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一章 子供編
6話 大きくなった
しおりを挟む毎日、午後に空を飛ぶ練習をして、早2週間。ついにこの時が来た。
この2週間のうちに、体は立派に成長した。かなり成長速度が早いため、不思議に思ってイリスに尋ねてみたところ、鳥人は早く成人して、厳しい自然界で生きていくそうだ。だからといって寿命が短い訳では無いとも言われて、一安心した。
自分の体よりも大きな翼を広げて、地を蹴ってから羽ばたいた。すると、ヒュンヒュンと風を切って身体が上昇していった。やった! 成功だー!! 自分の思った方向に飛べて、身も心も自由になった気分かだ。下を見ると、地上で白いとんがり帽子とローブを着たイリスが見守っていた。イリスのいつものスタイルだ。白い方帽子めがけて、私は旋回して降りていく。帽子に降りる直前で脚を前に出し、無事着地した。イリスが手を出してくれたので、そこに飛び乗る。
「ぴぴっ(どうだった?)」
「上手に飛べていたぞ。良く頑張ったな」
「ちゅちゅん(ふふん)」
偉いぞ、とイリスがナデナデしてくれた。もうすっかりなでられるのが好きになってしまった。と、ここで衝撃の一言を聞いた。
「次は人化の練習もしないとな」
「⋯⋯ぴぃ?(⋯⋯人化?)」
え、もしかしてもう人になれちゃうの!?
確かに、空を飛べる翼が手に入ったから、鳥としては大人の部類に入るかもだけど。ようやく、人の姿になれる! これはテンションあがるぅ! 急にはしゃぎ出した私を、イリスが不思議そうに見てきた。
「どうした?そんなに人化できるのが嬉しいか?」
「ちゅん!ぴっぴぴっぴ!(うん!早く教えて!)」
「まてまて、今日はもう終わりだ。明日教えるから、家に入ろう」
そうだった。もう夕暮れが近い。でも明日、人化の仕方を教えてくれるから、とても楽しみだ。
◇◇□◇◇
次の日。待ちきれなかった私は、朝食を終えるなりイリスに人化の方法を教えて! とせがんだ。イリスに呆れられつつ、帽子に飛び乗った。
「人化の練習も、広い場所でやった方がいいだろう。庭に出るぞ」
「ぴぃー(はーい)」
庭へ出ると、私は帽子から地面に降りた。イリスが、持って来た一冊の本を開いて、いくつかページを捲った。表紙のタイトルを読むと、どうやら鳥人に関する専門書のようだ。
「人化するには、魔力が必要だそうだ。まずは、魔力を感じることから始めよう」
「ぴぴっ⋯⋯(魔力⋯⋯)」
「体の中にある魔力は、心臓で作られる。そして全身に張り巡らせた魔力管を通じて、血のように全身を巡っている。血液と違って、魔力の流れは自分の意思で操ることができるんだ。まず、心臓に意識を集中して、魔力が『在る』ことを感じろ」
心臓に、意識を集中⋯⋯むむむ、何か不思議な感覚がする。温かいような、ムズムズするような⋯⋯。これが魔力かな?
「どうだ?心臓の辺りに『何か』を感じたか?そしたら、次は『流れ』を感じろ。魔力が血液のように全身を巡っている感覚だ」
「ぴぴぴぃ⋯⋯(むむむぅ⋯⋯)」
体の中を、ぐるぐる。さっきの温かいものが、心臓から全身へ⋯⋯おお? なんか体がぽかぽかしてきた気がする。翼の先まであったかい。
「ぴっぴぃ~(あったか~)」
「出来たか。温かいのは、魔力がきちんと巡っている証拠だ。ではそのまま、魔力の流れを外に向け、身体全体を覆うようにしてみろ。そして、『人の姿』を想像すると、人化できる」
「ちゅん!(分かった!)」
目を閉じて、この魔力を、体の外にじわじわ出していって、身体全体をすっぽり覆う。⋯⋯これで、大丈夫かな?よし、人の姿、人の姿⋯⋯腕と足があって、頭に顔があって、2本足で立つ、前のような姿。
そうして何分経ったかは分からないが、身体に変化が起きた。形が曖昧になり、大きく伸びて、曖昧だった形が明確になった。恐る恐る目を開けると、地面が遠くなっていた。自分を見下ろすと、前世で見慣れた肌色と五本指のある細い腕、長くスラッとした脚が見えた。視界の端には、いつもの羽毛の色より少し薄い、髪の毛が見えた。
「せ⋯⋯成功だぁ!やったぁ!⋯⋯ハッ、私言葉を喋ってる!?」
「良くやった。初めてでここまでできるとは、エメには魔力を操る才能があるかもしれないな」
「本当?へへへ、嬉しいな」
よっしゃーー!!! 念願の、人の姿になれたぞ!やっぱり前世で慣れ親しんだこの姿は落ち着く。鳥の姿だと不便だったこともあったからね。それに何より、私、やっと言葉を話せるようになった! イリスと魔法を解さないやりとりができるのが、とても嬉しくて、翼がぴこぴこ動いてしまう。
⋯⋯ん?⋯⋯翼?
頭だけ振り返ってみると、そこにはいつもと同じ色の翼が生えていた。あれ? まさか失敗? 振り返って自分の翼をじっと見ている私に、イリスが本を読みながら話しかけてきた。
「その翼は、背中にある収束管という物に仕舞うことができるそうだ。ただ意識するだけで良いらしい。好きな時に、自分の意思で翼を出し入れできると書かれている。その尾羽も同様だな」
「ほへぇー」
この姿でも空が飛べるのかな。というか、翼だけじゃなく、お尻の上辺りからも羽が生えてる。尾羽ってやつかな? この2つを身体の中に仕舞う⋯⋯とちょっと意識しただけで、簡単に仕舞えた。とても不思議な感覚だ。
「うーん、前世に無かった感覚だ⋯⋯」
「慣れるには、少し時間が必要なのだろうな。それより、そろそろ中に戻るか。そのままでは寒いだろう?」
「え?」
⋯⋯そこで、私は今、裸であることに気づいた。
「⋯⋯な、な、なんでもっと早く教えてくれなかったのぉぉぉーーー!!!」
恥ずかしいぃぃ! いくら親同然といえど、裸を見られるなんてぇぇぇ!!
羞恥心が限界を迎えながら、すごすごと家の中へ入っていった⋯⋯。
○○◇○○◇○○◇○○
「人化」に対するエメの反応を修正しましたm(_ _;)m
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