いまそこにある媚肉

島村春穂

文字の大きさ
1 / 29
いびつなラヴ

しおりを挟む
 映画のロケで使われた棚田があるここは、市町村でいえば、市でも町でもなく、村にあたる。のどかな風景といえば、それは聞こえもいいが、スーパーはもっぱら、個人商店だけで、それも車で片道二十分もかけなければならないほど、過疎な田舎であった。回覧板をまわすのもひと仕事で、ここ村越宅から次の隣人へ届けるのでさえ、車を使わなければならなかった。


 昔ながらの屋敷にいまは、貴子と、一郎の連れ子であるたくみの二人だけで住んでいる。裏庭には鬱蒼と雑木林が広がっていて、夏場には涼しいが、真っ昼間でも屋敷のなかはどこかほの暗い。


 それこそ昔ながらの屋敷なのだから、キッチンと呼ぶよりは台所と呼んだほうがしっくりくる。しかも風鈴が吊るしてあったり、年代物の柱時計があったり、団扇うちわがあったり、それに、流しの緑色のタイルが所々剥がれていたり、いつのものが分からない火の用心のシールが黄ばんで貼られてあったりする。この屋敷では、昭和五十年代で時が止まっているようであった。もちろん、これらはみな、貴子の趣味でこうしているわけではない。貴子がここにくる以前からあったものだ。


 ミーンミンミンミーン! ジジジジジジジー。


 きょうも蝉がうるさいくらい鳴いている。匠の夏休みが終わってから一週間が過ぎていた。とはいえ、匠の長い夏休みは、まだ続いているのだが……。


「またなの……」
 貴子は、だめよ、と釘を刺すような目つきで、背後の匠を睨んだ。


 だが、腰を掴んでいた手が臆せず這いあがって胸までくると、匠をきつく睨みつけていた目がぎゅっと閉じた。


 匠はここ数日毎日のように求めてきた。しかも飽きるどころか、ますます性質が悪くなってきたように思う。ついさっき、ここで一緒にお昼を食べたときには、目すら合わせてくれなかったくせに、ほんとうに同一人物かと疑いたくなるくらい、ベタベタ甘えてくる。


 貴子はさっきから、泡の付いた手のまま、匠の腿を恐恐と掴んでいる。蛇口の水は、でっぱなしであった。


……」


「ねえ……匠さん。いま洗い物してるから……」
 そういうなり、貴子の脇から差しいれられた腕が、泡が付いたままの手を握ってきて、水で洗い流し始めた。お互いの指と指のすき間を合わせるようにして重ね、愛撫めいて丁寧にだ。


 蛇口をひねった手は、そのまま貴子の前掛けエプロンで拭き始めた。


「やだ……」
 貴子の躰が、くの字に曲がった。匠の手が股ぐらに触れたからだった。


「だめ。こんな関係はだめなの……」
 艶っぽいいい声だ。貴子の引き寄せた眉根から、呵責に苛まれる様が滲みでていた。


 脇下から絡まる腕が、再び這いあがってきた。


 おばさん然とした白いノースリーブのフリルは、肌にピタリと張り付くほどタイトで、胸のふくらみそのままに盛り上がっている。手触りもとてもよく、匠の手の平にもよく張り付いた。そのノースリーブの下で、ブラジャーの刺繍がゴソゴソこすれている。


「ね、ねえ……匠さん……」
 腕のなかで、貴子が身をよじった。


 貴子の胸はどんと、おおきくて匠の手の平からこぼれるほどであった。もはや死語となったという呼び名がふさわしい。しかも、ほどよい弾力を残しながら、波打つように柔らかい。あつめるように寄せられた双乳から、深い谷間がくっきりとできた。そのまま持ちあげられながら揉んだり、くすぐられたり、双乳を仲たがいさせて回し揉んだりされている。


「ちょ……やめなさいっ」
 やめて、でも、やめてください、でもなく、やめなさい、といって拒んだのは、匠が初めてのことである。貴子は、お腹から熱いものが下りてくるのを感じた。


「うるさい」
 匠の視線は、深い谷間に一点にあつめられている。


「……いけないってえ……」
 貴子は、諦めと理性の狭間で遠い目をしていた。ノースリーブの裾を掴まれると、ああ……と、言い尽くせないため息をついたのち、儚げにその目を細めた。


 ノースリーブの裾がぐいとめくられ、ピンク色のブラジャーが露わになった。じつによく、色白に映える。皮肉にも、一度めくりあげられたノースリーブは、大ぶりなこの胸のせいで、まったくずり落ちることがなかった。


 宛てがわれた指と指のすき間から、いびつに柔肉が波打つ。肌ざわりもいい。ヒタヒタと吸い付くようだ。ほんとうに色が抜けるように白くて、歳を感じさせない。ぬくもりを貪るように、匠が味わい深げに撫でまわしてきた。


「うううぅ……」
 一方、貴子のほうは、肩口から顔をせりだしてくる匠を嫌って、そっぽを向いて抗う。


 さっきから、男としての媚態に濡れた吐息を耳際にかけられている。眉根をきつく引き絞って、下唇を噛み、いやいやするのがせいぜいだ。匠にこう背後から迫られてしまうと、もうそれだけで、躰中の力が抜けてしまう貴子であった。


 女のシンボルを好きに玩ばれている手を、ずっと不安そうに握っている。その左手の薬指には卸したての指輪がしてある。ついこないだ。二カ月前に、一郎からもらったものだ。


 せめて、なにもしゃべりかけてこないで……。と、貴子は切に願うばかりであった。


 匠の指が、まるで牛の乳しぼりでもするみたいに、人差し指から、中指、そして薬指から小指へと、流れるように蠢き、真雪に白い柔肉を波立たせた。またその逆に、小指から、薬指、そして中指から人差し指へと、乳房をあつめるようにして揉みしごかれる。時折、親指が乳腺を刺激してきて、貴子をひどく狼狽えさせた。


「やめてえ……」
 辱めをうけながら、お願いする立場になっていたのは、貴子のほうであった。しかし、哀願も虚しく、なにか物言いたそうな手が、柔肉をぐっと掴み、きつくなった。


「だめだってえ……」
 ひどく狼狽する貴子の巻き髪に、匠が猫撫で声をうめきながら顔を埋めてきた。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)その後

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合つまた。 その後、大学を卒業した祐輔(ユウスケ)の新たなストーリーが始まった。 全15話を予定

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

処理中です...