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レースっちまおうぜ

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あの日、異世界での米騒動が起きた日以降、村では米食がブームとなり、俺の下へとレシピの勉強に多くの人が訪ねてくるようになった。
1日だけの滞在だった予定がズルズルと引き伸ばされて、すでに滞在日数は2週間になろうとしていた。

というのも、米の味に感動した村長から、この村での米の栽培についての相談をされて、俺としても米が安定供給できるチャンスだと思い、快く引き受けたのがまずかった。
米を作るうえで欠かせない田んぼは、この村には当然存在せず、そうなれば一から作る必要があり、農地の選定から管理の持ち回りの決定にと、あれやこれややることが積み重なり、未だに旅に戻れないでいる。

作付の指導をしようと青空教室を開催したところ、米の魅力に取りつかれた狂信者たちが大勢集まり、急遽実地での指導へと移行し、村の外を流れる川の近くにある平原を土魔術で田んぼに変えていく。
一段下げてから周りを囲うように畦を盛り上げていく。
やはり土魔術での田んぼづくりという、初めて見る非常識な光景に驚きの声を上げる者が多い。
今回は手っ取り早く俺がやったが、本来は人の手で時間をかけてやるため、本格的な米作りはまだ先のことになるはずだ。
ただ俺としても全く手を貸さないということはなく、せめて水路ぐらいは整備してやろうと思っている。

前日に村長に許可をもらい、村の近くを流れる川から既に水路を通してある。
下流にある村に影響が出ないようにとあまり水量は引けないが、ため池に少しづつ溜めることでまとまった水量を確保することが出来る。
土魔術で一気に作った為、様子を見に来た村長が狐につままれたような顔をしていたのは見ものだったな。

ため池を中心に田んぼを広げていく形にすれば計画的に増やしていけるだろう。
とりあえず最初のサービスとして、ここにいる人数分は田んぼの素地を作ってやることにして、土づくりはそれぞれに頑張ってもらおう。

だが日本の田んぼの主流は種もみの直播ではなく、ビニールハウスでの育苗後の植え付けが一般的になっている。
俺もそう言うやり方でしか作ったことは無いのだが、こっちの世界ではビニールハウスは用意することは難しいと判断して、生育は少し遅くなるが外で育てるという結論に至った。

育苗に必要な環境と道具の用意に関する助言に米を使った料理教室などしている内にあっというまに2週間が経ち、今に至るというわけだ。
ヘクター達兄妹は既に次の行商へと旅立っていき、一人残される俺は彼らの借りている家にそのまま留まっている。

彼らが出発の日にはパーラから大量のおにぎりを要求され、既に俺の手持ちの米は10キロ程しかない状況だ。
大盤振る舞いしすぎたと反省しているが、パーラのあの雨の中の子犬のような目で見られては断ることはできなかった。
おかげで朝から米炊いて握ってで大わらわの中での出発となってしまった。

ヘクター達が旅立ってからは俺は稲作の指導員として働いていたのだが、それと並行して村人たちによる野生の稲の捜索も行われており、着々と稲が集まってきている。
この辺りは南からの暖かい風と北東から吹き降ろしてくる冷たい風が丁度ぶつかる辺りで、年間を通して安定した気候なのだが、まとまった降水量のおかげで湿地帯の広がりもかなりの規模だ。
おかげで麦を育てる土地の開拓が大変だったのだが、今回米という新たにこの地に適した作物の可能性を見出し、発展の兆しに村人の顔は笑顔に溢れている。

村への指導もひと段落し、そろそろ旅に戻ろうかと思って村長の家を訪ねた。
「うーん、しかしまだ米を作っていない状態でアンディに居なくなられると困るのぅ。せめて田植えが終わるまでは滞在できんか?」
そう言って俺を引き留める村長はすっかり俺を村の一員として受け入れているようで、最初の頃のような丁寧な口調は抜け落ちている。
「まあ俺もそうしたいところなんですが、まだまだ田植えまでは時間があります。なので、暫くは旅を続けて、田植えの時期にまたここに戻ってきますよ」
「むぅ…まぁそういうことなら…」

渋々ながら納得してくれた村長にどこか旅の目的地にいいところは無いかと尋ねると、ここから街道を外れるが、南西に行くとジネアという町があるそうだ。
そこではこの季節になるとペルケティア中から速さ自慢の馬や騎乗動物が集まり、国一番を決めるレースがあるという。
町を挙げてのお祭りを見物するのもおもしろそうだ。
早速そこまでの道順を教えてもらい、地図に書き込んでいく。
馬の脚で3日かかると言われているので、バイクなら1日で付けるかもしれない。
とりあえずその日は準備に走り回り、出発は明日に決めた。

次の日は手の空いた村人が出発を見送りに来てくれた。
ここに来ていない人は田んぼ作りに励んでいるのだろう。
「アンディ、これ持ってきな。たくさんあるからね」
村の女性から差し出された木の皮で包まれたおにぎりを受け取る。
これは俺が防腐効果のある木の皮で包むやり方を教えたもので、長い旅の弁当としてはうってつけの物だ。
「ありがとうございます。大事に食べさせてもらいますよ」
「大事に食べる必要なんかないよ。この米もおにぎりもあんたのおかげで作れたんだ。当然の報酬だって顔していいんだよ」
そう言って豪快に笑う女性に俺も笑みがこぼれる。

大勢に見送られながらの出発に、俺も嬉しい気持ちを抑え切れず、見えなくなるまで手を振り続けた。
暫く街道沿いに進み、地図に記された分岐点に差し掛かると、バイクを目的地へと向けて走り出す。
それじゃあジネアまでアクセル全開で行こうか。
砂煙を巻き上げて一路爆走へ。



途中で昼飯休憩をした以外は特に休みも無く走り続けること半日。
もうじき日が暮れるという時間に野営の準備に入る。
久しぶりの野営だが、特に変わったことをするつもりは無く、いつも通りの土魔術頼みの建物作りだ。

王都に来る途中に作ったカマボコ兵舎の汎用性の高さから今回もほぼ同じものを作る。
早速地面に手を付けて魔術を発動すると、イメージ通りに地面から柱が連続でアーチ状に生えてくると連結していき、見事カマボコ兵舎の完成だ。
今回は俺一人とバイクだけの収容なので全長は3メートル程にしてある。
やることもなく、明日も朝早くからの出発となるため、この日は食事をとってすぐに寝た。

早朝から走り始めると遠くに町の外壁が見えてきた。
ジネアの町の外壁は意外と簡易なもので、石材で組まれているとはいえ高さは2メートル半程といったところだろうか。
それだけこの辺りは安全だという証になる。
町の門に近付くと、バイクの姿に警戒しているようで、槍を持った兵士のような人が5人ほど出てきてこちらを窺っている。
無駄に刺激する必要もないので速度を落としてゆっくり近づいていくと乗っている俺の姿に気付き、多少緊張感が緩んだが、まだ警戒は解かれていない。

「よーし、そこで止まれ。変わった乗り物だが、魔道具の類か?一応身分証をみせてもらおうか」
リーダー格だと思われる一人に言われて、ギルドカードを提示する。
それ以外の人は一歩下がった位置にいてこちらの様子を見逃さないようにしているようだ。
早朝だけあってまだ門の前には人はいなく、今日一番は俺だろうか?
「うん、問題ないな。引き留めて悪かったが、これも俺達の仕事なんでな。通っていいぞ」
「忠勤の程は伝わっていますので、お気になさらず。では失礼します」
門番が脇によけて開けられたスペースをバイクでゆっくりと通過していく。
仕事熱心な門番がいる町は治安がいい証拠だと俺は思っている。

町中は朝特有の喧騒が満ちており、買い物や仕事に行く人の流れが活発だ。
やはりヘスニルと比べるとかなり規模が小さいせいもあって、大通りの狭さも気になる程度で、俺のバイクだと問題ないが、大き目の馬車となると通行は厳しいと思うのだが。
一応事故を恐れてバイクを降りて手で押して歩くのだが、それでもやはり目立ってしまい、人の注目を集めてしまう。
まずはバイクをどこかに停めるところから始めようと思い、そこいらの店の人に尋ねて宿の場所へと移動する。

着いた宿はレンガ造り2階建てのなかなか立派な所だ。
まず宿の入り口脇にバイクを停めて中へと入る。
「いらっしゃい。泊まりか?」
入ってすぐのカウンターには総白髪の短髪に厳つい顔の50代と思われる男性が受付を行っていた。
黒のタンクトップからははちきれんばかりの筋肉が主張しており、荒くれ物の第二の人生の典型的なケースかと思ったが、切り傷一つない体からその線は消え、目に付いた指先のハンマーダコから鍛冶工の出だろうと推測した。

「ええ、しばらくこの町に滞在をと考えています」
「そうか、うちは一日大銅貨5枚だ。食事は朝昼晩いつでも摂れる。量だけはあるが味は期待するな」
とりあえず4日分の銀貨2枚を先払いし、部屋を借りた。
バイクは宿の裏手にある薪置き場の横に置かせてもらった。

この町にはギルドがあるらしく、早速宿の親父に教えてもらって向かうことにした。
さすがにヘスニルや王都に比べると小さいが、支店としての機能は問題ないはずだ。
中はどちらかというと普通の酒場といった風情で、右手にある壁が掲示板代わりになっているらしく、そこに依頼が貼り出されていた。
酒場としての側面の方が強いのか、昼間から酒を飲んでいる人がちらほらと見受けられる。
「頼むよ!もう他にいないんだ!誰でもいいから助けてくれよ!」
そんな中でギルドの受付カウンターの前で一人の少年が何かを叫んでいる。

俺と同じくらいの年だと思うのだが、着ている服はどこかくたびれていて汚れも目立つため、ともすればストリートチルドレンかと思わせる見た目からあまりいい印象を受けることは無いだろう。
無造作に伸ばされ後ろで大雑把にまとめられた銀髪とまだあどけなさの残る顔立ちだが、その眼から感じる覇気のなさが気になった。

どうやら何かの依頼を出したが、受ける人がいなくて直接募集に来たようだ。
ギルド内にいる人はそれをまともに受け取る気はないようで、少年の訴えを無視してただ静かに酒を飲んでいる。
まともに聞き入れられないと判断したようで、少年が悔しそうな顔をしてギルドを出ていった。
何事かと思って受付の男性へと事の次第を聞きに行く。

先程の少年は町の厩舎で働いているシペアといい、少し前からギルドに依頼を出していたのだが、受ける人が全く現れないことから今日ここに直接乗り込んできたのだそうだ。
「そういうのってよくあるんですか?」
「いやいや、確かにたまに冒険者が問題を起こして依頼人が乗り込んでくることはあるけど、依頼が受注されないからって乗り込んできたのは初めてのことだよ」
ではなぜ少年が乗り込んできたのかというと、これがまたややこしい話だった。

元々シペアの働いている厩舎はシペアの父の物だったのだが、その父親が病気で亡くなってしまうと、父親に金を貸していたという男が現れ、借金の支払いが出来なかったシペアは町の法律によって厩舎を差し押さえられてしまった。
その厩舎を引き取ったのが件の金貸しであるザルモスという男だ。
実によくできた話だ。

借金を返すのにも働かなくてはならないシペアだったが、他に働く場所を見つけられず、いやいやではあるがザルモスが乗っ取った厩舎で働いていたのだそうだ。
当然、借金の返済は遅々として進まず、何年かかるのかわからず次第にシペアの目からは生気が失われていった。

ある日、酒に酔ったザルモスが酒場にシペアを呼び出して賭けを持ちかけた。
その内容は近々開かれるレースで優勝すれば厩舎はシペアに返し、借金も帳消しにする。
反対に、優勝できなかったらシペアはザルモスの奴隷に落とされるといったものだった。
その賭けに飛び付いたシペアだったが、ザルモスは賭けの勝ちを盤石にするために、ある条件を付けた。
ジネアの町の厩舎からは一切馬を貸さないという、正にシペアの覚悟を踏みにじるほどの残酷なものだった。

それならばとシペアは冒険者に依頼を出して、馬の調達を頼むつもりだったのだが、依頼を受ける者が一向に現れないのに痺れを切らして今日のに至るというわけだ。
「なるほど、大体はわかりました。けど、なんで誰も依頼を受けなかったんです?」
俺の疑問はそこに尽きる。
馬の調達ははっきり言ってそれほど面倒なものではない。
近隣で探し回るのもいいし、最悪はザルモスから借りた馬をシペアに又貸すだけで依頼は済むはずだ。
それぐらいはしてやっていいぐらいにシペアには同情の念を抱くはずだ。

「俺達だってシペアを助けてやりたいと思ってる。だがそれが出来ねぇ理由があるんだよ」
酒を飲んでいた一人の男性がそう言ってきたので、そちらに向くとその場にいた全員が同じ気持ちらしく、俺の方をじっと見据えていた。
何かあると思った俺はつい踏み込んで聞いてしまいたくなった。
「その理由について詳しく聞いても?」
男性の了承の頷きを受け、一緒のテーブルに座った。




夕暮れに染まるジネアの町を抜けて、外壁に沿って移動するとたどり着いたのがシペアの働いている厩舎だった。
想像していたよりもずっと大きく、馬だけで50頭は収容できそうな広さがある。
そんな場所の一角で馬具の手入れをしていたシペアを見つけた。
何をしているのかと見ていると、どうやら鞍を固定するベルトが痛んだのを交換しているようで、その手際は実にスムーズなもので、一朝一夕で身に着けたものではないと感じられる。

「君がシペアだな?」
鞍の調整に集中していたため俺の接近に気付かなかったようで、突然かけられた声に一瞬身を強張らせて俺の方を見上げてきた。
「…あんたは?」
若干の警戒を含んだ声は仕方ない事だろう。
「俺の名はアンディ。冒険者だ。依頼を受けるためにここに来た」
「…ほんとか?…いや、でもお前が?」
やっと現れた希望の光が自分と同じくらいの子供とあっては落胆も仕方ないとは思うが、その反応を本人の前でするのは失礼じゃないか。

一応見栄も兼ねてシペアにギルドカードを見せる。
「確かに俺はまだ子供だが冒険者としてここに来ている以上は全力を尽くすつもりだし、何よりもお前の依頼をこなせるのは多分俺だけだ」
疑わしい目を向けるシペアに一応そう説明するが、流石に今すぐ信じることは期待していない。
とりあえず依頼の内容を確認するためにシペアの家に向かうことになった。

厩舎から少し離れた所にあったほとんど物置小屋と言っていい大きさの建物がシペアの家らしい。
建てつけの悪い引き戸を開けて中に入ると、中は外観から予想していた通りのひどさだった。
部屋の隅には布の塊があるが、恐らく布団代わりに使っているのだろう。
テーブルや椅子といったものは無く、茣蓙のようなものが敷いてあるだけだ。

食糧事情もよくないようで、入り口入ってすぐ右手にあった甕には水が入っているのだが、いつ汲んでからそのままになっているのかわからないぐらいに濁っている。
食事をどうしているのか尋ねると、古くなって売り物にならなくなったパンや野菜を買ってきてそのまま食べているのだそうだ。
正直ここまで酷いものは見たことが無く、いたたまれなくなった俺は一っ走り夕食を買いに行った。

シペアの前にありったけの食料を買ってきて並べると、涎を垂らさんばかりに凝視しており、しきりに俺の方をチラ見してくるので、頷いてやるとすごい勢いで食べ始めた。
それはこちらが引くぐらいの勢いで、あまりの旨さに笑顔になっていたのだが、段々と食べ進めるうちにシペアの目に涙が浮かび始めた。
とうとう食べることをやめて只管泣くだけになり、俺もそのことには触れずただ待つことにした。

父親が死んで、悲しみが癒えないうちに全部失ってしまった絶望から逃避するために無意識に感情を制限していたのが、温かい食事で解されていき溢れるままに涙が止まらなかったのだろう。
喜びや悲しみといった生きる上で後に回せるものを凍てつかせなくては耐えられなかったのではなかろうか。
今目の前で泣いているシペアの姿は、本来の彼に戻るための絶対に避けては通れない儀式のようなものだ。
これから徐々に年相応の人間性を取り戻していけると思う。

「ズビッ―はぁ、変なとこ見られちまったな」
大分落ち着いた様で会話できるぐらいにまでなったシペアと一緒に食事をしながら話す。
「気にするな。お前も大分苦労したんだろう。旨い飯を食ったら溜まってた感情が抑えきれなくなった、それだけだ。おかしいことじゃないさ」
慰めの言葉も照れくさいらしく、ただ食事を続けるシペアに俺も何も言うことはせず、静かな夕食となった。

「それで、依頼というのはお前の代わりに馬の調達をしろってことだったな?」
食後の落ち着いた雰囲気の中で切り出した話は、やはり依頼に関してのことだった。
「うん。ザルモスのせいで馬が手に入らなくって、このままじゃ次のレースにも出れやしない。そうなったらあいつから父さんの物を取り戻す機会は永遠に訪れない。だから―「ほんとうにそれでいいのか?」…え?……どういう意味?」
話の途中で遮られて、俺の言葉に疑問の言葉が返される。

「恐らくレースには様々な所から速さ自慢が集まってくるはずだ。そんな中でお前に課せられた条件は『優勝』だ。聞くが、お前は普通の馬を速く走らせることが出来る魔術でも使えるのか?そうでもなきゃ馬さえあれば優勝できるなんて簡単には思えないはずだ」
「それはっ…そう、だけど…」
俺の指摘を受けて項垂れてしまうシペアには悪いが、俺の危惧したのはまさにこれだったのだ。

ザルモスはシペアに対してレースに出て優勝するのを条件としているが、それを妨害するために馬の貸し出しをしないという手段を講じていたが、それ以前に圧倒的に高い倍率を潜り抜けて優勝する方がずっと難しいだろう。
馬を探してほしいという依頼はそもそもザルモスの妨害に目が眩んで、苦し紛れに出したものに過ぎない。
方々から集まる速さ自慢の馬よりも優れた馬を用意するのはまず無理だ。

「じゃあ、どうしたらいいんだよっ。馬がなきゃレースに参加できないし、馬があってもレースに勝てる保証はないんじゃ、俺は一生ザルモスに使われ続けるだけになっちまう…」
希望が見えた矢先に絶望に突き落とされたシペアの慟哭はなによりも重く響く。
「だからその解決策をを俺は話しに来たんだ。シペア、ギルドに出している依頼を取り下げて、新しく依頼を出せ」
何を言っているのかわからないようで、首をわずかに傾げながら俺の方を窺っていたシペアに決定的な言葉をかける。
「新しい依頼は『次のレースに代理で出る人募集』、だ」

今までシペアの依頼に誰も名乗り出なかったのはこれが悪かったのだ。
事情を知っている冒険者は馬だけあってもレースに勝てるとは思っていなかったので、下手に依頼を受けてシペアを絶望の淵に叩き落す真似だけはしたくなかったのだ。
ならそう言ってやれよと思ったのだが、そうするとそれを嗅ぎつけたザルモスがまた別の手で妨害してくる可能性が考えられるため、シペアに自分で気付いてもらうのが一番良かった。

だが、今日俺が訪れた。
ザルモスに注意を向けられておらず、年も近いためシペアと一緒にいてもおかしくない人物である俺はまさに助言者としては最適だったのだ。

「それはわかったけど、そんな都合よく依頼を受けてくれる人が見つかるか?」
今までなぜ自分の依頼が受理されなかったのかを知らないシペアからしたら、ギルドに依頼を出すことに懐疑的になってしまっているようで、あまり気が進まないようだ。

「心配するな。そのレースには俺が出る」
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