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学術都市 アルカデラ
第33話 どこへ逃げる?
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二人を連れて走り回る僕たち。
しかし一体ここはどこなのだろうか? まるで迷路のように入り組んでいる。
「ちょ……ちょっと……ま、待って……」
ぜーぜーと肩で息をするソフィア。ええい、こんなところで立ち止まってる場合ではないのに!
仕方ないと思った僕は、ソフィアをひょいと抱き上げると、そのまま走り出す。
「えええ!?!? ちょっと!!! 」
「早く逃げなきゃ、我慢して」
顔を真っ赤にしてばたつくソフィアだったが、今はそんなことをしてる場合ではない。
「ソフィア! どこから逃げれば良い? 」
「ええと、ここは多分、議会塔だから……いやでも下には追っ手が……」
そして僕はあるものに目を止めた。
窓だ!
「ソフィア、リオン、しっかり捕まって! 」
「うん! 」
元気良く返事をするリオン。
「は? 」
ぽかんと口を開けるソフィア。
そして僕は勢い良く窓をかち割ると、弾丸のように外に飛び出した。少々高さはあるものの、難なく着地する。
「あなた……結構無茶するのね……」
ソフィアが呆れたように呟いた。
「よし、外に出たぞ。ソフィア、次はどこに行けば良い? 」
飛び出したのはだだっ広い空き地のような場所。
辺りに建物は何もなく、ただ壁だけがぐるりと僕たちを囲むように建っている。
「もう無理よ」
苦虫を噛み潰したような顔でソフィアが言う。そして僕の腕の中からするりと抜け出すと、その壁に手を触れた。
とたんにバチッという音がしたかと思うと、一瞬だけ、魔法のベールのようなものがかけられているのが分かった。
「ここはアルカデラのはじっこ。アルカデラはね、魔法の壁で囲われた都市なの。出入り口は一つしかないし、それ以外の場所から脱出なんて不可能よ」
諦めたようにソフィアは地面に寝転がる。
「あたしたちは袋のネズミ。出入り口はきっと塞がれているだろうし、いずれ追っ手が来るでしょうね」
「……壁は壊せないの? 」
リオンが聞く。
するとソフィアは、あはははと口を開けて笑いだした。
「無理無理、だってこの魔法は太古にファリアス様がかけたものだ。神の魔法を破るなんて、それこそ神にしか出来ない」
「そんな……」
リオンががっくりと肩を落とす。しかし、僕はまだ諦めない。
「そんなの……やってみなきゃ分からないだろ」
「は? 」
僕は再び魔法を唱えると、ひたすら壁にぶつけ続ける。
何回、何十回、何百回繰り返してみよう。そうすればいつかは壊せるはず。
「そんなことしたって無駄! ノア、もう諦めて! 」
「僕は諦めない、例えMPが尽きたって、ここから逃げて見せる! 」
「どうして? どうしてそこまでするの? あなたは言わば巻き込まれただけ。なぜそこまで? 」
なぜだろう。ただソフィアの叫びを聞いて、居ても立ってもいられなくなったというのが正直な気持ちだ。
「そうだ、この本。ソフィアに見せたいと思ってたんだ」
僕はカバンからあの本を取り出す。
ーー太古の大罪人 ジョージ=ロアクリフが書いたとされる呪いの本
『愚者の遺書』
これの最後のページには、確か娘に会いたいという願いがかけられていたはず。
「何これ……? 」
ソフィアがその本に触れたとき、再び何者かの記憶が僕の脳内を駆け巡った。
「ジョージ……怖くはないか? 」
「怖くはないさ。別に俺たちは負けるわけじゃない」
これは……ジョージ=ロアクリフの記憶?
話しかけている青年の顔はまるで霧がかったように見えない。
「でも故郷に残してきた娘のマルカだけは気がかりだね。何も言わずに飛び出しちゃったからなあ」
「すまない」
「なぁに、×××が謝ることじゃねえよ。だからほれ、マルカに向けて手記を残すことにした」
そうしてジョージは一冊の本をかかげた。
「いつかあいつの元に届いてくれれば、俺はもう悔いはねえな」
そうやって笑うジョージの顔は確かにソフィアの面影があった。
「な、何これ!? 」
ソフィアの魔法生成機から、光が溢れ出す。
その眩しさに思わず目を背けてしまいそうだった。
そして僕たちが掴んでいるあの本、みるみる内にあのボロい表紙から記憶のなかで見た立派なものに変わる。
タイトルも書き代わり、大きな字で、『マルカに捧ぐ』という文字が浮かび上がった。
「今ならいける! ソフィア、魔法を唱えるんだ! 」
「無理だよ! あたしが作る魔法なんて子どもだましみたいなもんだし」
「大丈夫! 僕を信じて」
ソフィアはしばらく迷うように僕の顔を見つめていたが、やがて覚悟を決めたのか、唇を噛み締めると魔法を唱え始めた。
今まで見たことのないぐらいの魔力量。
ソフィアが不安そうにこちらを見るが、僕がその手を握る。
後ろの方では追い付いてきた追っ手がいたぞ! 捕まえろ! と声をあげているのが分かった。
「いけええええええ!!!!!! 」
そうして放った光の玉は、バリバリと音を立てて壁を破ったのである。
しかし一体ここはどこなのだろうか? まるで迷路のように入り組んでいる。
「ちょ……ちょっと……ま、待って……」
ぜーぜーと肩で息をするソフィア。ええい、こんなところで立ち止まってる場合ではないのに!
仕方ないと思った僕は、ソフィアをひょいと抱き上げると、そのまま走り出す。
「えええ!?!? ちょっと!!! 」
「早く逃げなきゃ、我慢して」
顔を真っ赤にしてばたつくソフィアだったが、今はそんなことをしてる場合ではない。
「ソフィア! どこから逃げれば良い? 」
「ええと、ここは多分、議会塔だから……いやでも下には追っ手が……」
そして僕はあるものに目を止めた。
窓だ!
「ソフィア、リオン、しっかり捕まって! 」
「うん! 」
元気良く返事をするリオン。
「は? 」
ぽかんと口を開けるソフィア。
そして僕は勢い良く窓をかち割ると、弾丸のように外に飛び出した。少々高さはあるものの、難なく着地する。
「あなた……結構無茶するのね……」
ソフィアが呆れたように呟いた。
「よし、外に出たぞ。ソフィア、次はどこに行けば良い? 」
飛び出したのはだだっ広い空き地のような場所。
辺りに建物は何もなく、ただ壁だけがぐるりと僕たちを囲むように建っている。
「もう無理よ」
苦虫を噛み潰したような顔でソフィアが言う。そして僕の腕の中からするりと抜け出すと、その壁に手を触れた。
とたんにバチッという音がしたかと思うと、一瞬だけ、魔法のベールのようなものがかけられているのが分かった。
「ここはアルカデラのはじっこ。アルカデラはね、魔法の壁で囲われた都市なの。出入り口は一つしかないし、それ以外の場所から脱出なんて不可能よ」
諦めたようにソフィアは地面に寝転がる。
「あたしたちは袋のネズミ。出入り口はきっと塞がれているだろうし、いずれ追っ手が来るでしょうね」
「……壁は壊せないの? 」
リオンが聞く。
するとソフィアは、あはははと口を開けて笑いだした。
「無理無理、だってこの魔法は太古にファリアス様がかけたものだ。神の魔法を破るなんて、それこそ神にしか出来ない」
「そんな……」
リオンががっくりと肩を落とす。しかし、僕はまだ諦めない。
「そんなの……やってみなきゃ分からないだろ」
「は? 」
僕は再び魔法を唱えると、ひたすら壁にぶつけ続ける。
何回、何十回、何百回繰り返してみよう。そうすればいつかは壊せるはず。
「そんなことしたって無駄! ノア、もう諦めて! 」
「僕は諦めない、例えMPが尽きたって、ここから逃げて見せる! 」
「どうして? どうしてそこまでするの? あなたは言わば巻き込まれただけ。なぜそこまで? 」
なぜだろう。ただソフィアの叫びを聞いて、居ても立ってもいられなくなったというのが正直な気持ちだ。
「そうだ、この本。ソフィアに見せたいと思ってたんだ」
僕はカバンからあの本を取り出す。
ーー太古の大罪人 ジョージ=ロアクリフが書いたとされる呪いの本
『愚者の遺書』
これの最後のページには、確か娘に会いたいという願いがかけられていたはず。
「何これ……? 」
ソフィアがその本に触れたとき、再び何者かの記憶が僕の脳内を駆け巡った。
「ジョージ……怖くはないか? 」
「怖くはないさ。別に俺たちは負けるわけじゃない」
これは……ジョージ=ロアクリフの記憶?
話しかけている青年の顔はまるで霧がかったように見えない。
「でも故郷に残してきた娘のマルカだけは気がかりだね。何も言わずに飛び出しちゃったからなあ」
「すまない」
「なぁに、×××が謝ることじゃねえよ。だからほれ、マルカに向けて手記を残すことにした」
そうしてジョージは一冊の本をかかげた。
「いつかあいつの元に届いてくれれば、俺はもう悔いはねえな」
そうやって笑うジョージの顔は確かにソフィアの面影があった。
「な、何これ!? 」
ソフィアの魔法生成機から、光が溢れ出す。
その眩しさに思わず目を背けてしまいそうだった。
そして僕たちが掴んでいるあの本、みるみる内にあのボロい表紙から記憶のなかで見た立派なものに変わる。
タイトルも書き代わり、大きな字で、『マルカに捧ぐ』という文字が浮かび上がった。
「今ならいける! ソフィア、魔法を唱えるんだ! 」
「無理だよ! あたしが作る魔法なんて子どもだましみたいなもんだし」
「大丈夫! 僕を信じて」
ソフィアはしばらく迷うように僕の顔を見つめていたが、やがて覚悟を決めたのか、唇を噛み締めると魔法を唱え始めた。
今まで見たことのないぐらいの魔力量。
ソフィアが不安そうにこちらを見るが、僕がその手を握る。
後ろの方では追い付いてきた追っ手がいたぞ! 捕まえろ! と声をあげているのが分かった。
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そうして放った光の玉は、バリバリと音を立てて壁を破ったのである。
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