猫と幽霊おばあちゃん

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縄張りと負けた野良猫

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「団子ぉ団子、起きてごらんよ」

ある日婆さんの声に起こされたオレは、身体をグィっと伸ばしてご機嫌な婆さんに近寄り声を掛けた。

「何だよ朝から…オレは眠いんだが…」
「ほら花が咲いたんだよッ」

そう言って婆さんが見せて来たのは、いつもオレが寝床にしている河川敷に咲いた花々だった。昨日まで殆ど蕾だったと言うのに今では満開に咲き誇っている。婆さんは花を嬉しそうに眺めては、オレに笑みを向けていたのだ。


そう言えば、婆さんは
家でも花を育てて居たな…
よく花壇で遊んで怒られたものだ。


婆さんを横目に顔を洗って居ると突然、背後から「おい」と声を掛けられた。振り返えった先には太くガタイの良い3匹の猫。先頭を歩くデカい黒猫は毛を逆立て威嚇してくる。

「団子に何の用だい!」

婆さんが声を掛けるが、3匹の猫には婆さんが見えてない様だ。

「何の用だよ」


面倒事は嫌なんだが…。


オレが黒猫に声をかけると、彼らは「ここは俺らの縄張りだ。出て行け」と勝手なことを言い出した。


もう1ヶ月ここに居るが…
オレはコイツらなど見た事もない。


「今は、オレの縄張りだ」

そう答えると黒猫は容赦なく噛み付いてくる。

「っ!?!」

怪我をしたオレに黒猫は笑って話し始めた。

「俺らは毎年、花の咲く時期に帰って来る」
「そんなの知るかってんだ」

黒猫達と喧嘩を始めると後ろで「団子を虐めるな!」と騒ぐ婆さん。


…あぁ…凄く気が散る…!!




ーーー


結局、喧嘩は黒猫の勝ちで勝負がついた。3対1だった上に体格差もある…当然の結果だろう。

心地の良かった河川敷から離れ、住宅街の真ん中にある小さな公園へと避難したオレは傷を負った箇所を舐め手当する。

「早く止血しないとバイ菌が入ってしまう」
「だから今こうして…」
「それじゃダメじゃろ…誰か人が居れば」
「寝てる人にしか身体借りれねぇんだろ?まだ昼間だぞ、それにオレはこれくらい慣れてる」
「じゃがのぉ…」

納得していない婆さんは、オドオドとしながらオレの周りをグルグルと周り心配をする。正直とてもウザったいが、居なくなっても暇になるのも分かりきっている。オレは何も言わず、大人しく傷が癒えるのを待つ事にした。


ーー

河川敷から離れた翌日。

オレは体の違和感に目が覚める。外は春のポカポカとした良い天気だというのに、身体は鉛の様に重く芯から震えが走り寒くて仕方ない…。


…婆さんの言った通り
体にバイ菌でも入ったのだろう。


「おや?団子、どうしたんだい?」

さすが元飼い主だ…オレの異変に気付いた婆さんは、俺の顔を覗けば心配そうに見つめてくる。

「身体がダルくて動けないんだ…」
「だから言ったんだよ、まったくッ食事は出来そうかい?」

困った様子でキョロキョロ周りを見渡す婆さん。乗り移れる人間を探しているのだろう…オレは重たい身体を起こし、ふらつく足取りで公園の水道まで歩くと綺麗な水溜まりを舐めてみる。


冷たい…


ヒンヤリとした食感に身体をプルっと振るわせれば、背後から婆さんとは違う綺麗な若い声が俺を見て話し掛けた。

「あら、こんな所に野良猫?」

綺麗な衣服を着ているその女性は、オレを抱き上げるとジロジロと身体中を見詰めてくる。

 
なんだ…?
オレの顔に何か着いてるのか?


反抗したくとも身体は思い通りに行かない。

「あらら、傷が膿んじゃったのね…よしよし、治療してあげるからね♪」


 治療…?
病院か?それだけは嫌だぞッ!?


オレがもがき離れようと必死になると、さっきまでオドオドと困ってた婆さんが「大人しくおしっ!」と怒ってきた。


      くそっ、なんて厄日なんだッ!!







ーーーーーーーーーー



病院に着くと直ぐに薬を飲まされ、身体は少し楽になった気がする。そしてその日の夜には、傷も塞がり痛みも感じなくなっていた。

「まさか獣医さんに拾って貰えるなんて、本当に良かったのぉ!」

そう言って何度も女性にお辞儀し、お礼を伝える婆さん。

「聞こえて無いのにお礼の意味あるのか?」
「何言ってるんだい!伝わらなくとも気持ちは大事じゃよ?」


そういう物なのか?
人間の“礼儀”と言うのはよく分からない


「怪我が治るまで、大人しくおしっ」

そう婆さんに念を押され、大人しく拾ってくれた女性が務める病院で泊まる事となったオレ。婆さんの猫飯には負けるが、ここの飯も悪くわない。婆さんの話し相手をし、飯を食べ暖かい寝床で眠る。

何不自由ない生活

オレはこれもまた良いものだなと
安心感を抱いてしまった。






















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