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12.援軍
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最初の戦闘で優位に立ったのはアテナイ勢で、シラクサ方は戦死者こそ僅かであったが、その中にはコリントスの将軍ゴンギュロスが含まれていた。ところが翌日は、ギュリッポスに経験の冴えとはいかなるものかを見せつけられる結果となった。両軍は同じ武装、同じ馬、そして同じ場所で戦ったが、彼は昨日とは異なる陣形を用意して、アテナイ軍を散々に打ち破ったのである。
敗残兵が陣地に逃げ込んだのを見ると、ギュリッポスは塁壁を造るため集められた木石をうばい、シラクサ兵に命じて、敵の壁を遮るための楔を打つような城壁を建造した。これでアテナイはたとえ何べん戦場で勝とうとも、シラクサを落城させられなくなった。
その後シラクサ勢は勇気を取り戻し、ある時は三段櫂船に乗り、ある時は騎兵となり従者を伴ってシチリアの各所で戦い、多くのアテナイ人を捕らえた。ギュリッポスは自分の足で諸都市を回り親交連帯につとめたので、住民たちは彼の言葉に耳を傾け、支援を惜しまなかった。
ニキアスはといえば、戦の風向きが変わったことを悟ると気落ちして、また彼本来の性分に戻ってしまった。そうしてさかんに本国に手紙を書いて、つぎの様に求めるのだった――新しく軍隊を派遣するか、さなくばシチリアからの撤退を命じて欲しい。いずれにせよ自分は病身だから、はやく司令官の任を解いてくれるように――と。
じつはアテナイの政界では、以前よりシチリアに増援を送ろうという意見がないでもなかったが、ニキアスの輝かしい戦功と富に対する嫉妬が邪魔をして、計画が遅れに遅れていたのであった。ここに至ってついに皆の心が救援に一致したが、まず冬のさなかにエウリュメドンが先陣を切り、デモステネスは春を待ったうえで大兵を整えて後を追うことに決まった。物資を運んできたエウリュメドンの最初の仕事は、今までニキアスの下で働いていた士官の中から、エウテュデモスとメナンドロスが追加の将軍として選ばれたと布告することであった。
この間ニキアスには水陸両面から猛攻撃が加えられた。アテナイ勢は海上では緒戦こそ押され気味だったが、やがて盛りかえし敵の三段櫂船を多数撃沈させた。問題は陸の係争のほうで、ギュリッポスから奇襲を受けたプレンミュリオンには救援が間に合わず、これを失陥する結果になった。
建艦基地であるプレンミュリオンには大量の木材と資金が集積されていたが、そのすべてがギュリッポスの手に落ち、おびただしい人々が殺戮され、あるいは捕虜となった。しかし何より重大なのは、ニキアスの兵站線を寸断したという事実である。
この地がアテナイの占領下にあった時は、安全なルートで素早く補給を受けることができた。ところがアテナイ軍が逃げ去った今となっては、砦の下の船だまりで敵兵からさかんに妨害をこうむるので、補給物資の運び入れは困難を極めた。しかもシラクサ人は先の海軍の敗北を力不足によるものでなく、追撃時に足並みが乱れたせいだと思っていたため、みな将来に希望をもって必死に戦の準備に励むのだった。
ニキアスは「デモステネスが新造の大船団を率いて援けに来るのが分かっているものを、わざわざ損耗した船と劣った装備で戦うのは馬鹿げている」と言って艦隊決戦にはやる気運をおさえようとした。ところが新しく指揮権を授けられたメナンドロスとエウテュデモスは両将軍※1への対抗意識がすさまじく、デモステネスの着任より先にどうあっても大きな成功を収め、自分がニキアスより優れていることを証明しようと躍起になっていた。
彼らは、「いまシラクサからの挑戦を断れば、アテナイ市の栄誉はすたれ、ついには地に塗れるであろう」と強硬に主張して、ニキアスと艦隊を海戦に引きずり込んでしまった。そしてコリントスの艦長アリストンの計略――トゥキュディデスの語るところでは、それは兵たちの食事休憩を逆手に取ったものだった※2――にまんまと嵌まって敗れ、多くの戦士を失うことになった。
この様な塩梅で、ニキアスはひとりで軍を動かせば時に利あらずして苦戦し、こんどは同僚たちに足を引っ張られて失敗するものだから、意気消沈のほどは甚だしかった。
しかしこの時、ついにデモステネスの艦隊が港の沖合に勇壮な姿をあらわし、敵の戦意をおおいに挫いてみせた。73隻の三段櫂船には5000の重装歩兵が分乗し、投槍隊、弓隊、投石隊も3000を下らない。陽射しをあびた甲冑は燦々と輝き、船べりの吹き流しは翩翻とたなびく。船の音頭とり、笛吹きに漕ぎ手までも動員して、華やかな戦絵巻さながらの陣容をまざまざと見せつけるのだった。シラクサの人々がふたたび恐慌状態におちいって、祖国の解放も叶わぬまま、だれもが為す術なく犬死してゆく未来を感じ絶望したのも当然であろう。
※1:ニキアスとデモステネスのこと
※2:さきにシラクサ方が食事休憩に入り、つられてアテナイ方も休憩を取ろうとしたところへ急襲をかけた
敗残兵が陣地に逃げ込んだのを見ると、ギュリッポスは塁壁を造るため集められた木石をうばい、シラクサ兵に命じて、敵の壁を遮るための楔を打つような城壁を建造した。これでアテナイはたとえ何べん戦場で勝とうとも、シラクサを落城させられなくなった。
その後シラクサ勢は勇気を取り戻し、ある時は三段櫂船に乗り、ある時は騎兵となり従者を伴ってシチリアの各所で戦い、多くのアテナイ人を捕らえた。ギュリッポスは自分の足で諸都市を回り親交連帯につとめたので、住民たちは彼の言葉に耳を傾け、支援を惜しまなかった。
ニキアスはといえば、戦の風向きが変わったことを悟ると気落ちして、また彼本来の性分に戻ってしまった。そうしてさかんに本国に手紙を書いて、つぎの様に求めるのだった――新しく軍隊を派遣するか、さなくばシチリアからの撤退を命じて欲しい。いずれにせよ自分は病身だから、はやく司令官の任を解いてくれるように――と。
じつはアテナイの政界では、以前よりシチリアに増援を送ろうという意見がないでもなかったが、ニキアスの輝かしい戦功と富に対する嫉妬が邪魔をして、計画が遅れに遅れていたのであった。ここに至ってついに皆の心が救援に一致したが、まず冬のさなかにエウリュメドンが先陣を切り、デモステネスは春を待ったうえで大兵を整えて後を追うことに決まった。物資を運んできたエウリュメドンの最初の仕事は、今までニキアスの下で働いていた士官の中から、エウテュデモスとメナンドロスが追加の将軍として選ばれたと布告することであった。
この間ニキアスには水陸両面から猛攻撃が加えられた。アテナイ勢は海上では緒戦こそ押され気味だったが、やがて盛りかえし敵の三段櫂船を多数撃沈させた。問題は陸の係争のほうで、ギュリッポスから奇襲を受けたプレンミュリオンには救援が間に合わず、これを失陥する結果になった。
建艦基地であるプレンミュリオンには大量の木材と資金が集積されていたが、そのすべてがギュリッポスの手に落ち、おびただしい人々が殺戮され、あるいは捕虜となった。しかし何より重大なのは、ニキアスの兵站線を寸断したという事実である。
この地がアテナイの占領下にあった時は、安全なルートで素早く補給を受けることができた。ところがアテナイ軍が逃げ去った今となっては、砦の下の船だまりで敵兵からさかんに妨害をこうむるので、補給物資の運び入れは困難を極めた。しかもシラクサ人は先の海軍の敗北を力不足によるものでなく、追撃時に足並みが乱れたせいだと思っていたため、みな将来に希望をもって必死に戦の準備に励むのだった。
ニキアスは「デモステネスが新造の大船団を率いて援けに来るのが分かっているものを、わざわざ損耗した船と劣った装備で戦うのは馬鹿げている」と言って艦隊決戦にはやる気運をおさえようとした。ところが新しく指揮権を授けられたメナンドロスとエウテュデモスは両将軍※1への対抗意識がすさまじく、デモステネスの着任より先にどうあっても大きな成功を収め、自分がニキアスより優れていることを証明しようと躍起になっていた。
彼らは、「いまシラクサからの挑戦を断れば、アテナイ市の栄誉はすたれ、ついには地に塗れるであろう」と強硬に主張して、ニキアスと艦隊を海戦に引きずり込んでしまった。そしてコリントスの艦長アリストンの計略――トゥキュディデスの語るところでは、それは兵たちの食事休憩を逆手に取ったものだった※2――にまんまと嵌まって敗れ、多くの戦士を失うことになった。
この様な塩梅で、ニキアスはひとりで軍を動かせば時に利あらずして苦戦し、こんどは同僚たちに足を引っ張られて失敗するものだから、意気消沈のほどは甚だしかった。
しかしこの時、ついにデモステネスの艦隊が港の沖合に勇壮な姿をあらわし、敵の戦意をおおいに挫いてみせた。73隻の三段櫂船には5000の重装歩兵が分乗し、投槍隊、弓隊、投石隊も3000を下らない。陽射しをあびた甲冑は燦々と輝き、船べりの吹き流しは翩翻とたなびく。船の音頭とり、笛吹きに漕ぎ手までも動員して、華やかな戦絵巻さながらの陣容をまざまざと見せつけるのだった。シラクサの人々がふたたび恐慌状態におちいって、祖国の解放も叶わぬまま、だれもが為す術なく犬死してゆく未来を感じ絶望したのも当然であろう。
※1:ニキアスとデモステネスのこと
※2:さきにシラクサ方が食事休憩に入り、つられてアテナイ方も休憩を取ろうとしたところへ急襲をかけた
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