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第29話 金の力
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「ありがとうございます、ヨリさん。気を使ってくれたんですよね? 」
「さぁ、何のことだか」
変な時間に来たからか、男湯には俺たち以外は誰もいないようだ。店主らしきおじいさんがこっくりと眠り込んではいるが、見張りの体を成していない。
「体弱いんだろ? さっさと入ってあがろうぜ」
「はい! 」
そのとき、ガラリと更衣室の扉が開いたかと思うと、リュイと同い年くらいの少年が現れた。
その少年を見た途端に、リュイの顔色が変わる。
「お、リュイじゃん。こんなとこで何してんの? 」
「セルネくん……」
セルネ、と呼ばれた黒髪の少年は悪戯っぽくニヤニヤ笑う。
「お前学校サボってこんなとこいて良いんだ? 」
「……サボってないよ、病気が治ったらまた通うし」
リュイは明らかに元気をなくし、顔をしかめている。このセルネという奴を心底嫌っているらしい。
「あ、お前不治の病なんだっけ? それってうつるんじゃないの」
「うつらないよ! 」
声を荒げるリュイ。しかしセルネはうへーと舌を出して更に言葉を続ける。
「きたねー! そんなやつと一緒の風呂に入ったらうつるだろ!? 出てけよ! 」
「うつらないし! 別に君だけのお風呂じゃないだろ! 」
意外とリュイも気が強いらしい。正論をひたすら叩きつける。しかしセルネは依然としてニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。
「いや俺たちのだよ? 」
「はぁ!? 」
すると今度はセルネを一回り大きくしたような青年が姿を現した。顔付きや意地悪そうな口元がそっくりだ。
「セルネ。ここの風呂を貸し切りにしといたぞ」
「ありがとう兄ちゃん。そういうことだから、リュイ。今からここは俺たちの場所だ」
「な……そんなこと……」
「金を持ってる奴が正義なんだよ。悔しければお前も貸し切れば? 」
あまりのことに絶句しているリュイ。
そして今まで面白そうに状況を眺めていたセルネの兄が口を開いた。
「あー、君がミシェルさんの弟さんか。ミシェルさんにはお世話になってるよ」
明らかに敵意を剥き出しにしたその声音に俺はもうついていけない。えーっとセルネとリュイは同級生で、セルネ兄とミシェルが知り合いということか……?
するとリュイが俺の気持ちを察したのか、ヒソヒソと話し始めた。
「あいつ、ユージーンって言うんだけど、お姉ちゃんを口説いて、それ断られて根に持ってるんだ」
「あー、なるほど」
痴話喧嘩というか恋愛絡みというわけか。
そしてユージーンは俺にちらりと視線を移した。
「貴方は……? リュイくんのお知り合いですか? 」
めんどくせーーー!!! 俺を巻き込まないでくれよ。
「あー、まあそんなところですね」
「ふむ、ミシェルさんの恋人……って訳ではなさそうですね」
じろじろと俺の身なりを観察するユージーン。そしてふっと勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
そりゃそうだ、ユージーンは確かにイケメンの部類には入る顔立ちをしていた。黒髪に中肉中背、いかにもナルシシストそうではあるが女には困ったことはないのだろう。
「そんなんじゃないですよ、ただの顔見知りです」
「なるほど、あの女は美しいが気の強いやつでしてね。貴方には少々荷が重いかもしれませんね」
うわぁ……これ明らかに俺のことをミシェルを狙う雑魚男として認識してるじゃん。いちいち弁解するのもおかしいので黙っているが、めんどくさいことになったな。
「ヨリさんは関係ないだろ、嫌がらせをするなら俺だけにしろよ! 」
リュイが叫んだが、二人は嫌な笑みを浮かべたまま黙っている。
「ふふ、まあミシェルさんを諦めると言うなら貴方は許してあげても良いですよ。リュイくんもミシェルさんを紹介してくれるなら許してあげましょう」
「なんだと……」
あまりのダサさに思わず笑ってしまう俺。
するとユージーンの鋭い目が俺に向けられた。
「何ですか貴方は? 馬鹿にしてるのですか? 」
「……いや別に」
女にフラれたからってその弟に嫌がらせする良い大人……流石にダサすぎねえか?
「リュイはどうする? 今入れなかったら次いつ入れるのかね? 」
セルネがおちょくる。どうやらこいつはリュイの病のことを知っているらしい。
リュイはしばらく迷っていたように目を伏せていたが、あるとき何かを決心したかのように唇を噛み締めた。
「……帰ろうヨリさん。あんなやつらのせいでお風呂に行けないのは癪だけど。お姉ちゃんに迷惑かけたくない」
何と大人なのだろうか……。どっかの誰かさんに爪垢を煎じて飲ませてあげたい。
「良いのか? 」
「うん、良いよ。せっかく付き合ってくれたのにごめんね」
「じゃあ仕方ないな」
俺は近くにいた店主に声をかける。
「誰に何を言っても無駄さ。もう貸しきったんだから」
ユージーンが嘲る声が聞こえるが、別に泣きつこうって訳じゃない。
俺はカバンから金を取り出す。
ガチャンと大きな音を立てて机の上に現れた大金を見て、その場にいた全員の目の色が変わった。
「じゃあ俺も貸しきるわ。おっさん、いくら出せば良い? 」
「お、おい! どういうつもりだ! 」
金の暴力に対抗するには金の暴力か……。うん、良いことを学んだ。
「どうって? 俺も貸し切ろうと思ってるだけなんだけど」
「……毎度」
おじいさんはヨロヨロと立ち上がると、男湯にかけられていた札、「ユージーン様、貸し切り」の文字を消すと、「ヨリ様、貸し切り」に書き換えた。
「ありがとう、じゃあこれで今からここは俺のものだな」
「ふざけるな……!! こんなこと! 」
ユージーンがキャンキャン吠えるが、俺は聞こえないふりをした。
「金持ってるやつが正義なんだろ? それに従ったまでだよな」
「ヨリさん……」
ポカーンと呆けているリュイ。
「おいおい、早く服脱いで入ろうぜ。時間が勿体ないぞ」
そして俺は兄弟に向かって舌を出す。
「じゃ、そういうことだから。お疲れ様」
何ともすっきりした晴れやかな気持ちで、俺は風呂に入れるような気がした。
金というものは物を買うだけではない、形のないものも思うがままにすることが出来るのか……。
賢者の魔法より勇者の剣技より強いもの、もしかしたらそれは金の魔力なのかもしれない。
「さぁ、何のことだか」
変な時間に来たからか、男湯には俺たち以外は誰もいないようだ。店主らしきおじいさんがこっくりと眠り込んではいるが、見張りの体を成していない。
「体弱いんだろ? さっさと入ってあがろうぜ」
「はい! 」
そのとき、ガラリと更衣室の扉が開いたかと思うと、リュイと同い年くらいの少年が現れた。
その少年を見た途端に、リュイの顔色が変わる。
「お、リュイじゃん。こんなとこで何してんの? 」
「セルネくん……」
セルネ、と呼ばれた黒髪の少年は悪戯っぽくニヤニヤ笑う。
「お前学校サボってこんなとこいて良いんだ? 」
「……サボってないよ、病気が治ったらまた通うし」
リュイは明らかに元気をなくし、顔をしかめている。このセルネという奴を心底嫌っているらしい。
「あ、お前不治の病なんだっけ? それってうつるんじゃないの」
「うつらないよ! 」
声を荒げるリュイ。しかしセルネはうへーと舌を出して更に言葉を続ける。
「きたねー! そんなやつと一緒の風呂に入ったらうつるだろ!? 出てけよ! 」
「うつらないし! 別に君だけのお風呂じゃないだろ! 」
意外とリュイも気が強いらしい。正論をひたすら叩きつける。しかしセルネは依然としてニヤニヤと嫌な笑みを浮かべている。
「いや俺たちのだよ? 」
「はぁ!? 」
すると今度はセルネを一回り大きくしたような青年が姿を現した。顔付きや意地悪そうな口元がそっくりだ。
「セルネ。ここの風呂を貸し切りにしといたぞ」
「ありがとう兄ちゃん。そういうことだから、リュイ。今からここは俺たちの場所だ」
「な……そんなこと……」
「金を持ってる奴が正義なんだよ。悔しければお前も貸し切れば? 」
あまりのことに絶句しているリュイ。
そして今まで面白そうに状況を眺めていたセルネの兄が口を開いた。
「あー、君がミシェルさんの弟さんか。ミシェルさんにはお世話になってるよ」
明らかに敵意を剥き出しにしたその声音に俺はもうついていけない。えーっとセルネとリュイは同級生で、セルネ兄とミシェルが知り合いということか……?
するとリュイが俺の気持ちを察したのか、ヒソヒソと話し始めた。
「あいつ、ユージーンって言うんだけど、お姉ちゃんを口説いて、それ断られて根に持ってるんだ」
「あー、なるほど」
痴話喧嘩というか恋愛絡みというわけか。
そしてユージーンは俺にちらりと視線を移した。
「貴方は……? リュイくんのお知り合いですか? 」
めんどくせーーー!!! 俺を巻き込まないでくれよ。
「あー、まあそんなところですね」
「ふむ、ミシェルさんの恋人……って訳ではなさそうですね」
じろじろと俺の身なりを観察するユージーン。そしてふっと勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
そりゃそうだ、ユージーンは確かにイケメンの部類には入る顔立ちをしていた。黒髪に中肉中背、いかにもナルシシストそうではあるが女には困ったことはないのだろう。
「そんなんじゃないですよ、ただの顔見知りです」
「なるほど、あの女は美しいが気の強いやつでしてね。貴方には少々荷が重いかもしれませんね」
うわぁ……これ明らかに俺のことをミシェルを狙う雑魚男として認識してるじゃん。いちいち弁解するのもおかしいので黙っているが、めんどくさいことになったな。
「ヨリさんは関係ないだろ、嫌がらせをするなら俺だけにしろよ! 」
リュイが叫んだが、二人は嫌な笑みを浮かべたまま黙っている。
「ふふ、まあミシェルさんを諦めると言うなら貴方は許してあげても良いですよ。リュイくんもミシェルさんを紹介してくれるなら許してあげましょう」
「なんだと……」
あまりのダサさに思わず笑ってしまう俺。
するとユージーンの鋭い目が俺に向けられた。
「何ですか貴方は? 馬鹿にしてるのですか? 」
「……いや別に」
女にフラれたからってその弟に嫌がらせする良い大人……流石にダサすぎねえか?
「リュイはどうする? 今入れなかったら次いつ入れるのかね? 」
セルネがおちょくる。どうやらこいつはリュイの病のことを知っているらしい。
リュイはしばらく迷っていたように目を伏せていたが、あるとき何かを決心したかのように唇を噛み締めた。
「……帰ろうヨリさん。あんなやつらのせいでお風呂に行けないのは癪だけど。お姉ちゃんに迷惑かけたくない」
何と大人なのだろうか……。どっかの誰かさんに爪垢を煎じて飲ませてあげたい。
「良いのか? 」
「うん、良いよ。せっかく付き合ってくれたのにごめんね」
「じゃあ仕方ないな」
俺は近くにいた店主に声をかける。
「誰に何を言っても無駄さ。もう貸しきったんだから」
ユージーンが嘲る声が聞こえるが、別に泣きつこうって訳じゃない。
俺はカバンから金を取り出す。
ガチャンと大きな音を立てて机の上に現れた大金を見て、その場にいた全員の目の色が変わった。
「じゃあ俺も貸しきるわ。おっさん、いくら出せば良い? 」
「お、おい! どういうつもりだ! 」
金の暴力に対抗するには金の暴力か……。うん、良いことを学んだ。
「どうって? 俺も貸し切ろうと思ってるだけなんだけど」
「……毎度」
おじいさんはヨロヨロと立ち上がると、男湯にかけられていた札、「ユージーン様、貸し切り」の文字を消すと、「ヨリ様、貸し切り」に書き換えた。
「ありがとう、じゃあこれで今からここは俺のものだな」
「ふざけるな……!! こんなこと! 」
ユージーンがキャンキャン吠えるが、俺は聞こえないふりをした。
「金持ってるやつが正義なんだろ? それに従ったまでだよな」
「ヨリさん……」
ポカーンと呆けているリュイ。
「おいおい、早く服脱いで入ろうぜ。時間が勿体ないぞ」
そして俺は兄弟に向かって舌を出す。
「じゃ、そういうことだから。お疲れ様」
何ともすっきりした晴れやかな気持ちで、俺は風呂に入れるような気がした。
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