Are you NUTS?

島村春穂

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離人への扉

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神様ってものに祈りはじめると、あらゆるものに祈りたくなってくる。ただし、人工的なものに神様めいた余韻というのはまったくなくて、あくまでも自然なものにしか宿らないようであった。


祈るたびに、欠落していた何かが埋まっていくような気がしていく。体から言いようのない力が湧いてくるのがわかった。


首筋のあたりから炭酸が弾けたかと思うと、次にぽかぽかと温かくなってくる。


背中にあった鈍痛というのが、スーッと軽くなっていく感じがした。


と同時に、不穏な気配も感じつつあったけれど。





そいつは不意に胸をつついてきて、意識のなかにまではいり込もうとしてくるから、彼をずいぶん焦らせた。


誠実な祈りを繰り返した分だけ、そいつというのは忍び寄ってきた。


とても怖かったけれど、祈りをやめようとはしなかった。神様をもっと知りたい興味のほうが、はるかにおおきかったからかもしれない。


でもやっぱり、ヤバい気がするな。


魂の重みというものが、胸のあたりで確かに感じられてしまった。その瞬間だった。もし魂というものを、例えば人格という言葉に置き換えることができるのであれば、その人格というものが、この体から出ていってしまいそうな気がした。


もし体から魂が出ていってしまえば、二度と戻ってこれないって、そう直感めいた。


空き家になりかける体というものに、別人格が幾度も割ってはいりこもうとする。


不穏な気配の正体というものは、コイツだった。





彼は自分が何者であるのか、場面々々で分からなくなりそうだった。だから、胸の内で自分の名前を繰り返し唱えた。それでもぜんぜん足らないことを知ってしまい、自分の名前を実際に口にした。


別人格というものが、ちょっとだけ体から遠のいた。


このお礼を告げるべく、重ねて神様に祈ってみた。するとヤツが再び魂を掴みかけ、体から彼を追い出そうとした。


彼はとうとう頭を抱えて突っ伏してしまう。


神様!


もう祈るな!


祈れば祈っただけヤバくなる。


もうジッとしちゃいられなくなってしまい、綺麗な空気を求めて外にでた。


目に映るあらゆる人工物というものが、彼の呼吸をいたずらに奪っていった。


空を見上げて、月を探した。そうしなきゃいけない気がしていた。


もっと風を感じろ。


雲が流れていく。


幾千の星が見える。


不思議と、安心ができた。


とにかく人工物というものから、できるだけ遠ざかりたかった。


彼は自分の名前を繰り返し口に出しながら、森を彷徨い歩き、土に触れ、虫の声と川のせせらぎに耳を澄ませた。


大地に寝転がった。


躊躇するほど、余裕などどこにもなかった。


温かかった。


地球を抱いている感じがした。


好意的ななにかに守られていると思った。


そして、ヤツはもう追ってはこなかった。



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