いまそこにある媚肉

島村春穂

文字の大きさ
10 / 29
口でするからソコだけはどうか許して、と言ってしまい……

しおりを挟む
 あれから、匠はまるで何事もなかったかのように、夕食をとった。貴子と一切目を合わさないのもそうだし、ぶっきら棒に生返事するのだって、いつも通り変わりがなかった。もしかしたら、さっきの、あの出来事は白昼夢だったのではないかと疑うほど、嘘のように貴子に冷たくアタった。


 肉感的な躰に甘えられるとき以外、匠にとって、貴子の存在というのは、継母ではなく、旧姓のさんでもない、ただの知らないおばさん。赤の他人同然であったのだ。その知らない人が、ある日から突然、勝手に自分の家に居て、勝手に人の家の物を使い、勝手に住み始めた。そうした負い目が、貴子に正常な判断力を鈍らせていた。だから、食卓を立とうとした匠に、


「……お、お風呂は?」
 と、毎度毎度、貴子は尋ねてしまう。


「もうさ。あとでいいって何度も言ったよね。バカなの? 毎回毎回」
 と、こうして匠に怒られてしまうわけだ。匠から、村越宅に住むことをこうも嫌われながら、毎晩、新参者の貴子がこうやって一番風呂を取らされることに。罰が悪そうにして、


「……はい。ごめんなさい……」
 と貴子が謝るのが、夕食終わりの二人の会話であった。


 脱衣所で、さっきから浮かない顔をして物思いに耽る貴子は、おそらくこうした事柄を考えていたのであろう。思い出したかのように、貴子が明かりを点けた。二三点滅してから、いくつかの裸電球がやっと点いた。摺りガラス越しに、浴室のほうから、おぼろげなオレンジ色が溢れた。


 貴子は、ノースリーブフリルから脱ぎだし、スカート、ブラジャー、そして最後に、ショーツを脱いで、女性らしくそれらを綺麗に畳んでから、床に置いてある編み目の脱衣かごに入れた。


 昔ながらの屋敷だから、洗濯機はまた別のところにあるのだ。それだから、着替えを毎度持ってこなければならず、貴子は脱衣かごの横に、タオルと替えの下着とシュシュを一緒に置くようにしていた。


 そのシュシュを口で咥えながら、巻き髪をうしろで束ねてお団子にすると、うなじが艶っぽく明かりに映えた。シュシュでお団子をまとめてから、二三髪の毛を気にする仕草のあとで、足拭きマットを踏みしめ、建て付けの悪そうな摺りガラスを横に引いて、浴室に入っていった。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)その後

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合つまた。 その後、大学を卒業した祐輔(ユウスケ)の新たなストーリーが始まった。 全15話を予定

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

処理中です...