エウメネス伝―プルタルコス対比列伝より―

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マケドニア人の敵

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十日足らずのあいだに二度の戦いに勝利したエウメネスは大いに名をあげることになった。しかし機智と勇気をもって難局を乗り切った人物として英雄視する者がある一方、敵味方の区別なく多くのものから嫉妬と憎悪を向けられることにも繋がった。保守的なひとびとから見ればこの戦は、一介のよそ者がマケドニア人の武器と血を利用して、最も愛され、また最も頼むべき者を殺害した事件に過ぎなかったのである。

さて、ペルディッカスがクラテロスの死を知ることが出来たなら、この時点でマケドニアの筆頭者に就く者は彼をおいて他にいなかっただろう。しかし実際には、わずか2日前に彼はエジプトで兵士の反乱にあって命を奪われており、戦いの報告が幕営に届くやいな、残ったマケドニアの将兵たちは激怒して直ちにエウメネスに死刑を宣告した。エウメネスに対する戦争の指揮権を与えられたのはアンティパトロス、そしてアンティゴノスであった。


後ろ楯を失ったエウメネスは戦力の確保に動いた。イダ山のふもとにある王家の放牧地から必要なだけ馬をもらって行ったが、そのさい頭数を記した書面を監督官たちに送ってよこした。伝えられるところによれば、これを聞いたアンティパトロスはせせら笑って言ったという。
「まったくエウメネスの先見の明たるや賞賛に値する。ご丁寧なことに王室財産の使途について、これからも報告したり報告を受けたりするつもりなのだから」

エウメネスは自慢の騎兵が展開しやすいようサルディス周辺のリディア平原で敵を迎え討つかまえを見せた。また同時に、これは王女クレオパトラの前で兵馬を見せつけようという野心でもあった。しかしアンティパトロスに不満を抱かせることを恐れた王女の要請により、彼はフリュギアの高地に転進してケライナイで越冬せざるを得なかった。

ここにきてアルケタス、ポレモン、ドキムスといった旧ペルディッカス派の三将が司令官の座を要求してきたためひと悶着もんちゃくが生じた。エウメネスは嘆息たんそくして、
「“破滅のことは視野の外(愚かものは迫り来る危機を想定できない)”とことわざにいうが、これがそうだったか」とこぼした。

彼は兵士たちを懐柔するため3日以内に給料を支払うと約束し、適当な地域の奴隷や家畜がたっぷりいる様な城や荘館を下げ渡してやることにした。将校や歩兵の指揮官、傭兵隊長らに「おまえはどこそこ」と場所を割り当て、武器や攻城兵器まで貸してやったので、彼らは部下を率いてつぎつぎに包囲し、占領し、思うまま掠奪を行った。こうして兵士たちは戦利品を分配して、約束どおり報酬を受け取ることが出来た。

結果、エウメネスの評判はさらに高まることになった。あるとき敵の指導者が「エウメネスを殺した者には100タラントンと種々の特権を与える」と書かれたビラを陣営にいたところ、マケドニア兵は大いに怒り、エウメネスには1000の上級兵がつねに見張りにつき、外出時には護衛をし、夜は幕舎の門前で過ごすという取り決めを作った。彼らはこの決まりを忠実にまもったため、エウメネスもまた王が臣下にするような栄誉をもって報い、喜ばせてやった。エウメネスは紫の帽子と衣服を望むものに授ける権限を与えられていたが、これはマケドニアでは王族からの贈り物にのみ許される色だった。


栄光というものは何とも不可思議で、不出来な者がこれにつかまって引き上げられ、高所からひとを見下ろすようになると、実際に偉大で威厳に満ちた人間のように振舞えてしまう事例がしばしばある。しかしまことたっとぶべき不動の魂のはたらきは、むしろ災難や不運にみまわれた際の行動に表れる。エウメネスの場合もそうであった。

彼はカッパドキアのオルキュニアでアンティゴノスと戦ったが、味方の裏切りによって敗北を喫した。ところが敗走中にもかかわらず、裏切り者が敵の陣へと逃げ込むのを阻止しこれを捕らえて縛り首にした。その後ひそかに転進し追手とは逆のルートをとって、気づかれぬまま追手のすぐそばをすり抜け、戦闘が行われたもとの場所に戻って来ることに成功した。

ここで彼はあらためて陣を張り、戦死者を集めた。近隣の村々の戸板をくだいたものをまき替わりにして、士官以上の者を一つの山に、兵士たちの遺体をもう一つの山にして荼毘だびに伏し、遺灰の上に塚を築いてからその場を立ち去った。この豪胆さと不屈の精神は、後にやって来たアンティゴノスでさえ賞賛したほどだった。
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