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第1話 後野三蔵はこう思う、誰でもこう思うと、乞い、想う。
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この世界で〝死にたい〟と思ったことがない人間なんて何人いるのだろうか?
生きなければいけないと声高に言うことはできるが、その言葉は誰もが〝死にたい〟という言葉に無理やり蓋をして、無理にひねり出した言葉で……本当は心の底では〝死にたい〟と思っている。
皆が皆そう思っている。
これはあくまで僕の意見かもしれないが……そう思いたくなるほどこの世界には〝絶望〟がありふれている。
目をそむけたくなるほどの絶望が、運が悪い一割の人間ではなく、十割の人間におとずれる。
だからこの世界にはゲームというモノがあるのだろう。
現実から目を逸らして虚構の世界に没頭するための、人間の心を救う画期的な発明。
そう、ゲームはまさに発明であり、人間の心を救うためのものだ。
辛い現実に一々真正面からぶち当たり続けていたら、僕という人間は簡単に壊れてしまう。それだけ人間の心というものは脆い。これは決定的で確定的で眼を背けることができない不可避の事実だ。どんなに強がって言い繕っても事実は事実。そうではないと自分に言い聞かせて逃げない愚か者は自分の心に入っていくヒビに気づかずに最後はただ壊れるだけだと知れ。
現実からは逃げないと駄目だ。
それだけ現実というものは辛くて厳しい。
僕はそんな現実にぶち当たった時に必ず心の中でこうつぶやく———〝死にたい〟と。
どうあがいても自分の力では解決できないのに、周りの人間が誰も助けてくれない。そんな時に〝死にたい〟と呟いてしまう。どうしても呟いてしまう。
だから僕はもしも一度死んで生まれ変われてその先の世界が天国のような世界なら、それは最高の事なんじゃないかと思う。
———生まれ変われたら一国の王に転生して、ハーレムを築いて一生働かずに楽して生きていたい。
そんな煩悩にまみれた酒池肉林の言葉を平気な顔で言ったクラスメイトはその場にいた全員に馬鹿にされた。「そんな都合のいいこと考えるなよ」「そんなことあるわけないだろ」「馬鹿なこと考えてないで現実みろよ」笑いながらそう言われてそいつも笑っていた。
僕もそいつを馬鹿にして笑っていた。
辛い現実から逃げている愚かな男だと笑っていた。
今は笑えない。
それは人が〝天国に行きたい〟と望むのと何が違うのだろう?
楽園に行きたいと望んでいるから、皆、良いことをするのだろう?
そりゃあ法律で決まっているからとか、破ったら投獄されてしまうとか。そう言った社会的な理由もあるだろうけれども、人間の善意というのはそれだけではなく、目に見えない漠然とした……都合のいい未来というものを信じているからだ。
そうだろう?
もし、もしも———だ。そんな都合のいい未来を信じていない。人間は死んだらそこで終わりで、その先なんてないものだと心の底から思って生きているのなら、もっと人間は自棄的で刹那的で衝動的な、一瞬一瞬を愉しむための快楽主義的な生き方をしているはずなのだ。
だから、僕はあの男を、都合のいい妄想を述べたあのクラスメイトのことを笑えない。隈元第二小学校、当時三年三組の出席番号21番の泥須大多郎を笑えない。もう高校生になり、中学は他県で過ごしたのですっかり疎遠になってしまったが、僕はいつまで経っても覚えているし、いつまで経ってもあの時笑ったことを後悔し続ける。
都合のいい事を考えてもいいじゃないか。もしも自分が転生してヒーローの様に無双して誰からも尊敬されるような姿を夢想してもいいじゃないか。
皆、似たような妄想をして生きているんだから。
死んだ後は今世のようにはならない、そう思い込んでいない、現実とぶつかり続けてヒビだらけの今にも壊れそうな心を持っている人間が果たしてどれくらいいるのだろうか。
きっとそんな奴はいない。いたとしても一分後にはもうすでに死んでいる。何故ならそんな奴は刹那的な快楽主義者でしかありえないからだ。
本屋の一角のコーナーを主人公が転生して、ゲームのような世界で大活躍するジャンルの本が敷き詰められるようになってからどれぐらいたっただろう。
テーマ性もなく、作家性もメッセージ性もない、ただその瞬間瞬間で読者が求めていることに応えることだけに全神経を注いだ本の数々。
それらはゴシップ雑誌の様に一瞬で娯楽として消化され、ひと時の快楽を愉しんだ読者はまた別の快楽を求めて目移りし、以前に読んだものには固執せず、まるで男が一度だけ抜いたエロ本のように人の心に残らずに捨てられていく。
そんなものを低俗だと、無価値だと人は言い、僕も思っていた。
だけど違う。
そんなひと時でも現実を忘れることができる娯楽がなければ、現実は辛すぎるのだ。
一瞬。ほんのひと時も、たとえ低俗で無価値と人から後ろ指刺される幻だとしても———都合のいい夢想の世界に逃避できない現実は、普通の人間には耐えられないほど辛いものなのだ。
そんな辛い世界に僕たちは生きている。
それが現実だ。
だからいつも心の中で口癖のように唱えてしまう。
それがダメだと、悟ったような、まるで自分が人格者化のような良い人たちは言うが、それでも僕は唱えずにはいられない。
死にたい———と。
生きなければいけないと声高に言うことはできるが、その言葉は誰もが〝死にたい〟という言葉に無理やり蓋をして、無理にひねり出した言葉で……本当は心の底では〝死にたい〟と思っている。
皆が皆そう思っている。
これはあくまで僕の意見かもしれないが……そう思いたくなるほどこの世界には〝絶望〟がありふれている。
目をそむけたくなるほどの絶望が、運が悪い一割の人間ではなく、十割の人間におとずれる。
だからこの世界にはゲームというモノがあるのだろう。
現実から目を逸らして虚構の世界に没頭するための、人間の心を救う画期的な発明。
そう、ゲームはまさに発明であり、人間の心を救うためのものだ。
辛い現実に一々真正面からぶち当たり続けていたら、僕という人間は簡単に壊れてしまう。それだけ人間の心というものは脆い。これは決定的で確定的で眼を背けることができない不可避の事実だ。どんなに強がって言い繕っても事実は事実。そうではないと自分に言い聞かせて逃げない愚か者は自分の心に入っていくヒビに気づかずに最後はただ壊れるだけだと知れ。
現実からは逃げないと駄目だ。
それだけ現実というものは辛くて厳しい。
僕はそんな現実にぶち当たった時に必ず心の中でこうつぶやく———〝死にたい〟と。
どうあがいても自分の力では解決できないのに、周りの人間が誰も助けてくれない。そんな時に〝死にたい〟と呟いてしまう。どうしても呟いてしまう。
だから僕はもしも一度死んで生まれ変われてその先の世界が天国のような世界なら、それは最高の事なんじゃないかと思う。
———生まれ変われたら一国の王に転生して、ハーレムを築いて一生働かずに楽して生きていたい。
そんな煩悩にまみれた酒池肉林の言葉を平気な顔で言ったクラスメイトはその場にいた全員に馬鹿にされた。「そんな都合のいいこと考えるなよ」「そんなことあるわけないだろ」「馬鹿なこと考えてないで現実みろよ」笑いながらそう言われてそいつも笑っていた。
僕もそいつを馬鹿にして笑っていた。
辛い現実から逃げている愚かな男だと笑っていた。
今は笑えない。
それは人が〝天国に行きたい〟と望むのと何が違うのだろう?
楽園に行きたいと望んでいるから、皆、良いことをするのだろう?
そりゃあ法律で決まっているからとか、破ったら投獄されてしまうとか。そう言った社会的な理由もあるだろうけれども、人間の善意というのはそれだけではなく、目に見えない漠然とした……都合のいい未来というものを信じているからだ。
そうだろう?
もし、もしも———だ。そんな都合のいい未来を信じていない。人間は死んだらそこで終わりで、その先なんてないものだと心の底から思って生きているのなら、もっと人間は自棄的で刹那的で衝動的な、一瞬一瞬を愉しむための快楽主義的な生き方をしているはずなのだ。
だから、僕はあの男を、都合のいい妄想を述べたあのクラスメイトのことを笑えない。隈元第二小学校、当時三年三組の出席番号21番の泥須大多郎を笑えない。もう高校生になり、中学は他県で過ごしたのですっかり疎遠になってしまったが、僕はいつまで経っても覚えているし、いつまで経ってもあの時笑ったことを後悔し続ける。
都合のいい事を考えてもいいじゃないか。もしも自分が転生してヒーローの様に無双して誰からも尊敬されるような姿を夢想してもいいじゃないか。
皆、似たような妄想をして生きているんだから。
死んだ後は今世のようにはならない、そう思い込んでいない、現実とぶつかり続けてヒビだらけの今にも壊れそうな心を持っている人間が果たしてどれくらいいるのだろうか。
きっとそんな奴はいない。いたとしても一分後にはもうすでに死んでいる。何故ならそんな奴は刹那的な快楽主義者でしかありえないからだ。
本屋の一角のコーナーを主人公が転生して、ゲームのような世界で大活躍するジャンルの本が敷き詰められるようになってからどれぐらいたっただろう。
テーマ性もなく、作家性もメッセージ性もない、ただその瞬間瞬間で読者が求めていることに応えることだけに全神経を注いだ本の数々。
それらはゴシップ雑誌の様に一瞬で娯楽として消化され、ひと時の快楽を愉しんだ読者はまた別の快楽を求めて目移りし、以前に読んだものには固執せず、まるで男が一度だけ抜いたエロ本のように人の心に残らずに捨てられていく。
そんなものを低俗だと、無価値だと人は言い、僕も思っていた。
だけど違う。
そんなひと時でも現実を忘れることができる娯楽がなければ、現実は辛すぎるのだ。
一瞬。ほんのひと時も、たとえ低俗で無価値と人から後ろ指刺される幻だとしても———都合のいい夢想の世界に逃避できない現実は、普通の人間には耐えられないほど辛いものなのだ。
そんな辛い世界に僕たちは生きている。
それが現実だ。
だからいつも心の中で口癖のように唱えてしまう。
それがダメだと、悟ったような、まるで自分が人格者化のような良い人たちは言うが、それでも僕は唱えずにはいられない。
死にたい———と。
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