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文学と過ごす穴と365日
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あなたは今しがたノートをひろげ、ペンを持って、椅子に座って机に向かっている。もしくはノートパソコンを立ち上げて白紙のワードを作成した。さあ、何を書こうか。頭の中には物語の断片がいくつかちらついている。物語を書こうとしたとき、やるべきことがあまりにも膨大すぎて、また漠然としすぎていることだろうと思う。
読物を書きたいのか、それとも文学を書きたいのか、その問いかけがまずはじめになされているのか、ということから考えた方がよいのではないかとぼくは考えている。
私事で言えば、ぼくは「文学」をやりたいのであって、「読物」を書きたい訳ではないということだ。ここをはっきりとさせてやるだけでも膨大な作業と漠然とした何かを整理していくことができると思う。つまり文学ではないことを書かないようにすれば、膨大に思えた事物を少なくすることができるだろうから見るべきものがより見やすくなってくるはずだ。
では文学で取り扱われているものとはいったい何なのだろうか。こう質問されるとおそらく大抵口ごもってしまうと思う。これは質問の仕方がわるいからだ。だから、こうしよう。人間が文学を欲するときとはいったいどんなときなのだろうか。
「ぼく、わたしは、文学は必要がありません」と言うのであれば、その人はある種幸せな人生なのかもしれない、とぼくは思う。もしかしたら、ぼくだってそうした人生を歩み、そしてそのまま人生を終えたいなとさえ思う。
でも、「ぼく、わたしは、文学は興味がありません」と言うのであれば、些か「生」に対して怠慢なのではないかと思う。もし自分の力の及ばない何かと向きあったときに、いったいその人はどのように思うのだろうか。文学とは、つまりここにあるのではないか、と考えられる。日常のものさしで事物を計れなくなった状況に置かれたときにこそ人間は文学を欲するものだ、と。換言するのなら、先に述べたように、自分の力が及ばない状況に置かれた場合に文学はよりいっそう輪郭をおびて我々の前に立ち上がってくるのだろう。
たとえば、片腕をもがれたり、回復の見込みが限りなく少ない病状に冒されたり、大切な人と別れたり、自然災害に遭ったり、殺人犯に監禁をされたり、無数の目にさらされたり、学校や職場でいじめに遭ったり、いろいろ考えられると思う。
同じ題材でも読物と文学とでは切り口はまるで違う。では今挙げた「大切な人と別れた」、これで見ていくことにしよう。
読物というのは、大切な人と別れることで読者を泣かせようとしたり、また感動させようとしたりする。しかもご丁寧に伏線を張ったりする。だから書き手の出発点はつねにそういった視点からはじまっていく。文学の出発点はそれとはまるで異なるように思う。大切な人を別れた、これは死ぬ思いだ。自分の力では到底どうすることもできない。そこに日常のものさしはあてられないし通用がしないためだ。そしてもうひとつ。事物は突発的に起こり得ることがあるということだ。何時だって圧倒的なリアルはそうやって起こる。そうしたことを作家はただ見てくるのだ。
ぼくは読者がどのような顔をして本を読んでいるのか思い浮かべることがある。ライブ会場でバンドの客層の服装や髪型や化粧、そしてどのようなノリ方をしているのかを見るように。ぼくはあなたに、「あなたの余命はあと3か月です」と宣告したいと思っている。宣告された方はどのような顔をするだろうか。ぼくのだいすきなバンドやアーティストのファンはみな一応にして死を宣告されたときのような顔つきをしていた。「穴」、「防空壕」、「井戸」、「海底火山」、そうしたことばはメタファーとして文学では好んで用いられてきた。そして希望というものがネガティブな状況に置かれたときにやっと手に入れられるものであるということを付け加えておく。
あなたは今しがたノートをひろげ、ペンを持って、椅子に座って机に向かっていたはずだ。もしくはノートパソコンを立ち上げて白紙のワードを作成したと思う。さあ、何を書こうか。自分に問いかけてみてほしい。あなたは「読物」を書きたいのか、それとも「文学」をやりたいのか。きっと数分前とは事物の見え方がかわっているはずだ。
読物を書きたいのか、それとも文学を書きたいのか、その問いかけがまずはじめになされているのか、ということから考えた方がよいのではないかとぼくは考えている。
私事で言えば、ぼくは「文学」をやりたいのであって、「読物」を書きたい訳ではないということだ。ここをはっきりとさせてやるだけでも膨大な作業と漠然とした何かを整理していくことができると思う。つまり文学ではないことを書かないようにすれば、膨大に思えた事物を少なくすることができるだろうから見るべきものがより見やすくなってくるはずだ。
では文学で取り扱われているものとはいったい何なのだろうか。こう質問されるとおそらく大抵口ごもってしまうと思う。これは質問の仕方がわるいからだ。だから、こうしよう。人間が文学を欲するときとはいったいどんなときなのだろうか。
「ぼく、わたしは、文学は必要がありません」と言うのであれば、その人はある種幸せな人生なのかもしれない、とぼくは思う。もしかしたら、ぼくだってそうした人生を歩み、そしてそのまま人生を終えたいなとさえ思う。
でも、「ぼく、わたしは、文学は興味がありません」と言うのであれば、些か「生」に対して怠慢なのではないかと思う。もし自分の力の及ばない何かと向きあったときに、いったいその人はどのように思うのだろうか。文学とは、つまりここにあるのではないか、と考えられる。日常のものさしで事物を計れなくなった状況に置かれたときにこそ人間は文学を欲するものだ、と。換言するのなら、先に述べたように、自分の力が及ばない状況に置かれた場合に文学はよりいっそう輪郭をおびて我々の前に立ち上がってくるのだろう。
たとえば、片腕をもがれたり、回復の見込みが限りなく少ない病状に冒されたり、大切な人と別れたり、自然災害に遭ったり、殺人犯に監禁をされたり、無数の目にさらされたり、学校や職場でいじめに遭ったり、いろいろ考えられると思う。
同じ題材でも読物と文学とでは切り口はまるで違う。では今挙げた「大切な人と別れた」、これで見ていくことにしよう。
読物というのは、大切な人と別れることで読者を泣かせようとしたり、また感動させようとしたりする。しかもご丁寧に伏線を張ったりする。だから書き手の出発点はつねにそういった視点からはじまっていく。文学の出発点はそれとはまるで異なるように思う。大切な人を別れた、これは死ぬ思いだ。自分の力では到底どうすることもできない。そこに日常のものさしはあてられないし通用がしないためだ。そしてもうひとつ。事物は突発的に起こり得ることがあるということだ。何時だって圧倒的なリアルはそうやって起こる。そうしたことを作家はただ見てくるのだ。
ぼくは読者がどのような顔をして本を読んでいるのか思い浮かべることがある。ライブ会場でバンドの客層の服装や髪型や化粧、そしてどのようなノリ方をしているのかを見るように。ぼくはあなたに、「あなたの余命はあと3か月です」と宣告したいと思っている。宣告された方はどのような顔をするだろうか。ぼくのだいすきなバンドやアーティストのファンはみな一応にして死を宣告されたときのような顔つきをしていた。「穴」、「防空壕」、「井戸」、「海底火山」、そうしたことばはメタファーとして文学では好んで用いられてきた。そして希望というものがネガティブな状況に置かれたときにやっと手に入れられるものであるということを付け加えておく。
あなたは今しがたノートをひろげ、ペンを持って、椅子に座って机に向かっていたはずだ。もしくはノートパソコンを立ち上げて白紙のワードを作成したと思う。さあ、何を書こうか。自分に問いかけてみてほしい。あなたは「読物」を書きたいのか、それとも「文学」をやりたいのか。きっと数分前とは事物の見え方がかわっているはずだ。
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みんなの感想(3件)
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退会済ユーザのコメントです
やったー!ありがとうございます!
タイトルはもう一つ候補があって「変な癖」っていう変なタイトルがありました。でも「変な癖」ってタイトルにするほど描写できてないなと思い「つめたい雨」になりました。
まこちゃんありがとう!
退会済ユーザのコメントです
ありがとうございます!!元気づけられました。もっといっぱいのひらめきやカタルシスを書いていきたいと思います!
感謝の気持でいっぱいです!!どうもありがとう!!まこちゃん!!
退会済ユーザのコメントです
嬉しい!!まこちゃんがきてくれたー!!とうもありがとう!!
Are you NUTS? はおすすめの読み物です。
小説を始めるとき「問題提起」を掲げてからプロットを作るのですが、本作品は問題提起以前のまったくの原石のままを拾い集めて投稿しました。だから、人のノートを盗み見するようなスケベ心で読んで頂くと面白いかもしれません(笑)
またきてね!!どうもありがとう!!