月の保存では劣化しやすい素材の紙ではあるが、適切な処置を施せばそれなりに持たせることは出来るもので、これだけ膨大な数の本ともなるとその手間と費用も相当かかっていることだろう。
俺達はシペアの依頼を受けて遠学へ参加したわけだが、その過程で得られた蔵書室の利用権はまさに望外の報酬だと言ってもいい。
学園関係者以外では足を踏み入れることがまずできない蔵書室から得られる知識は、冒険者として生きていく上でも十分に役立ってくれるはずだ。
「アンディー、私他の所に行ってていい?」
ひとまずどこから手を付けようかと本棚の列を眺め歩いていると、蔵書室へと足を踏み入れることを頑なに拒む姿勢でいるパーラが別行動を申し出てきた。
「他ってどこに?言っとくが、俺達はウォーダン先生の監視下にあるんだぞ。あんまし一人で歩き回るのはよくないだろ」
「いや、構わないよ。授業中の教室は流石にまずいが、中庭や二階と三階の露台ぐらいは使ってもいいはずだ。もちろん、他の所へ勝手に行かないと約束してくれるね?パーラ君」
「本当!?するする!約束しまーす!じゃあ私中庭に行くから、昼食になったら呼びに来るね!」
本当に蔵書室の臭いが嫌なのだろう。
早口でまくし立てて素早く去っていくパーラを、少し慌てた様子のウォーダンが追いかける。
「待ちたまえ!君は中庭の場所を知らないだろう!アンディ君、すまないが私が戻るまでこのまま蔵書室にいてくれ。おーい!パーラ君ー!」
俺の返事を待たずに大声でパーラを追いかけるウォーダンの背中を見送り、再び本の吟味へと戻る。
パーラは昼飯ごろにまた来ると言っていたし、それまではざっと本棚を見て回って、気になるものに手を伸ばしていく。
ざっと眺めて読了にかかる時間と内容の濃さから今すぐに読んでおくものと、今度また来た時に読むものを分けて考え、とりあえず2冊だけを手にして適当なテーブルへと移った。
腰を落ち着けて読んでみると、流石学園所蔵だけあって本の内容もアカデミックなもので、実にためになる。
軽い読み物程度で済ませるつもりだったが、気が付けば二冊目を読み終え、三冊目・四冊目を探しにテーブルを立ってしまうほどに読みふけってしまった。
時間が経つのを忘れるほど読書に集中していたが、不意にどこからか響く鐘の音が耳に届く。
学園でなる鐘の音と言えば授業の開始と終了を告げるものだと相場が決まっているのだが、聞こえてきたのはいわゆるキンコンカンのチャイムというよりは、ジリリリというベルの音に近い。
扉の向こうから聞こえてくる喧騒から察するに、どうやら授業が終わって休み時間に入ったようだ。
生徒達の上げる楽しそうな話し声を聞くと、まさに学校の休み時間といった感じで懐かしさを誘う。
と同時に、それまで意識していなかった空腹感に襲われ、今が昼時だということに気付いた。
てっきり俺が空腹を覚えるよりも先にパーラが迎えに来ると思っていたが、どうもそんな感じがしない。
パーラを追いかけて言ったウォーダンもあれから来ていないし、どうしたものかと思っていると、蔵書室の扉を押し開いてシペアが姿を現した。
「お、本当にいた。アンディ、昼食一緒に行かね?」
「シペアか。ということは、さっきのベルはやっぱり昼休みのか?」
「そうだぜ。今日はスーリアが昼食を用意してくれてるから、中庭に行こうぜ。スーリアとパーラもそっちにいたし」
「へぇ、スーリアが。それは楽しみだ。本戻してくるから少し待っててくれ」
俺の姿を見つけたシペアから、昼飯の誘いとともにパーラの現在の居場所も知ることが出来たため、それに乗る形で蔵書室を後にして中庭を目指す。
廊下を歩くと、時折すれ違う生徒が俺の姿を訝しげに見てくることがちょくちょくある。
「…なぁシペア、なんかすれ違う度に変な目で見られてるよな?」
「ん?あぁ、しかたねーだろ。学生の格好してない同い年ぐらいの奴が学園内を歩いてるってのは珍しいからな」
「なるほど、言われてみれば」
学園にも外から入ってくる人間が廊下を歩くということはあるだろうが、それは大抵何かしら学園内での作業を目的としてのことだ。
そういうのは普通、経験のある職人の仕事なので、まだまだ見習いである俺ぐらいの年の人間は学園に来ることなどまずない。
珍しさもあって廊下を歩く俺に集まる視線はそれなりにあるせいで、少々恥ずかしい。
「そういえば、よく俺が蔵書室にいるって知ってたな。パーラにでも聞いたか?」
「いや、ウォーダン先生だ。あの人、妖精の発見で色々と訪ねてくる人が多いらしくて、今日も急な来客があったみたいでさ、ケレス先生を通して俺にアンディのことを頼むって。それで昼休みになってから、蔵書室に行ったってわけ」
なるほど、急な事なら仕方ない。
ウォーダンはあれで神秘学の教授なんかやってるし、妖精のことを論文にまとめるって鼻息荒く話してたから、それが原因で忙しくなってるんだろう。
ただ、出来れば誰か人を寄越すなりして一言は欲しかったところだが、それを忘れるぐらいに大事な来客だったと思うことにしよう。
シペアの先導で向かった中庭には、昼食を摂るためなのか、何人かの生徒の姿も観られる。
そんな中、庭の中央にいる集団の中に、見知った顔を見つける。
パーラとスーリア、それにチェルシーとその取り巻きの女生徒だ。
「右手は腰の脇に!左手の甲を顎の下に添える!そして…高らかに笑う!おーっほっほっほっほっほっほっほっほ!おーっほっほっほっごっふっ…ほっがはっ!ぐはっ…おぇ」
「パーラちゃんやめようよ!?盛大に咽てるじゃない!」
「そうですわよ!その笑い方って本当にあってますの!?」
「げほっ…お嬢様はこうやって笑うって、うっぷ…アンディが言ってたもん。アイリーンさんだってきっとこうやって笑うって言ってたもん」
何故か高笑いをするパーラが突然キラキラとしたものを噴き出し、スーリアがその背中をさするという光景は、たった今中庭に来た俺達には全く理解が出来そうにはない。
「…何やってんだ?あいつら」
「さあ…?なんかアンディがどうこうって言ってたけど、お前がなんか吹き込んだんじゃないか?」
アイリーンの名前を出して、あの笑い方をするということは、多分だがお嬢様言葉を使うチェルシーにあの笑い方をさせようとしていたのではないかと予想する。
「はぁ…はぁ…っさぁ、もう一回!今度はチェルシーも一緒に!」
「え、本当にやらなくてはなりませんの?すごく恥ずかしいのですけど…」
「真のお嬢様はこうやって笑うの!恥ずかしがっちゃだめだよ!さぁ!」
「うぅ…わかりましたわ。……ぉ、おぉーっほっほっほ「もっと大きい声で!」…ぉおーっほっほっほっほっほっほ!」
「そう!いい感じだよ、チェルシー!おーっほっほっほっほっほっほ!」
『おーっほっほっほっほっほっほっほっほっほ!』
恥ずかしがっていたチェルシーもパーラに追い立てられるようにしてやけくそ気味に大声で笑いだし、パーラもそれに重ねるようにして高笑いを始めたせいで、中庭は異様な笑い声に支配されていた。
居合わせた生徒は奇異の目を向けてくるし、それを受ける形になるスーリア達はすっかり縮こまってしまっている。
正直、あの場に居合わせてしまったら俺もあんな感じになると断言できる。
「…もう少しして落ち着いたら合流しようか」
「賛成だ。んじゃそっちに座ろうぜ」
シペアの指さした先にあるベンチに移動し、パーラ達が正気に戻るのを待つことにする。
スーリアには気の毒だが、あんな場所に近づける勇気を俺は持ち合わせていないのだ。
『ーほっほっほっごふぅっ!』
高笑いが限界を迎えて噴き出すのを見事にシンクロさせたパーラ達の下へと俺達が近づけたのは、少しの時間を置いてからのことだった。
あれだけの爆音を鳴り響かせれば当然ながら異変を察知して教師陣も駆けつけるもので、決闘で荒れた現場を見て大凡を把握した教師達による説教を受けるチェルシーとシペアをよそに、俺は空けた穴を塞ぐ作業に移ろうとしていた。
穴の底にはまだもうもうと湯気を上げる熱湯が溜まっており、まずはそれを排水してから穴を持ち上げようとしたところ、湯気に釣られてきたゼビリフが俺の隣に立って話しかけてきた。
「なぁアンディ君、ちょっといいかな?」
「はい?なんでしょう?」
「穴の底のお湯なんだけど、このまま処分するのは惜しいよ。湖での野営も最終日になるし、生徒達にお風呂として使わせてあげたいんだけど…」
およそ三日間、ずっと湖の畔で寝起きしていた学生達のために、風呂を用意してやろうというゼビリフの親切心には素直に感心する。
もともと大量のお湯を必要とする風呂自体が貴重なこの世界で、目の前にあるお湯を廃棄するというのも勿体ない。
「いいと思いますよ。ついでに俺の土魔術で湯船も作っておきましょうか?」
「いいのかい?わざわざ手間をかけさせてしまってすまないね」
「この穴をただ埋めるより、少し深さを残してかさ上げする方が手間は少ないですし。というか、最初から俺にそう依頼するために声をかけてきたんでしょう?」
「おやおや、バレていたか」
ゼビリフの話し方から、俺に湯船の用意まで頼もうとしていたのは何となく予想していた。
あの場面で風呂の話を俺にしたということは、土魔術の腕前を知っているゼビリフにしてみれば、そういう目的があったとしか思えないのだ。
俺から言い出したはずなのに、なんだか乗せられたような気持になるのは、それだけゼビリフの食えない性格を直に感じ取ったせいかもしれない。
すっかり日が暮れた頃、土魔術で作った湯船とその周りを囲む高い壁によって完成した簡易の風呂場は、遠学に参加している全ての人達に開放され、利用した声を聴く限りでは好評を博しているようだ。
男女で別れた造りになっている風呂だが、湯船自体に仕切りがあるだけでお湯は一緒のものを使っているため、ぬるくなった際の追い炊きの手間が少なくて楽ではある。
ちなみに、お湯の温度を管理する役割は火魔術が使えるチェルシーに任されており、これは騒ぎを起こした彼女への罰でもあるそうだ。
同じくシペアもまた罰として、湯船のお湯を水魔術でかき混ぜて温度を均一に保つという仕事が与えられていた。
「ちょっとシペアさん!あなたさっきから水の勢いが強すぎますわよ!それだとわたくしの魔術が乱されるでしょう!」
「一々うるせーなぁ。しょうがねーだろ、こうしないと奥まで行き渡らないんだよ」
風呂を囲む壁に空けられた小窓のような場所は、湯船と繋がっている洗面台のような形をしたスペースとなっており、そこを通じて壁の向こう側の湯船へと熱いお湯を送り込んだり、ぬるくなったお湯を引き込んだりするのに使われていた。
ぎゃあぎゃあと騒ぎながらも与えられた仕事をこなすシペアとチェルシーだが、もう随分長いことこの作業をしているせいで、大分疲労がたまっているようだ。
この言い合いも疲れから来る苛立ちに起因しているようで、辟易としているシペアに対して、噛みつき具合がいまだ健在のチェルシーの方だが、空元気であることは薄っすら読み取れる。
「はいはい、ケンカしない!」
パンパンと手を叩いて、未だ言い争う二人の意識を俺へと向けさせる。
「確かに長い時間作業を続けて辛いと思う。けど、これは先生方から罰として与えられた仕事であるし、監督を任された身としては静かに取り組んでもらえた方がこっちはありがたいんだがね」
本当なら俺も他の人達に混ざって一っ風呂浴びてるはずなんだが、何をトチ狂ったのかウォーダン直々にこうして二人を監督するのを押し付けられてしまった。
それに付き合う形で、パーラとスーリアも風呂にも入らず付き合ってくれているのが、少しだけ申し訳ない。
チェルシーの取り巻き達も先程まではここにいたのだが、彼女自身が惨めな姿を見られたくなかったのか、自分はいいから先に風呂へ行けと、妙に男前な台詞を吐いて追い払っていた。
それでも中々取り巻きの女性達が行こうとしなかった辺り、意外とチェルシーの人望は厚そうだ。
「分かっています!作業はちゃんとやりますわよ!…ほんとにもぅ…男に命令されるなんて…」
今度は俺に噛みつきながらも、温度管理へと意識を集中させたチェルシーだったが、ブツブツと呟く俺へと向けた呪詛はしっかりとこの耳で捉えている。
まぁ俺個人に文句を吐くだけで大人しく作業をこなしてくれるのなら、いくらでも見逃そう。
それからしばらく経った頃、ようやく俺達以外の全員が風呂を済ませたようで、ようやく風呂焚きから解放された俺達は、寒空の下で固くなっていた体を解しながら、本日最後の風呂をいただくことにした。
「あぁ~!つっっかれましたわねぇ!スーリアさん、パーラさん!さっさとお風呂に行きますわよ!」
真っ先に風呂の方へと歩いていくチェルシーに、首根っこを捕まえられる形で同行させられるスーリアとパーラは、諦めの表情を浮かべている。
男である俺とシペアには棘のある態度をとるチェルシーだが、同じ女性であるパーラとスーリアには親し気に話しかけており、この作業が終わったら背中を流し合おうと語っていたほど、いつのまにか親密な仲を築いていた。
まぁ、パーラ達の方は強引なチェルシーに引っ張られているような感じだが、自分達に向けられる感情がそう悪いものではないこともあり、やれやれと言った感じだ。
無論、同性相手だからこその態度だと分かってはいるようだが。
当初予想していた入浴時間より少し遅くなったが、冷えていた体もお湯に浸かると一気に疲労が抜けていくのを感じる程度に、改めて体に蓄積していた疲労に気付かされる。
「はぁ~…。いい湯だなぁ」
「はぁ~びばのんのん」
「え、なんだそれ」
「確かにいい湯だなぁ」
つい漏れてしまった温泉のお約束にシペアが食いつくが、説明が面倒なので先の言葉に同意する形で強引に流す。
「いや、さっき言った、びば―」
「確かにいい湯だなぁ」
「何故二回言う…まぁ、いいや」
男二人、湯船の縁に背中を預け、湯気の向こうに見える星空を眺める。
家の中では見られないこの光景を考えれば、こうして屋外に風呂を作るのも悪くないのかもしれない。
偶にはこうして露天風呂の―
『きゃぁああああ!な、なななにするんですか!チェルシーさん!』
『何って、スーリアさんのお胸が綺麗だと思いましたから、少し触ってみようかと』
『思いっきり揉んでたじゃないですか!』
『いえ、そんな気は全然。偶々指が動いただけですわ。本当、偶然です、偶然』
男湯と女湯を隔てる土壁の向こうから聞こえてきたのは、男心にグッと巨大な釣り針を引っかけてくるような、なんとも耳に甘いやり取りだった。
『あら、パーラさん。あなた中々綺麗なお尻をなさってますのね。何か特別なお手入れでも?』
『そう?別に特別なことは何もひょぉおうっ!チェルシー!お尻揉まないで!?』
『ですから、偶然ですわよ、偶然。…ぐへへ』
『嘘だ!その顔は偶にアンディがする悪い顔!』
「ぶふぅうう!」
突然無関係なはずの俺が槍玉に上がり、思わず吹き出してしまうのは仕方のない事だと思わないか?
「アンディ…、お前も男だな」
「いや!違うっ―…こともないけど、こんな形でパーラから言われるのは…その、甚だ不本意であるというか」
シペアの言葉に強く否定することも出来ず、尻すぼみになっていくのを聞いてうんうんと頷くシペアの理解が今は辛い。
『なんということをおっしゃいますの?わたくしの行動を低俗な男のそれと同列に扱うなんて。いたしかたありませんわね。ここは一つ、わたくしが女性をどれだけ繊細に扱うのかを体に教え込ませるしか…』
『ひぃっ!パ、パーラちゃん、どうしよう…』
『く、アンディ達に助け『だ、ダメだよ!裸を見られちゃう!』―そ、そうだった…』
『よいではないか!よいではないか!ヒャッハァー!』
『『アッー!』』
悪代官に変身したチェルシーの声に続いて、パーラ達の絶叫が響くと、唐突に辺りは静寂に包まれる。
よほど嫌がることでもすれば、パーラの風魔術が炸裂するだろうから、じゃれているだけだと思おう。
しかしこうして女性同士の会話を聞いていると、チェルシーの男嫌いはどうも単純に女好きであることの裏返しに過ぎないような気がしてきた。
あのはっちゃけ具合を聞く限り、男である俺達がチェルシーと仲良くなれる材料はないと考えていい。
見た目は十分綺麗なのに、女性を愛してしまっているチェルシーの未来を心配するのは、流石に余計なお世話だろうか。
チェルシーたちが静かになってから少し経った頃、壁の向こうから微かに聞こえる喘ぎ声のような声が、俺とシペアの耳に届いているせいで、何となく居心地の悪い空間になっている。
「…そろそろ出るか」
「ああ。体も十分温まったしな」
ありがたいことに、シペアの方から切り出してくれた提案に乗り、俺達は若干前かがみになりながら風呂から上がる。
『っいい加減に―…しろぉっ!』
『ぅゎらばっ!』
脱衣所に入る寸前、怒るパーラの声と人の体が殴打される音と共に、チェルシーの上げたであろう呻き声を背中で聞き、予想出来た顛末に呆れつつ着替えに手を伸ばした。
遠学という行事の締めくくりに、さっぱりとした体で夜を迎えた参加者達は、湖を後にする今日という日を爽快な気分で過ごすことが出来るだろう。
あとは帰るだけということもあって、笑顔で馬車へと乗り込む生徒達の姿をよく見かけた。
その一方で、教師や護衛に付いている冒険者等といった者達には気の緩んだ雰囲気は無い。
行きと帰りの道中の警戒は、どうしても彼ら護衛役に任せきりになる。
一応俺とパーラも護衛役としてシペアに雇われた形ではあるが、俺達が主に守るのが依頼人であるシペアなのに対し、学園が用意した護衛は遠学に参加している生徒達全員を警護対象としているため、守るという点では移動中の方が難易度が跳ね上がるせいで、彼らの仕事は湖にいる間よりもこれからの方が本番だと言っていい。
続々と出発していく馬車の群れに続き、俺達もバイクを動かしてその列について行く。
再び三日弱かけて学園へと戻る道は、既に一度見たものであるため、さほど心を動かされるものは無い。
唯一、休憩の度にわざわざ俺達の所へと取り巻きを引き連れて現れるチェルシーの姿が、行きと違う光景として見られた。
どうもあの風呂の一件でパーラ達と仲良くなったらしく、取り巻きも交えて楽し気に話している様子は、学園では孤立気味だと聞いていたスーリアに中々いい刺激となっているようだ。
他愛無いおしゃべりで声をあげて笑っている彼女達を見ると、仲のいい友達が出来たことを素直に喜びたい。
ただまぁ、案の定俺とシペアはいないものとして扱う空気は、居心地がいいとはお世辞にも言えない。
ふと思ったのは行きの際には他の班の人間とあまり絡みがなかったのに、帰りにはこうも仲良く話してもいいものかという疑問がある。
確か遠学の間は各班の評価査定を分かりやすくするために、横の協力などさせないように接触もしないものだと聞いていた気もするが、今はもう帰りの道をただ戻るだけなので、厳格に取り締まられるような事も無いそうだ。
とはいえ、一応班毎の独立性を保つという名目で、馬車を移っての移動というのは流石に許されてはいないとはシペアの談だ。
要は遠足は帰るまでが遠足という、例のアレだな。
妖精族とのファーストコンタクトという、異世界での人気イベントトップ5に入る出来事があった遠学から、ディケットの街へと戻って来てから20日ほどが経った。
季節はもうすっかり春といった感じで、ディケットの街から少し離れた土地では、夏の収穫に向けての作物の種を植えている風景もチラホラと見られるようになっている。
前世だと春は別れと出会いの季節と言ったはよく言ったものだが、この世界では特にそんな事も無く、学園への入学はもう少し季節が進んだ時期になってからのことだ。
学園では四年間何の問題もなく進級していけば、いつでも卒業は認められているそうで、この季節に卒業生が大量発生するということもない。
ちなみに、この四年での卒業というのは、あくまでも最低限の学業を修めたというのを認めているだけだあって、まだまだ勉学に励みたいという人は、そこから更に専門課程を選んでの進級をするそうで、ウォーダンの神秘学なんかも専門課程での選択になるという。
学園を卒業したというのはそれだけで箔が付くのだが、専門課程で学んだことが就職に有利となるのは前世と似ていると思った。
春を迎えたことで特段学園で変化が起きることはないのだが、俺とパーラにとってはここ最近の生活では大きな変化があった。
まず一つ、俺とパーラは五日に一度、学園内へと足を踏み入れる許可を貰えた。
これは遠学でウォーダンに交渉していた報酬として、学園にある蔵書室を利用したいことを伝えたところ、ウォーダンが色々と頑張ってくれたようで、条件付きではあるが、なんと許可が下りてしまった。
学園側の教師一人の監視付き、五日ごとに一日だけとはいえ、結構破格ではないかと思っている。
監視役も遠学で交流のあったウォーダン、ケレス、ゼビリフの3人が申し出てくれたおかげで、監視されているという感覚もあまりない。
学園へと入るのが二度目の今日、蔵書室へと直行する俺とパーラの先頭を歩いているのはウォーダンだ。
今歩いている石造りの通路は、学園の創設された当時から変わっていないものだそうで、手入れの行き届いている中にも見られる傷や汚れなどには、刻まれた歴史の古さを感じてしまう。
「いやぁ~先日はすまなかったね。ゼビリフ先生がつい学園の案内を長引かせてしまったせいで蔵書室を利用する時間がなかったんだって?」
「ええ、まぁ。ですが、学園の中というのは色々と見るものも多かったので、楽しませてもらいました」
「そうかい?ゼビリフ先生も君達を随分気にしててね、つい長々と連れまわしてしまったと反省していたんだよ。その言葉は後で私からも伝えておくよ」
許可をもらって学園へと来た初日に、俺達を監督する役目を負ったゼビリフに校門で捕まり、そこから学園の見学ツアーが始まってしまったせいで、目的であった蔵書室へは一度も足を踏み入れることなくその日を終えてしまった。
今日の二度目の訪問で、今度こそ蔵書室へと辿り着いて見せると、秘かに決意を固めていた。
しかしこうして学園の中を歩いていると、時折すれ違う人が実に多いことに気付く。
時間的にはまだ午前の早いうちであるため、授業中であるはずの生徒達の姿があちらこちらで見られる。
身に着けているマントは学園指定のものであるため、生徒であることは間違いないのだが、シペア達と比べて体つきも大分大人に近いものであり、恐らく上の学年の生徒なのだろうと推測する。
彼らは授業はどうしたのかと思い、ウォーダンに尋ねてみたところ、今の時期は来年に五年生となる生徒が選択科目の選定に動き回っており、色んな教授の下へと足を運んでいるところだという。
なので、彼らは午前の授業は免除されており、こうして歩き回る姿をよく見かけるのだそうだ。
入学式や卒業式は無いが、こういう光景は学園における春の風物詩として捉えてもいいのではないかと思うのだが、ウォーダン曰く、本来選択科目の選定というのは冬の間に終わらせておくべきもので、今こうして調べ周っている生徒達は出遅れた方なんだとか。
人気のある科目は早々に定員も埋まってしまうもので、明確な将来像を描いている生徒ほど今頃はのんびりと過ごしているらしい。
そんな光景を横目に、歩みを止めることなく二階へと上がり、そのまま廊下を突き当りまで歩いていくと、目当ての蔵書室へと到着した。
俺達を出迎えた重厚な扉は、蔵書室と言うよりかは金庫室と言ってもいいぐらいに頑丈そうなものだ。
この世界では本というのは貴重品であり、とりわけ学園に集められるのは貴重なものばかりだ。
知識の源ともいえる本を多数所蔵する学園としては、盗難などは当たり前に警戒するもので、侵入を容易にしない扉というのはその表れだと言えるだろう。
「随分厳重そうな扉ですね」
「まぁね。この扉自体もそうだけど、蔵書室に収められてる本はどれも貴重なんだ。学生が利用する時間帯に合わせて、朝・昼・夕方の時間以外は鍵をかけているんだよ」
そう言ってウォーダンが扉の中央にある切り込みに幾何学模様の描かれた板を押し込むと、ゴンという重い音を響かせて、ゆっくりとその向こうの景色を覗かせる。
目に飛び込んできた蔵書室の姿は、ずらりと並ぶ本棚と所々にあるテーブルという組み合わせが、まさしく俺の想像する図書館と実によく似ていた。
一歩室内に踏み込んだ瞬間から鼻に感じた匂いも、あの独特なものがあった。
「うぷっ…、なんか変な臭いする」
「はははは、蔵書室は空気の流れもないし、本も独特の臭いを出すんだ。そういう臭いがダメだって生徒は結構多いね。パーラ君も苦手なようだ」
大抵の本は表紙に革や布、珍しいものだと木なんかで保護しているものもあり、蔵書室のような密閉した空間ではどうしても臭いがこもってしまう。
時間の経った紙の匂いに加え、ハードカバーの装丁の匂い、手入れに使う蝋やオイルなんかの匂いもあいまって、人によっては気分が悪くなる場合もあると聞いたこともある。
「…アンディは平気なの?」
「いい匂いだとは思わないが、耐えられないほどでもない。お前もしばらくいれば慣れると思うぞ」
「うぇ…これにぃ~?ほんとかなぁ…」
顔をしかめるパーラは俺の言葉を信じられないようではあるが、まぁどうしても我慢できないようだったら外に出させた方がよさそうだ。
早速蔵書室に並ぶ本棚の一つへと近付いていき、その中に収められている本の一冊を手に取る。
革の装丁のそれをパラパラっとめくって見ると、しっかりと手入れがされているのが分かる。
長い年月の保存では劣化しやすい素材の紙ではあるが、適切な処置を施せばそれなりに持たせることは出来るもので、これだけ膨大な数の本ともなるとその手間と費用も相当かかっていることだろう。
俺達はシペアの依頼を受けて遠学へ参加したわけだが、その過程で得られた蔵書室の利用権はまさに望外の報酬だと言ってもいい。
学園関係者以外では足を踏み入れることがまずできない蔵書室から得られる知識は、冒険者として生きていく上でも十分に役立ってくれるはずだ。
「アンディー、私他の所に行ってていい?」
ひとまずどこから手を付けようかと本棚の列を眺め歩いていると、蔵書室へと足を踏み入れることを頑なに拒む姿勢でいるパーラが別行動を申し出てきた。
「他ってどこに?言っとくが、俺達はウォーダン先生の監視下にあるんだぞ。あんまし一人で歩き回るのはよくないだろ」
「いや、構わないよ。授業中の教室は流石にまずいが、中庭や二階と三階の露台ぐらいは使ってもいいはずだ。もちろん、他の所へ勝手に行かないと約束してくれるね?パーラ君」
「本当!?するする!約束しまーす!じゃあ私中庭に行くから、昼食になったら呼びに来るね!」
本当に蔵書室の臭いが嫌なのだろう。
早口でまくし立てて素早く去っていくパーラを、少し慌てた様子のウォーダンが追いかける。
「待ちたまえ!君は中庭の場所を知らないだろう!アンディ君、すまないが私が戻るまでこのまま蔵書室にいてくれ。おーい!パーラ君ー!」
俺の返事を待たずに大声でパーラを追いかけるウォーダンの背中を見送り、再び本の吟味へと戻る。
パーラは昼飯ごろにまた来ると言っていたし、それまではざっと本棚を見て回って、気になるものに手を伸ばしていく。
ざっと眺めて読了にかかる時間と内容の濃さから今すぐに読んでおくものと、今度また来た時に読むものを分けて考え、とりあえず2冊だけを手にして適当なテーブルへと移った。
腰を落ち着けて読んでみると、流石学園所蔵だけあって本の内容もアカデミックなもので、実にためになる。
軽い読み物程度で済ませるつもりだったが、気が付けば二冊目を読み終え、三冊目・四冊目を探しにテーブルを立ってしまうほどに読みふけってしまった。
時間が経つのを忘れるほど読書に集中していたが、不意にどこからか響く鐘の音が耳に届く。
学園でなる鐘の音と言えば授業の開始と終了を告げるものだと相場が決まっているのだが、聞こえてきたのはいわゆるキンコンカンのチャイムというよりは、ジリリリというベルの音に近い。
扉の向こうから聞こえてくる喧騒から察するに、どうやら授業が終わって休み時間に入ったようだ。
生徒達の上げる楽しそうな話し声を聞くと、まさに学校の休み時間といった感じで懐かしさを誘う。
と同時に、それまで意識していなかった空腹感に襲われ、今が昼時だということに気付いた。
てっきり俺が空腹を覚えるよりも先にパーラが迎えに来ると思っていたが、どうもそんな感じがしない。
パーラを追いかけて言ったウォーダンもあれから来ていないし、どうしたものかと思っていると、蔵書室の扉を押し開いてシペアが姿を現した。
「お、本当にいた。アンディ、昼食一緒に行かね?」
「シペアか。ということは、さっきのベルはやっぱり昼休みのか?」
「そうだぜ。今日はスーリアが昼食を用意してくれてるから、中庭に行こうぜ。スーリアとパーラもそっちにいたし」
「へぇ、スーリアが。それは楽しみだ。本戻してくるから少し待っててくれ」
俺の姿を見つけたシペアから、昼飯の誘いとともにパーラの現在の居場所も知ることが出来たため、それに乗る形で蔵書室を後にして中庭を目指す。
廊下を歩くと、時折すれ違う生徒が俺の姿を訝しげに見てくることがちょくちょくある。
「…なぁシペア、なんかすれ違う度に変な目で見られてるよな?」
「ん?あぁ、しかたねーだろ。学生の格好してない同い年ぐらいの奴が学園内を歩いてるってのは珍しいからな」
「なるほど、言われてみれば」
学園にも外から入ってくる人間が廊下を歩くということはあるだろうが、それは大抵何かしら学園内での作業を目的としてのことだ。
そういうのは普通、経験のある職人の仕事なので、まだまだ見習いである俺ぐらいの年の人間は学園に来ることなどまずない。
珍しさもあって廊下を歩く俺に集まる視線はそれなりにあるせいで、少々恥ずかしい。
「そういえば、よく俺が蔵書室にいるって知ってたな。パーラにでも聞いたか?」
「いや、ウォーダン先生だ。あの人、妖精の発見で色々と訪ねてくる人が多いらしくて、今日も急な来客があったみたいでさ、ケレス先生を通して俺にアンディのことを頼むって。それで昼休みになってから、蔵書室に行ったってわけ」
なるほど、急な事なら仕方ない。
ウォーダンはあれで神秘学の教授なんかやってるし、妖精のことを論文にまとめるって鼻息荒く話してたから、それが原因で忙しくなってるんだろう。
ただ、出来れば誰か人を寄越すなりして一言は欲しかったところだが、それを忘れるぐらいに大事な来客だったと思うことにしよう。
シペアの先導で向かった中庭には、昼食を摂るためなのか、何人かの生徒の姿も観られる。
そんな中、庭の中央にいる集団の中に、見知った顔を見つける。
パーラとスーリア、それにチェルシーとその取り巻きの女生徒だ。
「右手は腰の脇に!左手の甲を顎の下に添える!そして…高らかに笑う!おーっほっほっほっほっほっほっほっほ!おーっほっほっほっごっふっ…ほっがはっ!ぐはっ…おぇ」
「パーラちゃんやめようよ!?盛大に咽てるじゃない!」
「そうですわよ!その笑い方って本当にあってますの!?」
「げほっ…お嬢様はこうやって笑うって、うっぷ…アンディが言ってたもん。アイリーンさんだってきっとこうやって笑うって言ってたもん」
何故か高笑いをするパーラが突然キラキラとしたものを噴き出し、スーリアがその背中をさするという光景は、たった今中庭に来た俺達には全く理解が出来そうにはない。
「…何やってんだ?あいつら」
「さあ…?なんかアンディがどうこうって言ってたけど、お前がなんか吹き込んだんじゃないか?」
アイリーンの名前を出して、あの笑い方をするということは、多分だがお嬢様言葉を使うチェルシーにあの笑い方をさせようとしていたのではないかと予想する。
「はぁ…はぁ…っさぁ、もう一回!今度はチェルシーも一緒に!」
「え、本当にやらなくてはなりませんの?すごく恥ずかしいのですけど…」
「真のお嬢様はこうやって笑うの!恥ずかしがっちゃだめだよ!さぁ!」
「うぅ…わかりましたわ。……ぉ、おぉーっほっほっほ「もっと大きい声で!」…ぉおーっほっほっほっほっほっほ!」
「そう!いい感じだよ、チェルシー!おーっほっほっほっほっほっほ!」
『おーっほっほっほっほっほっほっほっほっほ!』
恥ずかしがっていたチェルシーもパーラに追い立てられるようにしてやけくそ気味に大声で笑いだし、パーラもそれに重ねるようにして高笑いを始めたせいで、中庭は異様な笑い声に支配されていた。
居合わせた生徒は奇異の目を向けてくるし、それを受ける形になるスーリア達はすっかり縮こまってしまっている。
正直、あの場に居合わせてしまったら俺もあんな感じになると断言できる。
「…もう少しして落ち着いたら合流しようか」
「賛成だ。んじゃそっちに座ろうぜ」
シペアの指さした先にあるベンチに移動し、パーラ達が正気に戻るのを待つことにする。
スーリアには気の毒だが、あんな場所に近づける勇気を俺は持ち合わせていないのだ。
『ーほっほっほっごふぅっ!』
高笑いが限界を迎えて噴き出すのを見事にシンクロさせたパーラ達の下へと俺達が近づけたのは、少しの時間を置いてからのことだった。
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