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第7話 妃候補ってめんどくさい
しおりを挟む「うーん……」
「シキ様、まだ半分も進んでいませんよ」
ルリアが横でぴしゃりと言い放つ。
さて、今私が何をしているかと言うと、花嫁修業ということで裁縫とやらをしている。
だが元々そんなことをしたことがない私はひどく苦戦していた。
正面にいるシャルロッテが溢れる笑みを隠そうともしないまま、これまた魔法のような手捌きで作業を進めている。
何でまた妃候補全員でやるんだか……。こんなの喧嘩の火種になるに決まっているのに。
「あら、シキさん。あまり進んでいないようね? やっぱり人間の仕事は貴女には難しいのかしら? 」
恥ずかしい話、私は相当に不器用であった。思うように手が動いてくれないのである。
「シャルロッテさん、あまりいじめては可哀想よ。ペットは愛玩するものですわ」
にやにやしたコハクが口を挟む。
この二人実は相当仲が良いんじゃないだろうか?
「あらまぁそうでしたわ。私、従順な犬はそれなりに好きですの」
彼女らの嫌味にももう慣れたが、ここまで色々な言葉が思い浮かぶのは凄いと思う。
語彙力が豊富なんだろうなーと素直に感心する。
「……うるさい」
不意に誰かが呟いた。
声の主は蒼い髪をしたロングヘアの女性。穏やかな海のような雰囲気を纏う、品の良さそうな人だ。
「リーン様……申し訳ございません」
悲鳴にも似た声をシャルロッテがあげる。
なるほど、どうやらこのリーンという人は相当身分が高いらしい。
「犬の躾ぐらいちゃんとして」
だがそんな身分の人も、やっぱりあちら側なのだと私は思わず苦笑した。
するとあの心優しい王子様はよっぽと特殊な変わり者なのだろう。
「性悪なご令嬢にうっかり噛み付かないよう心穏やかに努めますわ」
私が言い返すと途端に静まり返った。まったく、そうやって怖がるぐらいならちょっかいなんて出さなきゃ良いのに。
「それにしても裁縫って難しいのね……」
私の作品は未だにほとんど進んでいない。周りを見ると他の人たちはほとんど終わっているようだ。
「このようなことで遅れていてはこの後の楽器、ダンス、歌、お作法の学習に支障が出てしまいますよ」
ルリアがヒソヒソと耳打ちする。
「まだそんなにあるの!? 」
まだ半分も終わってないなんて気が遠くなりそうだった。
「無理無理、私どれもやったことないもん」
「だからこそ習うのでしょう」
確かにその通りだ……。私は深くため息をついた。
「こんなことも知らないなんて貴女のご両親は愚か者ね」
リーンがぽつりと呟いた。
「愚か者? 」
「そうよ。娘が無知で無能なのは親の責任。こんなになるまで放っておいた貴女の親は最低だわ」
かっと頬が熱くなるのが分かった。
異変に気がついたルリアや護衛のものが制止を試みるが私の早さにはついていけない。
そして私は反射的にリーンに飛び掛かると、その喉に爪を突きつける。
「今の言葉は聞き捨てならないわ。親は何にも関係ないじゃない」
「ひっ……」
さっきまでのクールな表情はどここやら、ガタガタとリーンは震え始める。
「私のことはいくら悪く言っても構わない。でもね、家族のことを言うのは許さない」
「……分かった、分かったから。ごめんなさい、もう言わないから」
うん、分かればよろしい。
私はぱっと身を引くと、こう続けた。
「なーんてね、ほら、虫がついてたよ。噛まれると痛いから取っちゃった」
「虫……? 」
涙目のままへたり込むリーン。あれ、そんなに怖かった? 半分冗談だったんだけどな。もう半分は……おして知るべし。
「じゃあ私、この虫逃がしてくるねー」
こうして私はどさくさに紛れて外に逃げ出すことに成功したのである。
◇◇◇
小さな庭だがよく手入れが行き届いていて美しい。
深く息をすると澄んだ空気が肺を満たした。
あの皆が集まる大部屋は嫌いだ。空気が酷く澱んでいるし、誰かといるより一人でいた方が心が休まる。
「今戻ったところで"リーン様に手を出すなんて!" とか何とか言われるんだろうなぁ」
確かに手を出したのは短絡的過ぎたかも。それは反省反省。
でも親のことを馬鹿にされるのは到底許せなかったのだ。
「はぁ……先行き不安だ」
「やあシキじゃないか」
不意に聞き覚えのある声がした。
現れたのは花の苗を手に持ったカイル。
いつものばっちり決めた正装は脱いでおり、作業着は土ぼこりで汚れきっていた。
苗をもつ王子様というギャップに私は思わず吹き出す。
「な、何だ? 」
「いやすいません。王子様も庭いじりなんてするのね」
すると照れたようにカイルが頬を染めた。
「……趣味なんだ。あんまり言い触らさないでくれよ」
「言いませんよ。私も花は好きです。別に詳しくはないですけどね」
「花は素晴らしいね。そうだ近くに綺麗な花畑があるんだけど、良かったら一緒にどうですか? 」
いつもの私なら警戒して断っていただろう。しかし今の私は珍しく疲れていたのだ。
「はは、良いですね……」
そんなこんなで私はカイルとデートをすることになったのだ。
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