世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実

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アンディ、白4級になる

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王都へ戻ってきてギルドへ向かうと、預かっていた荷物と引き換えにギルドカードの更新がされた。
晴れて黒から白4級へと昇格したことで受けられる依頼の幅が増えたのは実に喜ばしい。
これで俺もルーキーからの卒業か…。思えば随分と長い事―いやいや、よく考えたらそんなでもなかったな。
あっちこっちと移動していたから気付かなかったが、冒険者登録をしてまだ半年ちょい程度だろう。

登録して1年目で白4級まで昇格したのはかなり早い方で、騎士や傭兵でもない普通の子供がここまでやれたのは随分久しぶりなのだそうだ。
受付の人が興奮気味に語ってくれた。
ていうか久しぶりってことは前にはあったってことか。
別に自分が最強と思っているわけじゃないが、そいつもかなりの常識外の存在なんじゃないか?

伯爵邸に戻ると俺の昇格祝いにとささやかだが宴が開かれた。
ルドラマとセレンは祝いの席だということで秘蔵のワインを開けていたし、マクシムは妙にテンションが高いしで伯爵一家は身内のことの様に騒いでいる。
パーラは最初におめでとうを言ってからはひたすら料理に夢中で、厨房から運ばれてくる料理に最初に手を付けるのは彼女の役目となっていた。
いつからパーラは腹ペコ属性が付いたのだろうか?
考えるまでも無く、俺との旅が原因か。

先程から俺の周りをソワソワしながらうろついているサティウが何を期待しているのかわからないが、お祝いの言葉はもらったからもう行っていいよ?
後ろ手に隠しているものが何かわからないが、ろくなもんじゃないことだけは確かなので、こちらから声を掛けることはしない。
だから早くどっかに行ってほしい。いやまじで。

飲んで食ってと時間が経ち、周りが大分落ち着いた頃にルドラマから話を切り出された。
「アンディ、パーバスからの連絡が恐らく明日か明後日にでも来るかもしれんぞ。わしの部下が税務統括部から上機嫌で出て来たパーバスを見ておる」
「もうですか?随分早いですね」
「奴なりにお前に恩を感じている証拠だろう。それで連絡が来たらその後はどうするのだ?また旅の空か?」
そう言えばどうするか考えていなかったな。

米が税として認められたのをべスネー村に伝えるのは俺じゃなく徴税官の仕事なのでわざわざ戻って言う必要はないが、礼儀として俺が出向くというのは一応意味はある。
米作りに関してはよほどの問題がない限りは指導した連中で充分やっていけるので、あとは俺が関わる必要はない。
ある程度の問題に対する対処法も紙に記して渡してあるし、こっちの世界の住人がこの先を試行錯誤して育てていくのが自然なのではないかというのもまた真理だ。

そうなると俺は旅に戻るのも悪くないのだが、ルドラマがこういう風に聞いてくるということは何か俺に頼みたいことがあるのではないだろうか?
「特には何も決まっていませんが、ルドラマ様がそう言うとなると何か頼み事ですか?」
「ふははっ。流石に露骨だったか。その通り、実はまたお前に旅の同行を依頼したい。王宮での仕事が大分片付いたのでヘスニルに戻ろうと思ってな」
「そうでしたか。お勤めご苦労様でした。俺は構いませんけど、パーラにも聞いてみないことには返事は出来ませんよ。出発はいつごろを予定してますか?」
「パーラには既に聞いている。お前の決定に従うだそうだ。出発は十日後の予定だ」
根回しが早いことで。

だがパーラがそう言ったとなると決定権は俺に委ねられたということになる。
まあ別に行く当てがあるわけでもないし、今回ルドラマには米の件でいくらか手を貸してもらったのもあるので構わないかと思った。
「わかりました。では冒険者ギルドを通して俺を指名して依頼を出しておいてください。明日にでも受けてきますから」
「うむ、手配しておこう。…正直、お前に受けてもらわなかったらどうしたものかと思っていたのだ」
「と、いいますと?」
「ヘスニルに戻るのは王都に来た連中にセレンも加わるのだが、そのセレンがパーラが一緒でなくては嫌だと言い出してな。そのパーラはアンディと一緒にいるというのでセレンからアンディの同行を随分と強くねだられたというわけだ」
少し遠い目をしているルドラマの様子からどれだけセレンからのプレッシャーがあったのかが窺い知れ、少し同情してしまう。
伯爵とはいえ妻に弱いのはどこの世界でも同じの様だ。





次の日にはギルドへ赴き、ルドラマからの指名依頼を受注して来た。
受付嬢は白4級の冒険者に伯爵からの指名依頼があることに驚いていたが、先日ちょっとした騒ぎになっていた俺の存在に思い至ると納得顔をしていた。

冒険者ギルドにはパーラも一緒に来ており、目的はギルド登録の移籍申請のためだ。
もともと商人ギルドの所属だったパーラだったが、兄の死と同時に商人ギルドに足を運ぶ回数が減り、色々と悩んだ結果、俺と同じ冒険者ギルドに所属することに決めたようだ。

冒険者ギルドと違って税の納め方が年間の取引金額のパーセンテージでのやり方だと、今のパーラは商売をしていないのでそのうちギルド側から監査の対象になる可能性がある。
そのため俺と同じ冒険者ギルドに所属して依頼を一緒に受けた方が納税の効率がいいと判断してのことらしい。

一応商人ギルドと冒険者ギルド双方への移籍は年に何件かあるらしく、手続きはスムーズに進んだ。
ここでパーラに商人ギルドでの実績がある程度あれば冒険者ギルドでのランクにいくつかプラスされるのだが、あいにくヘクターが商人としての主な業務を行っていたためパーラには大した実績は無く、通常通りの黒4級からのスタートとなった。
ただ、全くのゼロからのスタートというわけではなく、商人ギルドの傭兵としての活動記録がそれなりに認められ、年齢制限が課されない状態で登録されることとなった。

ついでというわけではないが、どうせこの先も一緒に旅をするのだから俺とパーラのパーティ申請もしておく。
複数人のギルド登録者同士がパーティとして登録することで色々な恩恵が受けられる。
まずは個人の口座とは別の共用口座の開設が可能となり、税金の引き落としからギルドカードを使った買い物の支払いまでと幅広く使えるのだが、預けている間は利子などは発生することは無く、むしろ一定期間ごとに口座維持の手数料が差し引かれていく。
とはいえ大量の重い貨幣を持ち歩く必要はないので便利ではあるので、利用しない手は無い。
取りあえず手元にいくらか残して口座に全て預けることにした。
今後の旅の資金はここから出されるし、パーティでこなした依頼の報酬も半分は共用口座に、残りの半分を山分けにすると話し合いで決まった。

そしてパーティとして登録すると、依頼主にギルドから紹介されて仕事につながるという利点がある。
特に護衛依頼などはパーティ単位で依頼を出されることが多く、その方が急造のパーティよりも連携や報酬で揉めることは無いので、自然とパーティごとに依頼を受けるのが暗黙のルールとなっていった。
今後は護衛依頼を受けることが出来るようになるだろうが、パーティメンバーは2人だけなので恐らく直接の指名による依頼はまだまだこないだろう。
この先俺達の名前が売れていけば話は別だが、今は2人だけの旅を楽しむ時間を満喫しよう。

用事を終えてギルドを出ると、何故かカードを見ながらニヤニヤしているパーラに気付く。
「なんだよ、さっきからずっと笑ってるな。なにか面白い事でもあったのか?」
「うん。アンディとお揃いになった」
そう言って目の前に突きだされたギルドカードは確かに俺と同じ冒険者ギルドのカードなのでお揃いと言えるが、昨日白に昇格した俺のカードにはパーラのとは違い、白いラインが4本走っているので完全なお揃いではない。
とはいえ今はそんなことは野暮なので口には出さずにいよう。

お揃いのカードを持てたのが嬉しいとは、可愛いことを言ってくれるじゃないの。
若干照れくさい気持ちもあったが、旅の準備はパーラが引き受けてくれるということなので、俺はバイクの車検に向かうことにした。

既に馴染みになり始めているクレイルズの工房に行って見ると、最初場所を間違えたのかと思ってしまった。
何故ならあれだけ散らかっていた入り口前が綺麗に整頓されていたのだ。
物はまだまだあるのだが、以前のような乱雑な配置ではなく、どこかカテゴリー別に分けて置かれているように感じた。

あのクレイルズが遂に整頓を身に着けたかと若干の感動を覚えていたが、ガレージへとバイクを運んでいくと何やら様子が違うことに気付く。
「師匠!何で整理しておいたものを勝手に動かすんですか!せっかくわかりやすいように並べておいたのに…」
「い、いやだってほかに見当たらなかったんだもん。少し探したら見つかったから使っただけなんだよね」
「今日使う分はそっちの作業台の上に並べておいたでしょう」
「えぇ~?それを先に言ってよ」
どうやら別の人間の手によるものらしかった。

ガレージではクレイルズと初めて見る人間の少年がなにやら話をしていたが、クレイルズを師匠と呼んでいるのを聞くに、弟子でも取ったのだろうか?
「あれ?アンディじゃないか。もしかして車検かい?」
「ええまあ。・・・忙しいようでしたら出直しますが?」
俺の存在をめざとくも捉えたクレイルズが渡りに船とばかりに説教から逃げて話しかけてきた。
男性も俺が客だと思ったようでしつこく説教を続けようとはせずに、クレイルズの後ろに控えるようにして立っていた。

「いやいや!大丈夫、今日は暇だからね。しっかりと見てあげるよ」
そういって俺と入れ替わるようにしてバイクのハンドルを押してガレージへと入っていった。
「ところででクレイルズさん、以前いなかったと思いますけど、こちらの方はどなたですか?」
「あぁうん、最近弟子入りしたんだ。ほら、僕はメンテナンス事業が忙しくなったからさ、少し人手が欲しくなってね」
「ホルトといいます」
ホルトはそう言って会釈をしてきた。
見た目は完全に普通の少年といったもので、身長こそクレイルズよりも高いが、あどけなさの残る顔立ちがまだ年の頃は15程度かとうかがわせる。
師匠に倣ってのことか、真新しい灰褐色のつなぎと髪を覆うように巻かれた布は師匠と弟子という姿を強調させた。

近頃王都ではメンテナンス事業がかなり浸透していて、その中でも第一人者であるクレイルズはかなりの顧客を獲得しており、忙しい日々を送っているのだそうだ。
一時期ほどの忙しさは無いが、それでも定期的に顧客の元を訪ねるマメさが彼の事業の成功の秘訣だろう。

「弟子を取ったのはいいんだけどね、ホルト君は結構細かいんだよ。だから毎日のように怒られてるんだよね。こう見えてももういい大人なんだけど」
「師匠がちゃんとしてくれれば僕もうるさくいいませんよ。最低でも使った道具を元に戻すぐらいはしてください」
「ほら、この通りさ。僕は別に構わないんだけど、弟子がこうまでいうんだから色々と任せてるんだ」
ホルトの言葉はごくごく普通の事だと思うのだが、クレイルズには微塵も届いていないようだ。
話ながらバイクの点検をするクレイルズに、ホルトも道具の手渡しやパーツの保持などでサポートをする姿はしっかり息の合った子弟といった感じだ。

30分もかからず点検を終えると、クレイルズからの報告がなされる。
「問題はないね。念の為に車軸とブレーキ周りは交換しておくよ。新しい魔力タンクの方は普通に使えてるみたいで安心だけど、後で使った感想を教えてね」
色々と話をしているクレイルズの後ろで、ホルトがバイクをしきりに調べている。
車検は済んだのでは?と思い、クレイルズに尋ねると苦笑交じりに答えが返ってきた。

「ホルトは魔道具には目がないんだ。バイクは今の所、僕が作ったこれとエイントリア伯爵に納品した2台だけだから珍しくて仕方ないんだよ。大目に見てやってよ」
「まあ見るぐらいは別に構いませんから。それよりも少しお願いがあるんですけど」
「お、新しい魔道具かい?いいよいいよ。君から出される依頼は面白いからね。それで何を作ってほしいんだい?」
興味津々といった様子のクレイルズに制作を依頼するために、紙に概要を書き出していく。

今回作ってもらうのはバイクに取り付けるサイドカーと、以前遺跡で見つけた魔力を打ち出す銃の改良を頼む。
サイドカーはそれほど難しいものではないので簡単に理解してもらえたが、銃に関しては実物を手渡すと、しげしげと見始め、俺の言葉に反応を返さないぐらいに集中しだした。
弟子はバイクに夢中で、師匠は銃に夢中と、完全に俺は放置状態なのだが、職人というのはこんなもんだろうと思っているだけに特に何かを思うことは無い。

しばらくして正気に戻ったクレイルズが俺に詫びてきた。
「いやーごめんね。こういう面白そうなのを見るとつい夢中になっちゃって。それで、これの改良だね?まず修理をしてからになるから少し時間がかかるけどいいかい?」
「俺は当分王都から離れると思うんで、急ぐ必要はありませんが、なるべく要望通りに作ってほしいんです。これ、その要望を書いた紙です」
俺が手渡した紙を眺めて頷くクレイルズの様子から要望は伝わったと判断し、今日の所はお暇させてもらう。

「それじゃ依頼の方よろしくお願いします」
「金額は次に来た時にでも伝えるよ。多分バイクほどの金額にはならないと思うから安心してね」
当たり前だ。そんなポンポン大金を出せるか。
とはいえ幾らになるか予想がつかないのも事実なので、多少は資金の調達に動く必要がありそうだ。
そんなことを考えながら家路を歩いて行く。
後ろからはクレイルズが手を振り、ホルトが物欲しげな顔で見送っている。
そんなにバイクが見たかったのかと思うと少し罪悪感が込み上げてくるが、いつまでもいるわけにはいかないのでその視線を振り切って走り去った。
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