世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実

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【速報】アンディ、パーラ容疑者逮捕!

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 アンディは改造人間である。
 異世界に生まれ変わり、神々に体を弄りまわされた彼は、しかしなんやかんやあって結局悪の組織とは戦わずにのんびり暮らすのであった。


 …というストーリーが特にあるわけでもない俺は、クレイルズが作った変身ベルトでの試作品故のトラブルにより、体を覆ったままとなった鎧の剥ぎ取りに苦戦していた。

「痛ってぇ!おいパーラ!もうちょっと丁寧にやってくれよ!」

 鎧の右肩部分がバチンという音と共に跳ね上がり、その衝撃で叩かれるような痛みに襲われ、たった今それを行ったパーラに文句を言う。

「もーうるさいなぁ。十分丁寧にやってるってば。ちょっとぐらい我慢してよ。…よし、これでいけたね。ホルト、次はどうするの?」

「えーっと、肩まで取れたってことは、次は…うなじの所ですね。そこに突起があるんで、それを下ろしてみてください。硬いようなら、揺らしながらで」

「突起…あ、これね」

 ホルトの指示を受けパーラが俺の背後に回り込んでうなじの部分へと触れてくる。
 この中では唯一真っ当な技術者と言えるのがホルトだけであり、その指示に使われるのに異論を挟む余地もつもりもない。
 クレイルズが書いた説明書だと鎧の脱着に関してはちょっとした解体図しか載っておらず、それを頼りに手探り状態で作業を続けているが、正直ホルトがいなければ詰んでいた。

 今のところ、順調に鎧は外されているため、このままのペースならあと一時間もすれば完全に元の姿に戻れるはず。

「じゃあ下ろすよ、アンディ」

「丁寧に頼むぞ。さっきからお前が何かやるたびに俺に痛みが発生してるんだからな」

「そんな大袈裟な。別に出血も痣もないんだから我慢して。はいじゃあ行っきまぁ~す」

「やっぱり待―アッー!」

 ちょっと覚悟の時間が欲しくなり、一旦待つように言おうとしたのが一瞬遅く、背中側から猛烈な痛みが発生し、思わず情けない声が漏れてしまった。
 だって仕方ないじゃないか。
 鎧の隙間が俺の皮膚に噛みついてきたんだから。

 老若男女、どんなに鍛えようが皮膚へのダメージは限りなく平等だ。
 防ぎようのない痛みに襲われて俺は悶絶しているのだが、しかしパーラとホルトは淡々と鎧を剥がす作業を続けていく。

 元の姿に戻るのを優先しようとするなら、この二人の姿勢は間違ったものではないのだが、だとしてもこんなにも俺が苦しんでいるというのに、まるで気にも留めていないのが恐ろしい。
 こいつらには人の心がないのか?





「あー…ひどい目にあった」

 最後の鎧のパーツが外されたことで、ようやく変身ベルトの呪いから解放された俺は、心の底から安堵の息を吐きながらその場に座り込む。
 幾度もの痛みに耐え、忍び難きを忍んだ先の一息が付けるこの瞬間を、今は何よりも大事にしたい。
 今日を変身解除記念日とする。

「お疲れ様です、アンディさん。片付けはこっちでやるんで、とりあえず休んでてください」

 そう言ってホルトは床に散らばった鎧のパーツをかき集めだす。
 こうして見ると、思ったよりも細かく分解されているようで、果たしてここから元に戻るのか少し心配になる。

「なぁホルト、これってちゃんと元に戻るのか?随分バラバラになっちまってるように見えるが…」

 無理矢理装着を解除した弊害で、変身ベルトがもう二度と使えなくなるという可能性もないとは言えず、既にこの試作品のために駆動鎧を一つ潰していることもあって、その辺りが気になる。

「多分、大丈夫でしょう。見たところ、部品の一つ一つは壊れてるわけでもないんで、ちゃんと組み直せば元通りにはなるはずです。まぁ、簡単じゃありませんがね。師匠が作ったものって、結局どれも扱いが難しいんですよ。ただここまで精密なものとなると俺の手には負えないんで、師匠の所に送ってどうにかしてもらいます」

 長年の下積みのおかげか、今のホルトも決して職人としての腕は悪くないのだが、それ以上にクレイルズが職人としてのレベルが高すぎるのだ。
 この駆動鎧にしても、古代文明の遺物を分析して改造するということがいかに難しいか、世に出回る多くの魔道具が元となる遺物の下位互換がせいぜいという点からも推測できるだろう。

 つまり、駆動鎧をベルト型に改造し、かつ問題なく機能させるまで完成させたクレイルズは、やはり異常な才能の持ち主だということだ。
 まぁ最後にケチはついたが、それでも高い技術力を示しはしている。

 実のところ、俺が知る範囲だとこの手の技術力が一番高いのはソーマルガ皇国ではなく、クレイルズだと睨んでいる。
 確かに開発力ではソーマルガが一強だが、個人での技術力という点ではバイクや噴射装置、そして変身ベルトといったものを作ってきた実績から、こと魔道具の分野ではクレイルズも最高峰にいる人間と言っても過言ではない。

 そんなクレイルズだからこそ、遺物としての駆動鎧を解析・改造することができたわけだ。
 恐らく他の人間に同じことを頼んでも、よくて低レベルな駆動鎧が作られるか、最悪は駆動鎧そのものが無為に失われるだけとなる可能性もあった

「てことはさ、私らがこれを使えるようになるのってまだ先になりそう?」

 特に頼まれてはいないのに、ホルトの片づけを手伝うパーラはその手を止めずに変身ベルトの今後を口にする。
 いずれは自分も使うことになるであろう装備となれば、知っておくに越したことはないといったところか。

「そうなりますね。師匠が試作品と呼んでいるのなら、完成までやっと折り返したってところじゃないですか?」

「じゃあ完成まではあと一年はかかるってこと?」

「いやいや、試作品で一年かかったからもう一年で完成ってのは安直すぎますよ。今まで師匠がしてきた開発の傾向を考えれば、完成まで早くてもあと三年はかかるかと」

「ふーん、そういうものなんだね」

 あくまでも試作品を一年で仕上げてきたのは、クレイルズの高い能力と元となる遺物があったからだ。
 そこからさらに改良して実用までもっていくのには、当然だが長い時間が必要となる。
 これがバイクの時のようにクレイルズ以外の大勢の助けがあればまた話は変わるが、何せ今は巨人の研究の方に職人達は引っ張られている状況だ。

 それも加味した上で三年というホルトの見立ては、さほど間違ってはいないのだろう。

「あ、そうだホルト。さっき変身した時に思ったんだが、あれって頭を保護する兜なんかは搭載されてないのか?確かクレイルズさんには兜もちゃんと頼んでたと思うんだが」

 駆動鎧は体を覆いはするが、首から上は丸出しという欠点があった。
 元々そういうものだとしても、やはり頭部を守る兜かヘルメットの類は欲しいと思い、クレイルズには兜を展開できるようにちゃんと頼んでいたはずだった。
 ところが実際変身してみれば、頭を守るものは何もないといった状態で、これでは話が違う。

 そういったところがクレイルズの残した説明書にないかをホルトに確認してもらおうと尋ねてみた。

「兜ですか?鎧を装着した時になかったならそういうもんだと思いますけど…ちょっと待ってください」

 掃除の手をいったん休め、作業台の上に放置されていた説明書をホルトが捲っていくと、あるページでその動きが止まった。

「あぁ、説明書にその旨がありますね」

「お、そうか。なんて書いてある?」

「えー…『兜を積むの難しい。容量がもういっぱい。別口で折り畳める兜を開発する必要がある。いいのが思いつくまで、ひとまずは後回し』とのことです。殴り書きのような感じなので、大分行き詰ってたみたいですね」

 説明書に書かれていたのは、苦悩とも思えるようなクレイルズの言葉で、どうやら兜の搭載は先送りにされたままで試作品が出来上がったようだ。
 変身ベルトを身に着けた当人の感想としては、パーツを組み替えてベルトの形に落とし込みはしたが、追加で兜を組み込むことまでは出来ないというのも分からんでもない。

 こういう技術の発展において、理解と実現というのは近い所にありながら、時に大きな隔たりを持つこともある。

 恐らくクレイルズも、駆動鎧をベースに改造はしたが、新しく追加する機能や部品に関しては、パズルを作るかのような緻密で面倒な作業に頭を悩ませたことあろう。
 その結果が、あの変身解除のできない状態だとすれば笑えないが、しかし発展性に関しては余地があるようなので、完成品ではきっと兜の問題も解決してくれるに違いない。

「兜も別で開発して組み込み、ベルトもちゃんと安全に脱着できるようにしてと、こう聞くとかなり大変そうではあるな。こりゃあホルトの言う通り、完成は三年以上先にもなるか」

「いいんじゃない?別に急いでもいないし、そのうち出来上がったら使うぐらいの感覚が私らには丁度いいよ」

 仮面ラ〇ダーの夢がまだ遠いと嘆く俺に、パーラは暢気なことを言ってくるが、しかし実際言っていることはこいつの方が正しい。
 何がなんでも変身ベルトを必要としていない今、あえてクレイルズを急かして中途半端な装備を手にするというのは面白くない。

 パーラの言うことは理解できる。
 理解はできるのだが、しかし子供の頃のあの思いが俺を焦らせるのだ。
 例の悪の組織に攫われて改造されることを期待して、夕暮れの街をウロチョロしていたあの時の思いがな。

 試作品とはいえ憧れた品を手に出来たと思ったら、すぐに取り上げられてしまったこの絶望感たるや。
 とはいえ、なにも完全に失われたわけではなく、先延ばしにされただけというのがせめてもの慰めか。

「…仕方ない。気長に待つとするか」

 パーツ状態となった変身ベルトに未練はあるが、いつか来る日を待ち望んで今は諦めるとしよう。

「そういえば修理を頼んでた俺の噴射装置はどうなってる?あれから大分経ってるが」

 どうにもできない変身ベルトの話はこれで終わりとし、もう一つの懸案であった噴射装置の様子をホルトに尋ねる。
 修理に時間が欲しいという言葉により、噴射装置を預けたままイアソー山へと俺達は向かったが、あれから十日は優に過ぎていた。
 流石にもう直っていてもいいだろう。

「ええ、修理は終わってますよ。今持ってきます」

 そう言っていったんどこかへ行ったホルトが、布で包まれた長柄の物体をその手にしてすぐに戻って来た。
 作業台に置かれたその包みを開けると、中からは慣れ親しんだ噴射装置が姿を見せた。
 筐体だけを新しくするという話のとおり、確かに外装は傷一つない新品同様だ。

「修理が終わってから動作確認はしましたから、問題はないと思います。念のため、後でアンディさんの方でも動作確認はしてみてください。なんかあればまたすぐに直しますんで」

「わかった。まぁお前の腕は信用してるから、大丈夫だとは思うがな。とにかく助かった。これで心残りもなくここを離れられるよ」

 早速噴射装置を身に着け、軽く空気の吸入と噴射をチェックしてみるが、やはり問題はなさそうだ。
 後で本格的な動作チェックもするが、今はこれぐらいで十分だ。

 満足のいく仕事には正当な報酬を支払わねばならない。
 ホルトに噴射装置の修理代を尋ねると、中々なお値段を請求された。

 以前までの俺なら目を剥いていたが、今は金ならあるんや。
 噴射装置の希少性を考えれば妥当な金額だし、特に渋ることなく支払いを決める。
 手持ちのほとんどをホルトに渡して懐が軽くなってしまったが、満足のいく取引に心は満たされた。

「はい、確かに頂戴しました。…お二人は次はどちらへ?」

「またソーマルガだよ。あっちに飛空艇を預けたままだから、それを返してもらいにな」

「そうですか。ちょっと前にソーマルガから来たばかりなのに、またソーマルガへ戻るってのも忙しいですね。しかしこっちはもう寒いのに、向こうはまだ暖かいんでしょう?羨ましい」

 すっかり冬に入ったこの時期、アシャドルではちらほらと雪がちらつく日も増えてきた。
 対してソーマルガは砂漠の国だけあって、この季節でもまだまだ暑い。
 今日も寒さが身に染みているであろうホルトは、羨望の眼差しで俺達を見てくる。

「そう思うのも分かるけどね、寒い所から熱い所へ急に向かうってのも結構大変なのよ?気温の変化に体を慣れさせないと、すーぐ具合悪くなるんだから」

 パーラの言う通り、急激な温度変化によって体調を崩すというのを、この先の俺達は気を付けなければならない。
 真冬のアシャドルと灼熱のソーマルガでは、山脈一つを隔てるだけで大きな温度差を見せる。
 普通の旅人なら、徐々に温度が変わっていくのに体が慣れていけるが、俺達はバイクを使って高速で移動するため、どうしても体が慣れるより先に環境の方が変化してしまう。

 これはゆっくり走って移動すれば解決する問題なのだが、どうしてもバイクでの旅はスピードが出てしまう。
 仕方がないんだ。
 とはいえ、俺もパーラも潤沢な魔力の影響で体が丈夫なので、多少体調に気を配るだけでさほど不安はない。

 パーラの先の言葉も、あくまでも一般人に対しての忠告として、ホルトに向けて放った言葉だったわけだ。




 少し話しこんだところでホルトの所を後にし、俺達はソーマルガを目指す旅の準備のためにアシャドルの街中で買い物を済ませる。
 今は冬ということもあって、生鮮食品はそれなりに値は張ったが、それでも王都だけあって品ぞろえは悪くなく、保存のきくものを中心に十分な量が手に入った。

「必要なのはこんなところか?」

 買ったものをバイクに積み込み、一息つく。
 飛空艇ほどではないが、バイクも二台あれば持っていける荷物が随分と多くてありがたい。
 さっきホルトにサイドカーも用意してもらったので、ちょっとした馬車ぐらいの荷物量でも運べそうだ。

「そうだね。これだけあればエーオシャンまで一気に行けるんじゃない?」

「ああ、バイクの足もあるし、その気になればな。…ただ、果たして俺達が普通に国境を越えられるかって疑問はあるが」

 物資の面から言えばエーオシャンまで直行することは可能だが、気になるのはソーマルガ国内で俺達が指名手配されていないかという点だ。
 なにせバイクを盗…黙って借りてきたという前科がある。

 悪気はなくとも、ハリム達からすれば国の財産を盗んだという見方が十分にできる行為であり、国境で俺達を捕縛するぐらいはやってもおかしくはない。

 一応、俺達の仕業だとバレていないというケースも考えられるが、それは楽観的だろう。
 動機もあって、しかも事件の後に姿を消しているとなれば、普通に考えたら犯人か推測するのに十分な材料が揃っている。
 ハリムとダリア、あの二人ほどの頭と勘の良さを考えれば、バレていないわけがない。

「んー、どうだろ?ソーマルガも飛空艇絡みで今忙しいし、私らに構ってる暇はないとは思うけど、バイクを盗んだ人間ってことで国境に通達はいってそうではあるね」

「どう言いつくろっても、バイクをソーマルガから無許可で持ち出したのは事実だからな。ま、とりあえず国境まで行ってみてどうなるかだ。捕まりそうだったら一旦引いて、別の手を考えよう」

「そうだね。いっそのこと、関所の人にソーマルガのバイクを返却するってことで渡しちゃうのもありなんじゃない?」

「それも選択肢の一つだな」

 バイクを返却するだけならパーラの言う通りでもいいのだが、何せ俺達はソーマルガという国に対して不義理を働いたも同然だ。
 こういう時はやはり直接責任者の下を訪ねて謝罪をするというのが、何処の世界でも共通する義理の通し方になる。

 こっちとしても、勝手にバイクを持ち出したことへの弁明もあるため、やはりハリムかダリアに会いに行くという目的は欠かすことは出来ない。
 一つのケースとして、ハリム達とは関係ないところで俺達の逮捕の話が進んでいることも考えられるが、そうなったら全力で逃げるだけだ。

 最悪、ダンガ勲章を返上した上で二度とソーマルガへ足を踏み入れないぐらいの覚悟も必要だが、それもまた仕方のないこととして受け入れるのみだ。

 とにもかくにも、まずは国境で俺達への対応を見てからだ。
 それから判断して、今後のことを考えるとしよう。





「普通に通れたね」

 バイクで並走しながら、たった今通過してきた関所を振り返りながらのパーラのその言葉に、俺も拍子抜けした気分で頷く。
 バイク二台の移動という目立っているはずの俺達だったが、他の旅人同様、特に関所で声をかけられることなく普通に通過できてしまった。

「捕縛される可能性も考えて、ちょっとビビってはいたんだがな。この分だと、俺達のことがソーマルガで広まっていないのは確実か」

 指名手配されていれば、確実に国境は通行人の身元を検めるはずだが、そんな気配がなかったということは、指名手配はされていないという証拠でもある。
 これなら皇都まで行ってバイクを返却するのもスムーズに行けるだろう。

 その際、ダリアかハリムに面会して直接謝罪をするのがベストだが、あの二人も今は特盛に忙しいはず。
 どうしても面会が無理なら、謝罪と感謝の手紙でも誰かに託して済ませるとしよう。

 いやぁ、それにしても指名手配はされていないのか。
 あれだけのことをして内々に済ませようとでもしてくれたのか、ハリムかダリアの配慮には感謝しかないな。
 よかったよかった。





「そこの二人!アンディとパーラだな!これより貴様らを皇都へ連行する!大人しく我らに従うのだ!」

 兵士を引き連れた騎士の青年が、こちらへ居丈高にそう言い放つと、控えていた兵士達が俺とパーラを囲む。

 ついさっきエーオシャンへ足を踏み入れた俺達は、入門でも特に止められることなく街へ入り、暢気に今日の宿に思いを巡らしていたその時、この騎士が行く手を遮って先の言葉を吐いてきたのだ。

「…なにこれ?どういうこと?」

 バイクから降り、俺と背中合わせに周囲の兵士を見ているパーラがこちらへだけ聞こえる音量でそう尋ねてくる。
 なにと言われても、俺だってわからん。

 ただ、周りにいる兵士達がとる隊形が、確実に魔術師への対処を念頭にしたものであるのは分かる。
 俺達がどういう人間かを知っていての警戒だろう。

 名前を呼ばれた以上、人違いという線はないはずだが、だとしても公的権力に捕まえられるほどのことはして…るな。
 ソーマルガで確かにしてたわ。

 となると、こいつらはバイクの件で俺達を捕まえようとここで張っていた口か?
 関所ではなく、エーオシャンで待ち構えていたのは、戦力を留めて置ける場所として街を選んだといったところだな。

「抵抗はしないが、一つ聞きたい。俺達を捕まえようとしているのは、宰相閣下の命令か?」

 この騎士を動かした人間がハリムならまだいい。
 大人しく着いていけば、とりあえず悪いことにはならない。
 だがもしもハリム以外の、功を焦った三下の先走りだとしたら、拷問紛いの取り調べも有り得る。
 流石にそれはごめんなので、その場合はここを逃げ出すことも考えたい。

 さて、返答やいかに?

「いかにも。我々は宰相閣下より直々の命を受けている。『アンディとパーラ、二名はソーマルガにおける重大な事件に関与している可能性があるため、宰相が直々に詮議をいたす』とな」

 おっと、それははいい事を聞いた。
 どうやらこいつらはハリムの命令で動いていると分かった。
 飛空艇のことでそのうち俺達がソーマルガへ戻ってくると、ハリムも確信があったのだろう。
 この騎士達もハリムが俺達を皇都まで連れてこさせるためにエーオシャンに置いていたようで、随分と長いこと燻っていたのかもしれない。

 こうなると、この騎士に引っ立てられて行けば、俺達は確実にハリムと面会ができるわけだ。
 罪人のように扱われるのは癪だが、とはいえ弁明の機会はちゃんとあると見える。
 ここはひとつ、この騎士達の世話になるとしよう。

「…わかりました。そちらの指示に従いましょう。パーラ、お前も」

「…はーい」

 抵抗をしない証として、腰に提げていた剣を目の前に放り投げ、両掌を相手に向けて掲げる。
 パーラも俺と同じようにし、相手にも無抵抗の意志は正しく伝わり、武器は没収されて俺達は身柄を拘束された。

 ただ、どういうわけか縄を打たれることはなく、装備も武器の類は全て取り上げられたものの、それ以外はそのままにされている。
 いいのかと騎士に尋ねてみるが、『素直に投降したのなら、縄を打つまではしなくてもいいと指示を受けている』とのこと。

 どうもハリムは俺達が抵抗はしないと踏んでいたようで、この措置も予定通りといったところなのだろう。
 あくまでも罪人ではなく、バイク紛失事件の重要参考人の扱いだというのが、この辺りにも関係していそうだ。

 一体どんな話があるのか、まぁ確実に小言はもらうし、なんだったら泣かされる勢いで叱られることも十分に考えられる。
 この騎士達と一緒に皇都を目指すとなると、恐らくバイクの移動よりも時間はかかるので、その間にハリムからのお叱りをシミュレーションしつつ、覚悟も決めておくとしようか。

 ハリムが大正論を使ってくるなら、土下座を使わざるを得ない。
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